エントリ1 太陽のような・・・ 今 紀仁
僕は君がうらやましい。
毎日のように輝ける君が。
世界中を見渡せる君が。
僕は君になりたい
そう思った僕を照らす、君のやさしい横顔。
エントリ2 豊作の今 女 セックス 庭
閃光の端々に
あなたの染めたその黄色い髪の先端がちらついて私は
漆黒の黒の先端に染め上げて香るその黄色に
毎日欲情して まるで思考が落ち着かない
あなたはそうと望むのだろうけれども 愛
それとはまたぜんぜん違う感覚で
人の妻を求める私は悪なのであって
その悪である私に愛を求めるあなたは聖母
を気取りたくて愛に溢れていたくて 愛を溢れさせたくて
でも聖母は 恋
を気取らず恋に溢れることはなく 恋を溢れさせたがらない
あなたの不浄を証明してしまうかのようなジレンマ それは
あなたは恋する季節が懐かしくて 季節がうつろう瞬間
その暖かさ寒さに体を反応させながら
ときに季節は恋
ときに季節は離別 ときに季節は嫌悪 ときに季節は嫉妬
ときに季節は憎悪 ときに季節は自虐 ときに季節は妄念
ときに季節は愛
自身が 生み出すその百季をその熟れた肉体から放散し たとえば
この私のように
ハエのように
蜜を吸い尽くす悪に嬲られることをさえ 切望する
毛先
その黄色
その甘く苦い香り 塩辛い味
あなたの淫乱を
私の貪欲を ただ貪りたくて
ただあなたには愛という括りのワードが必要だということであれば私は
私はそれをたやすく放つ 表層に漂うだけのコトバ
私はせせら笑っているのだ
女
おまえなど肉の袋で私の滾りをじかに受けるために
そのために
夫に嘘をついて
クスリで避妊せよ
おまえが孕んだところで私はおまえをいつかは捨てるのだから
どんなに傷つこうが知ったことではないがだが
偽りの涙や欺言などこれ以上増えたところで嬉しくもない
はっきり言おう
愛などない
あなたが欲しい
その髪の香り
そのために
千切れるほどに私が噛むことを喜ぶその乳首の味
そのために
私にだけ許したその肛門の快楽
そのために
恋をしたつもりもない
私は悪だから
弄んで嬲るための
嘘を
あなたについて
あなたは あまりにも簡単な女で
馬鹿なのだ
悪のはびこる世界
増殖するあなたに似た女
簡単で
救いはない
エントリ3 砂漠を歩く少年 夢追い人
一体いつになれば
オアシスに辿り着けるのか
侵食された身体からは
脈打つ心臓が剥き出している
僕の心臓
君が植えつけた薔薇が今では水を欲して
僕の心臓をぐるりと一周
棘を差し込みながら
巻きついてしまったよ
もしもオアシスが
僕の目の前に姿を見せたなら
すぐにでも君が置き去りにしたこの薔薇に
透明で冷たい水をやるんだ
もしも薔薇が君の唇のように
真っ赤な花を咲かせたなら
すぐにでも君に見せてあげたいのに
時折、君が水さしを片手に
僕のもとに来てくれる姿を見るんだ
すぐに消えてしまう残酷な蜃気楼
歪んでしまった瞳は真実さえ映せず
白い砂埃の向こうには
君の愛するモネが描いたような
トロリとした陰鬱さの漂う真っ青な空が
どこか切なげな太陽をそっと浮かび上げている
君の残した風景と薔薇とともに
このまま僕は砂に埋もれてしまいそう
少年は狭い部屋の中で砂漠が描かれた絵を
抱きしめたまま深い眠りに落ちた
エントリ4 輝ける人 やまなか たつや
ぼくの心の中に
いつも雨が降ればいい
君の夢の中に
勇敢なヒーローが
素敵な空があればいい
ぼくと君の間に
永遠があるのだから
いつも君の中に
輝ける星があればいい
いつの日までも君が
輝き続けていればいい
作者付記:この詩は品川へ行く満員電車の中で座席に座ってノートパソコンを広げて書きました。
※ この文章の著作権は以下の者が有します。
やまなか たつや
<uem42931@biglobe.ne.jp>
05時26分06秒 2004年02月15日
エントリ5 Nothing Was Feared kei
ほら また天使が飛びかかってる
羽をへし折って 私にちょうだい
飛ぶところ 見てみたいよね?
