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3000字小説バトル
チャンプ作品
『砕け散る花園』るるるぶ☆どっぐちゃん
 街の港に、箱舟が到着した。鉄さびを踏み越えて、皆は港へと行く。
 箱舟にはいっぱいの花が積まれていた。それらはバルト海はルギャニェ島から持ち帰ったものだ。花びらは風に舞い、青空の中をくるくると漂っている。港で待つ人々の上に、静かに舞い落ちていく。
 レムは兄を殴った。詩なんてもう良いじゃないか。働こうよ。詩なんてくだらない。レムは兄の詩が好きだった。レムは兄を殴る。良いじゃないか今は。兄さんは賢いのだから、いくらでもあいつらを見返せるのに。本気になったらいくらでもあいつらを見返せるじゃないか。兄は何も答えない。ずれたメガネを直しただけだ。
 もう良い。レムは叫ぶ。手を振り回し、鏡を叩き割る。がしゃああん。鏡の裏にも詩が書かれている。レムは家を飛び出した。
 港では人々はぞくぞくと箱舟へと入り始めた。マネキン業者は売り物のマネキンを三つ抱えたまま甲板へと登る。
 



真っ青な空の下
全くの静寂の下
女は何故か
世界中に響き渡る爆音を聞いているかのような
恍惚の表情!

「そういえば世界は何で出来ているのか」

ここから見ると
見える全て
石が薔薇で銃のよう



 レムは道を歩き続ける。ポケットを探るとメガネがあった。道端に咲く花へと手を伸ばし乱暴に引きちぎり、腕へ巻く。なだらかな水平線。新しく出来た厩舎が道へ影を落としている。
 箱舟では説法の時間だった。人々は花の敷き詰められた甲板に座り、牧師が来るのを待つ。
 レムは気がつくと、屠殺場にたどり着いていた。
 丘の上の道から屠殺場を見下ろす。砂埃が舞っている。目がかすむ。
 少女が一人立っていた。黒い皮のエプロンを身につけ、手には短刀。
 檻から一匹、獣が放たれた。少女へと向かいよろぼい歩く。
 少女は獣の体をつかみ、首筋へと短刀を這わせる。獣は少女の手の中で、ゆっくりと青空を仰いだ。
 次の瞬間、大きな泣き声をとともに真っ赤な血が宙を舞う。獣は咆哮し少女のてを離れよろぼい歩き、少し進んだあと、どさりと身を横たえる。
 ぜえ、ぜえ、と息をしている。ずっと離れたレムにもそれが解る。
 次。どこからか声がする。また獣が放たれる。先ほどの獣はまだよろぼい歩いている。
 次の獣が放たれる。少女は獣に抱きつき、耳元に優しく囁き掛ける。少女はひどく優しげな表情。獣の体を撫で、獣に口づけする。



とにかく私たちは救われています
生まれた瞬間に

存在そのものが救われているのです

神がお救いになられた
有難いことに

私たちは救われているのです
私たちは救われた
あとは日々感謝し
己の出来ることを全うし

とにかく誠実に生き



 血煙が舞う。手慣れたものだ。少女は器用に短刀を使い、獣に致命の一撃を見舞う。
 獣は鳴く。喚く。咆哮する。
 少女が最後の抱擁をする。獣は離れ、歩き出す。
 歩き出す。歩き出す。歩き出す。
 砂埃。風がひどく吹く。
 どさり。獣は倒れる。
 少女はレムに気づいたようだ。陽気に手を振った。血にまみれた短刀。脂にまみれた細い脚。少女は手を振る。
 次。声がかかる。少女は身構える。
 猛獣が檻から解き放たれた。すさまじい勢い。
 少女は抱きかかえる。猛獣をその手に抱きかかえる。
 猛獣は黒い剛毛で全身を覆っていた。ぐるぐると折れ曲がった長い角。信じられないくらいに大きなそのからだ。叫び声。咆哮。少女は抱きかかえる。耳元へ、囁きかける。
 箱舟では説法の時間だった。マネキン業者はその上等とはいえない売り物のマネキンをマストに立てかけ花が敷き詰められた、殆ど花園のようなその甲板に腰をかける。牧師があらわれる。椅子に座り、説教を始める。皆で歌を歌う。
 猛獣は突然暴れだした。少女に抱きしめられたまま、めくらめっぽうに走り出す。少女は抱きすくめたままだ。耳元へずっと囁きかけている。猛獣は暴れる。ぐるぐると回る。呻き、叫び、飛び跳ね、その曲がりくねった角を振り回す。少女を抱えたまま、猛獣は丘の中腹のフェンスへと激突した。
 少女のおなかには、くろぐろとしたその角が突き立っていた。
 少女は猛獣の首元へ短刀を振り下ろす。真っ黒な血煙が舞う。猛獣は叫び、その角を少女の小さなおなかへ何度も突き立てる。少女は幾度も短刀を振り下ろす。幾度も、幾度も、幾度も。
 黒い血溜まりが足元に出来た。少女の腹の肉が破れ、鈍い光沢を放つ内臓がその中へと落ちていく。ぽしゃり。ぽしゃり。猛獣は呻く。呻く。呻く。歌のように、猛獣は呻く。血煙。ぽしゃり。少女も呻く。リズムを取るように短刀が振り下ろされている。
 ぽしゃり。
 やがて猛獣は静かになり、動きをやめ、その背を撫でていた少女も、猛獣を抱くようにしてその動きを止める。
 気がつくとレムのとなりに人がいた。
 二人組みの若い男女である。
 男は女に何かを指示した。女は大きな黒いケースをいじり、何かを引きずり出そうとしている。
 レムを男は目が合った。男は笑いかけない。レムも笑いかけない。
 少女の臓物からは、かすかに湯気が立っていた。ふわふわと砂埃にまみれ、それは漂った。
 女がいじっていたものはバイオリンのケースだった。男はケースから取り出されたバイオリンを手にし、演奏を始めた。
 男はバイオリンを弾く。弾く。弾く。弾く。弾く。弾く。弾き続ける。その音色はろうろうと青空の下、流れる。
 バイオリンのf字孔から花が溢れていた。はらりはらりと花は風に舞い、漂う。箱舟からくすねてきたものであろう。色彩豊かな花びら。はらりはらりと風に舞い、漂う、漂う、漂う。赤色、黄色、紫、だいだい、ピンク、紫、赤、黄色、だいだい、ピンク。女が花びらを手に取り呟いている。女は色盲なのであろうか、手に取った花びらとは関係の無い、めちゃくちゃな色を呟き続けている。赤色、黄色、紫、だいだい、ピンク、紫、赤、黄色、だいだい、ピンク、赤色、黄色、紫、だいだい、ピンク、紫、赤、黄色、だいだい、ピンク……。
 レムは家に帰る。静かだ。兄も誰も居ない。
 レムはテレビのスイッチを入れる。

「もう良い、まったく」
「博士!」
 博士はそう言ってフラスコを地面へ叩き付けた。
「もう良いやめじゃ。詩なんてやめじゃ。もう詩なんてやめじゃよ」
 助手の手を振り切り、博士は書きかけの原稿の続きにSEXSEXSEXSEXSEXSEXSEXSEXSEXSEXSEX……と書いた。
 SEXSEXSEXSEXSEXSEXSEXSEXSEXSEXSEXSEXSEXSEXSEXSEXSEXSEXSEXSEXSEXSEXSEXSEXSEXSEXSEXSEXSEXSEXSEXSEXSEXSEXSEXSEXSEXSEXSEXSEXSEXSEXSEXSEX……。
 そして博士は鏡を叩き割る。
 砕け散る、花園。


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