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第42回詩人バトル

エントリ作品作者文字数
1輪郭凜一307
2裏切った!柳 戒人265
3禁断の果実(ちえのみ)がもたらしたモノ香月朔夜 48
4山根雅和15
5とおいうたゆふな さき306
6僕と彼女とそして君。蒼樹空588
7脱ポップ宣言歌羽深空348
8モダンタイムス紫色24号138
9時々夜空は闇に消えるヨケマキル614
10ブッダ(目覚めし者)への道有機機械24
11眼車201
12大阪湾景大覚アキラ401
13真夏が夜で夢(または、アリ・ブローニュ)佐藤yuupopic 1813
14(作者の要望により掲載終了しました)
15湖畔相川拓也168
16月に映る涙マリコ245
17海とメモ帳空人970
18仰げば尊し姿森 瞳也77
19『奇跡』やまなか たつや203
20東京の地平線木葉一刀310
21カ・ケ・ラさと651
22たぶんコンニャクだっていらないイタリアン・ラッシュ170
23石が薔薇で銃のようぶるぶる☆どっぐちゃん86
24303号室イグチユウイチ353
25花火大会村上かおる415
 
 
 ■バトル結果発表
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エントリ1  輪郭     凜一


熱に浮かされた夕方

君の事だけを考えていたよ

闇に融ける黒髪が

薄暮の中に

ぼんやりと映し出されてる



君の透き通るような

白い

白い



僕の額へ触れるたびに

熱が移っていくね



しんとした雪の世界

そこに咲く

紅の椿

僕の心に沁みていく君



いつだって僕は

君を想っているよ

君の口ずさむ異国の歌が

ほのかなジャスミンの香りとなって

僕の中へ中へ中へ



銀色の月を見たね

生ぬるさの抜けない夜

縁側に腰掛けて

時折吹く風に

君が目を細めるから

僕はその隙にと思って

瞳に甘い口づけを送るんだ



どうして僕は君ぢゃないのかな

頬と頬が触れたら

ひとつに融けること

出来るかな


あぁ

少しずつ熱も下がってきたみたいだ



またひとつの夜が明けるね

群青色した朝もやの向こうに

浮かび上がる

君の・・・








エントリ2  裏切った!     柳 戒人


ウルトラマンが裏切った

今度は木を守るらしい

そしたら人間が木を切ってたから

人間を「退治」するんだって

正義の味方だったウルトラマンは

突然悪の権化に早変わり

怪獣はなぜかでてこない

いやそうじゃなかった

ウルトラマンに言わせれば

60億頭いるらしい

きっと全部「退治」してくれる

悪の怪獣を

そんな噂で森は大騒ぎ


「命は地球より重い」

どこかの怪獣が言った

でもそれは自分たちの命だけ

正義ってそういうこと

それがだめってことじゃない

でも自分より大きなものにであったら

あきらめなきゃいけない

それがウルトラマンの正義なら








エントリ3  禁断の果実(ちえのみ)がもたらしたモノ     香月朔夜 


僕はもはや禁じられなくなった『禁断の果実』を食べた。
それは、どこまでも甘く美しかった。
溺れてゆくほどに。



僕には糸≠ェあった。
右手に絡まる一本の糸
それが日に日に増してゆく。
足に。胴に。腕に。首に。
次々に「認識」される糸

左足を持ち上げてみた。
ひどく難しかった。
重さは以前と変わらないはずなのに。

見えている℃は確実に足を拘束する。
知覚された糸≠ヘもう無には戻らない。
そこに苦悩が生まれた。

切れてしまわないだろうか。
引っ張られるのではないだろうか。

伸ばし続けていた右手は力なく崩れ落ちた。
呪縛は解けることなく、複雑に絡みつくばかり。
やがて動く事さえ億劫になる。


そうなって初めて気が付いた。
知恵の実がさまざまな色と形をみせていることに。

あるいは、優しい光に包まれたまあるいモノへ。
あるいは、妖しく彩られたトゲトゲしたモノへ。
あるいは、濁った腐りかけのモノへ。
めまぐるしく変化する。


それは間違いであり真実。悪であり正義。



僕は食すべきではなかったのかもしれない。
あの『禁断の果実』を。




―――――もう手遅れだけれども。








エントリ4       山根雅和


蒼雨に 涙溶け入り しらんぷり








エントリ5  とおいうた     ゆふな さき


なにがあっても 強く生きるんだ 彼女は言いながら 夢をみるの
窓の外ではとおいうた しゃぼんのうたをうたっているの
とんで壊れるあの日の影 淡くふんわりとおいひと
帰ろうよ ここはとおい

