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第2回高校生1000字小説バトル
Entry4

夏鳥幻想譚

作者 : 佐伯維端
Website : http://www5a.biglobe.ne.jp/~panki/htmls/index.htm
文字数 : 993
 小さい頃好きだったもの。白いワンピースに麦藁帽子。そして、
白い翼を両肩に持ったカゴの中の小さな友達。

 夏の真ん中の日。海へ出る、アスファルトの、緩い下り坂。頬を
擦り抜けてゆく風は湿って熱く、微かに潮を含んでいた。もうすぐ
海。カモメがゆらゆらと空気の波に乗って私の行く先へ滑ってゆく。
 私が少ない日数の夏休みを削って、こんな辺鄙なところへ来たの
には訳がある。私は約束をしていた。十年前に『十年後に合いまし
ょう』と言われた。それ以外のことは覚えていない。相手が誰かも。
 あの夏は、あの十年前の夏はよく覚えている。私の大切な友達が
死んでしまったから。田舎に馴染めず、友達もできなかった私の唯
一の話相手。真っ白な羽の小鳥に「ぴーこちゃん」と名前を付けて
飼っていた。
 大人は、そうすれば私が信じると思ったのだろうか、私に死体を
埋めて来いと命じた。泣きながら、その鳥を埋めるためにこの坂道
を下った。あの後、きちんと埋めたかどうかは……よく覚えていな
い。
 約束は、確かその時にしたのだ。そんなことをつらつら考えなが
ら自転車を漕いでいたその時
「ぴーこちゃん?」
 白い羽の鳥だった。私のすぐ横を、潮風に両翼をいっぱいに広げ
て海の方向へ飛んでいく。
 海への坂道と白い鳥のイメージが重なってデジャヴュを覚えた。
 約束は、確か、その時に、したのだ……

『ぴーこちゃんをかえしてほしい?』
「……? だってぴーこちゃんは……」

 好きだった白いワンピース。

『ぴーこちゃんはあなたにあいたがっているわ』
「あなたは…….?」

 波打ち際を飛ぶ白い鳥。

『やくそくしましょ。じゅうねんごにここで』
「ここで……ここで。」

 あの暑い夏の日。

 ああ、あれは……あの約束をしたのはわたしだ。
 わたしは私に約束した。
 ぴーこちゃんを返してあげるって。
 あんまりにも悲しくて、私はあそこへ、あの海へわたしを置いて
きたんだ。
 約束をはたさなければ。わたしとの約束をはたさなければ。ぴー
こちゃんを返してもらうんだ。
 海へ続く坂道。濃緑。入道雲。蝉の声。陽炎のたつアスファルト。
きっと、わたしは準備をして待っている。あの海で待っている。
 砂浜へと変わる。焼けた砂がサンダルを脱いだ足を浸すのもかま
わずに走ってゆく。
 陽炎の向こう、ブランクの彼方、あの暑い夏の日の、朧げな約束。

 真っ白な少女が波打ち際に立っていた。
 あれは――十年前のわたしだ。






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