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3000字小説バトル
チャンプ作品
『エリンジウムの原で』ごんぱち
枯れかけたエリンジウムの原に、ボディーアーマーを着けた四人の警官が足を踏み入れる。
「土が弛いな、間違いねえ」
ガスバーナーを構えたイタリア系のセオドアが、背中のボンベの安全装置を解除する。
「うむ」
トーマスが周囲に視線を這わせながら、頷く。
「プレーリードッグ、じゃ、なく?」
一番若いハリエットは、しがみつくようにレミントンM2100AT(ANTI−TOADSTOOL)ショットガンを握る。
「ハリーよぉ、連中身体をほぐして地中移動するんだぜ。プレーリードッグの穴とは根本的に違わぁ」
「十二ジ、きました! キョリ五〇」
巨大なレーダーシステムを背負った、アフリカ系のルトアビブが怒鳴る。
「よし」
トーマスはATショットガンのフォアエンドをスライドさせ、コッキングする。
二呼吸ほど遅れて、ハリエットもコッキングを済ませる。
「キョリ、四〇」
「うっしゃ」
セオドアがバーナーの火を地面に向ける。
指向性に優れた高温の炎が、エリンジウムと土と、地中の砂石を灼いていく。
「キョリ二〇」
ルトアビブが告げた時。
丁度前方二〇メートルの土が盛り上がった。
土から出て来たのは、体高二メートルはあろうかという。
エリンギだった。
フェイファー・ツェリザカ2080ATを持ったルトアビブ、バーナーのセオドア、ATショットガンのトーマスとハリエットの横一列の陣形を取る。
一〇メートルほどの距離にまで近付いたエリンギは、菌糸を触手のように繰り出した。
「甘えんだよっ!」
セオドアがバーナーの炎で菌糸を焼き落とす。地中から飛び出してくる菌糸も、高温の地中で蒸され動きが鈍い。
遠距離攻撃を諦め、突進して来るエリンギを、トーマスがATショットガンで迎え撃つ。
一粒が四分の一ポンドに達する大質量の散弾が九発、エリンギに叩き込まれた。ATシェルの面の攻撃は、点の攻撃をほぼ素通りさせるエリンギの菌糸構造にもからみつく。
遅れて、ハリエットとルトアビブが発砲を始め、セオドアが炎を浴びせかける。
猛烈な火力に、エリンギの突進は停まり、崩れ、じくじく言いながら炎を上げ始めた。
砕けたエリンギからは、『食べ物』と一緒に呑み込んでしまったのか、ボタンやバックルがこぼれ落ちる。
ハリエットは、ATショットガンにすがるようにして、息を整える。
皆の顔から緊張が解けかけた時。
「みなさん!」
ルトアビブが怒鳴って、レーダーディスプレイを見せた。
ディスプレイには、エリンギを表す光点が。
四つあった。
ルート四〇沿いの無人ガソリンスタンドには、一台の小さな観光バスが停まっていた。
「即刻避難しろ、ここは危険だ!」
パトロールミニバンから降りたトーマスは、怒鳴りながら空に向け発砲する。
「な、なんだ、戦争か?」
観光バスに水素補給をしていた運転手が、不思議そうな顔をする。
観光バスの前面のプレートには日本語で「JAアメリカ横断ツアー」の文字が入っていた。
「グランツ市警ATだ!」
「ええっ、あんたら、連れて来ちまったのか!」
運転手は慌てて補給ポンプを外し、タンクのキャップを閉め、運転席に飛び乗る。それから、急発進かけて――急ブレーキをかけた。
道路のアスファルトのヒビの間から、エリンギの菌糸が何本も現れている。
「二匹もいるなんて、聞いてないぞ!」
運転手が窓から顔を出して怒鳴る。
「四匹だよ!」
ハリエットが怒鳴り返す。
「よ、よんひきぃ!?」
「応援は呼んだ!」
「ガソリンスタンドのユカはコンクリートです、バスのヤネにのぼっていればだいじょうぶです!」
「フォーメーション・ホーネット! 左から!」
