第4回高校生1000字小説バトル
Entry2
親父は相変わらずどうしようもない。母ちゃんが死んでから、更 に情けなくなったみたいだけれど…その前もきっと変わらなかった んだろうね。 話を聞かなくてもそんなの十分想像できる。情けないね。 それなのに、じいちゃん。何にも言わない。情けない息子に何も 言わない。それって見捨ててるってことでしょう? あたし、思わ ず訊いたわ。 じいちゃんは笑って言った。いいや、これでも頼りにしているの だがなぁ…。 なにそれ。あたし、呆れて物も言えなかった。どうしてそんなこ と言えるの? あのどこから観察しても、他のお宅のお父様方を並 べても、底辺で笑って手を振りながら胡座をかいてそうな親父。そ れが頼りになる? ねえ、じいちゃん。それって気のせい。絶対、気のせい。だって あの親父だもん。 じいちゃんは笑うばかりで、それからはもう何も言ってくれなか った。立ち上がって、どこかに行ってしまった。そして別にやるこ とのないあたしは、誰もいなくなった畳の部屋に寝転んだ。 畳はもう随分日に焼けてしまっていて、黄色い。数年前の大晦日、 こうしていたときの緑色の匂いを、仄かにだけれど思い出した。あ の時は確か、親父がおせちをひっくり返して、ばあちゃんと母ちゃ んに怒られてたんだよなぁ…とか。 「ばっかみたい」 つい口に出た。いや、もしかしたら意識してのことかもしれない。 でも、それ以上言葉は出なかった。部屋は、庭から直接やって来 る風の通り道となっただけになった。風はあたしを申し訳程度に撫 でただけで、じいちゃんが出て行った襖の向こうへと流れてゆく。 静かになった。 あたしは目を閉じた。なにやらの鳴き声、なにやらの香り。ささ やかな木と風の呟き。あたしはただ、耳をいつも以上に立てていた。 …明日香さん、今日も美紀は僕を情けないって言ってる。だめだ ね、あなたにも散々言われてきたのにねえ…。 そうそう、明日香さんの好きな花、ここに置いておくよ。今日買 ってきたばかりなんだ。それとこっちのは…お義母さんが持ってき てくださった。同じ花。…飛び出したとはいえ、君のことはやっぱ り、ご両親が一番知っているんだよ。 お義父さんにちゃんと言ったよ。明日香さんは僕ができる限り幸 せにしました、でも亡くなってしまった。だから、それ以上に美紀 を大切に、幸せにするつもりです、って。 お義父さん…ありがとう…だって。 「ばっかみたい」 つい口に出た。いや、もしかしたら意識してのことかもしれなか った…。
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