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1000字小説バトル
チャンプ作品
『プロペラ』とむOK
砂を踏む。
しめり気を残した砂に足首まで呑まれて、熱につかまえられる。
明け方に台風が行きすぎた。なごりの海風は肌を圧すように濃くて、潮の香りばかりつよい砂浜にひと気はない。風力発電の白いプロペラが、まっ青な空につき出している。
ようやく二人そろって取れた、遅い休暇だった。
おそろいの細いミュールがふたつ、色ちがいの小さなかばんがふたつ。真新しい足あとがみぎわへ走る。砂浜に立ちのぼるかげろうに、みぎわは少しかすんでいる。あい変わらずみじかい結衣の髪は、ふくらはぎが波を蹴るたびにちいさく躍る。白いシャツの、肩から背中にすっとつながるラインもかすんで、ゆれる。結衣はきれいになった。
かばんから、結衣らしくないスローテンポな着メロ。ミニー・リパートン。透明なソプラノが、風にとけてゆく。私がひそかに大好きな曲。高校から十年以上のつきあいだけど、ひいきの野球選手の話はしても、洋楽の話だけはしたことがない。だから、結衣もそのことを知らない。
鳴ってるよ。かすれる声は、とどかない。手を振って、言い直す。修二さん。無理に出した大声が、ふるえた。どうしよう、と思う。わけもなくからだの奥が熱を持って、私をおどろかせる。
結衣がふりかえる。耳もとに手をあてる電話のポーズで、さけぶ。亜紀、出といて、ときこえる。だめじゃん。力のない、パンチをかえす。結衣はやられたふりでのけぞって、わらう。メロディーはもう止まっている。
雨あがりのけやきのよう。そんな人だった。並んだ二人をからかうと、内緒の虫捕りを見つけられた子どもみたいに、結衣はくるりと背中に隠れた。長い腕がとても高いところから降りてきて、大きな手のひらが肩を包みこむ。結衣が見上げる。若葉のみどりを薫るような、たおやかな瞳。静かな息吹が、結衣に笑顔をかえす。
それきり、忘れられなくなった。
みぎわに遊んでいた結衣が、立ちどまる。左手が、右肩にふれる。そこにあるものを、いつくしみ、包みこむように。結衣のうしろに、静かでやわらかい息吹が、見える。よりそい、たたずんでいる。
かげろうがゆれる。
くるぶしが熱い。
こんな風に、連れてくるなんて。
波が、高い。海は、とてもきれいだ。ひるがえる波が陽ざしにさんざめき、結衣のすがたも、ひとつになって、まぶたにとける。
海も、空も、どこまでも青い。
白いプロペラが、午後をすべるように、ゆっくりと旋回する。
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