第6回高校生1000字小説バトル
Entry5
孝志は走った。家まで続く直線を。とにかく急がなければならな かった。ランドセルを家へ投げ捨てるように置くと、すぐさま出て 行く。これが日常になっていた。 「孝志、早く帰ってくるのよ」 「は〜い」 孝志は母の問いかけに生返事をし、急いで自転車に向かって駆けて いく。自転車を勢い良く……一踏みした。 風はいつものように心地よく吹いている。空は、目の奥が痛むよう な青空で孝志を高揚へといざなった。 ……目的地に着いた。自転車はブレーキをきしませた。 そこは、普通の草原だった。その普通の草原には一本の大木がいつ ものように立っていた。 そして、いつものように声が聞こえる。 「孝志。遅い。なにやってたんだよ」 「ごめんごめん」 孝志も笑いながらいつものように答えた。 空が赤く染まる。孝志にとってこの時間が一番嫌いだった。帰ら なければならない。 「あと一週間もあれば完成だな。順一」 「おう」 「あとさ。看板ほしいね。」 「おっ、それいいな」 孝志たちは、長くなった大木の影を見ながらいろいろな事を話し、 共有しあった。そう……それは秘密基地と共に……。 時に……運命は残酷になる。 その日、孝志が帰ると珍しく父親が早く帰ってきていた。 そして、「引っ越す事になった」と告げた。 孝志にとって、最もつらい言葉だった。 「どうしてだよ! なんで行っちまうんだ」 順一の声がローカに響き渡る。 「……」 孝志は無言のまま、うつむいた。 いつまでも続くような無音の時間……。 それに耐えかね、順一は「もういい……」と呟き、行ってしまった。 出発の日、孝志をあざ笑うかのようにその日もいつものように青 空だった。 全てが家の中から無くなり、床の傷だけがむなしく残っていた。 車に乗り込む。……その時だった。 順一が息を荒立たせながら走ってきた。 そして一言だけ……そう、一言だけ孝志に言った。 「いつまでも……いつものように待ってるからな」 そう言うと車の中へ木切れを投げ込み、去っていった。 「いつものようにか……」 「……行き、まもなく出発します」 アナウンスが空港内に響き渡る。ロビーには一人の青年が立ってい た。 「……行くか」 青年は一言呟くと歩き出した。 持っていた木切れをもう一度、握り締めながら……。
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