地上100階から飛び降りてあげる
ダーウィンの進化論
何も怖いものなんて無かった
何も死ぬはずなんて無かった
全部 うそ 全部 ぜんぶ
うそ
私の隣には天使がいる
信じられないこと言ってる
あまりにも近すぎた
私は怖くなかったよ・・・・・・・・・・ ・ ・ ・
エントリ6 せんそうが始まった 佐賀 優子
おくびょうな僕ら
「ちから」 ふりかざしては
震えた
エントリ7 ふかよるのすべて ヨケマキル
ちぎれ月ゆれ亘り
風きしむ観覧車
世界中の建築物は反転し
ふかよるのすべては
その端っこをべろっとめくり
そうなる事はそうなるし
そうならない事はそうならない
と言っている
こんな日は
こんなにも
盲目の日には
ビル風はシロフォン
もう何度も通った道を
あえて変則的に叩き
ふかよるの眼球は
そのギザギザの質感で
見えるものは見えるし
見えないものは見えない
と歌っている
誰かがどこかで飢えて死ぬ
血が
つぶれた熟柿の色で
警笛鳴らせ
自殺の永久連鎖をさせてゆく
こんな日は
こんなにも
盲目の日には
夜と霧とに分けるしかない
エントリ8 あの頃のすべて 陽
重ねられた一つの線
二つに分かれた薄い皮膚を
黒い糸が繋ぎとめている
かがり縫いだったかしら?
どうせなら、桃色だったら可愛いのに。
金色だったら、夕日で織られたように綺麗だろうに。
糸から呼び起こされる記憶。
「どうしてこんなことしたんだ?」
白衣が優しく、咎めるように問う。
限りある空を見上げたまま、口を一文字に閉じる。
わからない。
ただ、手首を浸した水の中に一筋の赤い金魚が生まれただけ。
金魚が水を染め上げるのを
美しい布が織り上げられるように
うっとりと眺めていただけ。
すべてが終わるはずだった。
けど
時は黒い糸をうっすらと肌色に染め上げた。
そして、わたしの心も。
ささくれていた傷口はやんわりと閉じられた。
分かれていたものは
ふわりと寄り添い、互いを支えあっている。
ねえ、わたし生きてる。
エントリ9 パーフェクトワールド 有機機械
泡立つ海
遠くで雲の切れ間から差し込む光
目の前で翼をひろげ風に逆らう猛禽
ああ、この世界は完璧なんだな
唐突に僕はそう気付く
僕達が僕達を取り巻く不完全な状況を嘆いていても
僕達が僕達自身の不完全な成り立ちを憎んでいても
この世界はいつも完璧なものとしてここにある
そしてそこで暮らす僕達と世界との境界は曖昧になり
不完全なものなど何もなくなる
エントリ10 クライシェの星 佐藤yuupopic
先刻、起きたら
姿
鏡に映らないし
裸足で降りた
春迫る中庭のグリン、濃い影、落として揺れてる
のに、わたしにだけ、影がない
(わたし)
棘に足、取られて
こんなに血がにじんでるのに
痛くない
(じき、)
明るい日曜の昼日中
鉄塔にも
乗り捨てられたポンティアック6000STEにもあるのに
(死んでしまうのかな)
わたしにだけ、影がない
(一昨日
紙幣五枚、とバミリオンイエロのキャンディ両手いっぱいで、わたし、買われた
あんなふうにしてお金、もらうの初めてでひどくびっくりした
断ったのに、
キャンディ、もほんのちょっとだけで好かったのに、
ど、してもくれたがるからみんなもらった
かわりに
「内股の刺青。
(去年
フランクフルトで友達になった
キーファーに似た面立ちの若い彫り師が入れてくれた
日本では見えない星座の、
形)
美しいから俺に頂戴」
て欲しがるから、たぶん二度と会うこともないけど、やさしく触れる入り方も、
指も、それと、声も、悪くないから、
あげた)
先刻、起きたら
ああ、
違う。
