エントリ1
清算 日向さち
彼の匂いで目が覚めて
でも、そこには私しかいなくて
夢だったんだと思う
トイレから出てきて、寝ぼけた声で
おはよう、って言ってくれたら、なんて
もう、そんなことを望んではいけない
私のことを好きと言ってくれていたけど
どういう好きだったんだろう
CDデビューすることを教えてもくれずに
連絡が取れなくなって、それっきりになってしまった
チャラいのは見た目だけじゃないって知っていた
過去にバラエティ番組で共演した複数の女の子との噂もあって
のめり込んだらいけないと分かっていたのに
何度か会っているうちに、それでもいいという考えに変わっていた
私の部屋に泊まりに来るようになっても
他の女の影がちらついていて、無視しきれなくなり
軽い調子を装いながら、あたしのこと飽きちゃった? って聞くと
そんなことないよ、って抱き寄せてくれて
囁くようにラブソングを歌ってくれた
歌詞が彼の心情を表していたとは思わない
それでも、私を舞い上がらせるには充分だった
このままバラエティ中心でやっていくつもりはない
デビューできる保証も無いけど
歌だけはとことんやってやろうと思ってる
なんて話していたのを覚えている
そんな気概とは裏腹な華奢な体つきと
甘い香水も相まって
支えてあげたいという気持ちになったのだけど
食事を作ってあげたら
こっそりお金を置いていってくれたり
私が疲れている時に、それを察して
出前を頼んで、支払いもしてくれたり
その分、傷つけたら二度と戻ってこないように思えて
自分を抑えていた部分もあったのだけど
撮影NGだった彼の
無断で撮った寝顔を週刊誌に渡してしまってから
私は清算されるべき女だったんだと
ようやく自覚している
エントリ2
夢 りよ
心地よい夢につい
翻弄されて坂を下る
白雪姫の調べに手を伸ばし
呆気なく射抜かれて。
そしてまた
夢の中で踊る
|