Entry No. | 作者 | 題名 |
---|---|---|
1 | 下圭 | 蝿 |
2 | 月明かり | ウタヲウタオウ |
3 | 五月原華弥 | 固く固く閉じてしまった涙腺 |
4 | 有機機械 | 無我 |
5 | 東郷 | 窓。 |
6 | SS | 銃 |
7 | 清田拓郎 | 『平和』というパズル |
8 | (作者の要望により掲載終了しました) | |
9 | 南 寛子 | 無題 |
10 | 花 | 水と泡 |
11 | 3カウント | あたりまえ |
12 | さゆり | あこがれ |
13 | 佐藤yuupopic | 改札口 |
14 | 棗樹 | 真冬の花 |
15 | クマクマ | 芸術家 |
16 | 今井将 | 冬 |
17 | 道人 | 螢 |
18 | 森のクマさん | 。 |
19 | 七威 | 蒼い夜明け前 |
20 | 風早瑞樹 | 切望 |
21 | 麻葉 | 嘘ばっか |
22 | 芽萌里 | 夜の公園 |
23 | 華月 | いつか |
24 | 橘内 潤 | 『召しませドーナツ』 |
25 | 木葉一刀(コバカズト) | 純愛と犯罪の狭間に |
26 | 瑞松花 | エンドルフィン |
27 | フォニックス | 無色透明の冬景色 |
28 | 日向さち | 溝の中身 |
29 | ctt | 歌声 |
30 | 仲川苓斗 | 通じ合えなかった祖母へ |
31 | 植木 | 喪失 |
32 | 空人 | 更地 |
33 | 小松知世 | 言葉 |
34 | ぶるぶる☆どっぐちゃん | ホザンナ |
35 | 神風夜月 | 私にとって神という存在のコト。 |
Entry1
蝿
下圭
行数(文字数)
まさか蝿が僕らを喰うなんて
そんな私、今蝿に体半分飲み込まれて
必死でこれを書いている次第です
まさか蝿が僕らを喰うなんて
そんな私、今外界にいるのは私の利き腕一本です
−良い右手−
まさか蝿が僕らを喰うなんて
でもいいんです 私はこれを認めます
ツケが回ってきたんでしょう
いつも丸めた新聞紙で
解決する訳じゃないんですから
Entry2
ウタヲウタオウ
月明かり
行数(文字数)30
生きるとはなんだ。
人生とはなんだ。
誰か教えてくれ。
ああ、私には分からない。
この事を考え始めたのが15の時。
そして、もうすぐ28。
ああ、分からない。
全く持って分からないのだ。
私はあの頃と何も変わっていない。
いや変わったことにも気づかないくらい、ひどく変わってしまったのか。
ああ、なんだかどこかで聞いたような台詞。
こんな言葉ばかり並べて作品と呼べるのか。
人の心に安らぎを。
悲しい人に笑顔を。
苦しい人には勇気を。
そんな大それたこと私に出来るのだろか?
私はそんなに偉い人ではないんだ。
でもやはりこっそりと思ってしまうのです。
みんなを幸せな気持ちにしてあげたい。
そしたらきっと私も幸せになれるから。
だから、そう。
そんな詩(うた)描けるようになるまでは。。。
Entry3
固く固く閉じてしまった涙腺
五月原華弥
行数(文字数)22
泣きたいのに
涙腺が固く固く
閉じてしまっていて
涙は零れてくれない
どんなに心で思っても
声に出せば
自分が悪者だと
決めてしまいそうで
思いはぐるぐると
頭の中を回るだけ
誰かを好きになって
涙を零したいと思ったのは
初めてなのに
今まで我慢し続けて
固く固く
閉じてしまった涙腺は
緩んではくれず
思いだけが
まだここに
寒いよ…
抱きしめて
涙腺を緩めさせて
Entry4
無我
有機機械
行数(文字数)30
頭が痛い
頭が痛い
頭が痛い
ふとんの中で3回唱える
頭が痛い
頭が痛い
頭が痛い
天井を見つめながら3回唱える
頭が痛い
脈打つ血管
でも本当は「痛み」なんてものは存在しない
そう本当はそこにあるのはニューロンを走る電流
そう本当はそこにあるのはシナプスを繋ぐ化学物質
「痛み」なんて誰も触ったことがないし見たこともない
「僕」が勝手に「痛み」というパターンの信号をつくり認識しているだけ
「痛み」なんてどこにもない
「痛み」なんてどこにもない
「痛み」なんてどこにもない
