報告
おんど
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たしか去年の今頃だったと思う。こちらを主宰しているBJS氏から連絡があり、いますぐ短歌を1000首送って欲しいと深夜のDMで依頼をうけた。期日は三日後の中秋の名月までだという。1000首の短歌をどのように使うかは「こちらの組織に任せてほしい」の一点張りで、詳細を明かしてくれない。短歌を10人から1000首ずつ集めて炊きつけに使い、ふっくら香ばしいお芋を焼いたとて文句は言えぬ白紙委任の強要であった。
じつはそれまで誰にも明かしていなかったのだが、私は歌を作っていた。隠れて作っていたと言ってもいいだろう。妻も知らないし妻が知らない愛人も私が歌を作っていることを知らなかった。
そもそも私には短歌という概念がなく、木魚を叩けば自然に出てくるリズミカルな欠伸のようなもので、長くもなければ短くもない中歌だと思っていたところ、本場四川から中華思想に根差した苦情が入り、夜な夜な武装した漁船の群れに囲まれたのでは行為の前のソフトペッティングがおざなりになるとゼンギ―北京からも苦情が入り、いわゆるひとつの苦情の入れ食い状態となってしまった。
歌を作っていることを知らなかったといっても何も恥じる必要はない、と妻にも愛人にも言ってやりたかったが彼女らにとってすでに十分恥ずべき存在である私が恥の上書き保存をする必要があるのだろうか。
だいいち妻とはLINEでしか通常会話が成立していなかったし、良く知られている通りLINEでの歌のやり取りは固く禁じられている。
一方テレグラムではどうか。テレグラムには歌というものの概念がないから愛人とは気兼ねなく会話を楽しんでいるし、「これはロシア民謡です」と前置きをしておけばあらゆる歌は是認されるのだから、歌も歌っていないと言えば噓になるし、そもそも関係性自体が嘘みたいなものであると言ったらプレイの興奮度は高まるのかもしれない。
愛人は職場の同僚だった。年下の上司だった。巨乳なのに乳輪が小さかった。年下だからいつ見ても若いし身体は発展途上なのに朝礼、昼礼、終礼では営業成績に応じた誹謗中傷一歩手前の厳しい言葉責めのパワハラ気質だった。そんな彼女でさえ私が歌を作っていることには気づいていなかった。
なのにどうしてこちらを主宰しているBJS氏は私が歌を作っていることを知ったのだろう。しかも1000首だ。百人一首よりかなり多いことは明らかだ。東京ドーム五個分と言い換えてもいいだろう。コンドーム五万個分と言い間違えて、その時すでにセックスレスの極みに達していた妻との関係はどんな風に取り繕えば良いだろう。
そんなこちらの、個人的と言ってしまえばそれまでだが、事情を考慮してこのWEB文芸サイトを主宰しているBJS氏は深夜のDMを寄こしてきたのだろうか。
たしか去年の今ごろ送られてきたDMがまるで昨日のことのように思い出される。一年前の出来事が昨日のことのように今日思い出されるというのは記憶障害の一種だろうか。それとも例の貫一お宮の「ああ宮さん、今夜ぎりだよ。来年の今月今夜になったらば、僕の涙で必ず月は曇らせて見せるから」へのオマージュだろうか。誰かに足蹴にされた記憶はついぞないのだが。
ことにDMというのはパソコンで打つ時とスマホで打つ時は感覚が違っていて、その時はまだトグル入力からフリック入力への移行期だったから東京フリック学園へ足繁く通っていたもののなかなか習得できず、フリック・フォン・エリック教授からずいぶん日本人というだけで馬鹿にもされたし、パールハーバーの屈辱とGHQによる施しと朝鮮戦争による恩恵を念仏のように耳に流し込まれたし、指先を使ってなぞったり擦ったりという術を遺伝子レベルにまで叩きこまれたのだから、今となっては枢軸国の一味だったドイツ人であることは薄々気づいていながらフリック教授の策略にまんまと嵌ってしまったと言っても過言ではないだろう。
その後ようやくBJS氏からの鬼のような催促を振り切って、というのも僕には僕の生活があり、市立図書館へ通って静かに歌集を読んでいると微かな違和感を覚えたのは、私が作っていた歌というのがどうやら、
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図書館ではおもに歌集を読んでいる。歌集を読み、司書の梶原さんと歌集について感想を述べあう。
図書館では私語厳禁だが、歌集について感想を述べあうのは許されている。一方的に感想を述べるのが禁止されているのは、短い詩形というのは客観的な批評が困難で、宮中歌会始を頂点とするヒエラルキー、いわゆる歌壇のどの位置に自分が属するかによって評価が定まってしまうからだ。先生が歌壇で出世すると、公民館の短歌教室であっても格が上がるし、先生が歌集を出すと弟子たちがこぞって買い占めることによって希少価値性が高まる。これは経済の理にかなっているし、擬似宗教とも言える。
つまり歌壇は、頂点にカリスマ的指導者を戴く結社の連なりによって構成される一種の封建的フラクタル構造を形成しており、天皇という象徴が政治的実権を排しながらも文化的な磁場として機能するように、歌壇の重鎮もまた、具体的・散文的な権力ではなく、美的審判権という象徴資本を行使することで、構成員を円環状に統御している。
アンソロピックピク社製の廉価版AIに書かせると斯様な記述になるのだが、ざっくり言うと、一方的に感想を述べるのが禁止されているのは、そこには合意がないからだ。
合意のないおしゃべりは慎まなくてはならない、と梶原さんは言った。一般的に禁じ手とされているヤリ逃げ行為(最近ではそうした用途の専用車「ヤリス」も堂々と公道を走行している)を繰り返され、梶原さんはこれまでの人生で何度も苦汁と我慢汁を交互に舐めてきた。総じて梶原さんは何事も合意を重んじるタイプの47歳だった。
「わたしって、すこし慎重すぎるのでしょうか」と言って梶原さんは図書館司書専門店で新調した銀縁メガネを持ち上げた。「何事にも合意を求めすぎるから男の人に敬遠されるのでしょうか。もうずいぶん婚期を逃してしまったし。いえ、わかっているのよ、現代の科学がとっても進歩していて私みたいな47歳のおばさんにだって子どもを産める機能を有していることは。でもそういうことじゃないの。もっと全体をひろく包み込むような合意が欲しいんです。包括的合意と言ってもいいかもしれない。あなたも良く知っての通り、わたしってシュレディンガーの性癖でしょ? 性にまつわることは常に揺らいでいて何もかも確定できない女体なの。興奮するかどうかを実際に体験するまで、自分の性癖がそれにあてはまるかどうかわからないってどれだけ不安かわかっている? こうしてあなたと話しているのだって、包括的な合意があってこそ、ひとことひとことにささやかなリスペクトが生じるわけだし、リスペクトが高じて愛が高まるって信じたいの。ううん、そうじゃなくて。あなたが言っているのは不確実な状況下での人間の意思決定の歪みを説明するプロスペクトのことよね? わたし、身体の関係は包括的な合意に含まれないという合意をあなたとしたわよね? 身体の関係はむしろ合意をしないで欲しいの。わたしが言っているのはそういう合意。合意なしでしないでってベッドの上でわたしが叫ぶのはそういう合意があったからでしょ? だからあなたには思いっきり合意を踏みにじってこちら側へ来てほしいと常々思っています。ええ、あなたには奥さんもお子さんもいるし、わたし以外にも愛人がいるんでしょ。わかっています。わかっています? ほらね。やっぱり合意してるじゃない。だから、安心してわたしとの合意を打ち破って欲しいの。縄? 縛りたいの? シュレディンガーの縄? うん、それもいいかもね。でも、いま、縄ってあなたの口から洩れてしまうと、それはもう合意への敷居を一歩跨いだことにならないかしら? 長州力みたいに跨ぐなよ跨ぐなよって繰り返しても、あなたは跨いでくるじゃない。そういう情報を前もって入れないで欲しいのよ。前もって挿れてしまったらそれこそあなたの言うプロスペクトに陥ってマインドセットがプリセットされてしまうじゃないの。ねえ、わたしの言っていることわかる? ねえ、わたしってウザい女? ウザい女を縄で縛ってどうするつもりだったのよ。プレイ? ふふふ、やめてよ、プレイだなんて。そんな合意はしてなかったはずよね……あれはたしか去年の今ごろだった。市営グラウンドの駐車場で、ギアチェンジするみたいに「自由をもたらす走りの形」でお馴染みのヤリスの助手席に座っていたわたしのスカートを捲りあげたわね? あれって合意したわけじゃないのよ。もっと自由を
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この文章が発表される頃にはもう師走になっているはずである。
一年は早いものでついこの間まで桜が咲いていたのかと思えば、もう浜辺を歩くビキニのお嬢さんを勧誘してマジックミラー号で身体測定及びその撮影を長時間にわたって行う(マジックミラー号は素人のお嬢さんを勧誘しているように見せているがじつは女優を仕込んでいるという噂が絶えないが、神に誓って素人のお嬢さんだと言っておきたい。それでもなおヤラセだインチキだという者については胸襟を開いて話し合いの場を設けたいと思うが話し合いが決裂した際には法的措置を講じる用意があることを肝に銘じておいてほしい)ような季節になってしまったのもつかの間、さいきんは9月になってもうだるような暑さが続き、秋の気配を感じる間もなく今日は立冬である。
文字通り冬が立つ季節となったわけだが、冬に勃つかどうかはコンディション次第だから過度な期待が一層ちんぽを萎えさせるとリットーミュージックでは立冬を迎えるたび警鐘を鳴らしている。ギターマガジンを発行しているからといって、すべての社員が超絶技巧の指づかいでサテスファクションを持続的に提供できるわけではないし、ことに1970年代のフォークブームの裏で、寒波が到来するたび指先が縮こまってセーハができず、Fコードの前でサテスファクションを掻き鳴らせなくなった若者たちが起こしたC、G、D、Emの開放弦だけで曲の演奏を強要する、いわゆる立冬運動が後の立憲民主党の結党につながったことは記憶に新しい。
図書館で働いている梶原さん(前月号においてカジワラとルビを振ってしまったがカジハラの間違いだった。そのことについて、戸籍上の名前を呼び間違えるなんて本当に私のこと愛しているの? とずいぶん詰られたが、そもそも私には妻もいて子どももいてセクシーフレンド、俗に言うセフレもいるのだからカジワラだろうがカジハラだろうが知ったこっちゃないしカジハラを強要し続けるとカジハラハラスメントが成立しかねないのだが、東京の四大卒で地方都市の図書館司書をしている梶原さんからプライドを取ったら巨乳しか残らないのだから、そのとっておきのプライドをくすぐったりつついたりして楽しんでいる)の有給休暇がたまっていて、こちらもずいぶん前立腺に煮凝りが溜まっていたから吟行を兼ねて(というのもひそかに二人で短歌を詠みあい、あるていどの分量がたまったらホチキス留めして文学フリマへの出展を計画しているからだ)近郊の温泉へ紅葉狩りに出かけたのだが、二人とも紅葉狩り免許を所持していないため入山を拒まれ、しかも紅葉はまったく色づいておらず、温泉は数年前に出つくしたとかで井戸水をくみ上げて沸かしたお湯に浸かっていると気分は高揚しているのにどんどん身体の節々が重くなってきて、気づけば二人そろって高熱を発していた。
真っ赤な顔をして布団にくるまっていたのだがぞくぞくと寒気は収まらず、それでも梶原さんは文フリで一発当てたいという野望が勝って布団の中でうわごとのように三十一文字をひねり出そうとする。そのとき出来上がった歌が
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夕方から雨になった。
12月だというのに日差しは強く、日中の最高気温は20度を超えた。
私の体温も38度を超えた。
温泉が枯れて地下水をくみ上げて沸かしたお湯に浸かっていると身体がじりじりと絞めあげられるような圧を感じ、気がつけばぶるぶると震えて風邪だった。
梶原さんも同じ湯に浸かって同じように身体を震わせた。何かに縛られているようだと私に同調した。熱も出た。38度を超える熱だった。
「ふたり合わせると76度ですね」と村娘のような仲居が不謹慎に笑った。うまいこと言ってやったとの確信が唇の端からこぼれた。
「そのようですね。ああたしかにふたり合わせると76度だ、まいったな」と私はスマートフォンの電卓をたたいた。「ところで、日経平均株価の終値はどうかね」
「わかりません」
言葉遣いは丁寧だが、どこか横柄な態度を見せる仲居だった。
「紅葉がきれいな温泉旅館の仲居だったら、本日の日経平均株価の終値くらい覚えておくべきじゃないのか」
そう言って私は38度を超える熱でふらふらになった身体を斜めに倒し、その先にある仲居の肉体を押し倒した。そもそもふらふらになったのはそちらの温泉の不備だし、せめて紅葉が盛んだったら梶原さんの身体もお盛んになる構造を温泉旅館の仲居ともあろう者が知らぬ存ぜぬで押し通そうとすることにイライラを通り越してムラムラしてしまった。
