第8回高校生1000字小説バトル
Entry4
あの子が立ち上がる音がしました。 「行くわ」 今にも頭がつきそうな低い天井に背をぐっと突き出して、あの子は 決意を眉に固めて言いました。 「そう」 私は短く返します。 「行くわ」 あの子はもう一度繰り返しました。 「花畑を探すの」 あの子は揺るぎ無い声で、しっかりと自分が立ち向かっていく先― 外―を見つめました。 外は吹雪です。もう何年も何年も吹雪です。私がここにいた時から 一度もやんだことがありません。 暖かいのは私達がいるこの小さなかまどの中だけです。そして、こ の大雪原に比べて本当に豆粒のような私達のかまど以外他には何も ありません。ずーっと、ずっーと吹雪です。 でも、あの子は違います。あの子にとってここはずっと続かないの です。 「ここをずーっと、ずっーと、気が遠くなる程いったところに、こ こよりももっともっと広くて奇麗なお花畑があるのよ」 あの子は瞳を輝かせて言います。でも、私は信じません。 それは、あの子の妄想です。あの子がそうだといいなと思っている だけです。 実際のところ、私達はこの雪原を抜け出たことがありません。あの 子は何度も失敗したし、私達の知らないこの先の世界を語る旅人が 訪れたことだって一度もありません。 それはあの子も知っています。わかって言っているのです。 「この先に花畑があるの」 その声に迷いはありません。 想像とは創造です。あの子はそれを信じているのです。気の遠くな るような疑いの果てに、あの子は信じているのです。 私はあの子のようにはなれませんでした。疑念という虚無に意志を 吸い取られた、私は木乃伊です。 「じゃあね」 あの子は別れの言葉を一声残すと、吹きすさぶ雪の中、一歩ずつ踏 みしめていきました。横殴りの雪に紛れて、今にも消え入りそうな あの子の背中を、私は強く見つめ続けました。 私も信じているのです。暖かいかまどの中から。骨と皮だけになっ てしまった今でも。 いえ、今だからこそ。 あの子の創造からなる想像の産物を、私はあの子に依存しながら熱 心に信じているのです。
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