きっと
眠ってるの、起こさないよ、にベッド、滑り出て
靄がかる白い朝を
タクシーが拾える処まで
(ただ、ずっと
キャンディ、かすかに、甘い、くちびる、噛んで
自分のつま先だけ、しか見てなくて)
一人
歩いてた時から
既に
こうだったのに気づいてなかった
だけ、で
(刺青、あげてしまったから、)
理屈、わかンない
けどアタマじゃなくて、ここに、すとん、と落ちるみたく
そう
わかった
クライシェが彫ってくれた、
星
いつの間にかわたしの一部じゃなくて全部になってたンだな、
て今更
右足のつけね、さみしい
わたし、あんまりに、うんとバカで
そんなしても、もう戻ってきやしないのに
声を上げて
泣いてしまった
エントリ11 言葉 ハル
身体の中で言葉が空振りしてる。
“何故?”“どうして?”を
投げかけられるたびに
停止へと向かう思考。
耳を覆いたくなる。
そして、私は独りだ。
私は、私の中でだけ最高の言葉を紡ぐ。
エントリ12 月夜 箱根山険太郎
ずっと地面を這ってきたから
自分の手のひらを見たことがない
目線が低いから
他人の足もとしか見たことがない
今日は手足が疲れて言うことをきかず
一歩踏み出したらドブ池に落ちた
泥水の中で
もがいて もがいて
やっと浮かび上がったとき
はじめて月を見た
見たかった手のひらのことは
忘れていた
エントリ13 休み時間 紺野なつ
教室の窓から
子供たちのブラウン運動を見ている幸せ
エントリ15 夢のようなあなた 葉月みか
頬を伝う冷たい雫で目が醒めたの
とても とても哀しい夢を見たことを覚えてる
でも何が哀しかったのか
どんな夢だったのか
もう思い出せない
指をすり抜けて行った夢のしっぽは
二度とつかまえることはできないから
確かなものは この胸の痛みだけ
ただ とても哀しい夢を見たの
あなたを想う気持ちは まさにそんな夢の後味
*
静寂を破る悲鳴で目が醒めたの
とても とても苦しくて夢から逃げ出したことを覚えてる
でも何が苦しかったのか
どんな夢だったのか
もう思い出せない
爪を立てて必死にもがいた夢の壁は
まるで嘲笑うように手応えがないから
残されたものは このざわめきだけ
ただ とても苦しい夢だったの
あなたに焦がれる日々は まさにそんな夢の感触
*
哀しくて 苦しくて
夜毎あなたを忘れてしまいたいと祈るの
昨日は深い夢に溺れて
明日は浅い夢に息が詰まる
寄せては返す星の波にさらわれて
たどり着くのは いつもあなたの居ない朝
忘れたいのに 忘れられない
諦めたいのに 諦められない
もうどうしたらいいのか解らない
後ろ髪引かれる夢のぬくもりは
残酷なほど私を虜にするから
消せないものは あの日あなたの体温
ただ いつまでもまどろんでいたくなるの
あなたに惹かれてやまないのは まさにそんな夢の微熱
エントリ16 早春 五月原華弥
舞い降りた雪は淡く消えた
曇り空 北風 春はまだ遠い
愛しい人よ傍にいてよ
願いは叶えるものだと
遠くへ行ってしまわないで
愛しい人よ傍にいてよ
現実は厳しいものだと
夢を諦めてしまわないで
舞い降りた雪は淡くまた消えた
霞み空 芽吹き 春はすぐそこに
恋しい人よいつまでも
甘い思い伝えないけど
遠くへ行ってしまうのね
恋しい人よいつまでも
苦い思いすることもなく
儚く終わる秘めた恋心
エントリ17 夜半に 詠理
どうしたことだ
食卓から
母の面影が転がり落ちていく
と、目がさめる
肩を圧しつけるのはさし迫る春
から洩らされた息
囁き合う血汐の
映りこんだ窓辺で
見守られ寝る裸の赤子と対峙する
嫌な懐かしさだ
