第4回高校生1000字小説バトル
Entry11
人類は上昇気流にでも乗ったかのようだった。 数々の難病の治療法が発見され、国どうしのごたごたも消えうせ、 各国の景気はよすぎるくらいだ。 それだけならいいが最近どうもおかしい。 上昇気流にのったのはいいが、高度を上げすぎではないだろうか。 そのことに気がついたのはひとりの坊やだった。この坊やは目に 見えないなにかを見ることができる能力があるらしい。 坊やの父親、母親、友達、学校の先生。みんながみんな調子がい い。運がありすぎる。これだけじゃない。最近、人の失敗談たるも のを聞かない。そうすると、成功者ばかりなのである。ニュースも 変だ。毎日、炭酸の抜けたジュースのように、甘く、穏やかで、刺 激の少ない話題ばかりだ。 坊やは知っていた。個人差はあるものの、人がこの世に生まれて から死ぬまで、使える運の量は決まっている。 すると、人類全員が運気を上昇させたのにはなにかがあるんだ。 なにかが。 例えば――。 ある日の夕方。 坊やは遠足用のリュックの中に食料をつめこんで、庭で飼ってい る犬の頭をひとなでして、家を出た。 その時も、母は言った。 「あら、どこに行くの?気をつけてね。まぁ、事故に遭う可能性 も変な事件に巻き込まれる可能性も、今の時代じゃありえないから ねぇ」 坊やは街を見下ろせる小高い丘に上り、近くの岩に腰を降ろした。 街は、夜のひとときを迎えいれようとしていた。家々の窓に夕日 のオレンジが反射し、坊やにはきれいに見えた。 「僕の考えが正しければ……」 その時、青白い光を放つ円盤が群れをつくり、夕焼けの空を一瞬 にして覆い尽くした。 街の人たちは、窓から、庭先から、その円盤を見上げていた。き っと穏やかな表情で「どこの店のPRかしら」などとでも言ってるの だろう。 その数々の円盤の底から、テニスボールくらいの円球がぱらぱら と落ちてきた。 それが地面に落ちた瞬間、耳を突き破るような轟音と共に、あち こちで夕日と違ったオレンジ色の火柱が立っていた。 そして坊やの住んでいた街は一瞬にして……。 坊やは、廃墟となった街を見下ろし、坊やなりにこぶしを強く握 り、そのあと声を立てずに泣いた。
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