エントリ1 世界 飴子
たんぽぽに乗っかるテントウ虫見て思う
何て小さな世界で生きているの
もっと広い世界を覗いてみたくはないの
晴れた空に乗っかる鳥見て思う
何て小さな世界で生きているの
もっと広い世界を覗いてみたくはないの
月に乗っかる人間見て思う
何て小さな世界で生きているの
もっと広い世界を覗いてみたくはないの
鳥がテントウ虫見て思ったこと
人間が鳥見て思ったこと
神様が人間みて思ったこと
きっと同じこと
エントリ2
こいのぼり 氷雨水樹
黄金週間になると
高速道路にこいのぼりが泳ぐ
最初は不思議だった
緑と白のトッピングが
急に色鮮やかに変わったのだから
ひたすら走り続ける車・車・車
風になびき続けるコイ・鯉・恋
時々、見えなくなることがあるけれど
今年の黄金週間も
また高速道路にこいのぼりが泳ぐのだろうか
また夏に向かって泳ぐのだろうか
作者付記:本当に泳いでるんですよね。
最初は笑いのツボに入りますよ(笑)。
エントリ3 鏡 双
鏡を夜空に向けてみると宇宙を映し出した。
無数の星屑とつきの光がやけにまぶしいな。
今を生きる僕らといくら比べても届きがしないけど譲れない誇りを抱いてたいんだ。
ちっぽけな僕だけど強い思いだけは。
誰にも負けたくないように。
限りなく響くように。
いつだって僕の世界を描いてるんだ。
投げ捨てたガラクタを拾い集めて。
もう一度作り直す僕の旅路。
懸け登った坂道。
立ち止まり深呼吸もたまには必要なんだ。
そう教えてくれた。
息詰まった僕の胸に。
流れ星流れた。
新しい世界が見えた。
きっとまだ始まってはいなかったんだな。
そうだよ。
眼目に願いを。それぞれに抱いて。
エントリ4 帰り道 さつきばらかや
残業帰りふらふらと
家までの道歩いてて
夜桜見物一興と
土手の並木を見上げたら
三日月ぼんやり泣いていた
遠くに宴の声が聞こえる
エントリ5
五月 大覚アキラ
ゼリーのように透明な若い緑と
突き抜けるスカイブルーの
鮮やかなコントラストが
ぼくを憂鬱な気分にさせる
五月
無残に折られた桜の枝にも
健気なまでに生々しい緑が芽吹き
それを食い荒らそうとする毛虫どもが群がり
近くの松の梢にはヒヨドリがその毛虫を狙う
ヒヨドリの囀りに耳を澄ます野良猫
野良猫を狙う空気銃を持った少年
最近の空気銃は至近距離ならば
アルミ缶ぐらいは易々と貫通するらしい
そういう些細な事実が
ぼくをさらに憂鬱な気分にさせる
そして
ぼくはただ為す術もなく
桜と毛虫とヒヨドリと野良猫と少年を
憂鬱な気分で眺めている
五月
エントリ6 やさしさと失望の間(はざま)で 空人
たとえば 師走の街ですれ違った 白髪まじりのサラリーマンとか
ビルの下で肩を寄せ合い 不自然に白い歯を見せあって微笑む 恋人たちとか
ベビーカーに子どもを乗せて 孤独を引きずって歩く 若い女とか
みんな やさしさと失望の間で生きている
僕が雨の深夜に 誰もいない部屋へ帰ってくるころ
となりの家からは 色めく声と 湿った吐息が聞こえてくる
僕が夕飯を レンジで温めているころ
山あいの峠道で 土砂崩れに遭い クルマに閉じ込められた人がいる
僕が熱いシャワーを浴びて うなだれているとき
男たちの劣情を飲み込む女が 首を斜めにかしげて笑う
そして
僕が希望の光を失わないように 目を閉じるとき
悲しみと憎しみに囚われてしまった ひとりの父親が
夢の中で 帰らぬ娘に励まされている
駅前で 愛の存在を歌う少年
何度もおじきを繰り返す 定年を迎えた男
コンビニの駐車場で カップラーメンをすする小学生
あなたには神の力が必要 と迫る女
みんなみんな どうしようもないことを抱えて毎日をやり過ごしている
やさしさと失望の間で
その女の子は 遠く離れた街にいる人へ 想いを噛み締め 電話を切る
その老人は いつまでもひからびた妻の手を握っている
あの鳥は 力の続く限り 南の国をめざす
それなら僕らは いったいどこに向かおうとしているのだろう
僕が目を覚ますとき 汗を拭きながら 階段を駆け下りていく青年がいる
僕が冷たい水で顔を洗うとき シートを倒し 眠りにつくタクシードライバーがいる
そして僕が
北風に温もりを飛ばされてしまった灰色の空の下へ 歩き出すとき
同じ空の下で 誰も味方がいないと
膝を抱える少女が