仲居に体重を預けるとめりめりっと音がして布団部屋と廊下を隔てる襖が布団部屋に向かって倒れた。他に宿泊客がいないため鬼のように積み重なった布団の中へ二人の身体が無音で飲み込まれたのはいいが、めりめりっという処女膜を破るような音はきっと廊下の反対側の客室の布団に臥せっている梶原さんの耳に届いたはずだった。
ひっと仲居が鋭く飲み込む息を手のひらで押さえ、ここ数カ月で数組の泊り客しか訪れていないせいで布団どうしが布団臭さを温めあったような、アジの開きの皮を舐めた時にツンと来る鉛のような匂いが鼻をついた。
しかしあろうことか紅葉が美しい温泉宿の村娘のような若い仲居は唇ぜんたいにあてがわれた私の手のひらの中指と人差し指の付け根あたりを悪びれもせずぺろんと舐めた。
「悪びれっくす新潟」と仲居は上目遣いに言った。
むらむらと怒りがわいた。もともと悪寒が走っていた身体に大量のアイスノンを押し付けられたような寒気が走った。
布団の奥に縄があった。
姥捨て山へ連行される寸前の老人たちが囲炉裏端で草鞋を編むようなチリチリの縄ではなく、ワークマン女子が楽しく貧乏暮らしを愛好するような明るいオレンジ色のつるつるした直径6ミリほどの縄だった。
私の手のひらをもはや無警戒にぺろぺろ舐めている仲居の分厚い唇に縄をあてがい、うしろにひっつめたお団子髪の上を通して二重三重に巻いてやった。顔の下半分がアルビレックス色の縄に覆われその隙間から仲居はよだれを垂らし、まるでこうなることを私たちが大泉から関越道に入り高坂サービスエリアで渋滞につかまるあたりから予想していたというような厚かましい顔でオレンジ色の縄を咥え、もっともっとと田舎娘らしい貪欲さで縄を欲しがった。
浴衣の帯をほどいて仲居を後ろ手に縛り、四つん這いにさせて洋服感覚で簡単に着脱できるトップスと巻きスカート状のボトムスに分かれている二部式着物の胸襟をぐいと開いた。大量のチップを得たい仲居たちが験担ぎにやっている緩い襟ぐりに手をかけると、待ってましたとばかりに乳がこぼれ落ちてくる。それをずいずい手繰ると白い乳がどこまでも出てくる。一見さんとの布団部屋でのワンナイトラブを重ねるうちに仲居たちの巨乳は長乳へと味変して
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ご承知の通り本作はおよそ25年前の事実をもとに書き進めているわけだが、ここでいったん時計の針を現在に進めてしまおう。
時計の針といっても私は手首に時計を巻かない主義だし、巻いていたとしてもデジタル表示なので、時計の針といっても先端が鋭く尖った針のことではないことを言い添えておく。
言い添えておくことでなにかのヘッジになるとも思えないが、地方新聞社で長らく校閲経験のある梶原さんはそういうことにとても敏感な質で、私はどちらかというと虫歯を放置しておく質で、長年にわたる多量のアルコール摂取による痛みを感じない質と言い換えてもいいのかもしれないが、痛みを感じたころには歯医者がお手上げ(必ずしも治療器具を手にした状態で両手を挙げたわけではない)状態で、神経を根こそぎ抜いてしまうという荒療治が始まる。
濃厚な麻酔をかけたうえで金属製の鋭利な器具を腐りきった歯の根元に執拗に挿しては抜き挿しては抜きを繰り返し神経を引っこ抜いていくのだが、その時の医療器具がどうしても私には時計の秒針(病身と掛けているわけではない)に思えてならないのである。
ピロートークでそんなことを語っていると梶原さんは身体を火照らせ身を捩り股をもぞもぞさせて長年の校閲経験で培ったある種の忍耐強さを発揮して唇を噛んでいるのだが、いいかげん唇が紫色に変色した頃を見計らって「どうしたんだい」と訊ねると、どうやら身体ぜんたい、ことに下半身のデルタ地帯が敏感になってしまったらしいのだった。普段は皮に包まれた敏感な部分を時計の長針でもってつんつんされると得も言われぬ恍惚を得るというオプション機能が身体に備わっていて、そうは言っても私は時計を巻かない主義だし国道沿いにあるラブホテルの枕元のアラーム付き時計はデジタル表示だし随分とわがままを言う女だと軽蔑をし始めたところ、地方新聞社での校閲経験の長い梶原さんが当時の上司から何かの祝いか呪いでもらったという腕時計を市役所から無料配布されたエコバッグのポケットから取り出し、それをその場で分解して長針だけを外してほしいと懇願し始めた。
仕方なく梶原さんの白い手首を後ろ手に縛り、猿轡をはめ、目隠しを施してからフロント9番を呼び出し、精密機器用ドライバーセットを依頼した。普段から電動こけしの修理に使用しているという職人気質のフロント係が迅速にドライバーセットを部屋まで持参し、もしよろしければ時計を分解して長針を取り出してみせやしょうなどと粋なことを言うので、こちらも雅な男気を感じ、わなわな待ち焦がれている梶原さんの豊かな白い尻に即詠歌を書きはじめたのだが、白い尻肉はじっと焦点を合わせ続けるとホワイトアウトしそうになるほど広大で、わがままな余白設定にしたとて三十一文字では持て余してしまいそうだったから、 玉藻よし 讃岐の国は 国柄か 見れども飽かぬ 神柄か ここだ貴き 天地 日月とともに 満りゆかむ 神の御面と 継ぎて来る 中の港ゆ 船浮けて 我が漕ぎ来れば 時つ風 雲居に吹くに 沖見れば とゐ波立ち 辺見れば 白波さわく 鯨魚取り 海を恐み 行く船の 梶引き折りて をちこちの 島は多けど 名くはし 狭岑の島の 荒磯面に いほりて見れば 波の音の 繁き浜辺を 敷栲の 枕になして 荒床に 自臥す君が 家知らば 行きても告げむ 妻知らば 来も問はましを 玉桙の 道だに知らず おぼぼしく 待ちか恋ふらむ 愛しき妻らは、などと歌聖を自称していた柿本人麻呂先生の名調子に乗せて梶原さんの尻肉が小刻みに震える様を携帯電話のメモ機能にトグル入力していると
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いつになったら原稿料が振り込まれるのだろうか。
毎月毎月汗を垂らしながら書いているというのに制汗剤のおかげでお肌はいつもさらさらしている。じゃあ良いじゃないかといえばそうではなく、思えばさらさらした砂の上でやるのが好きだった。今も好きに違いなかった。
二月になって、世間はバレンタインデーだった。恵方巻きに押し出されそうになる二月のモチベーションをバレンタインデーは徳俵で堪えていた。
砂の上で行うバレンタインデーが好きだった。確かおニャン子クラブがそんな歌を歌っていた。過剰な好きが制汗剤では収まらなくなったころ、忘れたように上質の甘い脂はにじみ出てくるのだった。
身体の外に一度にじみ出た脂はもう取り返しがつかないほど甘かった。さらさらした砂のうえで、平和な日本海を返せ、と梶原さんは叫んだ。鳥取の出身なのかもしれなかった。さらさらの砂丘としっとりした恥丘はお似合いだった。サラサーティはそんな狭間のメタファーだった。島根県立大学を首席で卒業したからには日本海で叫ぶべきだと考えていたようだった。さらさら流れてゆく砂を見て、世のはかなさを想うのが詩人で、政治的なメッセージを絶叫するのが梶原さんだった。
それは梶原さんのそれまで生きてきた人生の、お母様から受け継いだ白い肌、お父様から受け継いだ三白眼、おばあさまから受け継いだ黄色い犬歯、おじいさまから受け継いだ満州仕込みの軍人魂、そのまたいけ好かぬ心持ちetc.......を包含したすべてだった。
そんな梶原さんのすべてを低い腰の位置から持ち上げて、頭上で両肘を完全に伸ばした状態で5秒静止させてから力を抜き、砂の上に落とすと安っぽい穴ができた。それが鳥取砂丘だった。
パンツを穿いていないフレアスカートでしゃがみこんでおしっこをすると誰にも見つかることなく素早く砂に吸い込まれ、猫ちゃんのおしっこのpHによって色が変化する猫砂のようでもあり、鳥取砂丘を造成することに味をしめた梶原さんは、トイレに行かず砂の上でおしっこをする人生をそのあとも生きることになった。
それこそが梶原さんの命の源でありレーズンデートルでもあり、そのレーズンの色と形ときたら梶原さんのおっぱいの先っぽについているAREと見紛うくらいのイミテーションでありイニシエーションでありイリュージョンだった。
むかしマンドリンが得意な少女と懇ろになって、まったく可愛いベビーフェイスを眺めながら「まんこりん」というあだ名を思い付いたことがあった。
思い付いたけど、まったく可愛い少女にあだ名をつけるなんて不躾だと思い、3年ものあいだ温め続けた。温めすぎて24歳になっていた俺は、選挙管理委員会に立候補の届けを出した。
まんこりんは、卵型の顔をひゅっと縦長に伸ばして、そんな、あんたみたいにいきなり選管に出しちゃうような人とは付き合ってられない、と言った。せっかく3年も温め続けていたのに、出せないなんて辛いな。
「あなた何を血迷ったの?」とまんこりんは言った。「被選挙権は25歳からなのよ?」
「ひ、せんきょけんというのはいったい何だい? せっかくPower to the Peopleの歌詞も覚えたのに」
「ひ、というのは、被っているということなの」
まんこりんは川上弘美みたいにまっすぐな髪をなびかせてマンドリンを抱えた。そのネックを握る華奢な掌に俺はなんど汚いちんぽをこすりつけたことだろう。
「ね、ほら被ってる」
ね、空が泣いている、みたいな口調でつぶやき、まんこりんは俺の被ったちんぽをマンドリンのネックで叩いた。叩いているうちに固くなるかと思った俺はとんでもない勘違い野郎だったのかもしれない。
「わかったよ。もう選挙には被らないから個人的なお願いを聞いてくれないか」
まんこりんはまだ16歳で選挙権はなかったが、俺に対する拒否権は国連安保理なみに強かった。
「君のことをあだ名で呼びたいんだ」
「どんなの?」
「まんこりん」
まんこりんは何も答えずマンドリンを鳴らし、「しまんとブルース」を歌った。
「まんこりんは、四万十川で育ったんだね」
「清流で育ったうなぎが食べたいだけ」そう言ってまんこりんは長い睫毛をゆっくり閉じた。「それにまだ、まんこりんと呼ばせるつもりはないから」
まんこりんは「しまんとブルース」のスリーコードを繰り返した。ブルースなのに朗らかなのはマンドリンだからかもしれないし、まんこりんの弾き方のせいかもしれなかった。俺のうなぎはしっかり脂ぎっていたが、清流で育まれた天然物に比べれば見劣りするのは否めなかった。
マンドリンが得意なまんこりんは24歳で娘を産んだ。まったく可愛らしいベビーフェイスが同じくらい可愛らしいベビーを産んだ。
彼女の母親も24歳の時に、まんこりんを産んだ。彼女のお婆さんが24歳の時に、まんこりんの母親を産んだ。
24歳で娘を産むことは、太陽が月を追いかけるように、バイエルが終わったらブルグミュラーを弾くように、まんこりんにとっては自然なことだった。父親が誰なのかはどうでも良いことだった。美しい音の連なりが必要なだけだった。マンドリンかピアノかは大した問題ではなかった。
まんこりんが24歳で娘を産んだとき、俺はもう32歳になっていた。まんこりんが24歳で娘を産むために、23歳の春から夏にかけて、俺は腰を振り続けた。頬がこけ、あばら骨が浮き出るほどだった。
まんこりんにとって、父親が誰なのかは大した問題ではなかったが、俺は役所に何かの、赤ん坊にまつわる書類を取りに行った。痩せこけた姿を見て、市役所の受付の職員が黙って俺を生活支援課に連れて行った。
「Power to the people」と生活支援課の女が言った。
「あんた、歳はいくつ?」と俺が訊ねると「38......そろそろ39になるところよ」と生活支援課の女が言った。
「独身?」
「まあね......でも、あなたには関係のないことでしょ」
「急がなくちゃいけないな。もし俺が必要ならば、早めに言って欲しい」
俺は切実にその時思っていることを伝えた。生活支援課の女は俺に生活保護の申請書を渡した。何事も早めに準備しておくに越したことはない。
まんこりんは柔らかいソファーのうえで、それよりもっと柔らかい娘を抱いて、静かに揺らしていた。マンドリンの大きさとほとんど同じだった。
「そろそろ選挙に出ようと思うんだが」と娘に微笑みかけながら俺が言うと、
「いいよ。どこか遠い町がいいんじゃない」とまんこりんは答えた。
「遠い町の選挙か。なんか、ロマンがあるな」
「そうね。あなた、供託金の準備はあるの?」
娘が泣いて、まんこりんがマットのうえに転がした。まるまる太った娘が2回転して股を広げた。
おむつを替えようと手を伸ばすと、まんこりんはブンデスリーガの屈強なディフェンダーみたいに俺と赤ん坊の間に身体を入れ、素早くおむつを取り替えた。
娘は泣き止んで、完璧なベビーフェイスで母親の腕の中におさまった。
「いってらっしゃい」そう言ってまんこりんはウイスキーの瓶を差し出した。「その町で、父親が顔役をやっているわ」
まんこりんがマンドリンをかき鳴らすみたいに柔らかいお腹をくすぐると、娘は嬉しそうに短くてむっちりした手足を動かした。ウイスキーのラベルには、ずいぶん遠い町の名前が記されていた。
