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第54回詩人バトル

エントリ作品作者文字数
1廣島椿月378
2機械な世界香月朔夜120
3凶器。望月 迴70
4階段を築こう有機機械345
5大覚アキラ492
6君自身影法師156
7マーキィ・ルゥ発言集ヨケマキル※データ無
8(作者の希望により掲載を終了いたしました)
9お月さま、あかい。兎六158
10夜逍遙岡崎龍夫230
11金魚屋ながしろばんり296
12ゆりかごうたとむOK273
13ロープ空人259
14 佐藤yuupopic 1333
 
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エントリ1  廣島   椿月


飛行機飛んでました。
おっきな木の上に登ってまっかな太陽から逃げて、
飛行機見つけました。
ああまた空襲警報がうーうー鳴るんかな、
ぐるぐる回るそいつを目で追いかけていたら、
ぴかりました。

世の中を知らんうちに、
防空壕知って、
楽しいこと知らんうちに、
全部めげて、

おかんはどこ、おとんはどこ、
悲鳴すら知らのぉて、
私生まれ変わって7才になった。


お母さんとお手てつないでお出かけしました。
ちっちゃなちっちゃな映画館。いちばん後ろの真ん中の席。
楽しい楽しい映画の試写会って。
聞かされて。

楽しい楽しい映画の始まり。
同じ年の女の子、
屋根の上登ってあかとんぼを歌っていました。
上空で飛行機がぐるぐる飛んでいました。

私、叫びました。


世の中を知らんうちに、
防空壕知って、
楽しいこと知らんうちに、
全部めげて、

おかんはどこ、おとんはどこ、
悲鳴すら知らのぉて、

あの子も私も、死んだのです。







エントリ2  機械な世界   香月朔夜


「破壊」と「崩壊」
コアに埋め込まれた命令の基盤
気づかず 思考せず
動き出す幾重ものロボット
錆びつき止まれば分解で
警告信号は抉り出し
燃料尽きれば廃棄山
生み出す工場に切りは無く
働く機械も無機質に
駆動音が唸り続け
震え始めるネジの緩み
狂い始める設計図






エントリ3  凶器。    望月 迴


生まれた日から
殺めるために

生まれた日から
奪い去るために

いつしか悲しみも消えて

涙は狂気に涸れて

嗚呼 愛する人よ

それならばいっそ

僕の手で君を。





エントリ4  階段を築こう
   有機機械


何度も何度も地面に這いつくばり

それでもこつこつと僕は足場を築いてきた

少しでも高みに上りたいと階段を積み重ねてきた

やっと眺めが良くなってなんだか気分が高揚してきた

周りのみんなに褒められおだてられやがて自信がついてきた

加速する上昇スピード

そうだ

僕はまだどこまでも行ける

どんっ

そこで君にぶつかった

よろめいて足下を見ると

そこは粗雑に積み上げられた石ころの山

僕は恐怖と絶望に抱かれて笑いながらそこを転げ落ちる

地面に叩きつけられ顔を上げると

僕の築いてきた階段は単なる瓦礫の山となっている

遥か上空で僕を冷ややかに見下ろす君

もっと慎重に階段を築いていたら

君とぶつかってもこんなに無様な姿をさらけ出さなくても済んだのか

それとも君まで辿り着くことすらできなかったのか

それを確かめるための力は僕にはもう・・・ない





エントリ5      大覚アキラ


ねえ 凜
前にも話したかもしれないけれど
きみが生まれる前に
きみのために考えていた名前が
ほんとうは ふたつあったんだよ

どちらかといえば
ぼくはもうひとつの方が
ほんの少しばかり気に入っていたんだけれど
生まれたてのきみが
ふしぎなほど微笑んでいるのを見ていたら
きみには
凜という名前がぴったりだと思ったんだ

九年前
きみが生まれたころには
それなりに個性的だったその名前も
同じ名前の女の子が登場するドラマのおかげで
今ではそれほど
珍しい名前ではなくなってしまったね

だけど 凜
きみのために
ぼくが考えたその名前は
きみだけのものだ
そう たとえ世界中の女の子がみんな
きみと同じ 凜という名前になったとしても
きみの名前だけは特別だ

