| # | 題名 | 作者 | 文字数 |
|---|---|---|---|
| 1 | 卵のなかの罠 | アタモ ミリヲ | 746 |
| 2 | 新しい世界へ | トト♂ | 968 |
| 3 | 箱 | 青葉大地 | - |
| 4 | 夏鳥幻想譚 | 佐伯維端 | 993 |
| 5 | 価値観 | どんぐり | 999 |
| 6 | 涙 | SO-SUKE | 991 |
| 7 | 物怪と女 ★ | 彩 | 986 |
ところで、僕はどうしてこんなに転ぶのでしょう。ちょっと転び すぎです。ねえ、お母さん、僕はどうしてこんなに転んでしまうん だと思いますか。まるで生卵のようです。どうしてなんでしょうか。 「それはね坊や、あなたがスーパーで特売日に買ってきた、一パッ ク九円のMサイズ卵から生まれた子だからなの」 嘘。お母さん、それは嘘でしょう? 大体一パック九円で買える Mサイズの卵なんてあるんですか。何時代ですか。 「それがあったの。安かったから、お母さんはその卵を大喜びで買 ってきたの。でもね、どうしてその卵は安かったんだと想う?」 さあ、それはどうしてでしょうか。 もしかしてそれは、賞味期限がギリギリの卵でしたか? 「いいえ、そうじゃないの。その卵達にはね、小さな子どもが詰っ ていたの。十人いても十円の価値にさえ満たない子どもたちが、高 く高く、いっぱいパックにされて、特売品売り場の卵コーナーに、 積み上げられていたのよ」 ええ! じゃあ、この家には他に買われてきたはずの、あと僕の 九人の兄弟がいることになります。僕の名前が『ジュウ太』ですか ら、『イチ子』とか『ゴ郎』とかがいるはずじゃありませんか。 ねえ、お母さん、嘘でしょうその話。だって、そんな子どもたち、 この家にはいないじゃありませんか。 「嘘じゃないの、本当よ。だってお母さん、あのとき全然気付かな かったんだもの。こんな 可愛い子が卵の中に詰っていたなんて。 だからね他は九人とも、……おいしいゆで卵にしちゃったの」 ――そうだったのですか。僕は貰われっこだったのですね。 ところで、僕はどうしてこんなにヌメヌメなのでしょう。ちょっ とヌメヌメしすぎです。ねえ、お母さん、僕はどうしてこんなにヌ メヌメしてしまうんだと思いますか。まるでサトイモのようです。 どうしてなんでしょうか。
「お前も来いよ。オレ達で新しい世界を生きようじゃないか」 信じられなかった。三日前に自殺した哲也が目の前にいたのだ。目 の前にいるのだが、どこか存在がぼやけて見えた。 「オレはおまえからみれば死んだ。だが今もこうして存在している。 死ぬことは消える事じゃないんだ。」 目の前にいるのは確かに哲也だった。なのに、僕は恐怖していた。 心のどこかで僕は哲也を否定していたんだ。 「オレが怖いのか?慧一。それはおまえにとってオレが人間とは違 う存在だからだ。獣が人間に恐怖するのに似ている。」 哲也は1人、何かに酔う様に語りだした。 「死ぬことは消える事じゃない。新しい世界への第一歩だったんだ。 昔、魚が陸に上がり、新しい世界を手に入れた。そして、人間も新 しい世界を手に入れられるのだ。魚にとって魚が陸に上がることは 死を意味する。陸に上がった魚を見て他の魚はなんて思ったとおも う? 勇気のある魚だと思っただろうか? 違うな、バカにしたん だ。『わざわ死にに行った』ってね。お前は自殺した俺をどう思っ た? 」 「て、哲也は死んだんだ。いるわけがない!!」 僕はどなった。頭のどこかがおかしくなっている。ここはどこだ? 今自分がどこにいるのかが分からなくなっていた。 「僕は存在しているんだ。慧一の知らない世界で・・・」 哲也は僕をさとす様な、優しい口調で話し始めた。 「分かりやすく言えば、幽霊になったんだ。幽霊は新しい生き物だ ったんだ。魚は進化し、陸を手に入れた。鳥は空を、ほ乳類は大地 を………、君たち人間には、もう新しい世界や進化の余地は無いと 思っていないだろうか? 人間は完璧な生き物だと錯覚していない だろうか? まだあったんだ。君たちが進むべき道が、体を捨て、 心だけになることだ。精神生命体とでも言おうか」 哲也は1人で興奮していた。どこか、哲也から悪意が感じられた。 「じゃあ何か?哲也はオレに死ねっていうのか。お断りだ、僕はま だ死にたくない、僕はまだ生きたいんだ。」 体の中から異物が感じられる。この場所から逃げたかった。なのに、 今だここがどこか理解できないでいた。意識は気持ち悪いくらいは っきりしているのに、だ。だが哲也以外がぼやけてみえるのだ。 「最初から答えは決まっていたんだ、旅立つことに………」 「哲………、何を………」 …………………………新しい世界へ…………………
