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第14回詩人バトル Entry22

Sound of Sirence

お願いだからどうか
どうか君の横で眠るその人を
起こさないように
声を立てないように

唇に指を当てて
僕は驚いた君を眼で制する
そのまま動かないで
なにもしゃべらないで

消し忘れたテレビの灯りに
映る君の顔を僕は二度と忘れない
だから
お願いだからどうか
声を立てないで
僕はこのまま出て行くから

駐車場に止まる見知らぬ車に
何故僕は気がつかなかったのか
玄関の暗がりで
大きな男物のスニーカーに
つまづいたときに
何故僕はそれを理解できなかったのか

いつものように合鍵を使って
いつものようにそのままあがりこんで
いつものように君を起こさないようにそっと
そっと引き戸を開けて

ベッドの上の君は
いつものパジャマ姿で
いつもの寝ぼけ顔で
たった一つだけ
君の横で眠る僕の知らない若い男
それだけがいつもどおりではなくて

それはありふれた結論かもしれない
いつだってどこでだって誰にだって
やってくる種類の結末だったかもしれない
だからどうか
おねがいだからどうか
このままにしてしまおう
終わってしまおう

唇に当てた指を
ゆっくり左右に振って
君に笑って見せようとして
唇が乾いてしまっている
僕は後ずさりしながら
そっと引き戸を閉めて
静かに靴を履いて
鉄のドアを音を立てないように
そっとそっと閉めて

鍵をかけてから
その合鍵を
ゆっくりと郵便受けに滑り込ませる
小さな音を立てて
それでこの恋はおしまいになった

駐車場から
4階の君の部屋を
もう一度だけ見上げて
車のエンジンをかける

ゆっくりと車を
車道に出してしまってから
僕はタバコに火をつけて
君に貸したままのCDをどうしようかと
なんとなくそんなことを考えて
それから
ほんの少しだけ泣く

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