擽られるような喜びが
今も生き長らえている
まっしぐらに部屋をすり抜けて
海色の注がれる居間へいく
しつこい気配は憚りもせず
共に入りこんで
募るばかりの
甘い微笑となって吹き込む
詰られるようで、憎い
それもこれも食卓から問い掛ける
甲高い耳鳴りのためだ
剥きかけの女が
なおも零れ落ちる
休らっているだろう幼き
平たい頂きから
したたる
招きの名残り
が微笑んでいる
訪れていた暗がりに
歩み寄り
また久しく帰り
立ち帰り
じっと
無口に、水入らずに
病みたる遠くから捩じりでる
いつかの新肌のもとで
横になる
春は息をきらした
が、私は感じる
達しがたい拍子で迫る
天日の足取りを
笑いながら
怒鳴りながら
沈黙に噛みつきながら
エントリ18 落ち葉の山を踏んで帰る 麻葉
誰かが泳いでいるね
まだ陽が昇る前の公園で
ベンチに座って
街灯が映りこんだ池を眺めてた
うん 泳いでいるね
魚か水鳥か
潜る際に聞こえる水音が
潜る際に広がる波紋が
とても大きくて
いつになく緊張した
僕の口からは言葉が飛び出ているのに
僕の頭には言葉が浮かんでこなくて
誰かが泳いでいる
その錯覚だけが現実
指先が冷たくてかわいそうだと思った
支えられて立ち上がるまで
池を眺めていたけど
寒中水泳者は浮かんでこなかった
もし姿が見えたら
何か気のきいたことが言えたかもしれない
何も浮かんでこなかった
エントリ19 止れること さと
白い時間は過ぎ去り
季節は変らぬものだと思っていたけど
そんなことはなかった
桜が舞うように あなたは立ち止まった
くすんだ雪解けの季節が嫌いだったのは 子供の頃
今はもう そんな季節も好きになりました
春が来るのは もう怖くはありません
みんな大人になったね とあなたは言うでしょう
そう 昔はよかったね って
素直に甘いものが好きだった あの頃
今では辛いものが好きで 苦いものが素敵だと思ってしまう
くすんだ雪解けのように 心が汚れてしまって
あの頃の全てが 綺麗に見えるのかもしれません
満員電車に揺られても
雨に打たれて ずぶ濡れになっていたとしても
もう僕は 我慢の出来る大人になりました
だけど
これだけは失いたくないモノがある
それは 止れる ってこと
そう僕は走りっぱなしなのだから
あなたの事も忘れてしまうくらいに 走ってるから
止れるんだね
知らない振りを してたのかもしれない
見ない振りを してたのかもしれない
雨が空から落ちて 雪が天から舞って 雲が風に流れて 月が夜に満ちて
止れないものはどこにでもある
でも僕は止れる いつだって止れる
だから
今は駆け抜けて行こうと
今はこの身体がボロボロになるまで 走ってやると
そして
あなたの歳になったら ゆっくりと止ろうと思います
それは格好悪い事じゃないと思うし
いいことじゃないかって思う
今日は 傘でも差して 雨の桜並木を歩こうと思います
ずっと そこで見守っていて下さい
僕がしっかりと 止れる日まで
ずっと ずっと
この 桜並木で
エントリ20 ふとんのうえ 鈴矢大門
やらないといけないなあ
やりたくないんだけど
やるべきことがあって
やれとはいわれていない
やろうともおもわないことが
あって
夜にいる
と
おもっていたら
もうふとんのうえで
あしの爪をきっていたり
しているじぶんをみて
だめなもんだとおもって
みる
と
となりのへやからは
吐くこえがきこえてきて
かべにあたってる
ゆれるへやのなかで
あしのつめみがいてる
つるつるつる
と
せきがとまらなく
のどからは腫れひかず
くらいそとにはくるま