どこにも歩き出せない自分を もてあましている
見ただけではわからない 人の不幸を
微笑みだけでは隠せない 心の裏側を
誰のせいにもできない 苛立ちを
誰のものでもない その命といっしょに
誰かに見つからないよう
ときどき振り返りながら 闇のなかへ押しやろうとしている
世界の貧しい子どもたち
知らない言葉で訴えかける 家族を失った人たち
不条理な風習に苦しめられる 女たち
そんな事実を知っていたとしても
いま 手に余るほど膨れ上がってしまった「現実」を
こぼれないようにするのが 精いっぱいで
みんな みんな
すぐにやってきてしまう明日へつなぐために
踏み出した足のつま先しか見ることができない
気をつけなければ 忘れてしまいそうな過去と
未来まで 忘れられそうにない過去の間で
時には無垢な動物のように
時にはもの言わぬ植物のように
また
時にはどこまでも漂う塵のように
あこがれと あきらめのようなものを抱きながら
それでも
自らの意思とは関係なく動きつづける心臓に
どこか向かう先があることを気づかされ
驚き 嘆き 見失い
やさしさと失望の間を
行ったり来たりしている
みんなみんな 心のどこかではやさしくて
心のどこかでは冷めていて
ただ
白髪まじりのサラリーマンは 湯船のなかでそっと微笑み
恋人たちはさらけだし
子連れの若い女は 北風に立ち向かい
少年は それでも愛を信じ
定年の男は 陽だまりに憩い
塾通いの小学生は 親の喜ぶ顔を思い浮かべ
化粧をしない女は 神の光に上気し
鳥は
いつまでも
飛びつづける
エントリ7
キオク 青野岬
今も夢に見る
狂おしい記憶
荒野に咲いた
一輪の花
それを守りたくて
ふたり
やせ細った大地に
身を投じた
寂しい心は
寂しい絆を求める
そこから生まれるものを
何と呼べばよかったのだろう
たった一度だけの
狂おしい恋の記憶
愛し合った
魂の記憶
エントリ8 ダンス ぶるぶる☆どっぐちゃん
赤いダンシングシューズ
青いチェックのドレス
作り上げ
踊り子が帰るのを
皆が待っている
光 祈り 光 嘘 命
命 光 祈り 嘘 光
爆発のような眩しい光の中で
踊り子が踊っている
私達はおーいと叫び、手を振り
赤い靴、青いドレスをいっぱいに抱えて
光へ向かって
歩き出す
エントリ9
happy birthday 椿月
僕は生きているはずがない。
だけど、
いつもの朝焼けの色が、僕の心を負かすから。
生きているのかもしれない。
閉じた瞼に、浴びられるだけの赤を浴びる。
太陽からは血の匂いがする。
僕は空想に夢中になる。
今、僕の周りにたむろする朝帰りの、
若者たちの無数の体を、
屠れ。
引き千切るんだ。
そして瞼を開くと、誰も、
いない。
ゆるりと歩き出す僕の、
右足は、欲だらけの赤子を蹴飛ばした、右足。
僕の左足は小さい頃に、
路上でひなたぼっこのカマキリを踏み潰した、
左足。
歩きながら僕は、傷だらけの右手を陽光に透かして、
ひとつ思い出したのは、
この人差し指には蟻の亡霊が、
十数年も、
取り憑いているはずだということ。
君はずっと、
僕のそばにいた。
それで僕は、やっと泣けたんだ。
明日は、僕の誕生日。
エントリ10
エチゼンクラゲ 佐藤yuupopic
呪文
を。
(…………ブツブツブツブツ
…………ブツブツブツブツ
…………ブツブツブツブツ
…………ブツブツブツブツ)
声を。
(…………ブツブツブツブツ
…………ブツブツブツブツ
…………ブツブツブツブツ
…………ブツブツブツブツ)
波間
漂う
半透明の
(かつ、桃色、もっちり巨きな)
身体
の
奥底で
(はじける泡の如く繰り返し
寄せては返す波の如く繰り返し)
聞いたような
気が
したんだ
(産めよ増やせよ
産めよ増やせよ
産めよ増やせよ
産めよ増やせよ)
見えない何かに導かれるように
ひっそりひっそり
海
の
彼方で
誰にも頼まれもしないのに
こっそりこっそり
海
の
彼方で
増えちゃったよ
増えちゃったんだよ。
こんなにたくさん一時に増え過ぎたら困ると
テレビや新聞で騒いでいたのを知っている
無用の長物なんて
かなしいこと云わないで
中華料理に混ざるほかにも
何かのお役に立てるやも知れないし
(「大雪の前触れ」て呼ぶ人たちもいる)
そも役に立たないものにこそ
