第7回高校生1000字小説バトル
Entry4
酷く寒い日。私は夕方になるまで学校に居た。 冬に茜色に染まる校舎は、どうしてあんなに淋しげなのだろう。赤 く染まっている筈なのに、白く抜いたみたいに寒々しい。 その日、刃物を向けてきた女は、私に笑顔で服を脱ぐ事を強要した のだ。 白い指が私の肌を滑る前に、物音に驚いて女は逃げたのだけれど、 そんな物騒な物を構えなくても私は動いたりしなかったのに。白く 鈍く光る包丁が怖かったからじゃない。少しでも動いたら凍えそう な気がして、私は動かなかったんだ。 白い細い指の女の爪には、真っ赤なエナメルが塗ってあって、暗い 裏路地では貼り付いた様にそれだけ色があった。 私は家路を急いだ。いつもと同じ笑顔で迎えてくれる母親にいつも と同じように。別に、言う必要なんて、無い。 次の日も寒かった。私はまた茜色になるまで学校に居た。 心なしか夕日が早く落ちた。黒が、早く来た。 母親は、玉葱を買ってきてと私を夜に追い出した。 色んな家から漏れてくる光は、世界に色を添えているのでは無くて、 ただ白く切り取ったように黒を無くすだけ。あの女の人のエナメル の方がずっと綺麗だった。だってあれはきちんと色が世界に出てい たもの。 不意に目の前に気配がした。ぎらりと光る目。 猫だった。 びくんと身体が震えた。目が合って、今考えていた事が解ってしま ったみたいに。直ぐに落ち着いて、怯えた猫を諭すように鼠鳴きを して近づいた。猫は身を翻して行ってしまう、道路を横切って。 黒を切り裂いて白い帯が生まれた。道路をよぎろうした猫を容赦な くトラックが踏み潰した。あの大きなタイヤに引き込まれるように、 猫は飲まれていった。 踏み潰された後の猫からは赤が出ていた。でも、赤いエナメルみた いに綺麗に黒に映えない。夜の黒を益々黒く汚くしただけなのだ。 汚らわしい。 私は足早に立ち去った。早く早く家に戻れればいい。 ビニールから玉葱の独特に匂いがぷんとする。 何故。 何故、あんなにあの猫が汚らわしいと思ったのだろう。汚らわしい のは、私だったのに。 今からでも間に合うと言うかも知れない。 でももう二度とあの場所には戻れない様な気がするのだ。現に私は 家に入れないで居る。 猫はまだそこに居てももう何も有りはしないのだ。 黒が色を濃くしていく。 あのエナメルさえあれば、あの猫だって綺麗に光れたのに。
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