エントリ1
春韻 凛々椿
みぞれ ゆき はれ みぞれ ゆき
ねえ
殺して よ
きっと気持ち良くて
笑ってしまう
わ
ひらり ひら り
には
まだ早く
濃色花蕾累々と
香り温くも木洩れ日なく
淡色花冠
点々
と
過ぎましたのに
終雪も過ぎましたのに
名残惜しく春雪舞い積み 薄く
仔猫の死に背に憑き食みました が
緑翠の眼
潤み
伏せゆくことなく
啼きました
ここに在りここに無い
にくしみと
あい 不条理の
めざめ
負を満たし
喉を引き千切り赤を掻き抱き
花は
咲きますか?
(大人も子供も)けだもの
はれ みぞれ ゆき みぞ れ 戻れる 戻れない
戻れる
戻れない 戻れる
戻
ひらり
ひら り にはまだ
早く
香り温くも木洩れ日なく
花蕾累々
花冠点在
か暗き無垢に微睡むは訃韻
白いろの膚に
母の散る
坩堝に囚われし或る日のくすり指
切り戻せぬ別離
を
容易く
贖えるなら
贖えるのならば
今更
だれも
泣きなどしないのでしょう
ね
エントリ2
猫のいる部屋 大覚アキラ
わた し は ねこ だ
な まえは ま だ ない
殺伐とした空気が支配する部屋で、
きみは子猫に名前を付けようとしている。
子猫が産まれてからもう三日が経った。
わた し の ほかに も きょうだいが
い た は ずだが き がつくと
わ たしひと り に なってい た
四匹産まれたが、産み落とされた時すでに一匹は死んでいて、
その日の夜に二匹目が死に、翌日の昼に三匹目が死んだ。
にんげ ん が のぞ きこ んでいる
わたし は ねむ ってい るが
そ の けはい をかんじるこ とは で きる
残った最後の一匹が
タオルを敷いたダンボールの隅で、
丸くなって眠るのを眺めながら
きみはずっと、その子猫の名前を考え続けている。
に んげ ん は すこ し ほほえ んで い る
その りゆ うは わか ら ない
母猫は二日目の朝に出ていったままだ。
たぶん、もう帰ってこない。そんな確信がある。
ここ は あ たた かい
そして さつばつ と し ている
どのみち、明日にはおれたちも
この部屋を出ていかなくてはならない。
子猫の名前よりも、
明日の夜をどこでどうすごすかを決めるのが先だ。
わ たし は ねむ りにおち ていく
この ま ま めざめな い か もしれ ない
なのに、そんなことはお構いなしに
この殺伐とした空気が支配する部屋で、
きみはずっと、子猫の名前を考え続けている。
わた し は ねこ だ
な まえは ま だ ない
エントリ3
ビッグベン 石川順一
ビッグベンは本を読んで居る
腰が重圧を甘受して居る
一撃を食らわして去って行く
ヒットアンドアウェーの小動物の逃げ去りを
目で追って居た様な気がする
カラオケの間は忘れて居た
腰の重さを今甘受して居る
ビッグベンは水を掛けられて
去って行った小動物が
今歯痛に苦しんで居るのを気にしながら
牛乳を飲んだら
即アウトだろうかと
カラオケの間中忘れて居たのを後悔して居る
4月と6日がばらばらにやって来る様に
ビッグベンは本を読んで居る
エントリ4
しずく 待子あかね
水たまりに消える
手の中にあった筈
しずくは 消える
手の中から
水たまりに残る
手の中から先へ
しずくは 残る
手の中から
みせてあげよう
きえないように
そっと そっと
ゆめへとつづく
ゆめへとつづけ
しあわせなゆめへ
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