マンドリンが得意なまんこりんの父親は、北の大地の果てに住んでいた。
まんこりんから託されたウイスキーをまんこりんの父親とちびちび飲んだ。まんこりんの面影を父親の顔に見つけることはできなかった。
夏の盛りに、わずかに黒い土が顔を出し、それ以外はずっと凍っていた。いくらストーブを焚いても部屋は暖まらず、ウイスキーをちびちび飲むことで、ようやく人心地をつくことができた。
軽トラックで隣の家に挨拶に行った。お婆さんが出てきて、若い男を見るのは何年ぶりか、と嫌らしい意味ではなく上唇を舐めた。
町議会議員になりたいというと、まんこりんの父親は、ああ、と言って鼻をすすり、その前にウイスキーを買ってきてくれないか、と呟いた。
軽トラックで凍てつく大地を一時間以上走った。真っ直ぐな白い道を走っていると、猛烈な睡魔に襲われた。
教えられた通り雑貨屋を兼ねたガソリンスタンドでウイスキーを半ダース買い、ガソリンを満タンにした。帰りの一本道を鹿の親子が横切った。
次の朝町役場に行って俺は町議会議員になった。議会はいつでも定員割れだった。月々決まった議員報酬はなく、気まぐれに開かれる議会に出席するとスルメ3枚の手当が支給された。
「スルメは好物です」というと町の職員は俺を漁港の加工場へ連れていった。
水揚げされたイカがバットに放り投げられていた。皮を剥いて冷凍庫に保管するのが自分たちの仕事だと職員は言った。
早速作業着に着替えて大量のイカと向き合った。イカの皮剥きは初めてだったが、職員の手ほどきで一時間も作業を続けると、次々とイカを捌くことができるようになった。時折職員がポケットからスキットルを取り出してウイスキーを飲んだ。そうしないとやってられないほど寒かった。
そんな議員生活を4期16年務めて、俺は48歳になっていた。
毎年暮れに、まんこりんへスルメイカを送った。まんこりんはウイスキーとあったか下着と娘の写真を送り返してきた。
たまに電話がかかってきて、娘が俺のことを「スルメのおじさん」と呼んでいることを知った。娘にもなにかあだ名をつけてやろうと思ってずっと考えているが、良いアイデアが浮かばない。
さいきんは温暖化のせいでイカの水揚げ量が激減した。なんとかしてくれ、と町民は言うのだが、議員の俺に何ができるというのだ。
それでも、なんとかしなくちゃな、と心にもないことを言って唇を噛むと、いよいよ俺もこの町の顔役になったような気がした。
話の腰を折るようで申し訳ないけれど、ぼくもう眠くなっちゃった。それからおしっこしたくなっちゃった。ねえママのそのティールブルーのビロード地のスカートに勢いよくおしっこを引っ掛けてもいい? だめ? 駄目ならお仕置きしてください。お尻を叩くか、きんたま袋をコウモリのようにひろげるか……ほらもうぼくのおちんちんがこんなにパンパンに腫れあがって、眠いのに眠れやしないよ、といったプレイも砂の女は受け入れてくれるのだった。
それをバレンタインデーのお盛んな時期にハメてくれた神様というかサムシンググレート草津というか八百万の万世一系小島一慶というか、そんな存在たちに愛を込めて僕たちは歌を歌いたいし、ぜひ君にも全身でそれを受け止めて時々でいいから有線放送にリクエストしてほしい。そんな今夜のセットリストは何かと申しますと、下谷の山崎町を出まして、あれから上野の山下に出て、三枚橋から上野広小路に出まして、御成街道から五軒町へ出て、そのころ、
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あぐらを搔いているせいか足の匂いが鼻をつくのだった。
もちろん革靴には活性炭フィルターを敷き詰めているし、仕事中しばしば席を離れ、屋上で靴下を脱いで足と靴と靴下を天日干ししているのに足が臭くなってしまうのだった。
達成不能なノルマを突き付けられ、毎日毎日どぶ犬のような営業活動をしているから足の裏まで汗をかくのは仕方がないとしても、まったく売上が立たないのはどういうことだろう。まったく立たないからと言って寝ているわけにもいかないし、寝ているうちに立ってくるかもしれないが、そんな超常現象を資本主義社会は待ってはくれない。
売上が立たないと主力商品である使い切り酢味噌の在庫がどんどん膨らみ、倉庫ぜんたいが酢味噌臭くなっていくし、サンプルを持ち歩いている鞄もどんどん酢味噌臭くなっていく。近年会社が力を入れているファンブック「スミソニアン」の読者からも、酢味噌は好きだが酢味噌臭い人間関係は苦手といったアンケート結果を得ている。在庫削減のため、社食のカレーも見た目はカレーで中身は酢味噌だし、残業食として支給されるスルメイカの酢味噌漬けもまんこりんの匂いを増幅させる。
ざっくり言うと、内田裕也が提唱したRock it, Love&Peace運動とはそういうことだった。
そんな社内のいたるところから漂う酢味噌臭さから逃げだすように外回りの営業に出るのだが、世知辛い世の中はやすやすと使い切り酢味噌を受け入れてはくれない。団地を一軒一軒まわって奥様方に縋りついて酢味噌のレシピを提案するのだがパンツをおろせばもう間に合ってますとばかりに酢味噌臭い。一日中歩き回ってひとつも酢味噌が売れないと死にたくなって屋上に駆け上がり、屋上の手すりの前にはちょうどいい高さのスケベ椅子があって売上不振の営業マンをひんやりと死神が誘う。死神の天敵は酢味噌だから日ごろから恨みを買っているし、酢味噌を点滴にしても生き返ることはできない。それを踏み台にして手すりを乗り越え、酢味噌が売れないからスケベ椅子自殺を図ったと知ったら梶原さんはどう思うんだろう。スケベなことを考えながらスケベ椅子の上に立ち、ソープでぬるぬるした窪んだ部分に足を取られて転落死したと思うのだろうか。
そこには確かに人間の光と影が見える。しかし私のこれまで生きてきた時間の中で光なんかあっただろうか。そう思うと暗くなった空が圧し掛かるように低く垂れこめてビルごと飲み込もうとするので慌てて階段を下りて地上へ出た。
ビルの前の通りは右から左へなだらかに下っていて体重を預けると自然と右から左へと歩き始めた。足の指先がじっとり濡れて冷え切ってしまっていたからなおのこと速足で歩を進めた。なだらかな坂を下りきってしまうとアスファルトは途切れて砂利道になり、それをしばらく進むと砂地になった。革靴を脱いでぐっしょり濡れている足を砂の上にのせると湿った成分がすべて砂に吸い込まれていくようだった。
その場で胡坐をかいて鼻を近づけるともう酢味噌の匂いはしなかった。何かが解決したような気もしたが酢味噌の匂いのしない足は物足りなくて、生きている実感がなくなってしまったようだった。私は背広のポケットからパック入りの酢味噌を取り出してビニールを破り足に振りかけた。ぬるぬるになった指の股に酢味噌を揉み込んで鼻を近づけると懐かしい香りがした。たしかそんな情景を詠んだ歌があったはずだった。砂の上を人差し指でなぞると自然と歌が
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梶原さんの白くて丸いお尻に歌を書き終えるとイランとイスラエルが戦争を始めていた。挑発したのは結局どちらだったのだろう。わたしのお尻をメモ帳代わりにしないでくださいと梶原さんは言った。言いながら目尻をこすった。こすりながら鼻をすすった。泣いているのだった。わたしのお尻をメモ帳代わりにしないで下さいと言って泣いているのだった。メモは燃やさないと残ってしまうから梶原さんのお尻がちょうどいいんだよ、俺が舐めれば消えてしまうのだし。
イランがイスラエルにミサイルを飛ばしていた。燃えるようなミサイルがイスラエルに突き刺さり国土の硬い部分を溶かし、めりめりと音を立てて裂けていった。第三次世界大戦になるのじゃないだろうかとテレビを見ながらつぶやくと、梶原さんはまったく関心がないように鼻をすすり、それをいくらか喉に落とし、むせかえるようにティッシュを口に当てて痰を吐いた。ティッシュが紅く染まっていた。そのティッシュは先ほど、私が梶原さんの白くて丸いお尻に歌を書きつける前に発射した精液がこびりついているはずだった。精子に痰を発射したら融合して熱を帯び、何かがうまれるんじゃなかったっけ? 旧約聖書の鉄板エピソードとしてそんな話があったような気がして、私は少し梶原さんを蔑んだような目で見た。それを感じ取った梶原さんが細い目をきっと吊り上げて私をにらみ返し、ティッシュを拡げてこちらにその中身を見せるのだった。確かに血のようだった。血痰だとしたら山のふもとのサナトリウムを予約しなければならない。あわててラジウム温泉を予約してしまわないように注意しつつも。
そんな嫌な予感がして浴衣の前をひろげると私の陰毛に血が絡みついてぬらぬらと光っていた。白い精液だと思って擦りつけたものが紅い血液だった。
思い当たる節はあった。私は訳あってカントン包茎だった。人間の認識は感性という形式、悟性という形式、理性という形式によって制限されているという悲しいカント’n包茎でさえあった。小さい頃にカントン包茎だった者が長じて仮性包茎に進化することはあるのかもしれないが、私の場合は小さい頃はズル剥けで歳とともに皮の伸縮性がなくなり先端部分がどんどん狭まってカントン包茎になってしまったのだった。梶原さんと出会った頃はMajiでカントン5秒前で、梶原さんは珍味珍味と面白がって皮ごとオーラルで咥え、ぎしぎしと硬くなった亀頭を狭くなった包皮から無理やり出そうとするのだった。皮の中で亀頭が大きくなる分には宜しいのだが大きくなった亀頭を無理やり皮から出そうとすると、ことによっては皮が破れて出血してしまうのだった。
かいつまんで言うと梶原さんと交わるたびに割礼の儀式を行っているようなものだった。それは僕たちにとって神とアブラハムとの永遠の契約を示す重要な儀式のようにも見えた。その一方で、割礼を受けた亀頭は常に外部との摩擦に晒されるため割礼を受けていない亀頭よりも感度が低くなるとも言われている。そもそも皮が被っているからゴムなしでやっても大丈夫だよと挑発したのは私の方だった。皮が被ってただでさえ感度が鈍くなっているところへゴムなんぞをかぶせたら覆面レスラーが毛糸の帽子を被るようなものだから性的快感などほとんど得られるはずもないというのは素人考えで、私くらいのプロカントンになると被せれば被せるほど快感は増すのだ。果たして本日のまぐわいもそんな成り行きだったかと紅く染まったティッシュを見つめているとテレビからさらに激しい着弾の音が聞こえ、壁を姦通し、
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先月号の感想で話の前後がわからないから投票に至らなかったといったご意見を頂いたので冒頭それに答弁してから前回の続きを語ろうと思う。じつはこの感想を述べてくれた読者の名前は遠い昔の話になるがインターネット上で小説を発表し、発表した者同士が掲示板で乳繰り合うことを目的としたなんちゃら書房というサイトに参加していた頃にお見かけしたようなしなかったような名前で詳細表示はモザイクをかけておくが懐かしい感情がどくどく波打った。さて話の前後がわからないというご指摘だが、それは大いに頷けることであってこうして今月号の文章を書き始める前に先月号の文章をおさらいして読むわけだが、まったく記憶にないのである。もちろん多少の薬物を嗜むとはいえ某氏のようにストロングゼロをぐいぐい飲みながら酩酊状態で記述するというシュルレアリスムでオルガスムスを得て新しい宗教法人を立ち上げよう、たちあがれ日本、勃ちやがれ俺のちんぽといった性器漲る状態で記述作業を行っているにもかかわらずまったく先月号の内容に覚えがない。なんなら題名すら覚えておらず、しかし毎号同じ題名だからコピー安堵ペーストによってかろうじて題名不在の音楽会の誹りは逃れている。それに投票に至らなかったからといって女の股をひらいて待望の観音様の御開帳と相成った段で肝心の息子が勃たない、ゴムの中に引きこもる、引きこもってゲームばかりしている、夜中に起きて昼は寝ている、ご飯をトレーに載せて部屋の前に置いておくと朝にはきれいに食べ終わって再び部屋の前に置いてある、ツイッターアカウントを探り当てて偽アカで語りかけブルーハーツの楽曲で共感を得てしばし気脈を通じ合うものの親だとバレて暴れまわり誰も信じられなくなって壁に頭をがんがん打ち付けていい曲が閃いたと思ったら盗作でようやく勃ったと思ったのに中折れして射精に至らなかったみたいに思わないでいただきたい。あなたの一票で政治が変わるわけではないし百合子の虚言癖が治るわけでもない。気にしなくていいと言うと余計気にしてしまうだろうからそっと文明堂のカステラを差し入れてくれたら今回のことはきれいに水に流していいとさえ思っている。梶原さんだって嫌味なくらい巨乳だが別に誰かに投票を促すための巨乳ではなく自然とお芋を食べているうちに育ってしまったと言うと本人は照れて笑うかもしれないし溜まった下着を洗ってしまうかもしれないが私はその汚れた下着を口いっぱいに頬張って近所を走り回ったとてもはやパトカーを呼ばれることもなくなってしまった。日本の警察は忙しいから、汚れた下着を口いっぱいに頬張って近所を走り回ったくらいでは出動しないものだし私の体力だって走っているうちに潰えてしまうのだから放っておいてほしいし美味しい干し芋があったらインターネットの垣根を超えてぜひ梶原さんに送り付けてほしい。それを食べて梶原さんのおっぱいがまたふくふくと育っていくのだからそれも一種のクラウドファンディングと言っても過言ではないし華厳ですらないし
