第9回高校生1000字小説バトル
Entry6
「イヌ」が鳴く。 Drは振り向きもしない。 Drは「イヌ」に象徴される、現代の科学者達が嫌いだ。若い科 学者連中は知りもしない歴史を盾に、思考力を持つ「ロボット」を 恥と見なす。 考えるロボットの存在が、人類にどれ程の恐怖を与えたか、それ はDrも認めざるを得ない歴史だ。だがしかし…… 今から約二百年前、俗に言う"ハルマゲドン計画"戦争があった。 その時の恐怖の大王が思考型ロボットである。 事件の発端は、ある新興宗教が造り出したロボットだ。リーダー たる素質、カリスマ性、それに相応しい力、全てを有して誕生した そのロボットに、世界中のロボットが従った。 ロボットは団結する事を知り、そこから生まれる強さを覚えた。 強さはプライドとなり、独立への力となった。 殺傷能力のあるロボットは人間を殺し、他のロボットは聖地へと 集まった。計り知れないその大軍。 その時、大国の首脳達がうち立てたのがハルマゲドン計画である。 彼らはコンピューターネットワーク上に嘘の情報を流した。曰く「宇 宙から巨大飛行物体接近」。ネットワークを誠と見なすその時代、人 間もロボットも全てそれを信じた。 人類が大混乱する一方、ロボットは冷静に処理した。戦闘ロボッ トは巨大物体を迎撃に、それ以外は宇宙へと旅立った。 あっけない終焉だった。ロボット達は宇宙で燃料が尽きた。 ロボットとは言え、その住処は地球しかない。かつて人間がした 過ちを、ロボットは死をもって知らされたのだった。 人類は深く悔い、思考ロボットを禁止する条約を発効した。 「だがしかし、タイムマシンの完成は、思考ロボットなしではあり 得ないんだ」 どんな高性能なマシンでも、人間が操縦する限り、微少でも誤差 を生ずる。過去から戻ってくる際、何万分の一でもずれれば、それ は現在ではない。一方通行の旅となり、帰ってこれないのだ。 だからこそ、時間移動の危険を十分に知りながら、しかしその 迷いは持たない、正確な思考ロボットが必要なのだ。 Drがタイムマシンを作る目的は、人類の成長を止めるに至った、 あの条約を消し去ること。 しかしそれには思考ロボットが必要だ。 悲しくも強固な連鎖である。 ──反省とは、未来の責任を負うことでもある。見栄や気分で決め ていいものではない。 Drが椅子から立ち上がる。その音を敏感に聞き取ったイヌはヤ サシク鳴いて近寄り、ヌクミを発したその尾を振った。
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