| # | 題名 | 作者 | 文字数 |
|---|---|---|---|
| 1 | 夜 | 狭宮良 祇簾 | 929 |
| 2 | 逆だ! | 長井創 | 805 |
| 3 | FRIENDS | AOI | 1000 |
| 4 | かまど | 奏筍 | 826 |
| 5 | つばさ雲 ★ | 暁 | 1000 |
| 6 | へびのしっぽに乗る前に | Began | 993 |
| 7 | Dragon Quest | KAZU | 993 |
『貴方はきっと悲しんでいるのね』と彼女は云った。 僕は正直言って、独り言くらいにしかそれをとらえていなかった。 要するに、全く意味のないものだと思っていたのだ。 「如何して僕は悲しんでいるように見えるのかな?」 『どうして?』 彼女は半身を起こして緩りと僕を見た。動物園にいるパンダを見る みたいに。まるで言葉を知らない未開の人のように。 その眼は純粋に不思議がっていた。 『貴方は自分を知らないのよ。悲しんでいるのが、私には分かるの』 ──理由もなく悲しむのは止めなさい 僕は真剣に、本当に真剣に、理由のない悲しみのことを、ひいては この世の全ての理由のない感情のことを考えてみた。 この一生で今迄にあったどんなチャンスよりもずっと、それは真剣 な思考だった。彫刻家ロダンは考える人のその姿について、真実に 深く考えることがあっただろうか。 『理由もなく悲しむことは、自らを卑しめることなのよ』 彼女が悲しんでいるのが、きっと僕には分かるのだ。 理由のない悲しみ。 その夜は明るいベッドライトの下で、昼と同じ顔をしていた。 彼女が悲しんでいるのが、理由などなくただ悲しむために悲しんで いるのが、僕には分かるのだ。 あなたは きっと かなしんでいるのね ……と彼女は云った。 其処には大きくて想像の仕様もないくらいに深い、理由もなくただ 存在するだけの溝がある。 本当に大きくて深い。想像の仕様もないくらいにだ。 僕も彼女も、それを越えることなど出来はしない。 溝の淵は夜を知らないままでそれを越えようとする僕等に、理由の ない幾つかの感情を与える。 それは溝を覗き込む代わりに、長い時間をかけて僕等が編み出した システムなのかも知れなかった。馬鹿みたいに長い時間をかけて。 「そういうものなんだよ」 と僕は言った。自らの言葉は事実を認める。 黙ることで責任を逃れる行為は、何年も前に既に時効になった。 仕方ない。もう皆大人になって仕舞ったのだ。 「そういうものなんだ。どうしたって避けられないし、避けようと 思う方がおかしいんだよ」 彼女の未開の回路は、僕の言葉を聴いただろうか。 何にせよ、其処にはただ存在するだけの越えられない溝があるのだ。 あなたは きっと かなしんでいるのね と彼女は云った。 それはもう過去のことである。
「なんだこりゃ?」 俺は思った。なぜなら俺の畑に(俺は一応農業をやってる)大きな 穴が開いているのだ。 大きさは直径が約1m、深さは大体2、3mって所だった。 昨日は何も無かったはずなのに…。 「参ったなぁ」 誰の悪戯かはわからないが急に腹が立ってきた。 本当にただの穴だがよく見ると奥の方に取っ手のようなものが付い ている。 「なんだってんだ、クソッ!」 誰が聞くともない悪態をついてみた。 だが事態は何も変わらないのだ。俺はなにかしら行動を起こしてみ る事にした。 「とりあえず埋めるか?」 そう思ったがふいにあの取っ手が気になり始めた。人間の欲という ものは始末が悪い、俺はこんな事を考えてしまったのだ、あとで後 悔するとも知らずに…。 「あの取っ手、引いてみるか。なんか埋まってるかもわからないか らな」 だが深さ約3mの穴うかつに潜るほどのバカではない。一旦家に戻 り鉤付きの棒を用意することにした。 翌日俺は例の穴のそばに例の棒を持って立っていた。 はたから見てると訳がわからないだろうが俺は速やかに棒を穴の中 に突っ込んだ。 満身の力を込めて引っ張る…ほどでもなかった。取っ手はスルスル と俺の足元まで上がってきた。 ここでわかったのは取っ手の下には金属製の蓋がついていることだ った。 「本当に訳がわからん」 妙だったのは足元まできたその蓋が押しても引いてもビクともしな いことだった。 仕方が無いので上から土をかぶせて何も無かったようにするしか俺 には出来なかった。 その夜俺はTVのニュースを見て仰天した。内容はこうだった。 「こちら東京湾沿岸です!現在何らかの原因による急激な海面の上 昇により日本列島の周囲一帯が水浸しになっています!このため付 近の住民は避難を始めていますが死者、行方不明者ともますます増 える…」 俺は叫んでいた。 「違う!逆だ!海が上がったんじゃない!日本が、日本が沈んだん だ!」 原因はわかりきっていた。 知っていましたか?海面が2m上がる、または日本が2mほど沈む だけで日本の沿岸部に壊滅的な水害が発生するんですよ。
