エントリ1
煙 植木
乙姫から
決して開けてはなりませぬ
と云われた玉手箱を前にして
悄然と浜に座り込む
真夜中の海岸には
人っ子一人いない
上着のポケットを探り煙草を取り出すと
この三日間が夢ではなかったのだ
と云う気持ちが改めて沸々と湧いてくる
煙草の箱には金色の亀の図柄
と「しんかい」の文字が印字されていた
最後の一本に火を点け
静かに深く吸い込んだ
真っ暗な海に波の音だけがごうごうと響く
焦点の定まらない闇の中に乙姫の幻を見た
闇の中からの鯛や平目の囃子声
俺は波打ち際に立ち
玉手箱の紐を解く
決着、決着、決着、決着、決着、決着!!
刹那
赤裸の子となり
乙姫に抱かれて
漆黒の海へゆっくりと引き込まれていく。
エントリ2
濃い茶 石川順一
無く成って居た
体操服が戻って来ると
ネームの部分が刳り抜かれ
火傷をしそうな程に
温度が上昇して居た為に
素手で触れなかった
唾を吐くと体罰が休みに成り
倉が増えて行き
体操服が戻って来た
因果で測れぬ超越的な原因で
戻って来る体操服
釜の入れ物に指が触れると
ルイの女がスピーカーで歌って居るのが
流れて来る
「なくなっていた」体操服の物語を
語る為に
私は濃い茶を啜ろう
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