インディーズバトルマガジン QBOOKS

第1回高校生1000字小説バトル
Entry2

日常

作者 : HARRY
Website :
文字数 : 817
 ある日、一通の電子メールが私のもとに届いた。
「お元気ですか?」
文面はただそれだけ。差出人の名前もなければ宛名もない。私はこ
の奇妙なメールをどうしようか考えた。悪戯であるかもしれないし、
そうでないかもしれない。あるいは、間違えて送られてきたのかも
しれない。考え始めればキリがない。
 私はふと笑みをこぼした。メールサービスを始めたとき、私はこ
んな日を夢見ていたような気がする。まるで、ドラマか小説のワン・
シーンのような一コマ。けれど、現実にはそうじゃない。私はただ、
思案気に画面をみているだけだったのだから。
 しばらくして私はマウスを扱うと「返信」を選択した。それから、
いつになく慎重にキーボードを選んでいく。
「私は元気です」
私はそれだけを書きこむと送信ボタンを押した。簡単だ。今ごろは
もう、私の言葉達が届いているのに違いない。私は妙にドキドキし
た。もしかしたら、今、この瞬間にもすでに読んでいるかもしれな
い。そう考えていると早速受信マークがついた。私は急いで手紙を
受取ってその封を切った。
「ありがとう」
今度の手紙にはそう書いてあった。ああ、なんと不思議な響きだろ
う。しばらく聞いていなかった一言のように思う。言葉とはこんな
にも美しいものだったのか。私はそう思った。一体何が私にそう感
じさせたのか、それは全くわからない。けれども、「彼」を私はス
テキだと思ったのだ。
 それが為に私はすぐに返事ができなかった。「ありがとう」の言
葉を越える今の私を表現する一言を考えなければならなかったから。
それでも、その何かを考えている一日、それは幸せだった。
 私はすくなからず彼に感謝した。私の日常は少しずつ変わりつづ
けていくのだ。それが私には非常に嬉しかったのだ。繰り返される
日常に含まれた非日常。彼は、私を十分に満足させてくれたわけで
ある。
 いつまでも終わることのない手紙の交換。小さな幸せの取引。

 私のメールボックスは、今日も空っぽである。






インディーズバトルマガジン QBOOKS
◆QBOOKSに掲載の記事・写真・作品・画像等の無断転載を禁止します。
◆投稿された各作品・画像等の著作権は、それぞれの作者に帰属します。出版権はQBOOKSのQ書房が優先するものとします。
◆リンク類は編集上予告なくはずす場合がありますのでご了承ください。