野に咲く青い花びら 水に浮かべて流れいく
眺める横顔うとく 私に笑いかける
あの声が聞こえてくる あのときに旅立った
あの人に会いに行きたい あそこへはもうとおい

何があっても夢かなえるんだ 彼女は言いながら微笑み浮かべ
暗い部屋には灯りが一つ 心の底を照らしているの
ほのおが全て焦がさぬよう つよくふんわり飛んでいけ
行ってみようよ そこがとおくても 
むかおうよ そこには全てがあると言うのなら

何があっても強く生きるんだ 彼女は言いながら… 








エントリ6  僕と彼女とそして君。     蒼樹空


 ラジオから、君との想い出の曲が流れてきた。
 僕は少し遠くを見る。彼女は、「この曲大好き」といった。
 今度からは、この曲が流れても遠くを見なくてすみそうだ。

 僕は大好きだけど、君は嫌いだったフランス映画を
 彼女に見せた。
 「つまらない」といわれた。やっぱりかと、僕は断念した。

 君が「暗いね」とけなした僕の詩を、
 彼女が「深いね」と誉めてくれた。お世辞でも嬉しかった。

 君がお気に入りだった御香を焚いた。
 彼女は「ヴァニラじゃないとヤダ」といった。
 「なんでだよ」と簡単には譲れない僕がいた。

 君が教えてくれたカフェに彼女と出掛けた。
 君がよく飲んでいた「チャイ」を、彼女も飲んだ。
 君と同じようにゆっくりと飲んでいた。
 僕は危うく、名前を間違えそうだった。

 君と何度も行った港に「行ったことがない」
 と嘘をついて、彼女と出掛けた。
 沈む夕陽を見ながら、
 君は「なんか淋しいねっ」といった。
 彼女は「すっごい綺麗だねっ」といった。

 君の得意料理はカレーだった。
 彼女の得意料理もカレーだ。
 君のカレーを思い出しながら、
 彼女のカレーを食べた。
 どちらもおいしい。

 あれ??
 想い出が大事なのか、
 今の恋が大切なのか、
 僕の気持ちが重要なのか
 解らなくなってきた。

 ひとつ解っていることは、
 この詩を、
 君には見せることが出来ても、
 彼女には見せることが出来ないということだ。


 






エントリ7  脱ポップ宣言     歌羽深空


ボタン弾け飛んだ あの空の向こう 煙ゆらゆら ママはパタパタ
「洗濯ものは早くとりこまないと夜露がねぇ」だってサ!

頭 はじけとんだ 机上の空論 雲がプカプカ パパはまたまた
「おぉいビール持ってきておくれよ できるだけ早く」だってサ!

何がなんだか知らないが、こちとら春を追い出すのに忙しいんだ!

春とっぱらわんと 夏いじけるし 秋押さえとかんと 夏は泣き出すし
(ま、そういうところ冬は大変友好的だ)

1日のうちにクルクル時計は24周
そのうち短針と長針のアバンチュールラブ 計22回
11時と23時は、秒針の旦那に尽くすんだと!

しーらないったら、しーらない!

仕方がないから、機嫌が直ったら 汗を流したオッチャンと
汗を流した発泡酒 飲んでやる!

ホップステップジャンプで また取り上げれる夕暮れ
ああ、返してったら!