「好きです!」 そう書いた手紙をあの人に渡した。 その日からずっとドキドキしていた。あの人からの返事が来るの が待ちどおしくてたまらなかった。 そして、手紙が届いた。ただ一言「ごめん」と書いてあった。 初めての恋は終わった。 でも、好きという気持ちは変わらなかった。変えることは出来な かった。 あの人と一緒に恋は出来なかった。でも、好きという気持ちだけ は持っていられる。だから、好きでいようと思った。ずっと好きで いようと思った。 でも、そんなことは出来なかった。あの人を見るたび好きという 気持ちがあふれ出しそうになった。だから、好きという気持ちを消 した。そうじゃない、消そうと思っただけ。 その後、表面上は好きという気持ちを消した。ただ、心の奥底に は持っていた。嘘という箱を幾重にも重ねて。 恋人もできた。もう、あの人のことを考えることはないと思って いた。でも、ある時気づいた。自分があの人という鏡に反射してい る恋人を見てるということを。 その事に気づいてしまった後はその恋人とも長続きしなかった。 なぜなら自分は、恋人ではなく自分自身が作り上げたあの人と恋を しているって気づいたから。 恋人のことを好きだと思うのに、恋人の様々な行動をあの人に重 ねていた。 あの人はこんな事をしない。あの人なら、きっとこうしてくれる。 あの人なら、きっと出来たはず。あの人なら、あの人なら………。 自分は、あの人を好きだという気持ちからのがれる事が出来てい なかった。心の奥のあの箱から…………。 結局、好きという気持ちは嘘という箱を幾重にも幾重にも上に重 ねていっても駄目だと思った。好きという気持ちは消そうと思って も消せないと思った。 好きという気持ちは消せない。 やっとそう気づいた時、好きという気持ちは変わった。 その後、あの人への手紙を書いた。 「好きでした」 たった一言、そう書いた手紙を。
小さい頃好きだったもの。白いワンピースに麦藁帽子。そして、 白い翼を両肩に持ったカゴの中の小さな友達。 夏の真ん中の日。海へ出る、アスファルトの、緩い下り坂。頬を 擦り抜けてゆく風は湿って熱く、微かに潮を含んでいた。もうすぐ 海。カモメがゆらゆらと空気の波に乗って私の行く先へ滑ってゆく。 私が少ない日数の夏休みを削って、こんな辺鄙なところへ来たの には訳がある。私は約束をしていた。十年前に『十年後に合いまし ょう』と言われた。それ以外のことは覚えていない。相手が誰かも。 あの夏は、あの十年前の夏はよく覚えている。私の大切な友達が 死んでしまったから。田舎に馴染めず、友達もできなかった私の唯 一の話相手。真っ白な羽の小鳥に「ぴーこちゃん」と名前を付けて 飼っていた。 大人は、そうすれば私が信じると思ったのだろうか、私に死体を 埋めて来いと命じた。泣きながら、その鳥を埋めるためにこの坂道 を下った。あの後、きちんと埋めたかどうかは……よく覚えていな い。 約束は、確かその時にしたのだ。そんなことをつらつら考えなが ら自転車を漕いでいたその時 「ぴーこちゃん?」 白い羽の鳥だった。私のすぐ横を、潮風に両翼をいっぱいに広げ て海の方向へ飛んでいく。 海への坂道と白い鳥のイメージが重なってデジャヴュを覚えた。 約束は、確か、その時に、したのだ…… 『ぴーこちゃんをかえしてほしい?』 「……? だってぴーこちゃんは……」 好きだった白いワンピース。 『ぴーこちゃんはあなたにあいたがっているわ』 「あなたは…….?」 波打ち際を飛ぶ白い鳥。 『やくそくしましょ。じゅうねんごにここで』 「ここで……ここで。」 あの暑い夏の日。 