第5回高校生1000字小説バトル
Entry9
「本当に欲しかったのは世界なんかじゃなかったんだ。」 薄れいく意識の中で魔王が囁いた。私は戦いに敗れた。後は死を待 つばかりだった。 「……本当に欲しかったのは、君と共有する時間だったんだ。」 そう呟いて魔王は仮面をはずした。仮面の下には私と同い年程度の 少年の顔があった。私は夢を見ているのだろうか? 今まで命がけ で闘っていた魔王が、こんな少年だったなんて。魔王は、横たわる 私の側まで歩み寄ると、膝をつきそっと私にキスをした。 「………何すんのよ。」 最後の力を……本当に最後の力を振り絞って私は、叫ぼうとした。 リーン、リーン、リーン……… 耳鳴りがする。もう長くは無いようだ。 (あぁ、もうすぐ死ぬのね。) 感情が高ぶるだけの元気も無く、静かに自分の死を認めていた。魔 王と見詰め合ったまま。なぜか魔王の目は潤んでいる。 (リーン、リーン、リーン………君の事…リーン、リーン、ほんと うに……して…リーン、リーン) 魔王が何か話したような気がするが私には聞き取れなかった。最後 に、頬に僅かな感触を感じながら、私は…・…・…・…。 リーン、リーン、リーン、リーン、リーン、リーン。 死んだ……。 リーン、リーン、リーン、リーン、リーン、リーン、リーン、リー ン………… 「うぅん…。」 目覚し時計の音で目を覚ました。はっきりいって目覚めは最悪だ。 「ふぅ、何が悲しくて勇者になった夢を見るかな? しかも魔王に 負けるし……。どうせならお姫様になって王子様に助けてもらいた かったわ。」 すでに夏休みに入って数日。どうでもいい時間にセットした目覚ま しで目を覚まし、私の一日が始まる。 唇に、魔王のキスの感触と、まだ渇かぬ涙のあとを残して。
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