エントリ8  モダンタイムス     紫色24号


骨折した理論が
グラグラの身体のまま のたうっている

打撲した倫理も
蒼白い顔で うめいている

その側で
宗教が身をよじり 芸術が血を吐く…

それで世界は
慌ただしく救急にあたっている
早く真理を処方しようと あせりまくっている

一年が 段々短くなっているのは
こんな風に
世界の鼓動が早鐘を打っているからだ








エントリ9  時々夜空は闇に消える     ヨケマキル


死にたいよお
早く死にたいよお
などと言いつつ
風邪ひいたら風邪薬なんかも飲んだりして

子供の頃に親からひどい仕打ちを受け
自分の子供には決して同じ思いはさせまいと思いつつ
いつの間にか親と同じ事をしている
よくある事だよよくある事 気にすんな

そんな行為にどこかの偉い人がまた何か名前を付けてね
またひとつこの世に病気が増えて
またひとつこの世に薬が増える

死にたいよお
早く死にたいヨオ
などと言いつつ
戦争反対なんて言ってみたりして

母親が理不尽なくらい自分の娘に厳しいのは
自分が若い頃出来なかった事を娘がしている事に対する嫉妬なのですよ 
などとまたあの先生がしたり顔で語っているね
それがわかったところで嫉妬心につける薬などありはしない

人間は皆平等です
人には優しくね
自然や環境を大切に
思いやりを持ってね
そんな言葉がこの世から消える日まで
申し訳ないが私はまったく逆の事をやってみようと思います
その時にはそれ用の薬をください
私は特別です
俺は特別なんだあ
なんて思ってる人がこの国には一億人ちょっといてね

がんばれニッポーン
そうかあ?
イチローが三振すると安心するけど
中田のパスが通らないと ああやっぱりなあ なんて
はいニッポン人はそこまでです
なんてどっかで思いたいんよ ごめんねえ
と ついでだから言っておこう

あなたという人間には価値があって
人に順位なんてつけられないんですよ
そんな歌を作ってがっぽり金を儲けてね
高級マンションの最上階で
昼過ぎまで眠りますわ
おやすみ








エントリ10  ブッダ(目覚めし者)への道     有機機械


気がつけばおれも29歳

もっとちゃんとしなくちゃな



※作者付記: 釈迦−ゴータマ・シッタルダは王子として贅沢、快楽を極め尽くしたのち、29歳の時に病人や乞食を見かけたのをきっかけに、悟りを開くための旅に出たそうです。






エントリ11       眼車


わたくしは蚊です
にんげんの血を 吸って生きます
吸わせていただいたお礼に 
こんもりしたオブジェをつくらせていただいております
それを墓と呼ぶなかまもいれば
キスマークなんてしゃれたことをいうゆうじんもいて
わたくし的には
にんげんに・にんげんたらしめる・一種の感覚をあたえる
すばらしくまるい角だとおもっておるわけで
アッ名刺をわたしわすれました どうぞ
虫に文学の文とかいて カとよみます
趣味は輸血です
ひとつよろしく








エントリ12  大阪湾景     大覚アキラ


鋼鉄のキリンどもが
夕陽に照らされて
朱く燃え上がりはじめると
このありふれた景色にも
特別に美しい瞬間が訪れる
陽が落ちきるまでのほんのわずかな時間

第3セクターで作られた
この海沿いのショッピングモールは
もはや決して立ち直れないほどの
絶望的な赤字にまみれていて
館内案内のパネルには
空きテナントの表示のほうが多い

こんなどうしようもない場所にも
こんな市場経済から見放された場所にも
恋人たちはやってくる
いつの日か彼らにとって
このどうしようもない場所が
思い出の場所になったりするのだろうか

ソフトクリームを舐めながら
朱く燃えるキリンを眺めていると
サイレンが奏でる陳腐なドヴォルザーク
そして
暴走族と呼ぶには少なすぎる
わずか3台のバイクの気の抜けた爆音

気がつけば陽はとうに落ちて
キリンはすでに重い灰色の空に
誰かが描いた巨大な落書きみたいな
立体感のない不吉な黒い影になって
溶けたソフトクリームで汚れた手を
蔑むように見下ろしていた