「夢を諦め、生きる屍になるより、夢を貫き生きた、死人に俺はな りたい」と健司は熱く語った。 「はっ、くさいくさい」といつもの調子で萩原は茶化した。 「なんだと!」 健司は憤慨し、萩原を追い駆けた。 そして、またかという言葉と共に僕はため息をついた。 健司は身軽な萩原に追い着けるはずも無く、終には膝に手をついた。 そして息を切らしながら、萩原に向かって叫んだ。 「夢はあきらめなきゃ、いつか叶うんだ!」 帰る二人を見送ると、ふと、あの時の事を思い出した。 それは、半年前の冬の事。 ……「ごめんなさい」 そう言い残し、去っていく女の子を見送りながら、健司は笑顔を張 り付かせていた。 「まあ、こんな事も有るよ」 僕の慰めも耳に入らないほど、健司は落胆していた。 ため息の数もやたらと多い。 急に、萩原は健司にこう言い放った。 「ばっかじゃねーの!何時までもめそめそしやがって!」 健司は怒りを押さえ切れず、殴りかかった。 鈍い音が路地に響く。 僕は、何故か違和感を感じた。 萩原がわざと殴られたように見えたから。 それから、二人は暫く殴り続けた。 「…どうだ。すっきりしたろ」 腫れた頬をさすりながら、萩原が呟いた。 「ふん」 そう言った健司の顔は晴れ渡っていた。 「まったく、無茶する奴等だ」 僕は空に向かって、呆れ顔でそう言った…… 二人を見送り、僕は踵を返した。 ふと見た空には、飛行機雲が長い尾を引いていた。 そして、月日は流れ、現実の厳しさが、僕ら三人の前に立ちはだ かった。 何とか就職が決まった僕と萩原は、大学を目指す健司の合格発表を 見に行ったのだった。 『2034』。 その番号は無かった。僕らは、ただ無言で歩くしかなかった。 その状況を壊すかの様に萩原が誰に言うとも無く呟いた。 「夢はあきらめなきゃ、いつか叶うんだろ?」と。 「人間、越えられない壁がある」 健司は力なく答える。 「越えられなきゃ、ぶち抜けばいいだろ」 その言葉を聞くと僕はなぜか無性に叫びたくなった。 「くっそーー!!」 それに続いて二人も叫ぶ。 「くっそーー!!」 数日後、健司は来年再び挑戦することを決めた。 …別れの日。 「がんばって来い!」 健司はそう言うと、僕らの背中をドンと押した。 萩原と僕は苦笑いを浮かべ、「おう」と頷いた。 そして、それぞれ別方向へと歩き出した。 後ろを振り返ると、二人の背中がやけに遠くに見えた。 「変わらなきゃな…」 僕はそう呟くと、荷物を持ち直し、再び……歩き出した。
あの子が立ち上がる音がしました。 「行くわ」 今にも頭がつきそうな低い天井に背をぐっと突き出して、あの子は 決意を眉に固めて言いました。 「そう」 私は短く返します。 「行くわ」 あの子はもう一度繰り返しました。 「花畑を探すの」 あの子は揺るぎ無い声で、しっかりと自分が立ち向かっていく先― 外―を見つめました。 外は吹雪です。もう何年も何年も吹雪です。私がここにいた時から 一度もやんだことがありません。 暖かいのは私達がいるこの小さなかまどの中だけです。そして、こ の大雪原に比べて本当に豆粒のような私達のかまど以外他には何も ありません。ずーっと、ずっーと吹雪です。 でも、あの子は違います。あの子にとってここはずっと続かないの です。 「ここをずーっと、ずっーと、気が遠くなる程いったところに、こ こよりももっともっと広くて奇麗なお花畑があるのよ」 あの子は瞳を輝かせて言います。でも、私は信じません。 それは、あの子の妄想です。あの子がそうだといいなと思っている だけです。 実際のところ、私達はこの雪原を抜け出たことがありません。あの 子は何度も失敗したし、私達の知らないこの先の世界を語る旅人が 訪れたことだって一度もありません。 それはあの子も知っています。わかって言っているのです。 「この先に花畑があるの」 その声に迷いはありません。 想像とは創造です。あの子はそれを信じているのです。気の遠くな るような疑いの果てに、あの子は信じているのです。 私はあの子のようにはなれませんでした。疑念という虚無に意志を 吸い取られた、私は木乃伊です。 「じゃあね」 あの子は別れの言葉を一声残すと、吹きすさぶ雪の中、一歩ずつ踏 みしめていきました。横殴りの雪に紛れて、今にも消え入りそうな あの子の背中を、私は強く見つめ続けました。 私も信じているのです。暖かいかまどの中から。骨と皮だけになっ てしまった今でも。 いえ、今だからこそ。 あの子の創造からなる想像の産物を、私はあの子に依存しながら熱 心に信じているのです。
