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1000字小説バトル
チャンプ作品
『informed-consent』アナトー・シキソ
集団検診で妙な機械に入って写真を撮ったら、あとで俺だけ医者に呼ばれた。
医者は、何枚かの白黒写真を見せて、指さしながら言った。
「これが心臓で、これが膵臓で、こっちが腎臓です」
「はあ……」
と俺は、何となく相づちを打つ。
「これは肝臓ですね。レバーです。で、これは腸なんですね」
「そうなんですか」
「ええ、そうなんです」
医者はにこやかだ。
「なんか、問題ですか?」
俺は訊いた。
医者はにこやかなままで、
「いえ。どれもこれも健康そのものですよ」
「そりゃ、よかった」
「ええ、そうですね」
「じゃ、帰ります」
俺が立ち上がろうとすると、医者が俺の袖を掴んだ。
「帰っちゃダメですよ」
俺は椅子に座り直す。
医者は白黒写真の一枚を指でさし、
「これ、なんですけどね」
と言う。
俺にしてみたら、これもそれも、ただのまだら模様の白黒写真だ。
「妙なモノがね、映ってるんですよ」
「どれです?」
「これです」
医者は、人差し指で円を描いて〈妙なモノ〉を囲む。
別に妙でも何でもない。
「肝臓じゃないんですか?」
「肝臓は、これです」
医者は妙なモノの隣りのモノを人差し指でなぞる。
「これです。これ肝臓です。そうじゃなくて、こっちです」
「肝臓みたいですよね?」
「似てますね。でも違います」
「じゃあ、何なんですか?」
医者が、椅子の背もたれに体を預ける。
「そこなんですよ。これ、何なんでしょう?」
俺に分かるわけがないので
「さあ?」
と首を傾げる。医者は、にこやかなまま、身を乗り出す。
「これね、こんなの、普通の人間にはナイです」
「病気かなんかですか?」
「病気というか、生まれつきの何かですよ。たぶん」
たぶん?
「痛みとかありますか?」
俺は自分の腹を撫でながら、
「別にどうもないですよ」
「そうですか」
医者は、にこやかなままでそう言うと、カルテに何やら書き始めた。
「取っちゃいますか?」
医者はカルテに向かったまま、楽しそうに訊いた。
「取る?」
俺は聞き返す。医者がペンを止めて、顔を上げる。
「そうそう。おなか開けて。簡単ですよ」
「けど、なんだか分かんないんですよね?」
「分からなくても、開ければ、大抵のものは取れます」
「取っちゃっていいんですか?」
「いいでしょ。本来はナイものなんだから」
「でも無理に取る必要もない?」
「ああ、まあ、私は取りたいですけどね」
医者はそう言うと、例の白黒写真を手に取って眺め、
「取りたいよなあ、これ」
と呟く。
で、呟きながら、俺の顔をチラチラ見る。
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