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1000字小説バトル
チャンプ作品
『ルーズ&ルーズ』とむOK
公園で休んでいたら、ルーズソックスに声をかけられた。
「おじさん、ヒマ?」
そいつは蛇の脱け殻みたいに薄汚れていて、くしゃくしゃの腹を動かして履き口のところでたるそうにしゃべった。なにしろルーズソックスだ。俺が返事をする前に、そいつは芋虫のような動きでベンチに上がり、俺の隣にとぐろを巻いた。
「心配すんなって。少し話そうよ」
三十年弱の俺の人生経験が、そいつが話の通じる相手じゃないと語っていた。好きにさせよう。飽きたらいなくなるだろう。
「リストラ?」
「営業だよ」
「売れてんの?」
余計なお世話だ。俺は黙った。
「ねえ、おじさんの夢って何?」
そもそもこいつらを履いてた女達と俺は同世代のはずだが、どうせ言っても通じないだろう。
「もう、見ないな」
「昔は見たの?」
「まあね」
昔の夢か。そんな前の話じゃない。俺の会社の商品は業界で評判だった。作れば作るだけ売れるのが嬉しかった。でも俺の仕事は結局、重箱の隅をつついてこねて作った物を、色違いの重箱に詰め直して売ることだった。俺がずっと見ていた夢は、賞味期限の偽装された夢だった。
「煙草、くんない?」
俺は煙草に火をつけて渡してやった。そいつはゴムが切れてたるんだ口をすぼめて煙草をくわえた。
「あたし、半永久的に生きるんだって」
煙が空に長く伸びて、消えた。聞けば悲しい身の上で、とある店に売られた後、あちこちを転々とし、挙句に悪い人に改造されてしまったのだそうだ。
「あたしのこと履いてるヤツなんて、もう誰もいないのにね」
俺はうつむいた。すり傷だらけの営業鞄が、くたびれた靴の傍に転がっていた。
「やだ、マジになんなよ」
そいつは足の裏の方で俺の腿をぺしゃんと叩いた。趣味の合う人なら蹴られたとか踏まれたとか喜べるんだろうけど、どちらかといえば古雑巾ではたかれたようだった。こいつは戦友だ、と俺は思った。
「俺が履いてやろうか」
「は? ざけんな」
「遠慮すんなって」
「遠慮じゃねーよ、金払え」
俺は学生時代に繰り返した他愛のない騒ぎを思い出した。重箱の隅からつつき出されて、少しの金と交換される、それきりの夢に俺らは暮らして、今じゃろくでもないものばかり残ってる。だけど、全部を売っちまったわけじゃない。
「まあ、何とかやっていけるさ」
俺はのびをして、空を仰いだ。そいつは体を引っ込めて口のあたりをもごもごさせた。よく聞こえないけど多分「うわ、ださ」だと思う。
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