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今月は梶原さんからひとり親家庭についての話を聞いてしまったから最後まで書けないかもしれないがご容赦願いたい。
いつものように平日サービスタイムの残り30分のところで入室すると更に料金が半額になるという制度を利用するため軽トラックで国道沿いあるホテルエンペラーキングダム北鹿沼にやってきたのだが、駐車場のびらびら暖簾をくぐるところで荷台に載せていた梶原さんが嫌だ嫌だと駄々をこね始めた。こんなところで駄々をこねるくらいならホテルの部屋で俺の珍獣をこねてくれよと優しく諭し、毛布でぐるぐる巻きにして猿轡をはめ、目隠しをして3500円の和室に連れ込んだのだが、梶原さんはなぜかいらいらしていてたまたまテレビで再放送されていたサッカー日本代表戦のVAR判定に納得できないし松木安太郎の駄洒落にもとうてい納得がいかないと涙を流した。取り付く島がないのである。つまり梶原さんは御存知の通り市立図書館の無資格司書としてワンオペレーションといえば聞こえはいいがひとり親方として8時半から21時まで本を挿れたり出したりの作業を繰り返しているのだが、梶原さんの有期雇用契約を牛耳っている文化政策課の男性職員がやってきて梶原さんの挿れたり出したりしているときの所作がいい、特に手先だけで挿れたり出したりするのではなく腰を使って挿れたり出したりするのがとてもいいと言ってそのふっくらとした腰回りのお肉をさわさわっと撫で回したり貸出カウンターのバーコードリーダーを梶原さんの著しく突出した胸の部分に当てるとたまたまその日はQRコード柄のブラウスを着ていたため前頭葉の情報が読み取られ朝の8時半から夜の21時まで本を挿れたり出したりしながらセックスのことしか考えていなかったことが露呈してしまった。ははん、これはいかんな。無資格司書とはいえ市民の公僕たる者が仕事中に12時間半にわたってセックスのことばかり考えているのはポリティカルエレクトネスに反しているしセックス依存症に侵されている可能性もある。それが証拠にこんなにお乳が腫れ上がってその先端がこりこり固くなってしまっているとバーコードリーダーで読み取った情報を嫌がる梶原さんの耳へ生暖かく吹き込むのだった。そんなことをしているうちにワンオペ受付が機能不全に陥り、貸出の列が図書館から敬老館まで続いてしまっているのもお構いなしに文化政策課の職員はひとり親方である梶原さんを黴臭い書庫に連れ込んで今後の施設運営方針について車座集会を始めてしまった。二人しかいないのに車座なんて可笑しいわと梶原さんもひくひくと抵抗したのだったが文化政策課の職員は悪びれることなく梶原さんの座っていた椅子をぐるぐる回し腰蓑に隠していたフラッシュライトを細かく点滅させ夏の大三角形のはくちょう座デネブの脇腹付近に位置する車座が網膜に点滅してしまうほど目まぐるしく変わっていく市政の課題解決に向けて市民の皆様と直接対話をする場を随時設け、テーマを特定せず幅広く参加者の皆様と意見を交わらせ、目合らせることが地方自治における二元代表制をいかに機能させるかといった説明を一方的に挿れつづけ
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長編小説家に夏休みなどない。長い物語を連続して書くには持続的な根性が必要だから休み休み書いている短編小説家の諸氏とは比べ物にならないほど精力が削がれてしまう。精力を回復するためにまとまった休みを取るべきだと口が酸っぱくなるほど言い、実際に酸っぱくなっているかをペーハーと測定し、口の中で噛んでいる試験紙を梶原さんに抜き取ってもらう刹那、無防備になった梶原さんのおでこにできた吹き出物に唇を当て、こんなにひどいヘルペスにしてしまってごめんねと心の中でやさしく謝罪しながら激しく吸い、毛穴の奥から膿を吸い出して素早く唾を擦り付け、膿を吸い、唾を擦り付け、膿を吸い、唾を擦り付けと繰り返すうちに吹き出物はすっかり霧散し、元通りの剝きたてのゆで卵みたいなつるりとした梶原さんのおでこが取り戻せた。そんな朝には、それが夜明けとともに30度を越えるような猛暑/酷暑/炎暑(ご自由にお選びください)のなか、土手の向こうにあるペニスコートまで駆け足で向かい、向かう途中でドジっ子の梶原さんが転倒して膝小僧を擦り剥いて血が滲み、噓泣きしながら土手の傾斜に横たわり、脚を開くと白いスコートの奥に秘境があり、インナーパンツも履かずに紳士淑女のスポーツたるペニスコートへ足を踏み入れようとしていた梶原さんの破廉恥な心意気に胸を打たれ、以前から白血球の少ない女ではあったがだくだくと血が流れる膝小僧の傷口に唇を当て、激しく血を吸いあげては唾を擦り付け、血を吸い、唾を擦り付け、血を吸い、唾を擦り付けと繰り返すうちに傷口はすっかりふさがったのだが、開いた股の上方から大きな血の塊が降ってきたのはノストラダムスも予見できなかった。頭全体が頭部動物公園のように血に覆われて爽やかな朝の日の光が川面を照らし、その反射光が屈折を重ねて私の血まみれの頭部を照らし、きらきらと光り輝く様は大きな赤ちゃんが梶原さんの股から今まさに生まれたばかりといった命の輝き、躍動、神秘とかいったものをユッケ風にかき混ぜてチャミスルで流し込むという風情もあるのだが、もう四十路も後半という梶原さんは恥じらいながら明日あたりメンスがはじまるかもしれないと国道沿いあるホテルエンペラーキングダム北鹿沼で股を開きながら呟いていたことを思い出し、メンスなのに容赦なく朝日が照り付ける土手を走らせてラケットも持たずにペニスコートへ向かってしまってごめんと心の中で手を合わせつつ、鉄橋の下で朝から営業しているおでん屋に立ち寄
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前回の感想票の中で、梶原さんのことを雑に扱っているとのご指摘を頂いたので、まずはそのことから答弁申し上げたい。梶原さんはこれまで述べてきた通り、旧華族の家系に生まれ、蝶よ花よと育てられた世間知らずの無資格司書で、幼小中高一貫校であるフェラス女学院で性春を謳歌したのちお父様の仕事の都合で島根国際大学へ遊学、鳥取砂丘で知り合った無給の男と無休でひと夏を過ごした因果でお乳が人目をはばからず突出したところを原宿でスカウトされ、映像作品「乳シネマパラダイス」でデビュー、北越谷インデペンデント映画祭助演女優部門夜の部カテゴリーCにおいて次点(最優秀者なしの実質金賞)に入るかもしれない今注目の若手女優は誰なんだアンケート回収業務を受託、芸能界の荒波と男優からの荒揉みに流されることなく独立、自分を見つめ直す旅と称して鳥取砂丘を徘徊、そのあられもないお宝映像をフォトエッセイ集として自費出版、砂丘に横たわるラクダにまたがる裸身が地球温暖化防止と恥丘湿潤化促進のアイコンとして好事家の間でプチ注目されたことからプチ再独立、自分からの脱皮、抜け殻となるまで燃焼、燃え尽き症候群、エレベーター昇降軍などを経て現在はとある地方都市の市立図書館で勤務する傍ら痴呆都市の形成の一翼を担っている。
この夏は岸田首相の退陣表明もあってお盆休みも取れなかったが、ライフワークである反大仏集団の実態調査、いわゆるオシントによるお信徒たちの動向を探るため平日午後のサービスタイムで梶原さんとは濃厚なコミュニケーションをハメ合い、すり合わせ、こすり合わせ等の業務を推進した。この世に高い山があるならば登ってみないと気が済まない質だし下から見上げる梶原さんの胸の尾根はそそり立っていてとても四十路後半のものとは思えないほど張り出しているし、記念に写メを取ろうとすると梶原さんはフェラス女子っぽい恥じらいで腰をくねらせWピースをキメるし、その頂にあるマスカットオブアレキサンドリアみたいな乳首を口に含むと高島屋のバイヤーが今どきの高級ブドウは「大粒、糖度が高い、種なし、見た目がきれい」と大絶賛するほどジューシーなピオーネ&ニューピオーネの味わいであった。その反動で上から見下ろす梶原さんの山はもしかしたら読者諸氏の懸念するような60代女性の垂れ下がりの兆候が垣間見え、マスカットオブアレキサンドリアが肉の狭間に隠れてしまうかもしれない。だからこそ上から見下ろすような神の視点ではなく一人称の視点から三人称を構築する試みが、その年の秋のトレンドであった。
「久里子さんのおっぱいって、小さなさくらんぼみたいで可愛らしいのね」
お湯の中に浮かび上がる嫁の乳房を見て、私は小さくため息をついた。それに比べて私のなんかシワシワの干しブドウみたいでみっともないわ。
「隆志はおっぱいが好きでね。小学生になっても、寂しくなるとすぐにむしゃぶりついてきたの」
遠くの山並みに目をやり、乳白色の湯のなかで脚を伸ばすと嫁のつま先に触れた。
「隆志のこと、よろしく頼みますね」
言いながら私は久里子のつま先から足の甲へ指を滑らせた。
「お義母様、隆志さん、ああ見えてとてもナイーブなんですね。出勤前にお腹を下してしまうことも多くて」
私はアメリカンフットボールで鍛えた隆志のがっちりとした肩を思い浮かべた。
そのまま指でふくらはぎを撫でると久里子はきゃっと大げさに脚を引き、手の甲で湯面を叩いて私の胸にお湯をかけた。
「やったわね」
私も負けじと久里子の顔に湯をかけた。おっとりした玉子顔に似合わず勝ち気な久里子はお湯をかけ返してきた。そうなれば私も黙っていられない。膝立ちになってばしゃばしゃと激しく湯を浴びせた。
他に客はいなかった。鄙びた温泉宿の浴室に嫁と姑の湯をかけ合う音だけが響いた。ふと気づくと久里子のさくらんぼが硬く尖って上を向いている。
「やだ久里子さん、性的に興奮なさっているの?」
まとめ上げていた長い髪がほどけて湯にまみれ、顔に張り付いて山姥のようになった姿が鏡に映った。
「お義母様だって、ほら」
久里子は軽やかに指を伸ばして私の乳首に触れた。んっ。喉の奥から声が漏れ、干しブドウがピオーネに変わった。久里子は硬くなったピオーネをゆっくりとさすった。私はこらえきれず久里子の胸に顔を埋め、負けじと硬くなったさくらんぼを口に含んだ。
「ねえ、いつも隆志にこんなことされてるんでしょ」
乳頭の付け根に尖らせた舌を絡めてちゅっと吸い上げると、息子の嫁はああんっと高い声を上げた。
「久里子さんって意外と性的に奔放なのね」
恐る恐る草叢に分け入って指を滑らせると、そこはぐっしょり濡れていて、アルカリ性の泉質とは微妙に異なるぬめりがその湿地帯における勢力を急速に拡大しつつあった。
「やだ久里子さん、こんなになって」
「お義母様だってほら」
久里子も股に手を伸ばしてきた。たしかにアルカリ性の泉質とは微妙に異なるぬめりがその湿地帯における勢力を急速に拡大しつつあった。
「んんっ、久里子さん、そんなにしちゃいや」
思わず私は嫁が息子に抱かれる様を思い浮かべて妙な気分になり、それを打ち消すように久里子の唇を吸った。すぐに久里子も反応して舌を入れてきた。どちらの舌なのか区別がつかなくなるくらい絡めあってぬめぬめとした感触を味わった。
「ちょっとこのままじゃ収まりがつかないから、何か棒を持ってきてくださる? 貴方たちはこれから夜の営みがあるんだろうけど、うちの主人、そっちはめっきり駄目なのよ。だから久里子さん、早く棒状のものをちょうだい」
久里子は湯槽の脇に立てかけてあったデッキブラシを手に取った。
「駄目よ久里子さん、そんな太いの」
言いながら私は太くて硬いデッキブラシの柄が肉襞を分け入ってくる様を思い浮かべた。
「ねえ久里子さん、冗談よね」
言葉とは裏腹に私は湯面に腰を浮かせた。黒々と生い茂った蜜林から湯が滴り落ち、さらに粘り気のある愛液に覆われた谷間がぱっくりと口を開いた。息子の嫁は意地悪な笑みを浮かべて私の脚を開きデッキブラシの柄の先端を押しあてた。
「やだお義母様、こんなに太くて硬いものが入っていくわ」
宿屋の下男に使い込まれて黒くなったデッキブラシの柄が柔らかな花弁を開いて入ってくる。んあああっ。獣じみた声が漏れ、堪えきれず久里子の豊かな腰にしがみつく。
久里子が焦らすようにデッキブラシの柄を引いて、浅い位置で上壁をこすりながら陰核を弄ると挟み込まれた肉裂から汁が溢れ出した。久里子はデッキブラシの柄を浅く持ち直し、力強く奥を突いた。
柄の先端が子宮口に当たる。脳に電気が走り、瞬間停電が起きた。口の端から泡を吹いているのが自分でもわかる。
久里子はそんな私を弄ぶようにデッキブラシの柄を自在に操って瞬時電圧低下を頻発させた。このままでは関東電気保安協会に勤務する主人を緊急出動させることになってしまう。せっかく息子夫婦と初めて訪れた湯西川温泉なのに、わたし、こんなになってしまって、ああっ、でも気持ちいいの、久里子さん、もっとたくさん突いてちょうだい!