「母さんは……去年死んだ」 何年も連絡を取らずにいて、そして何の前触れもなく帰ってきた俺 に、父は独り呟くように言った。 振り向くと、もう戸の隙間からは父の背中しか見えなかった。 戸が、遠慮がちに閉まる。 俺は動けなくなっていた。 母が、死んだ。 気がついた時には、俺は薄暗い部屋で寝転がっていた。 母がいないこの家が信じられなかった。 目の前のものが皆空々しく、虚しい。 俺の精神は、まるで母の後を追って死んでしまったかのようだっ た。それはそれで良いかもしれない。その誘惑をはね付けるのは、 苦痛以外の何ものでもなかった。 だが、確かめたい事があった。 二階の南側の窓辺だ。母がいつもいた場所は。小柄な身体に似合 わない大きな椅子に腰掛け、いつも窓の外ばかり眺めていた姿が、 今でも鮮明に浮かんでくる。 母は、一体何を見ていたのだろうか。 それだけが、母が俺に残した唯一の暗号のような気がした。 この部屋の時間は凍りついていたようだった。しかし主を失った 椅子の背もたれは、その骨格のような影を床に落としていた。 椅子に座ると、窓際に置かれた光沢のある、小さな木製の箱に、 目がとまった。 手にとって蓋を開いてみると、中に納められた金色の円筒がゆっ くりと回り出し、そして、和音を奏でた。 オルゴールだった。母の物なのだろう。 一つ一つの和音は連なって、奏でられては消え、消えてはまた次 の音色が奏でられ、それはひとつの音楽となった。優しく、どこか 寂しさを秘めた旋律。 その時だった。 窓の外の世界が、あまりにも突然、俺の眼前に広がったのは。 小高い山の稜線に掛かった淡い雲が、沈みかけた陽に今にも溶け 出しそうだ。 夕凪に波打つ麦の大地がずっと続いている。 緩やかに弧を描いて飛ぶ鴉たち。 幼かった時とはまるで違っているようで、しかし変わらない風景 が、そこにあった。 俺はオルゴールの蓋を閉じ、元の場所に慎重に戻した。それが涙 で濡れるのを恐れて。 これはきっと、母の掛けた魔法なのだ。 三日後、俺は身支度を整えて、玄関の外に立っていた。 悲しみは、あの時の涙に流れ落ちてしまった。 寂しさは、胸の奥底で俺を揺り動かしていた。 朝靄に霞む地平と、あの小箱が奏でた音楽だけが、俺にとって大 事なものなのだ。 一対の筋雲が、地平線に大きく神々しく翼を広げているのが見え た。 母の旅立った先を信じられるような、そんな雲だった。
「今世紀もよろしく」とだけ書いてあった。差出人は不明、宛名さ え書いていない。おそらく郵便受けに直接入れられたのだろう。 妙なことに、その年賀状は他の年賀状と一緒に束ねられていた。 他の、宛名を書いたまともな年賀状と一緒に。 さらに、それはお年玉付き年賀はがきで、2等に当選した。 我が家では2等は初めてのことなので、年賀状の不審さも忘れ、 素直に喜んだ。母などは、幸運の神様がくれたのだと言い、額に入 れ飾る始末だった。 早く賞品に換えようと言っても、母は頑としてきかなかった。賞 品では額に入らない、と。 「かぁ〜のッ」 なるべく明るく、そしてなれなれしく言った。 友達と歩いていた佳乃は振り向くと、あからさまに顔を歪めた。 あのストレートな性格が好きだったのだが、今は少しつらかった。 去年の11月、僕は彼女にふられた。僕はただ、彼女の演劇部に 対し、冗談を交えて個人的意見を言っただけなのだが、彼女の性格 はそれを許さなかった。クラスが違うおかげで、彼女とは今まで一 度も会わなかった。会いたい気持ちはあったのだが、どうにも勇気 が出せなかった。 「今、ちょっといいかな?」 掠れた声になってしまった。 ふっと、あの年賀状が頭に浮かんできた。 「別に、よりを戻してほしいなんて、思ってないから。ちょっと、 話だけ」 ごめん、嘘。できたらまたつき合って。 彼女は少しためらった後、友達に何か言い、僕の前へ来た。 「何?」 彼女の友達が去っていくのを見ながら、僕はこう言った。 「謝りたくて」 言いながら、ある考えが浮かんだ。 あの年賀状は佳乃がくれたのではないか。「今世紀もよろしく」 とは「ずっと一緒に」というメッセージでは? 彼女の目がそれを否定していた。全く笑っていない。怒っている のでもなく、悲しんでいるのでもなく、緊張しているような。ある 意味、最悪な状況だ。 「ごめん」 佳乃に伝わっただろうか。確かめることもできず、僕はずっとう つむいていた。 やっと勇気が出た時、もう佳乃はいなかった。 しかしなんだか、すっきりした気分だった。 その夜、家でひと騒動起こった。例の年賀状が消えてしまったの だ。 新世紀早々運が消えるなんて、と母は今も必死に探している。 あれは、20世紀の罪悪感が僕に送ったのではないか。僕はむし ろこう思う。だって、運がなくなってこんなに気分がいい分けない。 僕は罪悪感から解放されたのだ。 それは、「幸運の2等」より素晴らしいだろう?
