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1000字小説バトル
チャンプ作品
『王子様ご招待、ついでに君も』とむOK
暑がりの彼のためにクーラーを効かせる。下ごしらえをしたステーキは冷蔵庫に寝かせ、ボーンチャイナの皿はぴかぴかに磨いた。彼はきれい好きで、肉の好みはやや固め。
彼の名はダニエル。私の、王子様。
夢の王子様にまみえたのは半年前。低い太陽がようやく北風を追い払った昼下がりの公園だった。ペット連れの若い夫婦たちを横目に、私はやさぐれて純粋理性批判を読んでいた。ああ。運命は私のような女にも、その黒く濡れた小さな鼻先をこすりつけて来たのだ。
まさにウェルシュ・コーギーそのものである美しい栗色の毛並み。つんと澄ました鼻先。後に聞いたらやはり血統書つきだった。その由緒正しさよりも、まん丸の黒目をこらして小首をかしげる儚げな仕草。ああ。それは至福という言葉以外の何ものでもなかった。
ところで愛しのダニエルの首には、赤い華麗な首輪が巻かれていたのだが、その先には小太り眼鏡で汗かきの三十男が繋がれていた。つまり飼い主である。名前を良雄という。
良雄は、散歩帰りに近所の店先にいたダニエルをたまたま見かけてたまたま買ったという、望外の幸運を手にした不届者である。私は脅迫同様に良雄のケータイ番号を聞き出し、以来、三日と開けずに呼び出した。当然ダニエルに会うためだ。ついでに良雄には高い服をねだる。美しく装う私を、潤んだ黒い瞳が迎えるのだ。ああ、この快感。ところが良雄ときたら、下心丸出しの私に気づかないばかりか、情熱的で甘え上手なところがいいなどとぬかす。実におめでたい奴だ。君のような者が私の王子様を所有しているという事実が許せないだけなのだよ、私は。
お姉ちゃん品性苛烈で容赦がないから、良雄さんを逃がしたら後がないわよ、と犬アレルギーの妹が言う。二十歳前にして早くも小姑臭い。犬好きの良雄に妥協してくれたつもりだろうが、犬のいない生活に二十年以上妥協し続けたのはこっちだ。多少の意地悪は虐げられる姉の権利であったと言えよう。ともかく私は王子様を射止めることに成功したのだから、瑣末は広い心で許してやる。
体重を持て余したような足音が廊下を近づいてくる。ダニエルの声でなく良雄の足音に馴らされている自分が何だか悔しい。しかし飼い主は犬に似るというし、黒目がちに丸頬のでか頭も見慣れてくるとまあ可愛らしいのかも知れない。うやうやしく抱いて来てくれた君にもついでに、キスで迎えるくらいのサービスはしてあげよう。
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