ただの回路になる「僕」
消えてゆく「痛み」
そしてそのつくり認識する「僕」もただの電流と化学物質のパターン
「僕」なんてどこにもない
「僕」なんてどこにもない
「僕」なんてどこにもない
ただの回路になる肉の塊
消えてゆく「僕」
そうかこれが無我の境地か
ZZZZZ
あーよく寝た
飯でも食おう
Entry5
窓。
東郷
行数(文字数)44
髪の毛を大事そうに
ティッシュの上に、置いていた
あの窓際の女の人は
薬で体を、動かしているそうです。
「療養病棟は
病院で治療のすんだ人と
もう
治療の術のない人が来るのよ。」
シャンプーの香りがして
窓際の女の人は
娘さんらしき人に
髪の毛を、洗われていたの。
「お見舞いに来てももう、
目の焦点も、合わないんですって。」
髪の毛がたくさん抜けていた。
看護婦さんは、「痛いけど我慢してね。」って
注射をして
女の人がもがくのを私は見たの。
痛そうにうなるのを、私は聞いたの。
娘さんは静かに髪を洗って
抜けた毛を大事そうに
ティッシュの上に置いて
一度もこっちを見なかった。
窓から外だけを眺めてた。
「もうすぐ退院出来そうです。」
医者の声が聞こえる。
シャンプーの香りは部屋中に染み渡って
「病院にいるとね
一人の人間の生き様が
痛いほど、伝わってくるよ。」って
誰かが、言ってたけど
Entry6
銃
SS
行数(文字数)12
初めての事だ
月に照らされて
夜が笑うなんて
静寂の隙間を
音で埋めようとする
もうとっくに乾いた僕の眼が
嘘みたいに闇を呼ぶ
明日が今日に銃を向ける
Entry7
『平和』というパズル
清田拓郎
行数(文字数)9
ひとりひとりの意識が変われば、この世界はもっとよくなる…僕はそう信じている
Entry9
無題
南 寛子
行数(文字数)12行
ずっと前を向いて歩いてきた
ただ前を、その先にある何かを目指して
空の青さや 道端に咲く花の愛しさ
吹き抜ける風の優しさ
景色を濡らす雨の悲しさにも気づかずに
ただひたすら___
それは それは 果てしなく遠く
歩けば歩くほど遠ざかっていった
途方に暮れて ふと立ち止まる
ほんの些細なことが____
___空や 風や 雨が
なんでこんなにも 胸を締め付けるのだろう
Entry10
水と泡
花
行数(文字数)159
台所のシンクに溜まってゆく水を見る
ゴボゴボごぼごぼ
食器用洗剤とまざって泡立つ
脱衣所の洗濯層に溜まってゆく水を見る
ゴボゴボごぼごぼ
洗濯用洗剤とまざって泡立つ
水の落ちる力でどんどん泡立つ泡と
トウメイな水
汚れてもいない食器と
汚れてもいない洗濯物
その光景を見たいがために
何度でも洗う
そうだ
今日は泡風呂にしようよ
ねぇそうしよう
Entry11
あたりまえ
3カウント
行数(文字数)15
この世界のはじまりを
僕はしらない
自分のはじまりでさえも
憶えてはいない
生まれたものは
いつか終わりゆく
そして消えていく
でも
僕は生きているから
昨日も今日も明日も
ずっと続いている
それだけ
Entry12
あこがれ
さゆり
行数(文字数)25行
耳の上で
ふたつに結んだ髪型が
好きだったな
黄色の髪飾り
色の白いあなたに似合ってた
パンを食べるときに
セロファンを綺麗に剥がして
ひろげて食べたでしょ
私はあのとき
あなたの指先をみていたんだ
映画館で
かばんの上に両手を組んで
画面に魅入っていたけど
私はあのとき
あなたの横顔をみていたんだ
誕生日がおんなじ
女の子はそんな偶然を理由に
親しくなる
ずっと仲良くしてもらって
嬉しかった
あなたの明るい笑顔
真似したいと思ってた
あなたは知らないだろうな
私がずっと
あなたにあこがれていたこと
Entry13
改札口
佐藤yuupopic
行数(文字数)60行
Tさんが来ると云うので、水炊きでもしようと
新聞紙にくるんだ土鍋を出して
それから
改札口まで迎えに行った
私が、台所に立っている間、
Tさんはすることもなく
テレビもレコードも、荷解き前の
しん、と静かな午後に
水をひたひた、春菊、
じゃくん、じゃくん、と刻む音だけ響いて
鍋を囲めばなおさら、口数少なく
湯気をかきわけ
ただ、宮崎地鶏をつつくほかなし
