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『恒星』越冬こあら
 いえね、当時は、アッシもいろいろとテエヘンで、検査とか絶食とかで、ずいぶん気も弱くなっちまってて、だから、女房と娘と病院の窓越しに夜空を眺めて、あんなことを口走っちゃたんすよ。
 でも、その直後、女房と娘の頬を涙がつたって、三人で無言の誓い……あのひと時は短かった人生の中でも数少ない「真実の時」だったんで、後悔はしてないっすよ。後悔は、してないんすけど……。

「……死んだら、夜空に輝く星になるから……星に成って、二人のことを見守ってるから、いつまでも、いつまでも、見守ってるから……な」

「ハイ、今から麻酔しますねぇー」
 という言葉を最後に、昏睡した意識が戻ってきたのは、出棺前の喪主挨拶辺りだった。見下ろして、
「ああ、身体は棺桶の中か」
 と思うと、感慨もヒトシオだった。結局、成功率三十%は、失敗率七十%に終わったのだと、妙に冷静に納得した。

「あのー、本当にいいんですね。星に成られるんですね。納得されてますね。後戻りなしですよ」
 耳元で誰かが、確認している。
「ああ、いいさ。そうしてくれ。約束だし」
 心の中で答える。
 瞬間、魂が移動した。

「あっ熱っちいよ、燃えてるよ、燃えてますよ。なんだかもう、ギラギラ眩しいし、デカイし、どうなってんだよ。責任者! 出てこい!」
「いえ、あのう、出てこいって言われましても、困りますんで、先程ご確認しました通り、星に成られるという事で、空いている恒星に成って頂いたわけでして、こちらの恒星は、ちょうど中心温度が二千万度を超えまして、核融合反応が盛りをむかえておりまして、たいへん華々しゅうございますよ」
「華々しいってねえ、あんた、どっかんどっかん爆発しちゃって、ドロドロ溶けちゃって、重力だか引力だかもう、すんごい力が渦巻いてて、上を下への大騒ぎなんてもんじゃないよこれ、どうすんのさ。こっちはやっと葬式を終えたばっかりなんだよ。どうにかしてよ」
「ええ、ですから、さきほど、ご確認を……」
「うるさいよ、『ご確認』『ご確認』って、こっちは夜空に浮かぶ星に成るって事を言ったんだよ。何でこんな炎熱地獄みたいに焦げなきゃなんないんだい」
「まあ、暫くの辛抱ですから」
「暫くって」
「恒星の寿命は二千億年程です」
「長げーよ、バカ。んで、肝心の地球はどっちなんだい」
「えっ、ああ、あっちです。距離はざっと三億光年」
「遠ーいよ、バカ」

「あっ、光った。あれが父さんの星ね。きっと」


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