←前 次→

第11回詩人バトル Entry48

首なし男

起き上がった拍子に
頭だけがゴロンと
床に転げ落ちた

まいった
これじゃあ
顔を洗うこともできない

そう思う俺=頭を残して
体の方は
洗面所へ立って
あるはずの顔を洗っている

とはいっても
頭だけである俺には
転がったまま
自分で向きを変えることもできず
聞こえてくる
体のヤツの足音と
かすかな水音とで
ただ想像をしてみただけだ

体のヤツは
襟元が濡れたパジャマを着替え
ワイシャツを羽織ったり
ネクタイを締めたりしながら
足元おぼつかなく部屋の中を歩き回るから
頭だけの俺は何度も蹴飛ばされて
痛い、痛い

何度も叫ぶのだけれど
耳がない体のヤツには
伝わらない

カバンを取りに部屋へ戻った体のヤツは
襟首に溜まったパンのカケラを畳の上にこぼし
ワイシャツの襟から胸にかけてコーヒーのしみをつけていた
(ああ、お気に入りのシャツだったのに)
そしてまた洗面所に行って
(おそらく)ごていねいに
髪があるはずのあたりにクシを入れると
もう一度頭だけの俺を蹴飛ばし
あわただしい足音と乱暴にドアを閉める音を最後に残した

頭だけの俺は
転がったまま
おとなしく体の帰りを待つことにする
考えたいことはたくさんあるんだ
ただひとつ問題がある
体のやつが帰ってきて
頭の俺を
うまく見つけてくれるといいけれど

←前 次→

QBOOKS