その名前は
きみの一生を ずっとずっと明るく照らし続け
どんな暗闇の中でも 道に迷うことなく
まっすぐにきみを導いてくれることだろう

きみにその名前を与えたことで
父親としての ぼくの仕事は
もう半分ぐらい終わったような気がするけれど
これから先の
きみと一緒に過ごす時間をかけて
ゆっくりと のこりの半分の仕事を
こなしていこうと思うんだ

だから 凜
きみもゆっくりと
ゆっくりと
大人になっていってくれればいい





エントリ6  君自身   影法師


予期せぬ地震が襲おうとも

残虐なるテロが起ころうとも

あらゆる災害など歯牙にもかけずに

明日という日は必ずやってくる

生者と死者の意識をすべて飲み込み

その感情を置き土産として

今日という日は彼方へと追いやられる


唯一の例外は君自身だ

だから

死んではならない

どんなことがあっても生き続けろ


明日という日は君自身が作り出すものだから







エントリ7  マーキィ・ルゥ発言集   ヨケマキル


マーキィ・ルゥ (1965-1984)
20世紀最高のポップアーティスト
主な代表作:連作「水レンズ双生児」 油彩画「反転の町」
19才の時、自宅バスルームにて心臓発作のため死去
1985年1月1日 遺言によりすべての作品は焼却処分され
その焼却時の煙は彼の最後の作品「厳かなる死臭」となった



マーキィ・ルゥ発言集/ヨケマキル



「死体写真をアートにしたのは ボクが世界で一番最初だ
 でもこんなものはあっという間に古くなる
 何年か後には死体そのものがアートになるんだ」
1984年 10の連作からなる「デスリズム」発表時の
テレビインタビューより抜粋



「表現者なら誰でも自分の作品が正当な評価を受け
 そして注目されたいと思うだろ?
 でもボクのように時代の寵児に祭り上げられて初めてわかるんだ
 人からの評価なんてものはどうでもいいって事が
 大人と子供の関係に似てるかな
 大人には大人の 子供には子供の苦しみがあるんだけど
 その苦しみをお互いが理解しあうのはとても困難な事なんだ
 これからアーティストを目指す人達に言いたい
 人の言葉になんか耳を貸すなって」
彼が卒業した中学校の校舎の壁に描いた巨大な女性器「壁画」が
マスコミに騒がれた1983年7月
アート雑誌「月蝕年」の独占インタビューより



「ボクが作品を作り出した頃は
 自分の作品が例えば歯ブラシのような存在になってくれたらいいなと
 思ってた
 誰もアートと気付かないくらい日常に溶け込んでいて
 ちょっと裏返すと書いてあるんだ
 マーキィ・ルゥ作品No.011って」
1983年10月頃自宅にて 友人に語った録音テープより



「ボクの作品を「あざとい」と言う人がいる
 「人を驚かそうとしているだけだ」って
 そういう人にはこう言ってやるんだ
 「そうだよボクは人を驚かす事が好きなんだ」って
 驚いたのなら素直に「驚いた」って言えばいいじゃないか
 「あざとい」だのなんだのと言うやつはただ悔しいだけなんだ」
1984年初頭ニホン芸術大賞の新人賞にノミネートされるが辞退し
その直後のラジオのインタビューより



「格調高い作品を作っている芸術家連中は
 口をそろえてこう言うんだ
 「マーキィ・ルゥ?あんなものは芸術家でも何でもない
 ただの人騒がせなガキだ」って
 だけど幼稚園児や小学生から見たら
 そういう人達の作品なんかゴミみたいなものなんだ
 彼らは「小学生なんかに私の芸術がわかるものか」って言うだろう
 ボクは言うだろう「あなたになんかボクのゲージュツがわかるものか」
 って」
1984年2月 アート雑誌「月蝕年増刊号」の
マーキィ・ルゥ特集号
「マーキィ・ルゥの創る世界」のインタビュー記事より一部抜粋