ざっくりそんな話だったと記憶しているのだが、タイトルが思い出せない。働いているころ、夕刊紙で読んだような気がする。作者は宇能鴻一郎か川上宗薫だったと思う。
介護認定の重要な要素になるのでできるだけ詳しく思い出してくださいとケアマネジャーに言われたのだが、こんな感じでいいのだろうか。
台所に立つヘルパーさんのふくらはぎがむっちりと膨らんでいる。夏の盛りとはいえ仕事中にあんなに丈の短いショートパンツを穿くものだろうか。こんど別のヘルパーさんが来たときに尋ねてみようと思ったが、それまで憶えていられる自信はなかった。
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長編作家とちんちん作家は似ているようで少しだけ違う。こちらの1000字小説バトルstage4(末期という意味ではないだろう)から依頼を受けて連載を始めたのが第70回だから、今回で13回目となることは皆さんもご存知のことと思うし、その間亡くなってしまった読者には心からお悔やみ申し上げたい。毎月この原稿を書くにあたり梶原さんと取材旅行に出かけるわけだが、最近はインバウンドでどこに出かけても人が多く中途半端な取材しかできないからもっぱら国道沿いのラヴホテルで梶原さんの崩れそうなボディラインを松茸で支えつつ筆を走らせている。一回あたり1万字ほど書き、こちらには字数制限があるから、そのうちのごくごくエッセンスのみをお伝えするばかりで心苦しいのだが、そういうわけで1年で13万字ほど書き溜めてしまった。思えばこちらのバトルには若気の至りで第1ステージの第4回から第39回まで参加してしまったのだが読者諸氏も訪れたことがあるだろうが、その記録が生々しく保存されており、長々しい梶原さんとの寝バックに飽きてしまうとハメたままそうした記録を読み漁ってしまうこともしばしばあった。皆さんにおすすめしたいのは作品よりも感想票である。熱いのである。お前ら熱いな、と肩を叩いてやりたくなるほどなのである。もしかしたら、みんなプロの作家を目指して切磋琢磨してた? 感想と称して1000字ぴったりに着地しないと激怒する者あり、小説の作法を知らんのかと憤怒する者あり、いったいどんな小説を何冊読んできたのだと嘆く者あり、作者の素養は確かだが今回のは期待外れでしたねとか第◯回の優勝以降精彩を欠いているとか毎回同じ作風でお腹いっぱいですとか大きなお世話だ。
「ねえ、なにをそんなに憤ってるの?」と梶原さんは言った。「息が荒くなるほど憤るのはいいけど、ちんちんがちっとも憤ってないじゃない。ちゃんとしっかり怒張して、カリを膨らませないとあたしの中の情報はキャッチできないわよ。女体の肉の中にこそ万物の真理ありってあなた言ってたじゃないの。そういう取材なんでしょ? それともなに? ヤりたかっただけなの?」
たしかに、女の身体を下からじっくり舐めてゆき、背中に回って舐めさがり、足の指をしゃぶしゃぶしてから急上昇して脚の付け根に至るにあたって急峻となり、地形が複雑化してくる。その極みは襞になる。襞のひとつひとつを丹念に舌で分け入って鑑賞することにより舌先からツンと鼻に来て耳に抜ける。これをなんども繰り返すうちに
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子どもの頃は一日のうちでなんども、あるいは季節がぐるぐる巡るなかで折に触れ自分の影の長さを見て楽しんだりしたものだが、歳をとって気持ちに余裕がなくなってしまうと、影のことなどまったく気にならなくなり、いつしか影がサボって自分の身体を離れてどこかへ遊びに行っても気づかなくなってしまうのだった。きょうは2024年10月12日。寒暖差が激しくなり、鼻水が止まらなくなり、アレルギーであり、足の指先が冷たくなり、大して働いた覚えもないのに首から腰にかけての筋肉が張り、自律神経がバランスを崩し、一日中身体がだるく、眠ろうとすると火照り、火照ったまま熟女を抱くと悪夢を見るし、そんな肉体に嫌気がさして影はどこかへ遊びに行ったまま帰って来なくなってしまったのかもしれない。
「さいきん、影が寄り付いてくれないんだよ」
「あんなに伸び縮みしていたのに?」と言って梶原さんは布団の中でお尻を掻いた。
「伸び縮みなんかしてないさ。時間の経過に従って伸び、縮んでいくのが自然の摂理だろう」
「気付いてないのね。かわいそうに」
もう冬の乾燥肌が始まっているらしく、半透明のプラスチックボトルに小分けにしたアロマオイルを風呂上りに梶原さんの身体に丹念に塗り広げ、特に腰からお尻の広大な柔らか盆地は夏は暑くて冬寒く、少しの風が吹いただけで砂漠のように乾燥してしまうから温めた手のひらに半透明のプラスチックボトルからアロマオイルを垂らし、良くなじませてからクレバスの切れ目に沿って塗り広げ、柔らかい脂肪に包まれているのに本性は凶暴な筋肉を外側へと押し広げるようにほぐしてゆく。
「あなたの奥さんみたいなものじゃないの、影」
じっさいに影が寄り付かなくなったかどうか確かめたいというので、ふたりでシャワーを浴びた。向き合ってシャワーを二人の身体にかけながら交互に放尿を見せ合って、まだシャワーの雫が付着しているだけで濡れてもいないし勃ってもいない性器をこすり合わせて足元を見た。確かに梶原さんの影はあっても私の影は見当たらないのだ。
「病院に行った方がいいのだろうか」
「あなた、かかりつけがあるの?」
「ないよ」
「じゃあ、駄目じゃないの。受付の人に、影がないので診てもらえますか、マイナンバーカードは健康保険証と連動しています、って言ってもかかりつけ医じゃなければ、あなたただの一見さんなんだから信じてもらえるはずがないわ。だから前から言ってるじゃないの、かかりつけをお持ちなさいって」
「妻とは離婚を考えているんだ」
どうして女子トイレは完全個室なのに男子トイレでは老若男女すべからく性器をむき出しにして放尿するのだろう。前に飛ぶから朝顔型でいいというのは若干ぞんざいな議論ではないだろうか。これだけ文明が発達し、文化的な生き物になったというのに男性だけが辱めを受けるかの如く公衆の面前で性器丸出しで生理現象を収めなくてはならない。まるで無防備である。放尿の最中に後ろからバットで殴られたらなすすべもない。振り返っておしっこを引っ掛けるくらいしか反撃できない。それに引き換え女性用は完全個室だからドアを締めてしまえば何をしていてもわからない。手先の器用な女性は編み物をしながら放尿することさえできる。公衆トイレの個室で放尿しながら編んでくれたマフラーを誕生日にプレゼントされた恋人は冬に生まれたことを両親に感謝するだろうしマフラーを首に巻いて恋人の可憐なしょんべん臭さを冬の間ずっと満喫できることが率直に言って羨ましい。羨望は人間の強い感情の一つであり、それが引き金となって様々な負の行動、名誉毀損、嫌がらせ、器物損壊といった犯罪行為につながり
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梶原さんが勤める市立図書館の特別整理期間で大幅な図書の入れ替えが行われ、特に閉架書庫に収められていた雑誌類が大量に処分されてしまったという話を国道沿いのラヴホテルのベッドで聞いた。処分が決まった雑誌は図書館の蔵書印などをサンドペーパーで丁寧に消し、ネット古書店に横流しすることによって臨時収入を得ることができるため、日頃からワンオペレーションで8時半〜21時の業務を回している梶原さんにとってはストレス解消にもなるし廃棄リストと廃棄資料を照合する文化政策課の職員のみるみる曇っていく表情をスマホで隠し撮りしてSNSで炎上させてささやかな心のぬくもりを得ることもオプションとしてあるのだから特別整理期間の梶原さんはご機嫌である。いつものようにゆっくり回転するベッドの上で突き出された白くて広大な梶原さんのお尻を指でなぞり、びくんと動いた瞬間を逃さず「まひるまの」と指を動かす。梶原さんのまるでそこだけ童女のような肛門がきゅっと締まるのを見逃さず「雪のにおいは遠い」と続ける。ぴったり閉じていた大陰唇が開いて愛液の仄かな香りが漂い「シャワー室のタイル」となぞる。枕に顔を埋めていた梶原さんが日頃のワンオペレーション業務で凝り固まった首の可動域を最大限ひろげてこちらを振り返る。
「それって千種創一の『まだ雪の匂いはとおい。まひるまのシャワー室にはタイルが剥がれ』なんじゃないの。小賢しい」と鼻で笑った。
二句切れの句点が「とおい」の余韻を残しているつもりなんだろうけど、現代口語短歌風の「やってる感」が鼻につくと梶原さんは乾いた声で言うのだった。国道沿いのラヴホテルの浴室のタイルは僕たちが常々おしっこをかけあっているせいで肉切れの句点のように所々剥げかかってカビで黒ずんでいる。ゆっくり湯船で温まると勃ちが悪くなるからいつもシャワーで済ませてしまうのだが、本日は11月15日、いやらしい意味ではなく乳首が立ってしまうほど肌寒くなってまいりました。
「あの三十一音量感の底をながれてゐる濡れた湿つぽいでれでれした詠嘆調、さういふ閉塞された韻律に対するあたらしい世代の感性的な抵抗がなぜもっと紙背に徹して感じられないか」と小野十三郎が「八雲」1948年1月号で述べた「奴隷の韻律」そのものではないかと梶原さんは憤る。憤るほどに濡れていくのは仕方のないことで、そこを泥濘化していく私の務めもまたでれでれした奴隷の韻律であると指弾されたようで萎みかかっていたものが矢庭に勃ちやがる。今回の特別整理期間で閉架書庫の「八雲」はすべて廃棄さ
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長編小説を書く以外はなんの取り柄もないし梶原さんのお尻くらいしか撮る画もないのだが、中指から特殊な波動が出ているらしく、小さい頃から右手の中指を雌鳥の性器にあてがうと雌鳥は落ち着きなく身体を震わせ、クリーム状の塊をだくだくと流しだすことがしばしばあって、そこに精子をなすりつけたい雄鳥が遠くから私たちの行為を歯噛みしながら睨みつけ、学校帰りにカンムリカイツブリの雄の一群に襲撃されることもしばしばあり、ことの重大性を鑑みた東京都教育委員会より登下校の際、当該児童(私のことです)は防鳥ネットをかぶることが望ましいし、学校教育の管理下にある登下校時以外に外出する際にも白いハイソックスを着用(これが鳥除けになるとの当時の科学的見解だった)して雄鳥からの襲撃に備えるべきであるとの指導があった。まだ低学年だった私は知能も低かったし性格も素直で、母親のおっぱいの張りも十分あったからまだ授乳中だったし、父親はギャンブル依存症とアルコール依存症を併発して家の中では狂人のように暴れるか廃人のように存在感を消しているかというアヴァンギャルドな家庭環境だったこともあり、私はどちらかというと自ら好んで防鳥ネットをかぶって当時住んでいた都営住宅の周りを遊び回っていたものである。なぜなら母親の乳首は経産婦と思えないほど乳頭が小さく、ブラトップを使用し始めた女子中学生のように可憐だったため、防鳥ネットをかぶっていてもその隙間から乳首は吸えるのだった。じっさい中学に入って女子のブラウスから透けて見えるブラトップの中に潜んでいるだろう発達途中の乳首と母親の乳首とを重ね合わせ、ロリコンとマザコンを併発して妄想の世界に浮遊しつつ雌鳥の性器に中指を当てて本来鳥類が持つはずのない性的興奮を与えてしまったことは鳥世界の生態系を狂わせてしまったと言われれば返す言葉もないし、多少なりとも贖罪意識で鳥貴族のアルバイトに勤しんでいる現在の生活と無関係とは言い切れないが、鳥世界への贖罪意識を抱きつつ貴族として君臨するのは欺瞞に満ちた劣等民族であるとの自覚はあって、もはや少女のような乳首よりも梶原さんのような熟女のマスカット・オブ・アレキサンドリアを愛好するようになってしまった今となっては防鳥ネットの網をすり抜けられないのだから先の通常国会で成立した改正政治資金規正法のようなザル法と言われても致し方なく、あれは12月の初めだっただろうか北千住の30分3000円のピンサロで2発抜い
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新年早々腰痛の激痛である。本日2025年1月12日現在、依然として激痛であり、読者諸兄には大変失礼ながら布団に横たわりスマートフォンのフリック入力で、この文章を書いている。何かおかしなことを書くかもしれないが、フリック教授に免じて御容赦願いたい。毎年のことだが、新年は家族と過ごす。梶原さんは私と逢えないことがわかっているので、年末年始はどこか遠くへ出かけてしまう。どこへ行ったかは教えてくれない。休みが明けたら東京ばな奈をくれるのだが、どこでなにをしていたかは教えてくれない。休みが明けたら国道沿いのラヴホテルで当方ばな奈を突っ込むことになるのだからもう少しの辛抱だ。そんな新年一発目の姫始めでは梶原さんはたっぷり濡れているのに、乙女のように「痛い痛い」と繰り返し、眉間にしわを寄せて年末年始に他の男と交わっていなかったことを伝えようとしているのが恒例になっている。数えで48歳になろうかという地方都市の無資格図書館司書の、白くてたっぷりした肉体を弄んでいると、もはや鏡開きの儀式を済ませたようなさっぱりとした気持ちになる。そんなことを考えながら、妻と連れ立って元旦の参拝の列に並んでいた。神前に進み、二礼二拍手一礼の作法に従い、家内安全と長編小説の完成と梶原さんとの不倫関係がだらだら続きますようにと願った。そして、下げていた頭を戻した瞬間、腰に激痛が走った。参拝の列は参道の入口にあるチョコバナナの露店まで伸びていた。私は賽銭箱の前から動けなかった。横にも縦にも動けなかった。妻が怪訝な顔で覗き込んだ。苦痛で顔は歪んでいたはずだったが、妻ははははと笑って列を離れ、御神籤を引きに行ってしまった。よくあることなのだ。突然黙り込み、苦痛に顔を歪めて動けなくなってしまうことが、家庭ではよくあることなのだった。そんなこともあって、じつは12月30日からウォークインクローゼットで暮らしている。
他のことはすべて任せてくれるのにウォークインクローゼットの掃除だけは自分でやると言い張っていた内縁の妻であるところの欺木瞞子が朝起きたら倒れていた。死んでるかなと期待したが死んではいなかった。
