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1000字小説バトル
チャンプ作品
『饅頭怖い』ながしろばんり
 男が二人、線路端の道を歩いておりました。
「饅頭は怖いね」
「やだね、怖いものね」
 月は天空遥かに上り、この二人をじいっと見ております。
「まるいのが良くないね」
「ああ、ぽってりしてるのが不可ない」
 久々に顔を出したのに不愉快です。
 前の満月の日は大雨でした。
「たまに皴が寄っているのが癪だね」
「はじの皮がちょろげているのも汚らしいや」
 饅頭がなにをしたというのでしょう。聞いているのもいやになってあたりを見回しました。中央線が西へ西へと走っていきます。
「饅頭以外に何か怖いものがあるかね」
「そうだねえ、カマドウマはいやだね」
 カマドウマなんて久しぶりに聞きました。
「カマドウマなんて久しぶりに聞くね」
 男と同じことを考えていた月は、少しだけオレンジがかります。
「なんかさ、下駄箱の隅のところで三匹ぐらい寄り集まってこっちに尻を向けてじっとしてるの」
 月は、都庁ビルの方を見ているふりをしています。
「あれをみていると、なんだか俺の悪口を言われているみたいで」
「それはどうだろう」
 月は新宿中央公園の公衆便所の脇でカマドウマを散り散りに十七匹見つけました。長い触角が影を落として、何倍にも長く見えます。
「でもやっぱり饅頭は怖いよね」
「うん、まるいしな」
「まるいし」
 男たちはそれから黙って歩きました。

 きっとうとうとしていたのでしょう。ものすごい地響きに目を覚ますと、寝ている間にはるか東になった奥多摩のあたり、大きな饅頭がひとつ転がり出てくるところでした。暁を浴びた赤黒い巨塊はほぼ真っ直ぐに中央線沿線をたどって都心へ向かっています。饅頭が転がるたびに足元ではいくつもの爆発や炎上があって、無辜の東京都民が敢えなく命を落としていることでしょう。ですが、来てしまったものは仕方がありません。月は地平線に沈んでいく己が身を少し呪いました。
 するとその時です。朝焼の新宿中央公園の地面が弾けたと思うと、大きな大きなカマドウマが三匹も飛び出したのです。三匹はそれぞれ新宿西口の高層ビル群をなぎ倒しながら集まると、触角を摺り合わせてひそひそと、饅頭の悪口をささやきあっているのでした。
 いったいこのあとはどうなってしまうのでしょう。月は転がっていく饅頭を見送りながら「きっと夜中のあの男の人は恐怖で発狂しているに違いない」と思ってなんだか愉快でした。ようやく満足した表情で、だんだんと夜明けの光に消えていきました。


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