第10回高校生1000字小説バトル
Entry3
大体に於いて僕なんてのは幸せだ。毎日充実している。高校へ通 い、友達もおり、食に困らず、清潔な服を着、金も親からまま貰っ ている。これ以上望むべきことは無いね、うん。ああ、なんて俺っ て幸せ。って手放しで満足できたら、困ることはないのであって、 それができぬから、毎夜寝る前にこうやって自部屋で思索に耽って しまうのである。結局結論は出ぬまま、はあ、またアホなことに睡 眠時間を削ってしまったと、後悔しながら布団に潜る。思索のリセ ットボタン。 希望の朝。日光の輝き。小鳥のさえずり。ステレオから流れる目 覚ましの音楽。そして快適な目覚め。というわけではなく、やはり 寝足りないと眠りを妨害するものは如何なるものも不快に感じられ る。それでも今日一日を良き日にしようってのは、朝のテレビ番組 の占いコーナーの時間に合わせてステレオをセットしていることか ら判る。ところが今日は天秤座が最下位だと抜かしやがる。ラッキ ーアイテムは花柄のシャツだと抜かしやがる。 「どうせえ言うんじゃ、ぼけ。ま、日本男児は占いなど信じんしな」 と、自ら進んで見といて矛盾したことを言う。正に希望の朝である。 今日はどんな一日かしらん。学校は楽しいかしらん。という希望、 ちょこっと不安を胸に階段を降りて食事、磨歯、排便、洗顔、更衣 を済ませ玄関に立った。俺。横にある観音開き式の収納の戸には全 身鏡が張り付けてある。戦いに赴く男の姿。寝癖があってはなら ん。目糞が付いててはならん。制服のネクタイが捻れててはなら ん。よし、決めた。俺は学校へ行く。行くぞ。そしてうねりのある 一日にしてやる。滝を昇る龍のように。 「忘れ物はない?」 「あっ、うん、大丈夫。行ってきまあす。」 母親がいきなり玄関に来て言うもんだから、とっさに応えたら、 やっぱ俺ゃまだ子供だね。うん、だって。うん、僕ちゃん今から学 校へ行ってお勉強してきまちゅでちゅ。と呟きながら自転車に股が り、下り坂を勢い良く下った。 僕は充実していた。満足していた。この心意気を以て、今から僕 は幸せへと成り果てる。友達を笑いの渦に巻き込み、女子にモテま くり、後輩から尊敬され、先公から褒めちぎられる。幸せってのは 人との間に在るものやね、人べんに幸で、倖やね。 って思ってるだけじゃどうにもならず、この素直な気持ちは帰宅 する頃には屈折し、肩には汚れた外気で積った塵や埃。今夜もアホ な夜更かしが止まらない。