エントリ13  真夏が夜で夢(または、アリ・ブローニュ)     佐藤yuupopic


この際、
真夏が夜で夢

でも、

真夏で
夜が夢

でも。
構わない。



煙草を止めてみました。
あなたもご存知のように一時は一日二箱。
欠かさなかった程の。
金のマルボロの柔らかいヤツ。
たぶん、半永久的に
(永久とは云い切らないアタリに自分自身、愛をカンジます)
止めてみました。
報告程度、お伝えしておきます。
(お願い、
もう、
二度と
触れないで。
そう、
約束したじゃない。)


見え見えの嘘でっかいのとちっさいの
入れまぜて嘘一ッこ、二こ、三こ。
ついて逃れようとしたけど無理で頬が切れて血が出るくらい
ひっぱたかれて
くちびる噛んで
血しみて
痛い
より
ビックリ
くやしい
酷く
みじめ
ひっぱたき返したかったです
のに
でも
けど
無理
全部
わたしのせい
だって云う、
だから。
(かな。
本当、
全部
わたしなの
かな。)


吹雪く晩も、
暑い最中も、あんなやこんなやしました。
から。
わたしのなかにある
たしかに
ある
うううン、きた、
訪ねてきた
ばかりの
あたらしいモノよ
いや
者よ
きたくなかったやもしれないけど
わたしも
待ってはいなかったけれど
ようこそ
ようこそ、
ようこそ。


(ルーだか
リードだか知らないけどサ、
アタマおかしいンじゃない?)
こんな真夜中に
あの曲
『サンデー・モーニング』
だって
誰だよアッタマおかしいんジャない
こんなに爆音でピアノ、アタックの効いた鍵盤、ダダダダダ。近所迷惑

(嘘。
違う。
おかしいのは
わたし、)
だ。
ダダダダダダダ
誰も弾いていない。
こんな真夜中に
日曜日の朝
だなんて
これは
ダダダダダダダ
耳塞いでも
内側で鳴り響く
鳴り止まぬ
ダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダ
(幻聴。
幻聴。)
幻聴。

そうだ。
ねえ、
ニコのこはなんて名前だッケ
日射し真っ白い
イビサの午後

真っ黒いぞロリ長い衣服で
自転車カッ跳ばして髪振り乱して
転倒して死んダダダ
彼女

最愛の息子の、
名前さ
ほら、認知されなくって
アラン・ドロンの母親に育てられた
あのこ
(『アリ・ブローニュ』だろ、ほら、こないだELLE誌上であることないこと
くっちゃべってたじゃないか。こないだって云ってももう何年か前の話か。
最近五年とか十年前が昨日のことみたいでおかしいよな)

ああ、そう。アリ。
ありがとう。
(て、
これもまた幻聴。)
一人。ベッドの端。汗ばむ額へばりつく髪。
伸ばしてるの。
切っちゃダメなの。
こんなにサラサラの猫ッ毛じゃ、ますますダメ。
肩よりずっと伸ばして
今より酷く痛ませて
銀色に染めるの。
睫も
眉毛も
みんな
銀色に
コンタクトも
眼が呼吸出来ないくらい
銀色のヤツ
(なんてね。
云ってみただけ
伸ばしてるのは
本当。)

ああ、
アリ。
アリ。

男のこでも
女のこでも
アリ。
て、つけよう
世界一強かったボクサーとも一緒だもの。
漢字では
そう
「在」
あるの。
あなたは、
そう、
ただ、
唯、
あるの。
思いつきだけど素敵な名前じゃなイ。
好い。
アリ、在り。
うん、好い。
アリ。
アリ。
アリ。
アリ。
アリ。
アリ。
そう、

わたしがこの世の中にいることがうれしくない人よ
少なくとも三人の人たちよ
集まって一ッこの家族よ
ごめんなさい
でも
誰も認めなくっても
ここに、
在り。
あなた、
アリ。
アリ。
アリ。
わたしのこ。