はしるおとがゆっくり
ぼくはねころがりぼんやり
ふとんのうえ
めをとじる
と
ひかりがまどからもれて
いつのまにかあさになり
夢みたことをわすれて
ぼくはまたしてもきょう
めをさましてしまったから
のびをする
しかたがないから
僕はまたのびをする
おおきくのびてぼくは
欠伸をひとつ
さあ
また
やらなきゃいけない事を
やらなくちゃ
やらなくちゃ
なんだか
あさはそんな気分で
かえってくる
ふとんのうえ
エントリ21 ある晴れた日の午後 深神椥
髪を切って三ヶ月。
そろそろのびてきた。
ピンクのリボンで髪を結びながら、空を見上げた。
大きな青空を見て、つくづく思う。
「あーあ、あの大きな雲があの人だったらいいのに」
エントリ22 ホムンクルス 大覚アキラ
キャンディグリーンのミニカー
メイド・イン・ベルギーのミント菓子
ずいぶん磨り減った消しゴム
片方だけの水色の手袋
そういう
何の価値もないものを
何の価値もないものだけをかき集めて
コンビニの袋にでも詰め込んで
ぼくは旅に出る
もしもこのまま
ぼくが帰らなかったとしても
ぜったいに
ぜったいに
ぜったいに
ぼくのことを探したりしないでほしい
一晩だけぼくのことを思い出して泣き明かして
そしてそれっきり
ぼくのことは何もかも忘れてくれ
ぼくの
決して低くはないけれど少しこもった声
人をバカにしたような片頬だけの笑み
眠そうなゆっくりとした瞬き
カラーコンタクトみたいな薄茶色の瞳
そういうものすべて
きれいさっぱり忘れてくれ
いつの日か
きみが
ぼくのことを忘れてしまった
という記憶さえ忘れてしまって
ぼくの名前を聞いても
何一つ思い出すものがなくなってしまった頃
真冬の海岸で拾った小さな貝殻
居酒屋の婆さんがくれた飴玉の包み紙
破れてしまった片方だけの水色の手袋
そんな
ゴミみたいなものばかり
きみに送りつけるよ
ゴミみたいだけれど
ささやかなヒント
ゴミみたいだけれど
記憶の発火点
きみの
頭の中に
ちいさな
とてもちいさな
線香花火の最後の瞬間のような
光が走る
さあ
クイズだ
破れてしまった片方だけの水色の手袋
居酒屋の婆さんがくれた飴玉の包み紙
真冬の海岸で拾った小さな貝殻
カラーコンタクトみたいな薄茶色の瞳
眠そうなゆっくりとした瞬き
人をバカにしたような片頬だけの笑み
決して低くはないけれど少しこもった声
片方だけの水色の手袋
ずいぶん磨り減った消しゴム
メイド・イン・ベルギーのミント菓子
キャンディグリーンのミニカー
部分の総和は全体ではないなんて
真っ赤な嘘だ
ジグソーパズルのピースのように
(なんて陳腐な喩えだ)
丁寧に部分を組み立てていくのだ
呪文を唱えよ
すべての
ものごとには
意味がある
すべての
ものごとには
価値がある
意味のないものには
意味がない
という意味がある
価値のないものには
価値がない
という価値がある
ぼく
が
完成したら
否
ぼく
が
誕生したら
きみが名前をつけてくれ
おめでとう
ありがとう
エントリ23 わたしはりりい 相川拓也
わたしはりりい
よんさいの
めすのすてねこ
やまみちを
ときどき はしつてくるじどうしやに
なにかちようだい て
ないてみても だめ
うすぐらくなると
やまのうえはまださむい
また ちかくのおはかで
おそなえものを あさつてみる
ぴう て かぜがひとふき
さむくて ふるえちやつて
それでも
ぼんやりひかるおつきさま みると
すこしあつたかくなる
ようなきがする
エントリ24 卒業 児島柚樹
机のラクガキ
黒板の担任の汚い字
壁たくさんの掲示物は
いつ消えた?
