エントリ1
背骨をなぞる虚像 金河南
乳白色の第一関節が
わたしのために震える 剥がれ落ちてしまわぬようにと
黙秘しつづけた背骨は
夏の残像を曲げ
呼ばれ ひどい錯覚に陥った
振り向くと恋が ぶつかり砕けた
ひどく当たり散らしたため流れはじめた星のきれはしだった
髪の毛は
五線譜のように燃え
過ぎ去ってしまったのだ! いつか
望むようにあたたかく 広い皮膚をあて
しづかに
隆起するひとつ ふたつ いつつを
あの日を締めだしてしまった
あなたのために震える 裂いて暴いてしまわぬようにと
ただ 密かに
エントリ2
モンテスキューの悪夢 ヨケマキル
理性など人に備わった要素の中のひとつに過ぎない
さあ始めるぞ。
お前の「ペルシア人の手紙」がゴミになる瞬間だ
『モンテスキューの悪夢』 ヨケマキル
まずはピクトグラムの世界である
非常口のあのマークに囲まれて
私たちはただ逃げママドウうだけなのである
法は人間のために作られて
人間は罪が大好きであるからして
今日も誰かが裁かれているのです
死刑になりたくて人を殺しましたー
という人類が実際に地球上に出現して以来
過去の哲学者の言葉やアレなどは
すべてがアホのたわごととなりました
そして私はとても嬉しゅうございました
(ブドウ酒、養命酒、美味しゅうございました)
まぶしきネオンサインンンの中
夥しきおよび正しき放射線の下
間違えまくりまくりし宗教の元
ましてや国家などというぼんやりとしたモノなど
なんの意味も持たずしてからに
かくして我々は進化退化していくのでしょう
まさに「死にまれる」というやつ
いや、そうであろう
日本零年到来し
奴隷制度の復活
差別差別差別
ドイツだのフランスだのはなくなる
美しい未来の夢なんか間違っても見るなよ
じきに幽霊が来る
じきに幽霊が来る
おぼえておけ
シャルルルルルルルル・ド・モンテスキューに告ぐ
ヨケマキルの「あいなきせかい」を読むといい
そこにすべて書いてある
すべて
これは詩ではない
予言である
エントリ3
薄日 凛々椿
薄日
午前と午後のはざま
直径8mmの無数の穴から私は
偽物かもしれない平穏を覗き見ている
こんど メールを送ります
そういっていなくなってしまった人たちや
畳に敷かれた二枚のお布団のことや
まぶしいひかりの繁華街のこと
夜の坂道のこと
時速100kmの中のぬくもりのことなどを
思い出している
近くて
遠いものを
8mmの無数の穴で覗き見ながら
つめたい風で心をひやして
少しの陽光で心をあたためて
さようならの人たちに
ありがとう
またね
と
エントリ4
まちがいさがし 待子あかね
きみはとってもすてきだから
もっと わらっていなきゃいけないよ
きみはとってもすてきだから
もっと 美味しそうに飲まなきゃいけないよ
まちがってないよね なんにも
ぼくといるとたのしいだろ
突出したピースに怪我をするように
ぼくといるとたのしいだろ
見失ったピースがどこからともなく
転がり込んでくるように
昨日と今日はちがうんだ
昨日が正しくて 今日はまちがい
そんなことではないけれど
そんなことではないけれど
去年と今年はちがうんだ
十年前と今年はちがうんだ
魅力的でなくなったというわけではないけれど
いまでもすてきなその声は変わらないけれど
まちがいはどこにある
どこにもない
どこにでもある
どこにもない
すてきなきみの まちがいさがし
エントリ5
ささやき 石川順一
早朝に私にだけ取ってほしい
帽子がすがすがしく輝く
鉄線を撮影して居ると
居酒屋にまで入り込む
魂がぼぼの日の
ケーキの事で文句があるらしく
扉が開いて
水槽の金魚に
文句をささやいていた
エントリ6
脳が脳に脳と サヌキマオ
河童の皮を被って
押し寄せる蟹どもを叩き潰す旅に出る
イナワシロの河童の皮が一番良かったんですがねぇ、
ずいぶんといなくなってしまいましてねぇ、と、
脳に脳に脳が
脳と脳に脳が
ぼやいている
呟いているのを
見たような
感じたような
わからないのです
脳ですから
見たものを判断することしか出来んのです。
入ってきた水を
あちこちの穴を選んで
垂れ流すしか出来んのです
河童の皮は生硬く
脳である脳は
いたく傷つきました
とても痛々しくいた板抱きました
必死に溺れぬよう
板頂いた気でしたが
そのままつるぬると
イナワシロの湖に落っこちで
じゅっといいました
じゅっといいました
脳が脳に脳と
脳で脳が脳に
痛くもなく
辛くもなく
じゅっ、と。
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