私が、お皿を洗っている間、
Tさんは
洗濯機のホースのゆるみを直し
サッシに油を点し
それから、なおも口数少なく
縁側に並んで
麩饅頭をいただきながら
あまく薫る、静岡茶を飲んだ
夕方になって、
Tさんがそろそろ帰ると云うので
今度はアパートから駅まで、先刻来た道を
Tさんは
切符と一緒に
改札口に、吸い込まれていく
一度、振り返って、もう一度振り返って手を、ひらひら
三度目は、もう振り返らない
ホームの柱と、夕陽の陰になって
もう見えない
次の約束もせず
私たちは二度と一緒に住むことはないのだと
胃の上の辺り
ぎゅうう、と
初めて逢った時みたい
に、なって
痛い、
塩っからい、
苦い、
熱い、
何かが、ぽたん、
と手の甲に落ちて、ああ、
「おかえりなさい」、て云いたい
自分から手、離したくせに、今更
どうかしている、と
電車はTさんを乗せて
がった、ごっと、しゅう ごーう
小さくなって、
消えた
Entry14
真冬の花
棗樹
行数(文字数)9行
粉雪が彼女の頬を叩いて逃げる
風が僕らを突き抜けていく
神経質な梢が聞き耳をたて
凍てついたベンチがため息をつく
冬枯れの公園で睨み合うこと、2時間
(負けたのは、僕だ!)
愛してる、と言ったら
彼女は僕を三度ぶって
花のように笑った
Entry15
芸術家
クマクマ
行数(文字数)29
私はよく、考える。
「私は何の為に生まれて、何の為に生きてゆくのか」
自問しながらも、答えはなかなか見つからない。生まれてきて、生きて、ただ死んでいくだけ…。ただ、それだけ…。
ただ、それだけなのだ。
そんな人生の中で、私に出来る事は何なのか?私がしたい事は、何なのか?私は考えた。考えて、考えて、やっと答えが見つかった。
「私は自分が生きた、証が欲しい」
自分の子孫を残したいとか、そういう事ではなく、私自身が見てきた、感じてきた「証」を残したいんだ、と。
人生は、寂しい、辛い、悲しい、けれど、楽しい、ワクワクする、幸せだ。その思いを、その気持ちを、残したいと思った。
写真やビデオに撮って記録するのじゃなく、絵に描いて、色や線に、私の思いや感情を表現出来たら…。
この世はとても美しすぎて、儚すぎて、言葉だけでは表現しきれない。私の目線で感じたこの世界を、今の時代を、残したいと思った。
そして私の描いた絵を見た人が、何を感じてくれるか、それが私の楽しみでもあり、快感でもあるのだ。
人それぞれ生き方が違う。見方も違う。それぞれが違うからこそ、想像して欲しいのだ。私が何を思って、何を感じてこの絵を描いたのか。
想像する事は、素晴らしい事。
幼かった頃の豊かな想像力は、歳を重ねるごとに現実と言う社会に埋もれてしまう。
埋もれてしまっては、空さえ自由に飛べなくなる。
想像してごらん。人間だって、空が飛べるから。行きたいところに、いつでも行けるから。
私の絵を見て。
想像してごらん。貴方の目線で、私の世界を…。私の思いを…。
Entry16
冬
今井将
行数(文字数)30
排泄物のように汚い喜びがブラブラと、足下で揺れている。
自分の背中に幸せを探しながら、意識はチクハグになってゆく。
誰にも見えない言葉が欲しいとか思いながら。
日々に溶け込めない。
*
世界中が表面を削った貝のようにギラギラしている。
世界は本当にこんなだったか思い出そうとする。
その後にいつも転ぶ。
*
あらゆる境界線は全て曖昧に隔たっていて、
僕らはその間を渡っているだけに過ぎないのだったら。
ああ、慰めにもならない。
*
考える事が残らない星空を眺めたい。
物事の積み重ねくらいでは天国に行けないのだから。
*
過去の出来事を反芻する事でしか、今の感情も分からない。
*
心を瞑ってしまいたい。
Entry17
螢
道人
行数(文字数)16
儚き曲線
闇の傷口
わずかな時の命の燃ゆる
螢の川に胸焦がす
浴衣の君の惑わしき
白い首筋触れたなら
朝つゆの如き涙のつたう
柔らかき頬のいとしさよ
螢火一つ浴衣の帯に
僕はそっと捕まえた
指の間からこぼれ出る
螢の行く末知りたくも
二人の思いは
闇に消え散る
Entry18
。
森のクマさん
行数(文字数)11
私の息が白いのは、私が寂しいからなのか・・・?