ドラゴンは巨体を太いオークの木にもたせかけた。彼女は傷つき、 そして疲れていた。 たくましい右足の付け根はばっくりと裂け、赤い肉が顔をのぞか せている。血はすでに止まっていたが、焼けるような痛みは彼女の 体力をじわじわと吸い取っていた。 来る。夜の空気にはかすかに松明の煙のにおいが混じっていた。 ドラゴンは赤い目を閉じ、深く湿った空気を吸い込んだ。 「ここにいたんですか」鋼鉄の鎧に身を包んだ長身の若い騎士が、 草陰から現れた。長い槍の穂先には新しい血が付いている。黒く光 るドラゴンの血が。騎士はゆっくりとドラゴンに近づいていった。 ドラゴンに触われる距離まで近づくと、騎士は辺りを見回した。誰 もいないことを確認すると、騎士は槍と松明を地面に放り投げて、 腰の小袋から薬草と包帯の束を取り出した。 「良かった……。本当に死んでしまったかと」 「あんたの槍術で死ぬほどヤワじゃないわよ」 ドラゴンは小さな炎を吐きながらニヤリと笑った。「でもちょっ と痛かったかな」 騎士は薬草をドラゴンの傷にのせて包帯をまいた。 「すいません。村の人達が近くで見ていたので、つい力一杯……」 「いいのよ。むしろ今回みたいにやらないと、みんなあたしが死ん だと思わないわよ」 しばらくの間、騎士はドラゴンの治療に専念していたが、やがて ぽつりと言った。 「本当に、こんなことする必要があるんでしょうか」 「んッ?」 「私たちですよ。あなたが村の空を飛んで村人を脅かす。そこに私 がやってきて村人達と一緒にあなたを退治する。こんなお芝居にな んの意味が──」 「あのねぇ」ドラゴンは体を騎士の方に向けた。「私たちのおかげ でみんなは平和なのよ。私っていう『敵』を倒すためにみんなはま とまらなくちゃいけない。実際に今までの全部の村で、私を倒すた めにみんなまとまったじゃない」 「でも、そんなの──」 「もちろん、私だってそのやり方が絶対だとは思ってないわよ。で も、いつか人間も気付くわ。本当の敵は自分自身の中にいるってこ とを、ね。それまで、このお芝居は続くのよ」 「でも……、なんで人間なんかのために? あなたは傷つくだけな のに」 ドラゴンは何か言おうと口を開きかけた。が、首をふってその言 葉を飲み込んだ。 「そんなことより早く逃げましょ。私が生きてることがわかったら、 あんたもただじゃすまないわよ」 騎士はドラゴンにうながされるまま、不満げな顔で翼をよじ登っ て背中にまたがった。背中に騎士の重さを快く感じながらドラゴン は大きな翼を広げた。
作品受付───1月28日(〆切りました)
作品発表───2月1日〜
感想票受付──2月1日〜〜2月25日迄
結果発表中!!───3月6日
第6回高校生1000字バトルチャンピオンは、
『つばさ雲』暁さん作に決定しました。
暁さん、おめでとうございます。
票を得た人、そうでない人、次回も頑張りましょう。
| 作品 | 票 |
|---|---|
| つばさ雲(暁) | 3 |
| かまど(奏筍) | 2 |
| へびのしっぽに乗る前に(Began) | 1 |
| 該当者なし | 1 |
●つばさ雲(暁)
●かまど(奏筍)
●へびのしっぽに乗る前に(Began)
●該当者なし
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