洋服が好きでもないのになぜ欺木瞞子はウォークインクローゼットにこだわるのだろう。もう息も絶え絶えだったが救急車を呼べば法外な料金を取られるとNYの法律事務所での生活が長かった欺木瞞子が生前、いやまだ死んではいないのだが、よく口にしていた。
耳にタコができてからでは遅いので日本は皆保険制度があるから大丈夫だよと欺木瞞子には口が酸っぱくなるほど言ったのに口が酸っぱくなるのは胃腸が弱っているせいだと言ってヨガマットのうえで牛の顔のポーズをやらされた。身体が捩れて笑いが止まらなくなると、あんたはいつもそんなふうに笑って誤魔化そうとするから不謹慎だと叱責される。欺木瞞子は過払い金の相談業務を終えて法律事務所から帰ってきて私が牛の顔のポーズをしていないと牛のように怒って牛飯を食べさせてもらえないばかりか煮えたぎった鍋を枕元に置いて野菜の甘みが出汁と混ざり合った芳醇な香りを嗅がされながらも肝心の牛肉ハリハリ鍋はお預けのまま21時には消灯して夜の奉仕活動に没入してしまうのだった。
息も絶え絶えな欺木瞞子に毛布を掛け、何はともあれジモティで検索してみると年末の大掃除の最中でタイミングよく不要になったベビーカーを見た目はもう30過ぎなのにアーちゃん♡イッくん♡アーちゃん♡イッくん♡アーちゃん♡イッくんと呼び合う若干キモティな夫婦から譲り受けたというと聞こえはいいが聞き分けのないクンニちゃん(原文ママ)と呼ばれた幼児がもうひとり勃ちできるのに愛車にしがみついて離れずやむなく延長料金3千円を支払ってその半壊車を譲り受け、意識がますます遠のいていく欺木瞞子を乗せて病院へ急いだのだが、ふだんベビーカーを使い慣れていないうえジモティキモティ若夫婦がベビーカーは赤子を乗せるものであって大人を運ぶものではないのでそんな荒っぽい使い方をして問題が起きたら僕たち嫌だなと懸念した通り坂の多い城下町を右往左往した挙句イヌのお巡りさんの愛称で親しまれている駅前交番の乾順三郎巡査長が出身校である青森山田高校サッカー部のユニフォームが試合前に盗まれたため試合開始が遅れているのは公僕たる貴方にも責任の一端があるのだから至急みずほ銀行の然るべき口座にお気持ちでいいから振り込んで欲しいとの直電を受けお気持ちというのは何万円くらいなのか昔気質のパワハラ指導が常態化する一方居酒屋反省会では気さくなホッピー野郎に急変する警ら係の上司に相談したところ100万円以下は恥ずかしいねとの直言を受けたはいいが給料日直後にもかかわらず公営ギャンブルの先物取引であるところのノミ行為に手を染めていた乾順三郎巡査長の口座には残高が3千円しかなくプライベートでもパブリックでも顔馴染みの消費者金融へ融資を申し込んだところ担保が必要と柔和な丸顔の中にも一筋気合いの入った支店長からにじり寄られ腰のホルダーから担保としてミネベアミツミニューナンブM60を抜いてタン、ポンと軽快に差し出すとプレミアリーグの屈強ボランチ並みの素早い反転から銃口を向けられ街金から闇金へと滑らかに身柄を移された甲斐あってトイチで300万円の借り入れが無事完了してホッと胸を撫で下ろしたのも束の間みずほ銀行のATMがお約束通り不具合で動かないとの事情で足止めを食らっていた乾順三郎巡査長が駅前交番に不在だったためGoogleMAPでサクサク調べてみると後から聞けば偶然にもかかりつけ医だったという救急対応も厭わない町で唯一の総合病院へ辿り着いたのはとうに昼を過ぎていた。
12月30日の病院は症状もないのに年末年始の薬を確保しようとする有象無象でごった返していた。受付にベビーカーをつけて緊急事態の窮状を訴えたものの問診票に記入しろだの体温を測れだの保険証を見せろだのお薬手帳を見せろだの内縁の夫というのが正確にどういう関係なのか示してみろだの言われ欺木瞞子が白目を剥いて口の端から泡を吹いているというのに受付の猪みたいな太い首をした女が、真っ直ぐにしか進めない融通の利かない性格を曲がったことの嫌いな気風良しだと大昔お世辞で年下のストライクゾーン広めの若い男に言われたことを未だに忘れられず順番でお呼びしますの一点張り。
せめてもの意趣返しとばかりに内縁の夫たる地位を証明すべく堂々と欺木瞞子の下着を脱がして粘っこい汗がこびりついた肌を舌で拭い蘇生処置としてベビーカーの上でまんぐりがえしてオーラルから股間に闘魂を注入したところ、たっぷり濡れて膣の収縮が蘇ったがいつものような万力で締め付けるような圧が感じられない。
そういう御事情でしたらこちらでごゆっくりと猪首女がガタイの良い男の看護師をふたり連れてきて水揚げされたマグロを市場に並べるように欺木瞞子をストレッチャーに乗せ集中治療室へと運び込んだ。点滴を打って30分もすると欺木瞞子はばね仕掛けの人形のように、時計じかけのオレンジのように、オレンジじかけのクレープシュゼットのように飛び起きてトイレに駆け込んだ。ずいぶんお騒がせをしましたが昨夜食べたタイムセールの〆さばに当たっただけなのかもしれない。
大事を取って入院することになった欺木瞞子を置いて家に帰ると知らない爺さんが台所で出汁をとっていた。鰹節のいい香りが部屋に満ちていた。調理道具やら調味料の在処も熟知しているらしく流れるような動きで出汁をとっている。聞けば既に3年以上もこの部屋のウォークインクローゼットで暮しているという。出汁を取り終えると鰹節をさっと濾し、軽犯罪の懲役みたいなものですからと照れ笑いを浮かべて薄刃包丁で里芋の皮を剥き始めた。由緒正しい割烹で修行を積んだのだろうか無駄のない鮮やかな所作である。里芋の粘り気に刃を滑らせることもなくテキパキと皮を剥いているのを見てまさかと思い、背後から爺さんのズボンと下着をおろすと黒々とした包皮に包まれた陰茎がぬらぬら粘り気を帯びていた。恐る恐るその皮を剥いてみると意外にもピンク色の亀頭が現れて胸がときめいた。手首のスナップをきかせて爺さんの茎を夢中でシコっていると包皮と亀頭の間にたっぷりとしたカウパー液が里芋のそれを上回って粘りだした。それでも爺さんは顔色ひとつ変えずに段ボールひと箱分の里芋の皮を剥き寸胴鍋に放り込むのと同時に射精した。里芋と精液の濃厚な旨味が一塊の香りとなって鼻腔を刺激する。聞けば大晦日に大久保公園で生活困窮者への炊き出しを行うのだという。瑣末なことを申せば爺さんの名前は翁長という。調理用白衣の胸に刺繍してあるから間違いない。その刺繍を見つめているうちに翁長→翁→爺さんと自由連想法で結びつけたのであって一般的な意味での爺さんではなく背筋の伸びた細マッチョな若者である。欺木瞞子はなぜこんなシュッとした様子のいい若い男をウォークインクローゼットに飼っているのだろう。百聞は一見にしかず。ウォークインクローゼットに入って扉を閉めてみるとそこは起きて半畳寝て一畳、曹洞宗寺院のひとり娘でいずれ婿養子を取って寺を継ぐ宿命から現実逃避するために恋人のいる男ばかりをつまみ食いしては多くの女から怨みを買っている悪魔のような女こそ欺木瞞子の本性ではないのか、否、私がこの狭い暗闇の中で造形した人物像ではないのか。そう考え始めるとそれが真実の物語であるような錯覚、否、錯覚から生まれた真実であるかのような思考のループが止まらない。爺さんを被った若者はもう出かけたのか物音もしなければ里芋の匂いもしない、否、初めから爺さんも里芋も欺木瞞子もいなかったのかもしれない、否、暗くて狭いウォークインクローゼットの中においては。
激痛で固まってしまった私の背後から咳払い、苛立った舌打ちが起き、列が詰まった。それに気づいた朱色の袴を着けた巫女が声をかけてくれた。
「よくあることなんですよ」と巫女は微笑んだ。極寒の境内で二礼二拍手一礼をした途端にぎっくり腰になってしまうのがよくあることなのか。おでこにニキビのある巫女はテキパキ動いて社務所から車椅子を出してくれた。一歩も動けない私の身体を抱きかかえ、車椅子に座らせてくれる。その動作には激痛が伴うはずだったが、巫女に抱きかかえられていると、まったく痛みを感じないのだった。それが神に仕える巫女の信力なのか、白衣の上からは想像もつかないほどの巨乳に心を奪われたためなのかはわ
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クレームというわけではないのだが、前回の短歌バトルに投稿したつもりが、掲載されていなかった。短歌を詠むひとのなかには丹念に自作をパソコンに入力し、何年何月のどこの媒体に投稿したかを記録している人間も多いと聞く。私の場合は投稿フォームに直入力して送信ボタンを押し、そのまま放置して忘れるというスタイルだから、まったく記録もないし証拠もないので、こちらのサイトの運営にクレームをつけるつもりもないし資格もないし年収は低いし年金の加入期間も怪しいという有様である。将来を案じた父親が杜の都の名門中高一貫性教育校として名高い仙台即詠高校へと勝手に入学手続きを始めようとしていたのが、私が小学六年生になったばかりのまだ肌寒い晩のことであった。両親が夜遅くまで私の将来を案じ、当時はようやく白黒テレビがカラーになったばかりの頃であったが、父親は仕手筋との関わりがあり、テクノロジーの進化については一家言あり、電卓の出現によって事務作業が効率化されることによりホワイトカラーの労働者はやがて仕事を失い(中略)AIの出現とその進化、ヒトのAI開発能力を超えてAIがAI自身の進化を促すようになれば、もはや人間は働く意味を失い、芸術家としてしか生きていくことができない、といったことが途切れ途切れに私の耳に届くともはや眠っていることなどできず、不安になった時に多くの男子がそうするように、まだ発達途上のやわらかいおちんちんを握りしめ、しめやかなお通夜のような両親の会話が一刻も早く終わってくれることをただただ願って寝返りを繰り返した。
「どうした。眠れないのか」
隣で寝ていた姉が低く笑った。東京生まれ東京育ちのもやしっ子が白河越えて暮らせるのだろうか。しかも即詠なんかやったことはないし芸術家として生きていくというのは、なんだか辛そうだった。私は父親のように手に職をつけてボイラー技士として生きていくつもりだった。
「心配するな」
姉の足が布団に入ってきた。恐ろしく冷たい指だった。
「なんだお前、熱でもあるのか」
28歳年上の姉はそう言って、そろそろと足の指を伸ばし、私の手をちょんとはねのけ、熱源を探り当てた。
「わたしは、自分が女なのか男なのか分からなくなるときがあるんだ」
姉の足の、冷たい親指と人差し指がぬるりと私のおちんちんを挟み込んだ。一瞬萎えて、それからむくむくと大きくなった。緩やかに皮が剥け、先っちょから薄い液が
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鼻水が止まらない。花粉症ではないのだが、寒暖差アレルギーというのだろうか、季節の変わり目になると鼻水が止まらなくなり、市販の鼻炎薬を飲むと二、三時間は止まるのだが、朝になり、昼になり、夜になりと気温が変化するたびに鼻水は止まらなくなり、1日2回で効くはずの鼻炎薬を5回も6回も飲むものだから頭が朦朧としてきて、行き帰りの電車のホームでもフラフラで線路に落ちそうになって駅員に抱きとめられるといったことがしばしばある。最近の駅員は女性も多く、狙ってそうしているわけではないのだが、線路に落ちそうになったところを小柄な女性駅員に抱きかかえられて、しかしこちらの方が大型種なので抱きかかえきれずにふたつの身体がもつれ合ったままホームの端まで転がってしまうこともあり、ホームの端には撮り鉄が脚立のうえでカメラを構えているから格好の被写体となり、カメラを向けられると職業柄ついつい勃起してしまい、どうしたらこの女性駅員に悦びを与えることができるのか、そしてそれをカメラの向こうにいる鑑賞者に伝えることができるかに気持ちは向かい、気づけば小柄な女性駅員の唇を吸い、見つめ合って合意を得たのち舌を入れ、小柄な女性駅員の下腹がかすかに熱くなるのを感じ、舌をさらに強く絡ませれば、ん、と息を漏らして女性駅員の方からも躊躇いがちに舌を絡めてくる。それをじゅるとわざと淫靡な音を立てて吸い返しつつ背中に回した腕に力を入れて抱き寄せると胸が押し付けられ硬い生地の制服の上からでも豊かな胸の膨らみが感じられて、それを悟られまいと背中をそらしたところで唇を離しうなじに顔を埋めるとエメロンの香りと少し汗ばんできた小柄な女性駅員の皮膚の薫りが馥郁として口腔内に拡がり押し当てていたマックスマーラが上向きに力強く勃ち上がり小柄な女性駅員の太ももに突き刺さる。マーラの先端がぬらぬらと濡れているのがわかる。うなじから舐め上げた舌を耳たぶの裏側に当て、軽く歯を立てると小柄な女性駅員はんん、とさっきよりも半音高い声を出し眼をぎゅっと閉じて下腹から迫り上がってくる熱を堪えている。ほつれ毛が絡まった耳の穴に固く尖らせた舌先を突き立て外耳全体を唇で包みこんで吸い上げると小柄な女性駅員はんんあ、と今度はしっかり口を開けて悦びの声を上げた。力の入った瞼に唇を当て優しく開かせるとかすかに涙ぐみ、瞳の奥に獣のような性欲の炎が燃え盛っている。マックスマーラをさらに奥
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「セックス依存症なんじゃない?」と上司は言った。
もう職場には誰も残っていなかった。日清焼そばUFOの匂いが漂っていた。誰が食べたのかわからなかった。給湯器の電源は定時になったら切るというのがルールだった。ルールを定めたのは上司だった。本店から異動してきた理由は誰も知らなかった。切れ者という噂だった。切れ者の上司が異動してくる前は、最終退出者が切るのがルールだった。給湯器は有名人だった。それは正確には湯名人だった。蛇の目の湯名人だった。24時間お風呂に入れるのだった。電気代はわずかなものだった。わずかなものだと蛇の目の湯名人の営業マンは言うのだった。誰も確かめた者はいなかった。湯名人が導入される前とされた後を比べるものはいなかった。される前とされた後を比べるのは無粋な気もした。しょせん会社の金だった。される前とされた後を比べることほど楽しいことはなかった。24時間お風呂でされる前とされたあとでは明らかに違うのだった。蛇の目の営業マンだった。上司は蛇の目ではなかった。細い目をしていた。切れ長だった。切れ長の切れ者だった。前世は浮世絵なのかもしれなかった。年下の女性の上司と云うだけで性犯罪が起きそうだった。実際には起きなかった。年下の女性の上司にまつわる性犯罪の誘発を職場一同妄想するだけだった。年下の女性の上司が毎日どんな仕事をしているのか知るものはいなかった。焼きそばは汁物ではなかった。定時に来て定時に帰る上司が今日は残っていた。日清焼そばUFOを食べていた。食べながら私の背中を見ていた。背中を見ている上司を私が見ることはできなかった。視点が混乱してんだ。背中を見られているのを一人称で描写するのは無理だった。肩が凝っていた。首が回らなかった。プロミスに借金があった。アイフルの返済期限が迫っていた。プロミスで借りてアイフルに返すのだった。50万円だった。ひんやりとしたものが盆の窪に押し当てられた。コツコツと靴底が床を叩く音が響いた。上司だった。ドップラー効果だった。コツコツと近づいてきてから鉄の塊が押し当てられるのが現実世界で描かれるべき道理だった。