ああ、あれは……あの約束をしたのはわたしだ。 わたしは私に約束した。 ぴーこちゃんを返してあげるって。 あんまりにも悲しくて、私はあそこへ、あの海へわたしを置いて きたんだ。 約束をはたさなければ。わたしとの約束をはたさなければ。ぴー こちゃんを返してもらうんだ。 海へ続く坂道。濃緑。入道雲。蝉の声。陽炎のたつアスファルト。 きっと、わたしは準備をして待っている。あの海で待っている。 砂浜へと変わる。焼けた砂がサンダルを脱いだ足を浸すのもかま わずに走ってゆく。 陽炎の向こう、ブランクの彼方、あの暑い夏の日の、朧げな約束。 真っ白な少女が波打ち際に立っていた。 あれは――十年前のわたしだ。
朝6時。こんな時間に起きてしまった自分を呪いながら、ストー ブを付けるために居間へと向かう。ストーブを付け、カーテンを開 けると、外は白一色に包まれていた。大抵の日が氷点下の故郷なら ともかく、この地では非常に珍しいことだった。 「……寒いわけだ」 心底嫌そうに毒づく。と、その時、電話の呼び出し音が聞こえて きた。 「もしもし」 「あ、宏昌くん? 佐賀ですけど」 宏昌は一瞬考えたが、すぐに相手のことを思い出した。 「なんだよ、こんな早くに」 今日は日曜日。いつもならまだ寝ている時間だ。 「外見た? 雪だよ、雪!」 宏昌は再び窓の外に目を向ける。相変わらず、目に飛び込んでく るのは白い景色だけだ。 「で?」 さめた口調で答える。 宏昌は雪が好きではない。 「遊びに行こうよ。せっかく雪が降ったんだし」 それとは正反対に、彼女の言葉は弾んでいる。 「こんな寒い日にか? せっかく誘ってくれるんなら別な日にしろ よ」 「だって……」 歯切れの悪い返事。少しためらった後、彼女は再び話し始めた。 「私、雪を見るのが好きなんだもん」 「寒いだけじゃねえか」 またしても反論する宏昌だったが、彼女はクスクスと笑うと、優 しい口調で語りかけた。 「あのね……、たぶんまだ言ってなかったと思うけど私、北海道で 生まれたんだ」 「……ふーん」 素っ気なく答えた宏昌だったが、少し動揺していた。 「想像できないかもしれないけどさ、冬になると道路から雪が消え る日なんて滅多にないんだ。それこそ、嫌いになるくらいに」 わかるさ、と喉まで出かかったところで必死に止めた。 「嫌いにならなかったのか?」 その質問を予期していたかのように、すぐに答える。 「辛いなって思ったことはあるよ」 少しの沈黙の後、だから……、と続けた。 「雪を見てそのころのことを思い出すんだ。そうすれば、また今年 一年頑張ろうって気になれるから」 宏昌はその言葉を聞くと、戸棚から一冊のアルバムを取りだした。 そして、少し微笑む。 「どうしたの?」 佐賀が、訝しげに尋ねた。 「いいぜ」 「え?」 だから、と言う言葉を溜息と一緒に吐き出す。 「遊びに行こう」 「……うん!」 待ち合わせの時間を決めると、電話を切った。 「……なんで、オーケーしたかな」 少しあきれたように呟いた。しかし、彼の顔には微かな笑顔が覗 いていた。 ふと、先程出した写真が目に入り、そっと指でなぞる。その写真 には、笑顔で雪山を登る少年の姿が写っていた。
僕にはつき合っている人がいた。 いた、と言うからには過去形で、つまりはそういうことだ。 彼女の名前は椎名唯と言う。 告白したのは僕で、別れを言い渡したのも僕だった。 別れた理由は些細なことだった。喧嘩したのは覚えているが原因 は思い出せない。今思えばあの醜い言い争いの疲れが、僕に別れて もいいと思わせたのだった。 僕の唯への想いが本物だったのか、今ではよく解らない。 唯と別れてから、一週間ほど経ったある日。僕らのクラスは、来 週に迫った体育祭でやるダンスの練習を運動場でしていた。 空は既に朱に染まっている。 練習自体は暗くなるまで続くだろうが、僕らはそのとき休憩中だ った。僕は座って、友達と喋っていた。 だが、そうしているうちにも、僕の眼は習慣となったその行動を 無意識のうちに実行していた。 僕の眼は片思い時代から、暇さえあれば唯の姿を探していた。い つも見ていた。もう関係がないはずの今でも、眼は無意識のうちに 唯を追っかけている。 