ロマンや何やかや
あるやも知れないよ
水面から
降りしきる初夏の日差しに
ゆるゆらり
透けて
おんなのこ達が大好きな
レースやら
フリルやら
リボンやら
サッシュやら
みたく
輝くよ
ぷるぷるり
きらきらり
せっかく
こんなにいっぱい増殖したのに
そんなにたくさんは頑張らなかったけど
ソコソコはりきって増殖したのに
無用の長物なんて
かなしいこと云わないで
ちょぴっと
(本当はかなり)
傷ついた
けど
泣いたって
水の中じゃ何がなんだかわかんないから好いや
ステキだね
呪文
を。
(産めよ増やせよ
産めよ増やせよ
産めよ増やせよ
産めよ増やせよ)
声を。
(産めよ増やせよ
産めよ増やせよ
産めよ増やせよ
産めよ増やせよ)
聞いたから
たしかに聞いたから。
ちょっと増えすぎたかな
かなり増えすぎやもしれないね
びっくりさせたとしたら
あやまっておくよ
ごめんね
でも
減らないし
むしろもっと増えるよ
どしどしゆくよ
ごめんね。
エントリ11
ジャガー・ノート ヨケマキル
ポルポトの心臓をオズワルドに移植しろ
<ジャガー・ノート>ヨケマキル
Jug・ger・naut /dgnt|‐g‐/yOKEmAkyLL
第1幕<クリシュナクリシュナハリィクリシュナ>
2千何年かの8月何日かの三行軽罪新聞
東京湾におびただしい黒い血おびただしい血
危機日本キキキキニッポン危機日本
でかい何かに押しつぶされるぞ
下山国鉄総裁みたいにな
浅間山荘みてえにな
何が無駄で何が大切かなんて事は
悪いが俺には判断できない
だから今噛み終えたガムも捨てずにとっておこう
バー「メッカ」の天井裏には死体が隠してあって
その天井のその節目からその死体のその血がポタリポタリ
下で飲んでいた東京帝国大学生のビールのトマトジュース割りに
ポタポタリ
第2幕<この国に生まれたがこの国で死にたくない>
カマキリの手をもぎ取って羽根をねじり取ったトンボにセロテープで貼り付けて
それを議員バッヂにしようぜ
ハゲと眼鏡とおっさんと若造とデブとチビとノッポには投票するな
サダムフセインが法廷に出廷した日
曽我さん一家の再会が決まった日
カストロがフルシチョフに書簡を送った日
ジョンレノンがステージで身障者の物まねをした日
どこかでミルクティーがこぼれどこかで猿がファックする
インターネットってほんとに面白い?
ところで少年の臀部の肉ってレプラに効くんだってね
第3幕<マニラのゴキブリだらけのホテルで死にたい>
血の繋がった人間のまったくいない場所で
真っ赤なソファーか趣味の悪いカーテンがかかっていればなおいい
俺はベッドのふちにもたれ
床に座り
日本製の煙草を吸い(エコーかチェリーだな)
アルコール飲料をやり(緑色の入れ物がいいからハイネケンがいいか)
ちょっとグズグズになりながら
赤いソファーには猫の目を持った細身のおんなのこ
色白で純粋で生まれながらにエロなおんなのこ
「映画になるような人生をおくったかい?」
エコーかチェリーか韓国タバコを吸いながら彼女はそう俺に言い
「俺の人生は映画にはならない」
「じゃあ何か残せた?」
「骨」
「えらかったね えらかったね」
生まれたところから遠く離れたゴキブリの這い回る場末のホテルで
最後の最後に俺は肯定される
追記
今年の21回目の熱帯夜ジェリールイスの水爆で東京は全滅するだろう
誰がなんと言おうと
つづく
エントリ12
flower. ながしろばんり
知らなくていいこともあるだろうよ
あのオレンジの花の名前とか
五月の街中に
燃える五月に
網膜が思い出したようにいう
あんな花なんていままではなかったって
でも、一面に咲いているじゃないか
欲情に似た、猥褻な花
セックスを覚えたのがちょうどこのくらいの季節で
どうしても、あのオレンジの印象にかぶってしまうのだ
めしべにあんなに毛が生えてしまっては
そう想起するしかないだろう?
はなびらが散って、炎は街に燃え移り
一途な獣欲だけが天を突き
世界はどんどん夏に向かう
花は夏には、もう莫いけれど
知らなくていいこともあるだろうよ
あのオレンジの花の名前なんて
五月の街中に放放れる火が
罌粟の花だなんて、別に、特に
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