「パスワードは?」と上司が言った。
画面はスリープしていた。スリープという名の狸寝入りだった。鉄の塊は銃身だった。画面が明るくなってそんな気がした。パスワードなどしょせん銃身の前では無力だった。
「そのフォルダを開いて」と上司が言った。
公用パソコンで高揚小説を書いていることはお見通しだった。Wordを開いた。生暖かい息がつむじに当たった。年下の女性の上司がスカートに包まれた脚をすこし開いたようだった。
「読んでみなさい」と上司が言った。
私は読んだ。公用パソコンに書きためていた高揚小説をゆっくり読んだ。背後の息が荒くなるのがわかった。私は上司の真っすぐな長い髪を思い浮かべた。ギシッと椅子の背もたれが音を立てた。上司の下腹が押し付けられた。押し付けられたとき、くちゅりと湿った音がした。
「WEB小説家なの?」と上司は言った。
WEB小説家が何なのか私にはわからなかった。神宮寺滝一郎という名前だけが独り歩きしていた。上司は胸のふくらみに手を当て、ゆっくり指の腹で円を描いた。相変わらず後ろの様子は見えないお約束なのに「私」は見えないはずの年下上司のブラウスのボタンがひとつずつゆっくりと外されてゆくのを描
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褒められると伸びないタイプだから罵詈雑言を浴びせて欲しいと梶原さんには常々お願いしていて、それは罵詈雑言を浴びないと物理的におちんちんの長さが伸びないし硬くならないから、物理的に梶原さんの身体の中に入っていけないということだった。
あと数年で五十路になる梶原さんの身体は流れるように柔らかく、そのこと自体が物理的に私という存在を許容しているように感じられるのだった。つまり巨乳が許容しているということで、騎乗位でつながったままの梶原さんの上半身が私の眼前にしなだれかかるとき、もう若い時みたいにツンツンしていない巨乳がトルコアイスのように垂れ下がり、互いに腰を打ち付け合うたびぶるんぶるんと目の前で揺れ、その先端で硬くなっているマスカットオブアレキサンドリアのような乳頭がなければ、単に白い肉の塊が私の頭を包みこんで一言たりとも物申すことを許さない、例えば適正な税制が財政規律を高め、円の国際的な信用を担保し、破綻寸前の年金制度をなんとか維持し、逆ピラミッド型になってしまった次世代へのツケを回避するといった至極まっとうな言論が財務省の陰謀だとか自民立憲大連立の布石だとか言われるのは甚だ心外ではあるが、騎乗位でつながっている下半身は取り敢えず気持ちいいのだから、当面は赤字国債でなんとかなるんじゃないかと安易なMMTに流れそうになるのを縦横自在に揺れている梶原さんの巨乳に嘲笑われているような気がして白くひろがる両尻を鷲掴みにして動かないようにして下からのピストンを強め、マスカットオブアレキサンドリアを口に含んで乱暴に吸い、固く尖らせた舌先で嬲り、乳輪を甘噛みしてその粒立ちのひとつひとつの昂りを確かめながら、乳首の先端に向かって歯をなぞり上げてゆくと、梶原さんは獣のような声を上げ、下腹が微かに痙攣して子宮から込み上げてきたような息を吐く。その匂いはホテルに入る前に日高屋で食べたレバニラ炒めとも餃子ともシナチクとも異なり、恐らく私も同じような匂いを発していてファブリーズでは消せない、写真には写らない、ドブネズミみたい、美しくなりたい、といったことが全否定されるような罵詈雑言を浴びせて欲しいと梶原さんには常々お願いしているしAIにも相談しているのだが、M調教師としてはどちらもまだ発育途上で根底から私の人格を否定するような言説は生まれていない。プロンプトが甘いからかもしれないと眼前でぷるんぷるん揺れる乳
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茹だるような暑さである。
本日2025年6月17日、私の住んでいる片田舎では30度を越えた。
午前10時に午前中の休憩として職場の隣にあるショッピングモールの飲食店街の喫煙所に向かう僅か5分くらいの間に、もうびちょびちょである。
午前10時でこの暑さなら、このあとに訪れる11時、12時、13時、14時、15時、16時、いまなん時だい? 18時の休憩の折には私の身体はどうなってしまうのだろうかとかつて働いていた崎陽軒時代を思い出した。
朝から晩まで、年がら年中茹だるような暑さだった。真冬でも、茹だるような暑さだった。シウマイ工場は過酷な労働だった。基本給はなく、シウマイひとつの売上に対してグリーンピースひとつ分が歩合給だった。現物支給のときもあった。それでも高度成長期は良かった。新幹線が東京大阪間をぐんぐん走っていた。シウマイ弁当は飛ぶように売れた。飛ぶように走る新幹線の車内で飛ぶように売れた。冷めても旨いからだった。冷めても旨いのにシウマイ工場は茹だるように暑かった。シウマイを茹でていたからだった。
平和島からバスで三十分も走った。茹だるような暑さだった。バスにエアコンはない時代だった。未亡人がノースリーブだった。高度成長期の未亡人はノースリーブでシウマイ工場に通うのだった。シウマイ工場行きのバスは寿司詰めだった。シウマイ行きの寿司だった。
未亡人は迂闊だった。ちょうど暑くなりかけた頃、未亡人たちはノースリーブを着用するのだった。8月の暑い盛りには薄手の長袖ブラウスなど羽織ってベージュ色の下着の色を見せつけたりするのだが、暑くなりかけた6月にそんな余裕はない。
ノースリーブを着て寿司詰めの吊り革につかまる。東京五輪の前だったから平和島から埋め立て地帯へと進む道はでこぼこでシウマイ行きのバスは容赦なく揺れる。揺れれば二の腕も揺れる。未亡人のノースリーブからむき出しになった二の腕が震える。ぷるんぷるん、ぷるんぷるん。無防備な未亡人は腋毛の処理も甘いから、昼休みにシウマイ弁当を食べながらそのことについて軽口をたたけば、頬をあからめ、額から汗が流れ、背中を伝い、尻の割れ目をなぞると居ても立ってもいられなくなって身を捩る。私たちは労働争議によって団結し、更年期障害にも対応する器用軒としての副業が認められていたため、工場内の着替え室の奥にある副業専用個室に連れ込み、まずは上半身を真っ裸にする。
二の腕ぷるんぷるんの未亡人をベッドに横たえると、二の腕の肉と巨乳がだらしなく広がり、
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茹だるような暑さだった。
いつものように梶原さんとラヴホテルのサービスタイムで嵌め合ったあと、残酷な日差しのなか国道を歩いていると、梶原さんが目眩がすると言う。
非正規雇用とはいえ市立図書館の司書として血税をいただいている以上、強い日差しのなかを歩いたくらいで「熱中症かも」などと弱音を吐くのは随分と体たらくで納税者に申し訳が立たないし、ベッドの上であんなに潮を吹いたのだから塩分も水分も失われるのは当然だ。
くらくらしている梶原さんの豊かな腰をぐっと抱き寄せよろよろ国道を歩いていると、マイクロバスが急停車して「お乗りなさいよ」と言うのだった。
運転手は穏やかに微笑み、日サロではありえない自然光でじっくり焼いた肌が黒光りしていて全体的に好々爺のオーラを醸し出しつつ眼光だけが国際スパイのように鋭く、梶原さんともどもご厚意に甘えることとした。
マイクロバスには老人たちがみっしり座っており、通路に補助席を出してもらって梶原さんと前後して座るとどこに潜んでいたのか鮮やかなブルーのウインドブレーカーを着た青年が梶原さんの前の補助席に座った。
マイクロバスは動き出した。私は梶原さんの耳元で「非常勤職員とはいえ血税で生きている身なんだから一番近い最寄りの駅までで結構ですと前の青年に伝えたらどうなんだい」と囁きながら息を吹きかけた。梶原さんは一瞬腰をびくんと震わせつつ前に座る青年に耳打ちをすると青年は呵呵と笑って振り返り梶原さんと私を見て「ご心配なく」と言った。
青年の振り返った時の角度が尋常ではなく、首の柔軟性が妖怪じみていたし、片目ずつ梶原さんと私の両目を捉えて有無を言わせない。これはよほどの修練、例えば劇団四季の下級団員として浅利慶太に10年ほど鍛えられたようなディープインパクトで梶原さんと私は補助席に釘付けとなった。
程なくしてマイクロバスは公民館の前に停まった。青年が立ち上がり、車内の老人たちに模造紙を広げる。それは投票用紙を拡大コピーしたもので、候補者氏名の欄には太太と黒黒と名前が記されている。
「良いですか、しっかりはっきり〇〇さんの名前を書いてくださいね。もし出口調査員がいたら、絶対に我が党の名前は言わず、賛成党に投票したと言ってください。理由を聞かれたらどんな法案にも賛成するという政策が潔い、何よりオレンジ色がすきだから、と答えておいてください。では行ってらっしゃい。美味しいお弁当をご用意してますよ」
鰻弁当の香りが車内に漂い、
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信頼している友人の借金を肩代わりするのは夏の盛りがいいだろうか、それとも厳冬期がいいだろうか。結論から言うと信頼している友人の借金を肩代わりするのは厳冬期が良くて、なぜならおちんちんが縮こまって包皮が完全に亀頭を包みこんだ上に包皮の先端にしわが寄って象さんみたいになるからである。
梶原さんはそんな象さんをこよなく愛でているから夏の盛りに国道沿いにあるラヴホテル「シベリア抑留地」で冷房を全開にし、包皮の先端を指でつんつん弾いては悪戯をする三歳児のような上目遣いで萎え萎えのおちんちんを口に含み、マウスウォッシュで口内を洗浄するように激しくスロートしたかと思えば玉袋を桔梗屋信玄餅のようにじんわりと口に含んで柔らかくしてみたりとやりたい放題なのである。
暑くてむしゃくしゃしていた、と友人は供述したのだが、駅構内で車椅子の背後に忍び寄り、蝶野正洋のヤクザキックのごとく蹴り飛ばし、勢い余って車椅子が階段をすざまじい勢いで転げ落ち、勢い余ってホームから転落し、勢い余ってレールにはまり、前日終電後の夜間作業で入念なローションプレイを施したレールの上を走り出し、機転を利かせた交換手が各駅停車と特急列車のレールを切り替えて、結論を先に申せば北千住から東武日光まで車椅子は走ってしまった。途中スペーシアエックスを追い越す際に食堂車でハムカツサンドを頬張っていた西洋人が何かのアトラクションと勘違いして「カミカゼ」と絶叫してシャンパンを開け、クラッカーを鳴らし、久寿玉開披の儀に及んだところ、たまたま終戦記念日だったこともあり、右派から非難を浴びたのだが赤沢大臣のアポなし訪米が功を奏したのか事なきを得た。
しかし元をたどれば三十五度超えの猛暑の中むしゃくしゃしていたらかといって車椅子を蹴り飛ばすのは鬼畜の所業であり、SNSで炎上、穏便に済まそうとしていた高野連の思惑も空振り、衆院選、都議選、参院選の敗北でスリーアウトチェンジだなどと気の利いた風なことを発信するド田舎議員のドヤ顔も虚しく、私の信頼している友人は車椅子から損害賠償を求められる仕儀となった。その額なんと三十五万円。車検代より高いのは、いくらネズミ講のアムウェイとてやり過ぎと訴えたものの最高裁で敗訴が確定した。その額なんと三十五万円。車椅子には人が乗っていなかったとはいえ、連帯保証人である私も幾ばくかの責任を感じ、幸い女性用風俗店のセラピストとしての職を得たことから、楽しみながら働くことを念頭に月々壱万円ずつを
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急いては事を仕損じる、という言葉があるのだった。
長いエスカレーターだった。都心の地下鉄が複雑に交差する駅の最下層から上位3%の富裕層へと昇るエスカレーターは一直線に上へ上へと延びていて、混みあった時間帯にみっちり人々は運ばれてゆくのだった。ゆっくりとしかし着実に最下層から富裕層へと運ばれてゆくのがわかっているのに、どうして苛立つ気持ちを抑えきれないのだろうか。毎日同じ地下鉄に乗り、ある者は会社へ、ある者は学校へ、ある者は高等裁判所へと運ばれてゆくのだった。しかしその昇りつめた先に本当に富裕層があり、そこで得られた富がトリクルダウンして最下層まで滴り落ちてゆくのか、人々は不安に思うのだった。アベノミクスはどこへ行った黒田バズーカはどこへ行ったインベストイン岸田はいったいどこへ行った、とエスカレーターをのぼりながらじりじりに堪えられなくなった者は列を離れ、自力で登り始めるツーブロックゴリラだった。NISAやイデコでは我慢できず、愛する女のオデコにぶっかけてしまうこともしばしばだった。もっともっとと求めれば女心は離れてしまうのだった。市立図書館に勤める梶原さんだってもっともっとと求めれば3カ月に一回では物足りないし、1カ月に1回でも物足りないし、毎週でも毎日でも物足りなくなって一日中布団の中でぴったり抱き合って、硬くなったり柔らかくなったりを繰り返し、二人の身体は液化して布団をべったり濡らし、やがて乾いて気化してしまうのだった。気体となって、やはり空気の中をゆっくり上へ上へと昇っていくことになるのだから、結局は地下鉄の最下層から上位3%の富裕層へとエスカレーターをのぼってゆくことと何ら変わらないのだった。僕たちの関係というのはそんなエスカレーターみたいなものだったのかい? と訊ねてみれば、きっと梶原さんはぶんぶん顎肉を揺らしながら首を振り、その振動で巨乳がゆれ、その先端のマスカットオブアレキサンドリアも揺れ、揺れを収めるためにぱっくり口に含むことになるのだった。急いては事を仕損じる、という言葉があるのだった。急いては事をシソンヌじろうと何が違うのだろう。そんな疑問が過ったからスマートフォンを取り出し、Googleレンズで目の前にあるQR柄のスカートを穿いた女子高校生の臀部にかざしてみたが、お疲れ気味なのかGoogleレンズは反応しない。致し方なく録画モードに切り替え、気づかれないように女子高校生のスカートの中に差し入れると、万力のような力でツーブロックゴリラに手首を掴まれ