トーマスが号令で、火線が一番左のエリンギに集中する。しかし、間髪入れずに、残り三体のエリンギの触手が繰り出された。
触手はハリエットに迫る。
「ボサっとしてんな!」
ハリエットを押し倒してかばったトーマスが、エリンギの菌糸に脇腹を削られる。
「トムさん!」
「野郎!」
セオドアがバーナーの火をかけるが、押し切れずに菌糸に腕を貫かれる。
反撃が弱まったと判断したのか、エリンギのうちの一体が、菌糸を畳み突進して来た。
その時。
「なんだ、あるじゃないか」
いつの間にか、観光客の初老の男が、セオドアたちのミニバンのトランクを開けていた。
「何故使わない?」
初老の男は、自分の身の丈よりも大きいそれの柄を握り、肩に担いで構えると。
たった一歩の踏み込みで、前方にいるハリエット達を素通りし、その先のエリンギまで間合いを詰め。
「――四二式斬松茸を」
その巨大な鋸――四二式斬松茸を振り抜く。
エリンギに垂直に食い込んだ鋸歯は、一本の例外もなく菌糸を切断した。
「あれは、マツタケ、カリウド、か?」
荒い息をしながら、セオドアは初老の男を見つめる。
「なんです、そりゃ」
ハリエットが尋ねる。
「42ザンマ一本でスカンクマッシュルームを倒すハンターだ」
トーマスは言いつつ顔をしかめる。
「42ザンマって、あのきれないノコギリですか?」
「三〇分で応援が来る、大人しく避難しろ、爺さん! エリンギは強い!」
声が聞こえているのかいないのか、松茸狩人はガソリンスタンドのコンクリート床の端へ近寄る。
「スカンクマッシュルームは、強い臭いがある。だから、どこにいるか、目をつぶってたって分かんだよ。だが、エリンギは!」
「確かに」
松茸狩人はガソリンスタンドのコンクリートから、土の上に一歩を踏み出した。
「エリンギには香りはない」
左前前方の地面から、菌糸が飛び出し、彼に迫る。
「しかし、その隠密性で生き残ったエリンギと」
松茸狩人は一歩斜め前に踏み込み、回避と同時に向きを変える。
「香りがあるにも関わらず、淘汰されず生き残った松茸」
次の瞬間、右後方から姿を現したエリンギ本体が爆発するかのように菌糸を周囲に伸ばしつつ突進して来た。同時に、残りのエリンギたちも姿を現し、菌糸を繰り出す。
松茸狩人とエリンギがすれ違う。
「どちらが与しやすいと思う?」
その場に崩れ落ちたのは。
エリンギ四体だった。
応援に来ていたサンタフェ市警のヘリコプターが飛び去っていく。
「すっかり助けられたな、爺さん」
「ダメージを与えておいてくれたお陰さ」
「しかし、こいつで戦うなんて、どんな魔法を使った?」
手当の済んだセオドアが、四二式斬松茸で地面に散らばるエリンギの残骸に斬り付ける。
「装備が義務づけられてるから積んじゃいたが」
エリンギに傷一つ付けられない。
「なんだ、その振り方は? 鋸ってのは」
松茸狩人はセオドアの四二式斬松茸を持った手を掴む。
「引くもんだ」
ぐいと引くと、ほとんど抵抗なくエリンギは切れた。
「え? ノコギリは押すもんだろ?」
「おおい、爺さん、出発するぞ!」
観光バスから、松茸狩人の連れの若い男が顔を出し、手を振る。
「ちょっと待ってろ!」
松茸狩人は、セオドアたちに向き直る。
「あんたたちに一つ、教えて欲しいんだが」
松茸狩人は真っ二つになったエリンギの一カケラを拾い上げるた。
「これ、どう料理したら旨いんだ?」
「いやそれは……」
「おれたちゃ駆除するだけだからな」
「喰えるんですか?」
「エリンギりょうりなら、すこししってますが」
「おお、教えてくれ、でっかい兄さん」
「ええとですね、まずはオリーブオイルで――」
傾きかけた午後の日差しが、草原を暖かく照らしていた。
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