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第6回高校生1000字小説バトル
Entry1

真夏の夜の雪

作者 : 葉月 涙[ハヅキ ルイ]
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文字数 : 974
 何処だろう?バスルームからかそれともキッチンからか……蛇口
から滴り落ちる雫の音さえ耳に残る静かな夜。僕は今日も眠れずに
ベッドでただ寝返りを打っていた。

 窓をノックする音が聞こえる。ベッドから躰を起こすと月明かり
の中、窓にシルエットが濃く映っていた。それを待っていたかのよ
うにベッドを降りて窓を開けると、青白い月に照らされて、透き通
るように白いスピカの顔がいたずらっぽく微笑んでいた。

 「いいものが見れるよ」

 裸足のまま、露に濡れて黒々と光る柔らかい草を踏み進む。昼と
は別世界の森の中をゆくと、徐々に月の光さえ届かなくなってくる。
暫くすると小さな沼が眼前に見えてきた。近づこうとする僕を制す
と、彼は沼の向こうを指差す。その先を目で追うと、無数の緑青色
を帯びた光がゆっくりと飛び交っていた。
「蛍だ」
その光は微妙に強まったり弱まったりを繰り返しながら、沼の周り
を泳いでいるように見える。
「座れよ」
スピカの声ではっと我に返り、彼の隣に腰を下ろした。じっと蛍の
群を見つめる彼を横目に、何か話掛ける言葉を探そうとした。けれ
どそれは結局徒労に終わった。光が一つ、二つと増えてゆく。それ
を眺めるだけで十分だったんだ。

 暫くして、ふと彼の口からこんな言葉が零れた。
「蛍ってさ…真夏に降る雪…みたいだよね」
怪訝な顔をする僕を見て取り、彼はこう続ける。
「蛍ってそう長くは生きられないんだ、それに雪も手にすればすぐ
に溶けてしまう……」
少しの間、沈黙が僕達を包んだ。その間にも、音もなく蛍はだんだ
んとその数を増してゆく。
そして、その輝きに少し目を細めながら彼はゆっくりと口を開いた。
「生命って、すごく壊れやすいものなんだよ。けど……」
「なに?」
ちょっと俯いて、目を伏せた横顔に問いかける。
「ううん。……なんでもない」
そう言って彼は微笑うと、スッと立ち上がり向こう岸を見つめて
「帰ろうか」
とだけ言った。

途切れた言葉の続きが、僕には解った。
『けど……だからこそその輝きは何より綺麗で、貴重なんだよ』

 帰り道。暗い森からぬけると、僕よりも歩くのが速いスピカの背
中を、月が照らしていた。
「もう……死ぬなんて言うなよ」
「うん……」
彼の真っ白いシャツがぼやけて見えなかった。思わず空を見上げる
と、白みがかった群青色の雲が西へと流れていた。

 この小さな小さな命の灯火を、胸に燈そうと思える夜だった。






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