レーダーのようにあたりを見渡し、目的の人物を見つける。 いた! 唯だ。 自分でも馬鹿だなと思ったときだ。ふと、唯と眼があった。 彼女はすぅ、と薄く微笑んだ。とてもキレイだった。 瞬間――僕の瞳から熱いものがこぼれる。 「お、おい?」 驚いた友達の声がする。無理もない。 何で……いったい何で泣いているんだ僕は? ――はやく、涙を止めなきゃ。 だけど止まらない。 視界の真ん中で唯の姿がぼやけてゆく。思考の奥の奥がちりちり と痛んだ。 どれだけ唯のことが好きだったのか。自分にとって彼女がどれだ け大切な人だったのか――全て思い出してゆく。 全部好きだった。 何故ああも簡単に別れることができたのだろう。何故あのとき涙 がでなかったのだろう。何故今頃僕は泣くのだろう。 様々な疑問と想いが、頭の中で渦巻いてゆく。 「近すぎて見えないこともある。 離れてから解ることもある」 頭の中の冷静な部分がそう言っている。 僕は彼女が本当に好きだったのだ…… 涙は止まらなかった。視界はぼやけたままだった。唯はどこだ? 誰も見えない。誰もいない。僕は独りだった。
闇の中、随身、牛飼、網代車が続く。春になったばかりのまだ冷え る夜である。大柄な男に抱きかかえられるようにして、女は座って いた。怪訝な面持ちであった。武骨そうな男は気付いていないよう である。そのこと自体、女には不満である。実際、「恋仲」だと思っ ているのは男の方だけなのだ。 辻にさしかかったときである。突然、物怪が躍り出た。暴れる牛も 随身も牛飼もばくりと一呑みにされた。物怪は男もまた一呑みにす る。男の烏帽子が吸い込まれるように物怪の足元の闇と同化した。 破れた車から女が出てきた。鮮やかな紅色の袿を被き、凛と立って いる。西に傾いた三日月が仄かに女を闇に浮かび上がらせていた。 「女、怖いか」 地響きのような声。物怪は口から随身の太刀をつまみ出した。 「怖いか。俺はお前の男を喰ろうたぞ。お前も喰ろうてやろうか」 物怪は女に再度問いかけ、にたりと牙を剥き出した。女は怯えも取 り乱しもせず、眼前に迫る物怪をじっと見ていた。 「別にお前なぞ怖くはない。この男も、そろそろと思うていたとこ ろ。……同じことぞ。妾とて、な」 その赤い小さな口唇が動いた。 「女、お前はこの男を好いておらなんだのか」 毛むくじゃらの手で腹をさする。女は月を仰ぎ、静かに言った。 「所詮は戯れ言よの。そうよな、自分で自分に呪をかけたのよ」 「呪……。呪とな」 物怪は小さく繰り返した。牙の間から生臭いにおいが漏れる。遠方 から烏の啼くのが聞こえた。 「下手物も良いかもしれぬと思うたがの。好いておるやもしれぬと 思うた時に、呪にかかってしもうたのよ」 しばしの沈黙の後、女は言った。また烏のが聞こえた。近づいてき ているようである。 「結局、一人よりもまし。その程度じゃ」 女はふふっと口元だけ笑った。そして被いていた紅色のをばさりと 物怪に投げつけ、幾ばくか自嘲気味に言った。 「妾は誰も愛してはおらぬ。愛せぬのじゃ。つまらぬ女なのじゃ」 春の夜の細やかな空気が女の頬を撫でる。物怪を迎え入れるように、 女はゆっくりと両手を広げた。そして女は高らかに言った。髪が揺 れる。 「物怪よ、存分に喰うがよいぞ。陀羅尼なぞ携えておらぬ故、安心 おし」 「はははは。面白い奴よの。実に面白い」 満足気に喉を鳴らした。そして、確かめるように物怪は言った。 「女、お前は今ここで俺に喰われるよりも、これからを生きていく ことの方が怖いのだな」 女は答えなかった。もうすぐ、月が沈む。
作品受け付け12月10日〜1月31日
作品発表と感想票受け付け2月1日〜2月28日
投票結果発表3月10日
第2回学生(高校生の部)1000字小説チャンピオンは
彩さん作
『物怪と女』に決定しました!!
彩さん、おめでとう。
心より感動の拍手を贈ります。
●物怪と女(彩)
●卵の中の罠(アタモ ミリヲ)
●価値観(どんぐり)
●新しい世界へ(トト♂)
●箱(青葉大地)
●夏鳥幻想譚(佐伯維端)
●涙(SO-SUKE)
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