ああ、
かあさん、
わたしの。
かあさんに会いたいな、
かあさんの膝で髪をなでられてうとうとしたいな

海から上がったばかりの
クタクタの身体、投げ出して、
うっとり
目覚めたら、
未だ
夏休みの真ん中で
兄ちゃんとベランダで並んで腰かけて
西瓜のタネのとばしっこしたいな
飲み込んだら臍から芽が出るなんて
おどかされて
微塵も疑うことなく
怖がって
わんわん、声上げて泣きたいな

(声、
上げて、
泣きたいな
泣きたいな、

くちびる
頬の内、
止まったはずの血、
またにじんで
しみる
痛い。

ああ、
もう。




。)

神様
そこにいらっしゃるのなら
聞こえていらっしゃるのなら、
せめて
かあさんと兄ちゃん、
世界でたった二人だけは
わたしのこと
きらいにならないようにしてください
他のみんなは
最悪
かまいませんから
どうか。
(もう。
……も、いらないから。
約束を
守ります
から、)
だから
どうか。



真夏が夜で夢

でも、

真夏で
夜が夢

でも。

どっちでもこの際全然構わないケド、
なんて単なるタイトルだけの話。

アリ。
わたしも
ここに
在り。


一夜の夢なんかじゃありはしない。
これからずっと続いて往く。はじまったばかり。

最後に、も
一度、
短いキスと
バイバイ。
を、
あなたと、
わたしと、
アリ・ブローニュと、
ニコ。
それ以外の誰かに

それから、も
一度、
ようこそ。
を、

捧げる。








エントリ15  湖畔     相川拓也


湖上に散る陽の光に
過ぎし日の幻影は
霞の奥より輝いて
なおも鮮やかに
甘美な哀しき記憶の中へ
私をいざなう

寂寥の中に鮮やかな紅葉の舞いおりた秋から
二人で歩いた蒸し暑い梅雨の夜まで
儚く走り過ぎた時間の一コマ一コマを
慈しみながら
湖の底へ捨ててしまおう

湖上に散る陽の光に
過ぎし日の幻影は
霞の奥より輝いて……

――コンナモノヲ
  捨テキレルワケハナイノダ








エントリ16  月に映る涙     マリコ


あなたの一番が私じゃなかったとしても
私はあなたが一番大切
月が人のために輝いているのではなくても
私たちの心を癒してくれるのと、それはとてもよく似ている

やさしい気持ちで、明日を見よう
自分に恥じない生き方を
誰かのために生きるのはすてきだけど
やっぱり私にはまだ早い

あなたの手のぬくもりを思い出しているうちは
私はきっと一人では歩けない
だけどもう、誰かが手を差し伸べてくれるのを待つのはやめるの
自分ひとりで背筋を伸ばして、強い瞳でこの世界と向き合いたい

そしていつか
月に映る涙を、私がそっとぬぐってあげる








エントリ17  海とメモ帳     空人


海へ行きたいな
平日の昼間に
ケータイ電話なんて持っていかずに

誰も僕を知らない海辺の小さな町で
ときおり吹く海風に髪の毛を乱されながら
防波堤かテトラポットの上に腰掛けて
だんだん自分を透明にしていって
ときどき空を飛ぶ鳥なんかを見上げたりして

お腹が空いたら何を食べようかな
僕がいままで一度も食べなかったものを食べよう
何だろう
入ったことのない大衆食堂に行って
焼き魚定食
なんてどうかな
それで食べ終わったら
やっぱり無愛想な顔で店を出るんだろうな
だけど
それもいいかもしれない
いままで一度もしたことのない
とても
とてもひどいことをしたんだから
ついでにそれくらいのことをしても平気だよね
それで満足できなくても
それはそれでやっぱり僕が悪いんだから

おいしくなくても
おいしくても
僕の胃は満たされて落ち着いた気分になる
僕はその
さっきまでいた防波堤かテトラポットに戻って
透明になる続きをする
きっと選挙の演説をする車とか
何かを伝えるサイレンとか
そういうのに邪魔されたりするんだろうけど
僕は自分自身を透明にする努力を惜しまない
きっとあきらめたりしないと思う

