第8回高校生1000字小説バトル
Entry7
ドラゴンは巨体を太いオークの木にもたせかけた。彼女は傷つき、 そして疲れていた。 たくましい右足の付け根はばっくりと裂け、赤い肉が顔をのぞか せている。血はすでに止まっていたが、焼けるような痛みは彼女の 体力をじわじわと吸い取っていた。 来る。夜の空気にはかすかに松明の煙のにおいが混じっていた。 ドラゴンは赤い目を閉じ、深く湿った空気を吸い込んだ。 「ここにいたんですか」鋼鉄の鎧に身を包んだ長身の若い騎士が、 草陰から現れた。長い槍の穂先には新しい血が付いている。黒く光 るドラゴンの血が。騎士はゆっくりとドラゴンに近づいていった。 ドラゴンに触われる距離まで近づくと、騎士は辺りを見回した。誰 もいないことを確認すると、騎士は槍と松明を地面に放り投げて、 腰の小袋から薬草と包帯の束を取り出した。 「良かった……。本当に死んでしまったかと」 「あんたの槍術で死ぬほどヤワじゃないわよ」 ドラゴンは小さな炎を吐きながらニヤリと笑った。「でもちょっ と痛かったかな」 騎士は薬草をドラゴンの傷にのせて包帯をまいた。 「すいません。村の人達が近くで見ていたので、つい力一杯……」 「いいのよ。むしろ今回みたいにやらないと、みんなあたしが死ん だと思わないわよ」 しばらくの間、騎士はドラゴンの治療に専念していたが、やがて ぽつりと言った。 「本当に、こんなことする必要があるんでしょうか」 「んッ?」 「私たちですよ。あなたが村の空を飛んで村人を脅かす。そこに私 がやってきて村人達と一緒にあなたを退治する。こんなお芝居にな んの意味が──」 「あのねぇ」ドラゴンは体を騎士の方に向けた。「私たちのおかげ でみんなは平和なのよ。私っていう『敵』を倒すためにみんなはま とまらなくちゃいけない。実際に今までの全部の村で、私を倒すた めにみんなまとまったじゃない」 「でも、そんなの──」 「もちろん、私だってそのやり方が絶対だとは思ってないわよ。で も、いつか人間も気付くわ。本当の敵は自分自身の中にいるってこ とを、ね。それまで、このお芝居は続くのよ」 「でも……、なんで人間なんかのために? あなたは傷つくだけな のに」 ドラゴンは何か言おうと口を開きかけた。が、首をふってその言 葉を飲み込んだ。 「そんなことより早く逃げましょ。私が生きてることがわかったら、 あんたもただじゃすまないわよ」 騎士はドラゴンにうながされるまま、不満げな顔で翼をよじ登っ て背中にまたがった。背中に騎士の重さを快く感じながらドラゴン は大きな翼を広げた。
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