私の頬が赤いのは、真冬の寒さのせいなのか・・・?
それならば私の眼から溢れる涙は、きっと私が悔しいからなのだろう。
一人の悩み、独りの孤独、一人の怒り、独りの悲しみ。私だけが背負っている私だけの痛み。きっと誰にも解らない私だけの感情。
悔し涙に目を赤らめ、孤独の寒さに身を縮める。時計の音だけが闇の中で響き渡り、秒針の音だけが耳に刻まれる。
苦悩、絶望、期待に不安。これらの感情は、私の体で血液が巡るように、私の身体を駆け巡り、私は涙を絞り出す。
誰にも助けてもらえない。帰る場所など何処にもない。
独りよがりに明け暮れて、十分、二十分、三十分と、独りよがりの涙を流す。
一時間、二時間、三時間が経ち、涙も悲しみも悔しささえも涸れ果てた頃、窓から覗く太陽だけがいつもと変わらず暖かかった。
Entry19
蒼い夜明け前
七威
行数(文字数)32
真夜中に飲み干してみる不安
真昼に人ゴミので感じる孤独
そして一人
夜が明ける前
誰もいない
住宅街の坂道
コートを着て
白い息を吐きながら
駆けるように坂を下る
いつもと何か違う
違う何かが起きそうな気がして
世界は蒼い
まだ暗く蒼い
騒音すら感じず
街を見渡せる坂道
信号機だけが点滅している
人も車もいない
急いで駆けるサラリーマンも
登校する子供たちも
白い息を吐きながら
いつもの坂道をいつものように駆け下る
でも
何か違うような気がして
何か嬉しかった
Entry20
切望
風早瑞樹
行数(文字数)16
闇夜に月がそっと明かりを添えて
声にならぬ想いは蒼穹に喘ぎ
ちりばめられた星々の海に沈む
天使のささやきは濃霧に染められて
深緑の樹々は冷たい風に啼く
密生した下生えはさざなみを奏で
銀の横笛を吹く詩人の涙は
貴方の吐息には届かない
断崖に打ちつける波濤のざわめきが
涙の海を渡る一羽の鳥をおびやかし
紫色の羽根は舞い落ちて
遥かな追憶は水平線の闇の向こう
時を翔けて青い薔薇は散り
貴方の過去と交差して血を流す
雨の降りしきる中で時は止まり
切望は叶わぬまま永遠へ刻まれる
Entry21
嘘ばっか
麻葉
行数(文字数)25
ほほえんでみた きみわらった
あいさつしてみた きみてれた
あめあげた きみたべた
おさけのんだ きみよった
たちあがろうとした きみてをつかんだ
となりにすわった きみかただいた
てれかくしでうつむいた きみあたまをなでた
かたまっていた きみすきだといった
すべてほんとうなのに
はっきりとはだれにもいえなくて
すべてゆめだったらと
おもうけどそれはすこしかなしくて
ねいき ひかるかみ じゅぎょうちゅうだけのめがね
やさしかったあのよる たのしかったあのよる
がっこうはうそ
がっこうがにせもの
おさけのませて
きみものんで
またあのひのように
そうすれば
きっとすなおなぼくと ほんとうのきみ
Entry22
夜の公園
芽萌里
行数(文字数)21
町外れの公園の
誰も乗っていないブランコが
キィっと音をたてた
夜の公園は
言い表せないくらい孤独で
喩えようがないくらい静かで
やけに一人を感じさせる
だけど今日は入り口近いベンチに男が一人
酔いつぶれたその口で
妻に子供に言えない愚痴を並べてる
僕もいつかこうなるのかな?
