インディーズバトルマガジン QBOOKS

第7回高校生1000字小説バトル全作品・結果一覧


#題名作者文字数
1雨やどりAOI 998
2鍵泥棒 Ruima 993
3夢想現実987
4うたかた隠葉くぬぎ 1000

第7回高校生1000字小説バトル
Entry1

↑TOP

雨やどり

作者 : AOI
Website :
文字数 : 998

 汗が滲んだ背広を肩に背負い、一人の男がとぼとぼと道を歩いて
いる。歳は三十路を越え、その背中には夕刻のためか、もしくは、
そのしわだらけの背広のためか哀愁を漂わせている。
 信次は営業マンだった。

 会社への帰り道。一粒の滴がアスファルトに落ち、そして、染み
込んでいった。その粒がまた一つまた一つと落ちてくる。
 信次は、ちっと軽く舌打ちをしながら、鞄を傘に走り出した。
 雨はどんどん激しくなってくる。しかし、雨やどり出来るところ
はなかなか見つからなかった。やっとの思いで小さな店を見つけ、
そこへ飛び込んだ。

 背広やズボンをハンカチで拭きながら、信次は店内を見渡した。
そこには、昔懐かしい駄菓子がところせましと並べられていた。
「いらっしゃい」
 奥の方からしゃがれた声が聞こえた。信次が声のした方を見ると、
そこには、老婆が立っていた。
 老婆は、丸いすに座り、もう一度いらっしゃいと言った。
 雨はまだ止みそうにもなかった。
 信次は、ラムネを飲みながら、老婆と話しをする事にした。
 ラムネのビー玉を見ると、昔はなかなか買えなかったなと信次は
苦笑した。ラムネのそれを押し、開けた。

 信次は、漁師町の片田舎で生まれ育った。遊び場といえば、海か
駄菓子屋だった。そして、子供たちにとって駄菓子屋の老婆は母親
がわりだった。ある時は怒られ、又、ある時は笑いあった。
 信次たちはそれを求め、毎日の様に通っていたのかもしれない。

 ラムネがこぼれ出す。それを急いで飲み、老婆に話し掛けた。
「珍しいね。こんな店まだあるとは思わなかったよ」
 老婆は、その眼鏡の奥に笑顔をたたえながら
「まあ、年寄りの道楽ですよ」と答えた。
 信次にはその笑顔がとても儚く見えた。

 いつの間にか雨が止んでいた。
「お代はいくら?」
 そう言い財布を出した信次を制し、
「お代はいりません。どうせ今日で店じまいですし……」
 と老婆が答えた。
 そして、「ありがとさんです」と付け加えた。

 信次は、もうなにも言えなかった。
 少し湿っている鞄を持ち、一礼して店を出た。
 信次が店を出たとき、老婆は一言、たった一言口にした。
「頑張りなさいよ。……信ちゃん」
 信次はそう言われ、振り返った。しかし、夕陽の逆光で老婆は見
えなかった。
 唯一見えた店は、色あせた昔の写真のようにセピア色に輝いてい
た。信次は、一つ大きな深呼吸をし、もう振り返らないと心に決め
た。

 水たまりの夕焼けが、信次にはやけに目にしみる夕方だった。

第7回高校生1000字小説バトル
Entry2

↑TOP

鍵泥棒

作者 : Ruima
Website :
文字数 : 993
「ここまで自転車で来たんだ。ほら、その青の」
「へえ、綺麗だね」
「新品だもん……って、あれ?」
「どうしたの?」
「一瞬のうちに盗まれた」
「これ、あんたのじゃないの?」
「違う。鍵だけ無いの……」

「奥さん、どうなさったの? 家の前で」
「鍵を無くしちゃって。娘が持ってるから、待ってれば入れるんで
すけどね」
「大変ね。よろしければ、それまでうちにいらしたら?」
「それじゃあ、お言葉に甘えて」
「……あら? やだ、うちの鍵も無いわ!」

「先週から続いてる鍵盗難、今日だけで17件よ! 一体どうなっ
てるの?」
「これでみんな偶然落としただけ、だったりしたら笑えますね」
「笑えないわよ。金庫の鍵なんかも盗まれてるのに」
「あ、やっぱり?」
「冗談言ってる暇があったら捜査」
「はいはい。でも本当に鍵なんか集めてどうするんでしょうね。鍵
マニア?」
「さあね」
「……あ! 先輩、鍵泥棒ですよ」
「今更何言ってるの? 今からそれを調べに行くのよ?」
「そうじゃなくて、僕も盗まれました。手錠の鍵を」
「……もうあんたは! 何やってるの!」

