第6回高校生1000字小説バトル
Entry6
放心状態の祖父に一応声をかけた。 「じーちゃん、2階で本読んでくるね」 やはり祖父は気付かなかった。祖父はこんな時が多い。縁側に座 り、考え込んだふりをしている。空を見てるのか、庭の木を見てい るのか。全くの謎である。 −私はくされガキと共に生きてきた。青春も朱夏もすべて。たぶん これからも…… 「くされガキ」その本を読もうとした理由は題にある。ガキとは 餓鬼なのか。それともカキに濁点が付いたのか。 題で中身がわかる本は駄作だ。そんな思想をもつ祖父の家には、 変な題の本ばかりある。それがうつったのか、僕も題で本を選ぶよ うになった。作者はどうでも良い。題名良ければ全て良し。 −結婚の時もくされガキに頼った。恋に関するくされガキが一番精 気を要する。少なくとも私は、それが損だとは思わない。 しかし、人の中で最も大切な心を操るのだ。それだけの代償で済 むはずがなかった…… くされガキとはつまり腐れ柿のことであった。呪いをかけられた 柿のことをくされガキといい、様々な種類のくされガキを解説する のが、この本であった。 −二人目の子を産んだ後、妻はこの世を去った。退院直後、交通事 故に巻き込まれたのだ。 もう二度とくされガキは使うまい、と決心した。もちろん決心だ けで終わった。私にとってそれは、親友との縁を切るのと等しかっ た…… 題通り作者も変なのか。いや、くさっている。初めて作者という ものが気になった。 いかにも自費出版といった体のその本を、裏返し表紙を見たが作 者名がない。 それは最後のページに書いてあった。猫に追いつめられた鼠に似 ていた。…若尾功……祖父の名前だ。……確かに僕には祖母がいな い。 −自然のまま、つまり何の細工もせず、柿の実を百日間木に付けっ ぱなしにする。そうすると、くされガキのくされを取ることができ るらしい。私は試したことがないので詳しくわからない。今ある柿 だけに有効なのか、過去の柿にも作用するのか。そして結果はどう なるのか…… 階段の途中の窓から下を見た。祖父の視線の先は、やはり柿の木 だった。てっぺんになった赤い柿。 くされを取る法とは祖父の作り話かも知れない。他に助かる道が ないから? 「じーちゃん。あの柿食べよ。てっぺんになった赤い柿……」 僕の呟きは秋の風にむなしく響いた。
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