第4回高校生1000字小説バトル
Entry3
男の前に男が立っている。正確には、腹部に銃弾を受けた男を 黒服の男が見下ろしている、というべきか。 面識がないが、黒服の男が何者かくらいは男には容易に 想像がついた。 「……お迎え、か?」 「はい」 仮面のような笑みを顔に貼り付けて、黒服がうなずいた。 男の人生は、一言で言えば最低の人生だった。 物心ついたときにはすでに孤児院の中に入っていた。 男にしょっちゅうイタズラをした孤児院の職員に よれば、雪の降る凍えるような日に孤児院の前に 捨てられていたそうだ。 もう少し見つかるのが遅ければ死んでいたらしい。 そっちのほうが良かった、と男は常々考えた。 孤児院を出てからは何でもやった。生きるために。 殺人、強盗、売春、麻薬の売人…… およそ犯罪と名のつくことなら何でも。 そして、今この状況に至ったわけだ。 強盗に入った先の店主の撃った銃弾は正確に 男のへそのよこにもう一つ、穴をあけた。 「まあ、なんでもいいや......早く連れてってくれ」 「私どもは直接手を下せないのです。あなたが絶命するのを 待たなくては、連れて行くことはできません」 「……なあ、地獄って、本当にあるのか?」 「はい」 「やっぱ俺、そこに行くのかな?」 「いえ」 「……?何故だ?俺は今まで数え切れないほどの 悪行をこなしてきたんだぞ?」 黒服の表情は変わらない。 「定員オーバーなのですよ」 「……なに?」 「すでに地獄には罪人があふれ返っておりまして。 我々の規定する地獄行きの罪人があまりにも多すぎまして、 予約待ちの状態なのです。予約する人などいませんけど。 あなたはこの後輪廻に従い、猫に転生する予定です」 男は呆気に取られた。 そして、人生で最初で最後の、心からの笑みをもらした。 ……猫か。悪くない、な。 眠りに落ちる安らぎの中で、男はそう思った。
![]()
◆QBOOKSに掲載の記事・写真・作品・画像等の無断転載を禁止します。
◆投稿された各作品・画像等の著作権は、それぞれの作者に帰属します。出版権はQBOOKSのQ書房が優先するものとします。
◆リンク類は編集上予告なくはずす場合がありますのでご了承ください。