 少年は家に帰ると、玄関からまっすぐ2階へ駆け上がった。
「お姉ちゃん、ただいま!」
 1番奥の部屋をノックする。返事は無かったが、少年は迷うこと
なく中に入った。
 部屋のベッドでは、17歳くらいの少女が眠っている。横には点
滴が置かれ、その管は青白い少女の腕へと伸びていた。
「今日はこれだけ見つけたよ」
 少年はランドセルを下ろすと、中からいくつもの鍵を取り出し床
に広げた。形も大きさも様々なそれらを、少年は1つずつ順に、見
せるようにして少女の顔の上にかざす。
 少女は眠り続けている。微動だにしない。口元に耳を当てなけれ
ば、呼吸をしているのかも怪しいほど。
『君のお姉ちゃんはね、自分だけの世界にいるんだ』
 最後の鍵を少女の目の前で揺らす。やはり少女が全く反応しない
ことを確認し、少年は溜め息をついた。
「……今日もダメか」
 鍵の山を持ってその部屋を出ると、少年は隣にある自分の部屋へ
入った。ドアの鍵は少年が南京状を改造した物で、彼にしか開けら
れない。
 部屋の壁には、大量の鍵がオーナメントのように掛けられていた。
少年は今日集めた鍵を、新たにそこに鋲で留めていった。

『どうすればお姉ちゃんは帰ってくるの?』
『心の扉を開く鍵が見つかればね』

 最後の1つを留め終えて、少年は呟いた。
「明日もまた、探さなきゃ」

第7回高校生1000字小説バトル
Entry3

↑TOP

夢想現実

作者 : 暁[アカツキ]
Website :
文字数 : 987
 夢魔ヶ洞と言うところがあって、そこの闇に沈んだ壁面を懐中電
灯のいかにも心もとない明かりで照らすと、ほぼ球状をしているド
ームの内側にはびっしりとアヴェスタが刻み込まれている事を僕は
いつしか知り得た。その時、確かに彼女も一緒に居たのだと僕は信
じている。
 ジャバウォッキが現われる事は無かったけれど、確かにそこは未
定義のなんとも言えぬ空気が漂っていて、僕は僕の夢でもって自分
の位置を見出す事に必死だった。それを止めてしまえば、思いつく
限り遠方に転移してしまうので。
 念剣士である僕は夢魔を斬らなければならなかった。僕は念剣士
であるからだ。他に理由は無かった。ただ夢魔を斬る事によって自
分はより自分になると僕は信じていた。僕は同じ中等部剣術科の連
中の中でも一番の実力を持っていた事は事実だ。自信はあった。
「良い場所ね、ここ」
ぽつりと彼女は言った。僕には全然そうは思えなかったけれど、ど
こか燐光を放っているアヴェスタを見上げて彼女は穏やかに微笑ん
でいた。その横顔は僕には一瞬だけれど天使にも見えた。
 ぐわりと存在が揺れるとやがて異形が現われた。岩肌のような表
面に三本の足があり、透明の羽をしていて口は背と腹にそれぞれひ
とつずつ、針の山のような歯を中で蠢かせていて、赤い息と緑の息
を交互に吐き出していた。頭とおぼしき岩石状の突起には場違いな
金色の王冠を被り、全体として山のようになだらかな斜面だった。
情報がいっぺんに精神に流れ込み、僕は吐き気を催す。
 克服されるべき夢魔が現われると、僕は剣を抜いた。最早校内で
は及ぶものもいない、神速の斬り付け。夢魔の足は二本に減った。
奇怪な叫び声を上げて、退却する夢魔。疾風で僕は追撃を掛け、袈
裟の軌跡に尻尾は砕けた。
「やつの頭が見える? あそこがきっと弱点よ」
僕は岩肌の地面を蹴って、跳んだ。浮かび流れるアヴェスタは星み
たいだった。
 王冠ごと頭部を両断すると、再びあたりは闇に沈んで、雫ばかり
岩肌に共鳴した。アヴェスタの光は落ちて、溢れるばかりの言語力
学作用は消え失せ、僕は平静を取り戻した。
「電灯を貸してくれないか」
 地面にゆっくりと楕円の光を走らせると、窪みに地下水が溜まっ
ている辺りに一人の男の屍骸があった。剣を右手に握り締め、うつ
ぶせに、向こう向きに。
 夢魔は克服されるべきだった。父は、斬殺されるべきだった。僕
は、そう信じるべきだった。