それで僕は
あたりを見渡しながら
目に見えないところに漂っている
言葉をつかまえて
持ってきたメモ帳に何かを書くんだろう
そのときの僕は何を書くんだろう
そんなこと当たり前のようにわからないけど
きっと何かを書きはじめるよ
それが透明になる合図だから

メモ帳に何か書けたら
僕は透明になってるはずだから
そのまま海風に吹かれて
ふいっと
どこかに飛ばされるかもしれない
飛ばされるのは何となくこわい気もするけど
そうなったらそうで
それもまた仕方のないことだな
でも僕が書いたメモ帳は
誰が見るかわからないけど置いていこう

メモ帳はどっかの誰かが見つけてくれるかもしれない
それで
メモ帳に書かれた言葉を見て
どんな顔をするのかな
めんどくさくなって海に捨てられるかもしれない
もしくはそれすらなくて
そのままにされるかもしれない
それはそれであまりにもさびしいけど
でもそうなってもやっぱり仕方ないことだろうな

 僕はこれからも生きていいですか
 僕はこれからも後悔していいですか
 僕はこれからも人を傷つけていいですか
 僕はこれからも抱えきれない悲しみを思い出して
 涙を流しても許されますか

きっと透明になったら
そんなすべてのことをしなくていいんだろうけど
しなくていいんだろうけど








エントリ18  仰げば尊し     姿森 瞳也


夜空を仰いでも
今日は君が見えません

どのみち
都会の空は汚れに覆われ
君は霞みます

君が僕の前で輝きを放ったのは
遠いあの日々だけ

お願いです
君の笑顔を見せてください








エントリ19  『奇跡』     やまなか たつや


独りの夜は考える、
生きてる事に躓く時……、
未だ見ぬ人を思い描く。
将来出会う、大事な人。
未だ、顔も名も声も知らぬ、
けれど自分を待ってる人。

独りの夜は言い聞かす。
誰かが君を呼んでいる。
出会いが君を待っている。
何かが君を導いてる。
奇跡は君を待っている。
君はそれまでの道のりを、
心の限り、
力の限り、
歩み続けていればいい。
いつかたどり着くその日まで。
いつかめぐり合うその瞬間まで。

そして、あくびをする。
お休みなさい。








エントリ20  東京の地平線     木葉一刀


東京の地平線を
一望できるこの場所で
君はその彼方を指差して
明日経つと僕に告げた

彼方へと旅立つ君は
凸凹と四角張った地平線の
影の中に消えてしまうに違い無い
身体の芯が震えた

指し示された彼方を見据え
不意に僕は笑った
泣かず
笑った

声は
出ていたかもしれない
人が見ていたかもしれない
僕は笑った

僕の胸に凭れた君は
多分泣いていた
でも僕はそれを見ていなかった
視線の先にあるのは昔

君と出会い
時間を共有した
この東京の記憶の輪郭を
視線でなぞり

気が付けば
日は傾き
僕の胸は幽かに濡れ
周りの気配は希薄だった

僕は叫んだ
声は出ていなかったかもしれない
頬が熱く震えた
星はまだ出ていなかった

一頻り叫び
君が去った地平線に背を向け
煙草を燻らせた
メンソールが今日は沁みた








エントリ21  カ・ケ・ラ     さと


  くだらないと見つめていた海が
  そこには あった。
  こんなくだらない生活がたまらないと叫んだ海が
  そこに あった。
  親父の記憶なんか残るはずないと砂を投げつけた海が
  ここに ある。
  
  喪章を舳先に付けた漁船が向ってくる。
  お袋を担いだ親父が向かってくる。
  大きな背中が 自分の横を通りすぎる。
    親父と 二人ぽっち。  
  幼い自分は 泣けずに膝を抱えて 砂浜に座って
  波はいつもと変わらぬ 同じ間隔で 寄せては返す。
  
  島を出た。
  もうここには戻らないと。
  今でも忘れられない言葉が耳に残っている。
  最後の 親父の欠片が 耳の奥に残って離れない。
  
  いくら 夢中で仕事をしていても
  いくら 無茶苦茶に酔いつぶれても
  いくら 女の身体を貪っていても
  忘れられない 欠片が 自分のどこかに
  突き刺さっている。
  
