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第6回高校生1000字小説バトル
Entry6

くされ

作者 : Began
Website :
文字数 : 970
  放心状態の祖父に一応声をかけた。
「じーちゃん、2階で本読んでくるね」
 やはり祖父は気付かなかった。祖父はこんな時が多い。縁側に座
り、考え込んだふりをしている。空を見てるのか、庭の木を見てい
るのか。全くの謎である。

−私はくされガキと共に生きてきた。青春も朱夏もすべて。たぶん
これからも……

 「くされガキ」その本を読もうとした理由は題にある。ガキとは
餓鬼なのか。それともカキに濁点が付いたのか。
 題で中身がわかる本は駄作だ。そんな思想をもつ祖父の家には、
変な題の本ばかりある。それがうつったのか、僕も題で本を選ぶよ
うになった。作者はどうでも良い。題名良ければ全て良し。

−結婚の時もくされガキに頼った。恋に関するくされガキが一番精
気を要する。少なくとも私は、それが損だとは思わない。
 しかし、人の中で最も大切な心を操るのだ。それだけの代償で済
むはずがなかった……

 くされガキとはつまり腐れ柿のことであった。呪いをかけられた
柿のことをくされガキといい、様々な種類のくされガキを解説する
のが、この本であった。

−二人目の子を産んだ後、妻はこの世を去った。退院直後、交通事
故に巻き込まれたのだ。
 もう二度とくされガキは使うまい、と決心した。もちろん決心だ
けで終わった。私にとってそれは、親友との縁を切るのと等しかっ
た……

 題通り作者も変なのか。いや、くさっている。初めて作者という
ものが気になった。
 いかにも自費出版といった体のその本を、裏返し表紙を見たが作
者名がない。
 それは最後のページに書いてあった。猫に追いつめられた鼠に似
ていた。…若尾功……祖父の名前だ。……確かに僕には祖母がいな
い。

−自然のまま、つまり何の細工もせず、柿の実を百日間木に付けっ
ぱなしにする。そうすると、くされガキのくされを取ることができ
るらしい。私は試したことがないので詳しくわからない。今ある柿
だけに有効なのか、過去の柿にも作用するのか。そして結果はどう
なるのか……

 階段の途中の窓から下を見た。祖父の視線の先は、やはり柿の木
だった。てっぺんになった赤い柿。
 くされを取る法とは祖父の作り話かも知れない。他に助かる道が
ないから?

 「じーちゃん。あの柿食べよ。てっぺんになった赤い柿……」
 僕の呟きは秋の風にむなしく響いた。






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