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脂ぎったハムカツを食べたいと思ったことがあるだろうか。アルコール度数9パーセントの500ミリリットル入り缶チューハイはサントリーのが158円で、イオンのプライベートブランドであるところのトップバリューが128円でとってもお得だし、ウエルシアドラッグストアのレジ係の姉ちゃんは顎のラインで揃えた髪のインナーカラーリングがアッシュグレーで、同じ色のカラーコンタクトレンズをハメていて、昔のヤクルトのビジター用ユニフォームのように微妙に薄汚れた水色の制服の胸の部分がほとんど腫れ上がっていなくて、ウエルシアドラッグストアでレジ係をするくらいだから、少なくとも小学生でないことはわかるし、バーコードリーダーを握る手の皮は張りがなく、指にハメた金属の輪っかも外れそうなほど痩せていて、二度見三度見するうちに警戒の色を滲ませ、四度見五度見くらいで舌打ちをするあたりは、やはり若い女なのかなと思わせるには十分で、そうした観点から今一度胸の部分を六度見七度見するうちに、トリックアートのように肉の腫れ上がりがようやっと浮かび上がって来て、貧乳と呼ぶのも貧乳に失礼というか、エンジェルバストという困った時にやりがちな外国語変換も咄嗟に思い浮かばず、悶々として支払いを済ませ、建物裏手にある従業員通用口で姉ちゃんが仕事を終えて出てくるのを缶チューハイをちびちびやりながら待ってはみたのだがなかなか出てこず、再度店内に入って128円の缶チューハイをレジに運び、相変わらず気怠そうにレジっている姉ちゃんを八度見九度見しながら片時も成長しない胸の腫れ上がりを十度見十一度見して支払いを済ませ、従業員通用口でちびちびやることを5セット繰り返し、ようやっと出てきた姉ちゃんに思わず「遅かったじゃん」と三十年来の地元のツレっぽい感じで声をかけてみたところ、こっちを真っ直ぐ見て盛大な音を立てて舌打ちをした。
本来巨乳好きなのに、どうしてそんなまな板姉ちゃんに缶チューハイ2.5リットル分も執着していたのかと市立図書館に勤務する巨乳オブ巨乳の梶原さんに叱責されるのを思い浮かべて軽勃起してしまった。重勃起に移行する前に手を打たなくては。
「GoogleのアナルスティックスはGoogleのgへ入れるとooから出てくるって本当なの?」
とレジ係の姉ちゃんは言った。なんだ、結構気さくなおなごじゃん。それで行きつけの、脂ぎったハムカツを食べさせる店に連れ
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ニシンスピリットに溢れていた日本ニシンの会が好きだった。もとはといえば日本ニンシンの会だった。飲み食いヤリ性治だった。ピルもなく勃起剤もなかった時代の要請もあったのだろう、自己責任でなんとかしなければならないのだった。若気のイタリーから奔放な思想が輸入され、無軌道な若者たちによって捻り出された日本ニンシンの会が発祥で、その立ち上げには私もことさら一枚噛んでいたというジャーナリストもいるのだが、やがてそれがジャーナリスムス(かねて主張している通り、オーガズムよりオルガスムス派である)に堕してしまった。
さいきん魚屋で見かけなくなってしまったニシンだが、骨ごと食べられるニシンを求めて北海に出かけることもしばしばだった。性春18切符で各駅停車を乗り継ぎ、ストーブ列車でイカをあぶり、市立図書館の無資格ワンオペ司書であるところの梶原さんに無理やり有給休暇をとらせて同行を強要し、コンパートメントトイレで窮屈な体勢のまま屈曲位を極め、根室にたどり着いたのは寒風が吹きはじめた秋の夕暮れであった。
さっそくニシンを求めてウエットスーツに着替え、オホーツク海へと二人して飛び込んだのだが、秋の北海は冷たく、腰までつかったところで震え上がり、梶原さんの胸の突起は分厚いウエットスーツを突き破らんばかりに固くなってしまった。これは長期戦を構える必要がある。素泊まりで予約していた民宿からFAXを送り、まずは劇団四季の名称を劇団二季に変える運動を開始した。というのも民宿の看板娘がロシア系女子高生のニキータであったし、素泊まりで予約していたのにもかかわらず身欠ニシンを夜食として振る舞ってくれるなどして意気投合し、その夜のうちに根室水産高校で非常勤講師としての職を得ることができた。
自慰連立政権と聞いて思い出したのはそんな根室水産高校での日々だった。血気盛んな若者たちは授業の合間もオブラートに包まれた性欲を我慢できず、5分休憩の間にトイレで下半身をむき出しにし、連れ立って精液の飛ばし合いを行い、急ごしらえの連立の結束を高めたものだった。トイレの床が細かいタイル地となっているのは、正確に精子の飛距離を図るものだと用務員のニコライがそっと耳打ちしてくれた。ニキータの通う壁一枚隔てた根室商業高校の女子トイレから聞こえてくる如雨露音を聞きながら、日本から四季は失われてしまったけれども、ごわごわとしたトイレットペーパーで尿の雫を拭き取る音が儚い秋の風情を北方領土へ愛国の思いとともに
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おはようございます。床山三郎太でございます。そこの横丁で髪結処を営まさせていただいております。本日2022年1月21日から2回目のまん防ということでさぞかし奥様のまんこもぼうぼうかと思いましてお声をかけさせていただいたという次第でございます。すこしお時間をいただけますか。お急ぎではありませんか。そのあいまいな笑顔はお急ぎではないということでよろしいでしょうか。じっとりスマートフォンの画面を睨んでいらっしゃいますがもしかしてWEB小説家神宮寺滝一郎の4万字にも及ぶスケベな小説をお読みになっていらっしゃいましたか? 奥様がどれくらい欲求不満なお時間をこの忌むべき感染症の真っ只中で持て余していらさるのかを慮りますてえと床山三郎太じくじく胸が痛みます。そんな奥様に素敵なお知らせを持ってまいりました。
いわゆるカットモデルということでもちろんお代は頂戴いたしません。まん防でおでかけもままならないということをニッポン放送の早朝ラジオで聞き及びまして手前どもも善良な町の髪結処として奥様のお役にしっかり立ちたいと強く願いつつちんぽはまったく勃たないということでご安心いただきまして一歩二歩と床山三郎太の影を踏みつけなすって三歩四歩とお進みいただきまして奥様いいペースでございます五歩六歩と奥様まもなくそこの角を曲がったトタン屋根の木造モルタルの一見民家のようでございますがささやかな髪結処を営ませていただいております。
さあさあ奥様素敵なキティちゃんのサンダルを脱いでおあがりください。その前に消毒をしておきましょう。奥様御御足をこれへ、床山三郎太の三時間前にエメロンで洗ったばかりの掌へお載せください。ああ奥様いい香りだ。もう少し顔を近づけて嗅がせていただいてもよろしいですか。ああたまらない。昨夜は旦那様としっぽりゆず湯にお浸かり遊ばしでござんすか? ええそうですか、旦那様じゃなくてお兄様と。ええ、不肖床山三郎太、仔細合点承知いたしました。ええ皆まで言わずともお兄様という名の様子のいい益荒男とゆず湯に浸かってしっぽりと奥様、御御足のそこかしこがゆずの腐りかけたようないい匂いだ。奥様ちょいと失礼して消毒させていただきます。ああ奥様せっかく昨夜はお湯を使われたのになんでしょうこの指の股にびっしりと砂よりもこまかい固形物が付着していらっしゃるので丁寧に三郎太のオーラルで除去させていただきます。ええもう慣れておりますのでご安心ください。奥様ペディキュアがもう何ヶ月前ですか、かすかすに剥げかかって残骸が跡形もなく粉になって指の股にびっしり貼り付いて除光液の香りが残っているといえばそうとも言えますし毛穴から染み出した酸性老廃物のツンとした匂いといえばそうとも言える独特の香りとざらざら触感を舌で味わわせていただき床山三郎太嬉しゅうございます。
それではその長椅子に横になっていただいて奥様いよいよまん防の具合を拝見させていただきます。ああ奥様もうおパンティの脇からもじゃとひと掴みまん防措置が適用されているではありませんか。おパンティはどこですかヨークベニマルで豚のコマ肉を買うついでに5枚千円でお買い上げのイチゴ柄が小学生の林間学校みたいに可愛らしいおパンティは穿いたままにしてカミソリの刃を当てさせていただきます。たっぷりクリームを泡立てまして奥様のパンティラインからはみ出したもじゃもじゃへ塗りたくってまいりますがおや奥様もうすでにクリームがいらないくらい潤滑ではありませんか。おやおやぬるっと濡れてイチゴの赤色がぐっと濃くなっていらっしゃるではありませんか。ああ奥様カミソリの刃がすべるすべる滑って剃りにくくて困惑しておりますが、もちろん床山三郎太楽しく生きさせていただいております。じょりじょりっとじょりじょりじょりっと奥様なかなか手ごわい剛毛でございます。床山三郎太、町内で髪結処を営ませていただいて早30年となりますがこんな剛毛初めてでございます。髪結処冥利に尽きる剛毛でございます。ちょろちょろっと生えて風になびくまん防も粋なもんでござんすが手前どもといたしましては刃毀れを起こすくらいの剛毛にむしろ腕がなります。職人魂に火がつくってやつでございます。じょりじょりっと、むぅ、こいつぁなかなか奥様平時であればすぱーんっと剃り落とすところでございますが奥様の奥の方からこんこんと湧き出る泉が床山三郎太の指先を鈍らせるのでございます。ここはひとつ奥様ご提案ですが、こうも湿潤しますってえと剃刀は危険、ナイター設備のない球場で夕まぐれに球を打ち合うみたいなもんでとても危険。審判団協議の結果サスペンデッドゲームとさせていただきまして危ない剃刀はこれへ置きましてまずは奥様ご提案でございますがこのぬめりを完全に除去しまして二次被害を防ぐ観点からも奥様の真っ赤に燃え上がった炉心に突入して鎮火活動をこの床山三郎太の特製如意棒に務めさせてはいただけないでしょうか。ええもちろん奥様無料でございます。送料手数料金利すべて無料でご奉仕させていただきます。それに床山三郎太、早いのだけが取り柄でございます。ぱぱっとちゃちゃっとぬめり除去の特務に取り掛からせていただきます。ようがすか? 奥様ようがすね? ああ、奥様、これはまた特殊なぬめりをしていらっしゃる。しっかりとした合意に基づいて挿れさせていただいている安心感からくるフィット感がたまりません。まえにうしろに如意棒を動かしまして、ああ奥様、身動きが取れないじゃありませんか。こんなにぬめっているのに、襞襞がつっかかる。前へ後ろへ、スムージーなのに吸い付いてくる。ああ動かすほどに深みに飲みこまれてまいります。底なし沼の底抜け脱線ゲームでございます。ねえ奥様どんなイリュージョンなんですかこれは。床山三郎太、もう頭がおかしくなってしまいそうです、むしろ早くイカせて頂きたいほどでございます。
妹からまんこのぶつぶつについて相談を受けた。年末からずっと痒いので行きつけの髪結い処で剃毛してもらったところ、まんこに赤い発疹のようなものができてしまったという。
「お風呂でちゃんと洗っているのかい」
「やだもういつまでも子ども扱いして」
そんなことを言いながら頬を赤らめている妹48歳だったがこの冬は大学共通テストがあるから心配だ。苦手にしている関係代名詞を教えてあげるからこっちへおいでと風呂に誘うと妹は待ってましたと声を上げて風呂を沸かした。さいきん血圧が高いからぬるめで頼むよと言ったのに妹はまんこのぬめりを腕に巻きつけて血圧を測ろうとする。そこには確かに赤いぶつぶつが。
「クラミジア菌の検査はしたのかい?」
「やだもういつまでも子ども扱いして」
クラミジアの検査と関係代名詞の試験勉強をお風呂で同時にしても大丈夫よ兄、と妹は言った。もしも単なる剃毛後のかぶれだとしたらフェミニーナ軟膏をたっぷり塗り込んでから床山三郎太をガン詰めして謝罪文を取り立てれば試験は受けられるしちょっとした慰謝料で懐も温まるのだがクラミジアだとしたらそうはいかない。市中感染が広がって男も女も股間の痒みに身もだえしながら試験を受け、不本意な進路選択を迫られることになったら偏差値30からの逆転人生を目指しスナック勤務からのコンビニ勤務を経て高等学校卒業程度認定試験に合格し教育行政の歪みを正すために東京学芸大学で教育学の研究を始めんとする妹には許しがたいことだった。
「だから兄、あたしを徹底的に調べてほしいの」
「じゃあ聞くが妹、最近オナニーはしていないのかい?」
「してるわ」
「直近では?」
「さっき」
「さっきは、炬燵で勉強していたのでは?」
「ばかね兄、鉛筆のケツが濡れていたでしょう?」
「I have a younger sister who plays with wet pussy」
感染症だったら一大事。実の兄としての責任感でみるみる硬くなってきた試験棒を妹のまんこに突っ込みよくかき回して結果が出るまでの間にオルガスムスも味わった。さすがに兄妹、互いの肉をよくご存じで風呂から上がって下半身裸のまま炬燵に入るとやがて兄のちんぽにも赤いぶつぶつが。
「妹、今年の試験は」
「お預けだよね、兄」
互いのぶつぶつを指で確かめ合っているととめどもなく濡れて勃って挿れて出してしまいたくなるので、妹が握りしめていた共通テストの受験料3教科分18000円を松坂競輪新春松阪牛霜ふり本舗杯初日の第4レースにぶち込めば、9番野崎将史8番増田利明が大外から捲って2車連単勝17070円の万車券ゲットで兄妹揃って股の痒みも忘れ、こいつぁ春から縁起がいいぜ。
(了)