  息が詰まるような言葉が この耳の奥から離れないのは
  この波の音のように 自分の身体の中に
  染込んでしまったからか
  
  くだらないと見つめていた海が
  今も そこには ある。
  こんなくだらない生活がたまらないと叫んだ海が
  今も そこに ある。
  親父の記憶なんか残るはずないと砂を投げつけた海が
  今 ここに ある。
  
  そんな海を
  今 自分は見つめている。
  朝日が昇るこの海を 見つめている。
  
  港に残された船が寂しげに揺れて
  一瞬の潮風と共に 親父の言葉が 流れる。
  
  私は素直に 自分の居場所を 気付かされた。








エントリ22  たぶんコンニャクだっていらない     イタリアン・ラッシュ


キミはなんだ? ボクはなんだ?

いったいなんの言葉で世界を語っているの?

政治家でも、経営者でも、批評家でも、革命家でも、職人でも、農家でも、研究者でも、運送屋でも、酪農者でも、警官でも、潜水士でも、医者でも、SEでも、学生でも、違う違う、そんなんじゃない。

いま、ここでは
キミは詩人で、ボクも詩人。

さあ同じ言葉で話そうよ。きっと辞書は要らない。








エントリ23  石が薔薇で銃のよう     ぶるぶる☆どっぐちゃん


真っ青な空の下
全くの静寂の下
女は何故か
世界中に響き渡る爆音を聞いているかのような
恍惚の表情!

「そういえば世界は何で出来ているのか」

ここから見ると
見える全て
石が薔薇で銃のよう








エントリ24  303号室     イグチユウイチ


塞がった窓から漏れる強い日差しで、すべてが 逆光になるんだ。
アパートの天井の 薄汚い染みが、表情の無い 人の顔のように見えて、
何だか とても 落ち着かないんだ。

硬い靴底と 硬い床の間で、いちいち 砂が ずれるんだ。
閉め切られていた部屋の空気はまるで 保存液で封じられていたようで、
やわらかく気化した溶剤を吸っているような
ひどく 不快な気分になるんだ。

扉の脇に落ちていたプレートで、303 を見つけたんだ。
マットレスだけの古いベットには 変色した汗染みの跡があって、
それが 身体から溶け出したものかと思うと、
熱く乾いた喉元が 酸っぱく込み上げそうになるんだ。

何もかも 崩れそうなのに、あまりにも 静かすぎるんだ。
耳の奥の 大きな空洞が 痺れるくらいに張りつめていて、
今にも 蓋が浮きそうなんだ。

なぁ、
お前 どこに行っちまったんだ。








エントリ25  花火大会     村上かおる


夜になっても
さほど気温は変化せず
蒸し暑いね。と
何度も口にしながら
からませた腕を
ほどこうとはしなかったね
すれ違う着物姿の女の子を見て
あたしも浴衣にすればよかったな。て
少し頬をふくらませる
まわりの誰よりも
素敵なくせに

にぎわう河川敷の広場
二人して愛想を振りまいて
やっと確保した土手のスペース
しわだらけの僕のハンカチに
もったいなさそうに腰を下ろすから
思わず
抱きしめたくなっちまった

星のない都会の夜空に
次々と光が駆け上る
はじけ 響かせ
色とりどりに広がって
はじけ 響かせ
瞬く間に消えていく
ひしめき合う人々の
さまざまな歓声の上
強く はかない光が
鮮やかに降り注ぐ
きらびやかに降り注ぐ

あんなにはしゃいでた君が
しだいに無口になっていくよ

仰ぎ見る花火の光を受け
どこか幼い横顔を
時おり ほのかに輝かせ
きれいだね。て
本当にきれいだね。て
夢見心地につぶやくばかり
そのかたわらで
僕は同じように
きれいだね。て
本当にきれいだね。て
ただ君だけを 見つめ続けていたんだ











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