放課後の走り回った校庭
ボールの跳ねる音が響いた体育館
色んな音が飛び交う音楽室
絵の具の香りを聴いてた美術室
もう訪れることは無いだろう
梅の花は満開で
桜はあと少しで咲く
手には卒業証書
いつもよりきちっと着た制服は
いつもより少し重い気もした
「またね。」と手を振る友だちはいなかった
あっという間に過ぎた3年間は
私の中に刻まれた
春一番の風は
泪も全て飛ばしてくれるだろう
通学路
紺色のブレザー プリーツスカート
荷物をたくさん入れたバッグ
お世話になった全てに
感謝をこめた
空っぽの空を仰いで
笑顔をつくった
一歩前へ
新しい気持ちで歩き始めた
エントリ25 虚春 空人
咳をして
またひとつ 咳をして
僕はただ ひとり
エントリ26 海辺の町 植木
一体
誰が開けるのだろう
天井の高いこの部屋の
梁すれすれの小さな窓を
射し込む光は
思い思いに舳先を向けた
薄暗い土間の革靴に
帰るべき場所を
そっと示している
こんな時でなければ
集まる事の無い私達だが
会えば会ったで誰も喋らず
黒いネクタイを緩め
爪先を揉みながら
不味そうに茶を啜り
チャブ台の上の灰皿に
苦い相槌を打つだけだ
一体
誰が破るのか
息苦しいこの部屋の
水色の壁の日めくりを
そう遠くはないだろう
浜風に目を細めながら
再びこの場所に集う時
(果たして私は……否)
一輪の紫煙が天井に向け
ゆっくりと
ゆっくりと
あいつは昇って行き
車座の私達の頭上で
長い溜め息を発しながら
散らばってしまった
エントリ27 紅の夜(クレナイ・ノ・ヨル) YamaRyoh
丑三つ時に眺めた空は
夕焼けみたいに赤かった
何でだろうと思っていると
西の空に夕陽が光る
てんやわんやと慌てることなく
その陽に向かってバンザイすると
何だかとってもバカらしくて
お腹がギュルルとなったから
飽食暴食のメッカな国家で
牛丼求めて街を彷徨う
そうこうしてたら真っ昼間
それでもお空は真っ赤っか
街ゆく人々 知らんぷりぷり
気にすることなく会社へテクテク
そんなこんなで2日目の夜
やっぱり空は真っ赤っか
もう蛍光灯は必要ナイト
ポイポイ捨てたの集めたら
ピカッと光らせ白色矮星(わいせい)
太陽さんに一矢報いた!?
ところでところで太陽さんよ
何で赤いまんまなんだよ?
それは きっとね 太陽さんも
「お昼寝」ってヤツをしたかったんだよ
エントリ28 迷宮 ぶるぶる☆どっぐちゃん
カラス飛び立ち
グラス倒れ
ペーパータオル
に描かれた地図
水に溶けていってしまう
(ああでも良かった。あれは地図なんかじゃあ無く本当は、多分、確か)
ガチャガチャと音楽
音楽 音楽 音楽
フォークの音
音楽
音楽ですかこれは?