夢を忘れて ただ忙しさの波をゆく…
知らないうちに涙がこぼれた
夜の公園はゆっくり朝へと進み始め
静かな公園に男と二人
ただ夜が終わるのを見ていた
男は立場と責任を
僕は希望と夢のかけらを
鞄に詰めて公園をでる
鞄にしのばせたひとかけら
男はいつか気付くだろうか
Entry23
いつか
華月
行数(文字数)7
遠くに行く君
離れて行く君
決して止めはしない
決して追いかけはしない
けど忘れない
たとえどれだけの
時が経っても
Entry24
『召しませドーナツ』
橘内 潤
行数(文字数)20
いつしか この通りはドーナツ屋さんでうめつくされてて
僕らは シュガーシロップたっぷりの 甘いドーナツが大好きで
毎日食べてて しあわせだった
けど
ドーナツは もう 飽きてしまって
もう 甘すぎて 食べれなくって
それでも この通りはドーナツ屋さんでうめつくされてて
だから 僕らは
甘すぎるドーナツに たっぷりのトウバンジャンをかけて食べてる
Entry25
純愛と犯罪の狭間に
木葉一刀(コバカズト)
行数(文字数)36
その長い髪に触れたくて
今日も僕は乗るべき車両の一番前へ
一番後ろの階段から歩く
あの日この電車で偶然君と出会い
いつしか同じ時を過ごすようになり
幸せだった日々を僕は
たった一言で壊し
君を傷つけて
今も尚
この電車
遥か後方から
今日こそ居るかもしれない君の姿を
求め
歩き
ただ一言謝りたくて
あの日の一言を
君をただ求め歩き
その長い髪に触れたくて
今日も僕は
一つ
一つ
車両を
開いているドア越し
窓越しに覗きこみながら
歩く
今日も歩く
純愛と云う僕の気持ちは
自分で思うほど紙一重のところにあり
愛しているけど
諦めていると自分に言い聞かせながら
一言の言うだけの為に君を捜し求め
その後のことは何も考えず
今日もまた一番前の車両へと辿り着く
Entry26
エンドルフィン
瑞松花
行数(文字数)10
「エンドルフィンが止まらなさ過ぎて 走るのが止められない。」
夢見る子供じゃ無かったから まだ夢を観ていたい。
優しい悪魔 お願いよ。
私の願いは 一つだけ
現実感を伴った現実逃避 常にください。
「ああ、でも瞳を開けたなら 足元の花が枯れていた。」
Entry27
無色透明の冬景色
フォニックス
行数(文字数)241
ワッフルコーンが口腔粘膜に突き刺さり
ヴァニラの上を血が滑る
クルクルと回る、赤と白のストライプに魅入られて
僕は呆然として痛みを忘れた
彼女はそ知らぬ顔で「ゆきみだいふく」をほおばって
けげんな目つきで「ヴォーグ」をめくる
まるで周りの世界が、全て青色で染まっているかのような無関心
暖房が必要なのはわかっていた
外は無色透明の冬景色だ
真っ赤よりも強すぎず、真っ白よりも弱すぎない
暖色系の色が必要だ
明日も黄色い太陽が昇るはずなのに
ここだけが、僕らのいるこの部屋だけが
黒く塗りつぶされようとしていた
Entry28
溝の中身
日向さち
行数(文字数)20
深い溝を覆うコンクリートの中は
色とりどりの眼をした蝿の群れと
若い緑を飲み込んだ黴の舞踏
溝に躓いた足が抜けないと思ったら
がっちりと握られていた
こいつは誰だ
古くてお堅い人事部長か
嫌味なお局OLか
体罰教師なのかもしれない
みな複雑に絡み合っている
天も地も 東も西も
判別できないほどに交錯して
バランスを失っている
傍らには彼がいて
私の頭をきつく抱きしめる
彼の口から泣くなという声を聞いて
私は今が今だと知る
Entry29
歌声
ctt
行数(文字数)18
あれは君の歌声
僕に響くその声
夜明けの夢に残る断片
かなえられない明日の残像
求め続ける日々の記憶
誰とも交わせなかった約束も
ゆらゆらと動く軌道の上で
積み重ねる今を
残しても壊してもそこに意味はなく
強く抱きしめれば崩れるだけで
僕が聞く君の歌声
幸せも安らぎも指し示すことはなく
ただ耳を離れない
今も
Entry30
通じ合えなかった祖母へ
仲川苓斗
行数(文字数)56
見残したビデオがあったから、
なんとなく再生ボタンを押してみた。
まだ、さり気なさを狙った笑いが面白いと感じられた。
時折必死な眼で踏ん張る芸人を、
頬を緩めて笑ってもいいと思った。
頬を緩めて笑っても、わたしの感情は変わらないと思った。
やり残した宿題があったから、
なんとなくエンピツを手にしてみた。
まだ、先生の呆れ顔を見るのが恐いと感じられた。