「18才の作品とは思えないとか
 あの若さで彼はすごいとか
 年齢の事であれこれ言われるのはうんざりだ
 若者が革命的な作品を作るなんてよくある事だよ
 むしろお年寄りが僕らみたいな作品を作ったら
 それはすごい事じゃないか」
1984年2月ファッション雑誌「ピスミウル」の 特集記事
「若き革命児たち」のインタビュー記事より一部抜粋



「ボクの作品がボクの死後 高値で売買されるなんて
 考えただけでもゾッとする
 後生大事に倉庫に保管なんてのはごめんだ
 風呂場の足ふきマットにでもしてもらえればそれで充分だ 」
1984年11月 死の1週間前 
フランスのローカルテレビの独占インタビューより






エントリ9  お月さま、あかい。    兎六


今日はとっても暑かったから、
ゆっくり起きるお月さま。
お日さまかくれ涼しいうちに、
すこし夕寝をしているの。

今日はとっても暑かったから、
あかいお顔のお月さま。
あんなにお日さまかんかんてっちゃ、
海の底でも日焼けする。

今日はとっても暑かったから、
まだ眠そうなお月さま。
ビルの屋上にけっつまずいて、
ころんだまんま寝ちゃいそう。





エントリ10  夜逍遙    岡崎龍夫


ちと ちと ちと 更ける

ゼラチン質の(ちと、ちと)千歳の夜を
泳ぐ魚の鱗の(きら、きら)煌き 
追いながら歩む(ちか、ちか)近道の帰路
彼方の街の灯明かり燈し火

ぽつ ぽつ ぽつ 零す

砂利路(ぽつ、ぽつ)彷通く独りの影
真夜中静か暗がり(うろ、うろ)狼狽通き
肌に時折雫の(ぽと、ぽと)熱り
彼方の街の灯明かり燈し火

おうちへかえろう

とばりにとけてふかくにごった
あまいふうけいとしたさきのにがみ
月夜にもうすぐ森を抜け
彼方の街の灯明かり燈し火

彼方の街の灯明かり燈し火








エントリ11  金魚屋    ながしろばんり


生きるだけ
生きられればいい
そこがわたしの
寿命だし
金魚屋のおやじは
無表情に
わたしの入った桶を
揺らして歩く

涼やかですか
藻がいい按配ですか
金魚屋のおやじは藻をつまむ前
でっかい鼻くそを
ほじっていましたが
云わなければ
いいことでしょうので
桶にかかった手ぬぐいの模様でも
眺めていることにします

桶が置かれると
みょうな波が立ち
連中は身を竦め
辺りを窺います
キンギョ迷惑なもので
手ぬぐいの無くなった
丸く広がる空を
恨めしく思います

水もぬるみ
ぬるみすぎて
泡を吐けども白く濁る
あとどれくらい生きたなら
気にも留めずに生きられますか

生きるだけ
生きられればいい
そこがわたしの
寿命だし
金魚屋のおやじは
無表情に
夏の路地裏を
歩くだけ





エントリ12  ゆりかごうた    とむOK


わたしがオカアサンをしなきゃいけないとき
あなたはイイコをしなきゃいけなくなってる

わたしが叱る あなたは泣く
最後は二人 怒っている

許してくれるのは いつもあなた
キッチンの隅から 赤い頬のぞかせて

その涙で その笑顔で
「ごめんね」とあなた
「ありがとう」とあなた

あなたを抱きしめたまま 眠くなる布団の中
あなたの小さな生命のリズムが わたしに届く

抱きしめてるのは わたしなのに
包まれてるのは わたし
それは世界で一番やさしい法則

あなたが大きくなり 大切な人を連れてきた時
わたしはきっと伝えよう
あなたが教えてくれたこの法則を
これから育む新しい生命に 届くように





エントリ13  ロープ    空人


僕らはいつも
細いロープの上を 歩いている
たった1本の ロープの上を

時間の速度で進む 歩み
起きているときも 眠っているときも続く歩み
そして 誰もがその上を歩いていることには気づかない
もし 気づくときがあるとすれば
それは 取り返しのつかない事実に出遭ったとき
しかないだろう