CとGとFとAとmと7くらいしか使われて無いけれど
音楽なのですか
そうなのですか
口紅はなんて汚い!
とフォークを置きながら
あたしの背後に見える七色の虹を見てそう仰られますけれど
あたしは そうは 思わない
ですからね
ですからもう食べられませんよ
こんなに沢山食べられませんよ
世界には沢山のものがあるけれど
目の前にはこんなにも沢山のものが並んでいるけれど
でも食べるだけが全てでは無いでしょう?
出口だって一つではありませんし
ですからもう食べられませんよ、フォ・アーグラさん
あたしはもう食べられません
もう食べられませんよ、フォ・アーグラさん
エントリ29 首筋で抱く ながしろばんり
海綿体の
あのドカーンとかピキーンとかいう
狂おしい感じをぶらぶらさせて
歩いたはずもない桜並木を
君と
いや、一緒に歩いたはずがない桜並木を
なんで思い出す
や、なんで。や、なんで思い出す
逢うたびにやることが同じでも
全く平気なような
毎度毎度のせりふが
多分部屋の外に出したら猥褻物陳列罪で捕まりそうな
あの生臭いせりふを
毎週水曜日の逢瀬にげふげふと吐き出す
あの幸せを
飽きもせず
それどころか、この前の言い方よりも今日のほうが感じてんじゃないん?
などと、勝手な願望をも含みつつ
昼まに食べたサイゼリヤのメキシカンピラフを思い出しつつ
都合により孕ませられないをんなを
首筋で抱いてやる
エントリ30 ブロンズの鳴る音 ←8ソラン(いぐ)
シンバルを、
スタンドの上のシンバルを叩き割る。
叩き割る気で振り下ろす。
右手。スティック。
震えたのは、黴臭い空気とグラスの水。
それだけのはず。
それだけのはず。
自分のために鳴る音なんて、
きっとこんなもんだろ。
エントリ31 『あるいは私が詩人になれない理由』 橘内 潤
万物の全てが一と一の集合であり、一と一を結びつける公式が存在すると信じるのなら
わたしは科学者か哲学者にでもなるだろう
万物のそれ全体が一であり、分解も再構成もできない無二のものだと信じるのなら
わたしは詩人を目指すだろう
選び抜かれた言葉と言葉を、洗練された公式で繋ぎあわせる
数学的手法で弾き出されたメッセージが脳神経を駆け巡る
0と1に分解された言葉が唯心論的見地から再構築される
デジタルに拡がる造形学的フォルムは詩学として語られるだろう
演繹的もしくは帰結的に提示された“作者の主張”はゲマインシャフトもしくはゲゼルシャフト的な歪曲をうけた思考によって解釈――観測者の脳内においての再分解および再構築――されるだろう
嗚呼素晴らしきかな仮名遣い
――こんなものが詩であるはずがない。
エントリ32 人世 細きん腐とた
死んだら生まれた
また死んだら生まれた
またまた死んだら生まれた
4度目なのにまだまだ慣れない
もう一回やり直そうかな
……なんて思ってみたりした
エントリ33 未知の苦 木葉一刀(コバカズト)
果て
そんなものは知らない
僕が人としての原点に回帰するならば
果て
そんなものは知らない
僕が本能のままに往くならば
歩きつづける事の
肉体的疲労は
歩くのを辞めた時点で
圧し掛かってくる
歩きつづける事の
精神的疲労は
歩くのを辞めた時点で
圧し掛かってくる
しかし数ある圧迫の中で
歩きつづける事の
肉体的
精神的疲労
今の僕には一番優しい
果て
そんなものは知らない
知らない何かを見つけるために
かつては歩いていた
でも
いつかそれが目の前に現れたとして
僕はどんな顔をすれば良いんだ
今は歩きつづける方が良い
先のことを考える
今はそれが苦しい
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