第7回高校生1000字小説バトル
Entry3
夢魔ヶ洞と言うところがあって、そこの闇に沈んだ壁面を懐中電 灯のいかにも心もとない明かりで照らすと、ほぼ球状をしているド ームの内側にはびっしりとアヴェスタが刻み込まれている事を僕は いつしか知り得た。その時、確かに彼女も一緒に居たのだと僕は信 じている。 ジャバウォッキが現われる事は無かったけれど、確かにそこは未 定義のなんとも言えぬ空気が漂っていて、僕は僕の夢でもって自分 の位置を見出す事に必死だった。それを止めてしまえば、思いつく 限り遠方に転移してしまうので。 念剣士である僕は夢魔を斬らなければならなかった。僕は念剣士 であるからだ。他に理由は無かった。ただ夢魔を斬る事によって自 分はより自分になると僕は信じていた。僕は同じ中等部剣術科の連 中の中でも一番の実力を持っていた事は事実だ。自信はあった。 「良い場所ね、ここ」 ぽつりと彼女は言った。僕には全然そうは思えなかったけれど、ど こか燐光を放っているアヴェスタを見上げて彼女は穏やかに微笑ん でいた。その横顔は僕には一瞬だけれど天使にも見えた。 ぐわりと存在が揺れるとやがて異形が現われた。岩肌のような表 面に三本の足があり、透明の羽をしていて口は背と腹にそれぞれひ とつずつ、針の山のような歯を中で蠢かせていて、赤い息と緑の息 を交互に吐き出していた。頭とおぼしき岩石状の突起には場違いな 金色の王冠を被り、全体として山のようになだらかな斜面だった。 情報がいっぺんに精神に流れ込み、僕は吐き気を催す。 克服されるべき夢魔が現われると、僕は剣を抜いた。最早校内で は及ぶものもいない、神速の斬り付け。夢魔の足は二本に減った。 奇怪な叫び声を上げて、退却する夢魔。疾風で僕は追撃を掛け、袈 裟の軌跡に尻尾は砕けた。 「やつの頭が見える? あそこがきっと弱点よ」 僕は岩肌の地面を蹴って、跳んだ。浮かび流れるアヴェスタは星み たいだった。 王冠ごと頭部を両断すると、再びあたりは闇に沈んで、雫ばかり 岩肌に共鳴した。アヴェスタの光は落ちて、溢れるばかりの言語力 学作用は消え失せ、僕は平静を取り戻した。 「電灯を貸してくれないか」 地面にゆっくりと楕円の光を走らせると、窪みに地下水が溜まっ ている辺りに一人の男の屍骸があった。剣を右手に握り締め、うつ ぶせに、向こう向きに。 夢魔は克服されるべきだった。父は、斬殺されるべきだった。僕 は、そう信じるべきだった。
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