成績を見放すのは勲章じゃないから、
数字に気を取られてもいいと思った。
数字に気を取られても、わたしの感情は変わらないと思った。
読み残した本があったから、
なんとなくしおりを辿ってみた。
まだ、先の見えない話の続きが待ち遠しいと感じられた。
気になり出せば手を付けられないから、
すばやく文字を追ってもいいと思った。
すばやく文字を追っても、わたしの感情は変わらないと思った。
通じ合えなかった祖母へ。
伝え損ねてごめんなさい。
幼い頃にあなたに通った言葉たちが、
いくつもの次元に連れ去られた彼らが、
ぽつぽつとわたしに戻りはじめています。
まだ未熟でも、少しばかりあなたと話せたでしょうか。
でもね、
響きを忘れさせた、時は長すぎ
風が届かない、距離は遠すぎ
紙の上で隠れた、文字の数も多すぎた。
失われた接点は繋がらない。
突然の悲報に、わたしの感情は
無知に
無常に 白いままです。
ごめんなさい。
あなたは今も、通じ合えなかった祖母。
ただ、
初めて聞くあなたの思い出は嬉しい。
あなたは、これからわたしが近付く わたしの祖母。
いつもの日常に追われても、わたしの感情は変えないと誓う。
Entry31
喪失
植木
行数(文字数)26
当面することが無い俺達は
頭の包帯を新しいものに替え
日当たりの良いベンチを探しながら
公園の中を首輪の無い犬の様に歩く
親父が一切の記憶を失った事と
俺がいざこざから職を失った事は
互いに関係が無いとは言え
どちらも晩秋の頃に起こった話だ
歩きながら俺は親父にせがまれて
したくもない昔話を語って聞かせる
せっかちな性分のせいか冷たい風のせいか
俺達はだんだんと早足になっていく
親父は盛んに頷きながら俺の話を聞いてはいるが
大部分が嘘だって事に薄々気付き始めている
俺達は互いの顔に冷たい息を吹きかけながら
そう在りたかった俺達の昔話を繰り返す
冷たい季節が御似合いな俺達は
足早にベンチの横を通り過ぎて行く
Entry32
更地
空人
行数(文字数)17
住みなれた町の一角が
更地になっていた
近くの公園で 錆びたブランコに揺られながら
昨日まであったはずの 建物を 思い出してみた
酒屋 タバコ屋 民家
ただの 古ぼけた 倉庫
うす曇の下 昨日まであったはずの 建物は
とうとう思い出せなかった
建物が死んで 更地になる そして 思い出しても もらえない
住みなれた町でも 見ているようで 見ていない
憶えているようで 憶えていない
ヒトが死んでも そうやって いつかは忘れられていくのかな
忘れられていくのかな
Entry33
言葉
小松知世
行数(文字数)9
言葉は
風にならず
光にならず
ただ発せられるがままに
書き綴られるがままに
その跡を残しては私から離れていく
私の中にある様々な感情や思念を
あなたに伝えられるという
僅かな奇跡を起こしながら
Entry34
ホザンナ
ぶるぶる☆どっぐちゃん
行数(文字数)40行
何処までも繋がっていく道
砂漠
反射を行う鏡
排気ガスを出す車
排気ガスを出さない車
それらの頭上で十字架が
世界を四等分にしている
88鍵のピアノ
24フレットのギター
それらの頭上で十字架が
世界を四等分にしている
神父の机から落ちた聖書が
床を砕いた
人々が飢えている
という夢にうなされる
好きなバンドが解散する
好きなバンドが再結成する
それらの頭上で十字架が
世界を四等分にしている
教会はもう十字架のことなど思い出せはしないのに
それらの頭上で十字架が
世界を四等分にしている
お姫様は結局狂い
馬とセックスをした
産まれてきた優しい目をした双子は
足が速かった
二人は手を取り合い太陽に向かって
影よりも早く駆けていく
その後ろ姿をお姫様は
呆けた笑顔で見送った
Entry35
私にとって神という存在のコト。
神風夜月
行数(文字数)231
小さな小さな子供の頃
サンタクロースを信じてた頃
大きな白い翼があったらどんなにいいかと
昔の私はただ笑った
ピッカピカの制服着て春を迎えた頃
辛いことがあって
死んだほうが楽で
毎日毎日祈った
アノヒト ヲ コロシテ クダサイ ト
あまりの憎悪に壊れてしまいそうになるほど
毎日毎日涙をたくさん流しながら
アノヒト ヲ コロシテ クレルナラ ト
毎晩毎晩神に祈った
そして大人になって
神という存在の夢物語は成立しないのだと
誰もが行き着く真実を知った