曲がり 張り詰め 緩み
ときには信じられない角度で折れ
上り 下り
その先が途切れていることにすら
気づかずに歩いていく人もいる
それも致しかたあるまい
そのロープは 誰も見ることができないのだから

僕らはいつも
細いロープの上を 歩いている
たった1本の ロープの上を






エントリ14      佐藤yuupopic


俺は、
昨今、メガネをかけると鏡の中の自分が
ぞっとする程、死んだじいさんによく似て見える
(似ているのが厭な訳ではなくって、
 死んだじいさんがそこにいるように見えるのが
 ぞっとするのだ。誰だって死人が自分と面と向かって
 立っていたらぞっとするだろう。その度に
 申し訳ないな、じいさん、ごめん、て声に出さず謝る)

新潟から上京してきてデパートの呉服商に配属されたじいさんは
同じ上京組の女子と家庭を築き五年後に独立し、ウエノの町にちっこい商店を構えた。
酒さえ飲まなければ真面目で熱心な商売人(俳句の集まりの二次会で大暴れして北千住の虎箱に収容されたじいさんを、ばあさんと二人で迎えに往ったこともある。そんな具合だから出入り禁止を食らった句会がいくつかあって、商売以外の友達がほとんどいなかった)で植物(幻覚なんかみない方の、)と俳句を愛した。

じいさんが俳句を描く時の名前はシュンテンシ
春の天の子供と描いて、春天子。
(そういやじいさん三月に生まれたんだっけな
 もうこの世界にいないから
 すっかり忘れちまっていたけど)
自分の本当の名前以外に
もういっこ別の名前があるのが
格好好くって
うらやましい、て
思っていた

名前、
そう、
名前、て
云えばさ。
じいさんは俺に、
名前をくれた人だ。

名前。
俺の名前は、
絹。
漢字一文字で、絹。
じいさんは
俺に
着物を織り上げる、
繊細で頑丈な繊維の名前をくれた

小学校低学年の自分、
「キヌだってよ。オンナみたい、それもババァみたいだ」
て、その、名前のせいで
イジメられて泣いて帰ったことがあった。
道すがら
じいさんが悪いんだ
こんな名前
じいさんが悪いんだ
こんな名前
いらない
泣きながら
恨んで
恨んで
恨んで
恨んで、
玄関の上がり口で
ちょうど
集金から
黒い革の鞄を
下げて
戻ったばかりの
じいさんに
鉢合わせて
猛然と
飛びついて
声を
上げて
殴りかかった

そんな
俺を
じいさんは
どうしたと思う?

じいさんは
不器用に
俺を
ぎゅう、と
ぎゅうと、
宝物を
壊さないように
でも
決して
手放さないように
そんな両方の
キモチが籠もったような
腕で、
抱きしめて
こう、
云った

「いのちの強さ美しさ光に男とか女とかなんかない
 区切るものや、隔てるものは
 一切、
 ないんだよ
 絹、
 絹
 地上で一番強く美しいおれが一番愛するものだ
 おまえが生まれた午後、
 白くて柔らかくて美しい光に包まれていた、おまえに
 おれが一番愛するものの
 名前をつけたいと
 思ったんだ
 おれの思いが、おまえをこんなに傷つけて
 本当に
 申し訳なく思っている
 絹
 ごめんよ
 でも、
 どうか、
 いつか、
 その名前が
 おれがおまえを愛している証だと
 おまえはおれの誇りだと
 わかってくれる日が来たら
 うれしいと思う
 絹
 おれはおまえがうんと愛しいよ
 絹、
 絹、
 絹」

それ以来、
俺は
自分の名前を
誇らしく愛しく思えって止まない
俺の名前は
絹。

昨今、メガネをかけると鏡の中の自分が
ぞっとする程、死んだじいさんによく似て見える
俺は、
すっかりじいさんをしのぐような大酒飲みになり
自分は暴れやしないけど、
北千住の虎箱まで
ばあさんと二人で迎えに往った帰り道
三人で一言も交わさずにラーメンすすったことなんて
時折思い出したりして、
あンたの
破滅的な
とこも、
結構キライじゃなかったぜ
なんて
思ったりする