第5回高校生1000字小説バトル
Entry8
『後の世も共に』 『……はい、必ずや会いに参ります』 僕は夢をみた。なぜあんな夢を見たのかは今もわからない。そこ は悲恋の場所といわれ悲しげに蛾が舞っていた。 一組の男女が一本の樹の前に立っていた。辺りはもう真っ暗で月 明かりすら飲み込まれてしまいそうだ。虫の鳴き声があたりに響き 静けさをよりいっそう際立てていた。 「信利さま」 女が信利と呼んだ男を不安げに見上げた。 「大丈夫だ、小夜。大丈夫だから」 信利はそういって小夜をぐっと抱き寄せた。信利の言葉はある意味 自分に言い聞かせているものでもあった。 「私達、一緒に極楽に行けましょうか……? 」 小夜はその態勢のまま小さくいった。信利の答えはない。それが小 夜の心をより不安にさせる。 「ああ、もし行けなくとも後の世で必ず会おう」 信利は微笑みながら彼女にいった。 彼の顔と言葉に小夜は穏やかな気持ちになっていくのを感じた。 やはり、この人が好き―― 改めて知る自分の感情。 私は信利さまと共にここで果てよう……。 二人は高く聳え立つ木を見上げこれからの運命を願わずにはいられ なかった。そして二人の命は静かに消えおちた。 ――暗転―― 一匹の蛾がひらひら目のまえで飛び回っている。その様子は不安定 であっという間に息絶えてしまいそうなものだった。 不思議だ……、虫なんて見るのも嫌ってぐらい嫌いなのになぜか今 は嫌悪感がない。 「どうしたの、とても悲しそう」 自然に言葉が口をついて出てきた。 虫が答えるわけないか―― 蛾は大木の枝に静かに降り立った。 次の瞬間、僕は我が目を疑った。蛾の姿が一瞬かすんで見えたかと 思うと人の形に重なって見える。 <私はずっと待っている、あの御方を> 声が頭のなかにずんっと響く。その声には聞き覚えがあった。小夜 だ。 「信利……を? 君達は出会えなかったの? 」 <はい、御仏は私達を引き合わせては下さらなかった> 彼女の言葉には深い深い思いが眠っていた。 <いえ、もしかしたらそれが正しいのかもしれませぬ。死は何も生 まない、誰かを悲しませるだけだった> 「今の姿は転生した姿なの? 」 蛾は羽を風にふかれるままなびかせた。 <これは罰です。己の犯した罪をこの姿をもって償っているのだと 思っております> 「……」 <姿が似ていようとも、所詮、私は蝶にはなれない……> 彼女は今も待っている。自身が信じ、慕う彼を。そして僕も信じ ていた。いつか彼女を蝶に変身させる者が現れると。
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