第7回高校生1000字小説バトル
Entry4

↑TOP

うたかた

作者 : 隠葉くぬぎ
Website : http://www.geocities.co.jp/Playtown-Denei/1955/
文字数 : 1000
酷く寒い日。私は夕方になるまで学校に居た。
冬に茜色に染まる校舎は、どうしてあんなに淋しげなのだろう。赤
く染まっている筈なのに、白く抜いたみたいに寒々しい。

その日、刃物を向けてきた女は、私に笑顔で服を脱ぐ事を強要した
のだ。

白い指が私の肌を滑る前に、物音に驚いて女は逃げたのだけれど、
そんな物騒な物を構えなくても私は動いたりしなかったのに。白く
鈍く光る包丁が怖かったからじゃない。少しでも動いたら凍えそう
な気がして、私は動かなかったんだ。
白い細い指の女の爪には、真っ赤なエナメルが塗ってあって、暗い
裏路地では貼り付いた様にそれだけ色があった。

私は家路を急いだ。いつもと同じ笑顔で迎えてくれる母親にいつも
と同じように。別に、言う必要なんて、無い。
 
次の日も寒かった。私はまた茜色になるまで学校に居た。
心なしか夕日が早く落ちた。黒が、早く来た。
母親は、玉葱を買ってきてと私を夜に追い出した。
色んな家から漏れてくる光は、世界に色を添えているのでは無くて、
ただ白く切り取ったように黒を無くすだけ。あの女の人のエナメル
の方がずっと綺麗だった。だってあれはきちんと色が世界に出てい
たもの。
不意に目の前に気配がした。ぎらりと光る目。
猫だった。
びくんと身体が震えた。目が合って、今考えていた事が解ってしま
ったみたいに。直ぐに落ち着いて、怯えた猫を諭すように鼠鳴きを
して近づいた。猫は身を翻して行ってしまう、道路を横切って。
黒を切り裂いて白い帯が生まれた。道路をよぎろうした猫を容赦な
くトラックが踏み潰した。あの大きなタイヤに引き込まれるように、
猫は飲まれていった。
踏み潰された後の猫からは赤が出ていた。でも、赤いエナメルみた
いに綺麗に黒に映えない。夜の黒を益々黒く汚くしただけなのだ。
汚らわしい。
私は足早に立ち去った。早く早く家に戻れればいい。
 
ビニールから玉葱の独特に匂いがぷんとする。
何故。
何故、あんなにあの猫が汚らわしいと思ったのだろう。汚らわしい
のは、私だったのに。
今からでも間に合うと言うかも知れない。
でももう二度とあの場所には戻れない様な気がするのだ。現に私は
家に入れないで居る。
猫はまだそこに居てももう何も有りはしないのだ。
黒が色を濃くしていく。
あのエナメルさえあれば、あの猫だって綺麗に光れたのに。

バトル結果

↑TOP

第7回作品受付───11月1日〜11月28日迄
作品発表───12月5日〜
人気投票受付───12月5日〜12月31日迄
結果発表───1月10日



第7回学生1000字バトルチャンピオンはRuimaさん作『鍵泥棒』に決定です。
Ruimaさん、おめでとうございます。



作品
鍵泥棒(Ruima)3
雨やどり(AOI)2
うたかた(隠葉くぬぎ)1


鍵泥棒(Ruima)

雨やどり(AOI)

うたかた(隠葉くぬぎ)



読者の皆さん、感想票ありがとう。次回はより沢山の感想票をいただきたいと、マニエリストQ、切に願っておりますよ。







インディーズバトルマガジン QBOOKS
◆QBOOKSに掲載の記事・写真・作品・画像等の無断転載を禁止します。
◆投稿された各作品・画像等の著作権は、それぞれの作者に帰属します。出版権はQBOOKSのQ書房が優先するものとします。
◆リンク類は編集上予告なくはずす場合がありますのでご了承ください。