「はい、岩崎ですが」 リョウのお母さんの声…。やっぱり恥ずかしいな…。やっとのこ とで覚悟を決めた のに、いざとなると、心臓が叫びはじめる。「無理だよ、リョウに は彼女がいるん だ」って…。 「あ、え…っと、リョウくんは…」 「あぁ、お待ちください」 受話器の向こうで、リョウの名前が呼ばれる。でもリョウは、私 からの電話だとい うことは知らない。予想もしていないはず…。 「…もしもし」 「あ、ちわーす !」 少し声が裏返ってしまった。でも、もうあともどりはできない。 私は言葉を続け る。今まで秘めてきた、この想いを伝えるため…。 「ごめ〜ん、 いきなり電話し て。ちょっとね…」 はにかんだ笑顔を浮かべる私。無意味な笑顔。リョウには見えて いない。私にも、 リョウが一体どんな表情で電話に出ているのか、見えるはずなどな いのだから…。 「あ〜…、う…、ん、えっとね…」 頑張れ、朝美、しっかり… !心の中で、自分にエールを送る。し かし、ここで頑張 らなければならないのは、他の誰でもなく、自分自身なのだ。…で も、言葉が上手く まとまらない…。 「…リョウ、森沢さんにコクられたんだって ?」 私の口調は、こころなしか、リョウに対する冷やかしのようであ った。私が言いた いのは、そんなことじゃない… ! 「…うるせーよ、バーカッ」 眠たそうな声で、リョウは笑いながら言った。 「………」 やっぱりダメだ…。言葉が続いてくれない。声が震えないように 保つことで、も う、精一杯なのだ。リョウ、何か言って、お願い…。 イブの夜だというのに、神様は、私の願いをあっけなく無視して しまった。二人の 間に流れる沈黙は、外の空気よりも冷たい…。 ただ、私の身体だけが熱い…。 「…てゆ〜か、ね…。何が言いたいか、わかる… ?」 「…何となく…」 リョウの声は、私の中に重く流れ込んだ。きっと、迷惑に思って いる。そう、本当 は言うべきじゃないのかもしれない。何度も言う機会を逃して、森 沢さんに先を越さ れて、その関係を壊すかのように、想いを伝えるなんて…。後悔し か残らない告白な んて… ! 「…まぁ、ずっと好きだったわけなんだけど…。森沢さんのことを 聞いて、なんてい うか、言っておこうかな…って思って」 私はまた笑った。くもった窓をこすってみると、頬に涙を伝わせ ている私が、ぼんやりと映っていた。
「宝石商」 そう書かれたガラス製のドア越しに、莉亜は店内を覗いた。古び たショーケースの中で色とりどりの宝石が輝いている。視線を動か し店員を探す。レジの前に、何かに熱中している青年。彼一人しか いないようだった。 いける、と確信しドアを押した。カランコロン、と軽やかな音が 狭い店内に響く。 「いらっしゃい」 青年は一瞬顔を上げ莉亜の方を見たが、すぐにまた視線を手元に 落とした。莉亜にとっては都合がいいのだが、あまりの無用心さに 思わず呆れる。だが、油断は禁物だ。青年を横目で見つつ、音をた てずにショーケースを開け、値段が高い物を選んでいくつか掴み取 る。それからまたケースを閉め、宝石をポケットに押し込んだ。 ここまで済めばもう用はない。あとは気づかれないうちに逃げる だけだ。莉亜はケースに背を向け、早足で出口へと向かった。 そして、ドアに手を掛け、成功に安堵した瞬間。 「あんた、ポケットの物、出しな」 びくりとして振り向くと、青年が意地の悪そうな笑みを浮かべ、 莉亜の方を見ていた。その右手には、鈍く光る銀色のハサミ。 「おとなしく出せば、警察には連絡しないでやるよ」 脅迫、か。 莉亜はおとなしくポケットの中身をレジの横にあけた。 「いつ気づいたの?」 「入って来た瞬間。金持ちでさえ高い買い物は控えるこのご時世、 あんたみたいなガキが宝石屋に入る理由なんて一つしかない」 「なのに気づかない振りしてたんだ。ずるい」 莉亜は頬を膨らませた。青年は笑っている。 「にしても、ずいぶんと素直に渡してくれたな」 「……ハサミ見せて脅されたら、従うしかないじゃない」 「は?」 青年はその言葉で初めてハサミの存在を思い出したらしい。右手 に視線をやり、声を出して笑いだした。莉亜はますますむっとする。 「その鋭さなら、人を殺せるわよ」 「あのなあ、ハサミは人を傷つけるための物じゃないの」 青年はようやく笑いやむと、一枚の紙を莉亜の方に放り投げた。 「ハサミは紙を切るのに使うんだよ」 それは蝶の形に切り取られていた。。美しい羽を持つ、白い蝶。 悔しいけれど、綺麗だと思った。 「ねえ、あなた、誰?」 莉亜は蝶を見つめたまま尋ねた。 「ただの店番」 青年は指をパチン、と鳴らした。 とたんに莉亜の手の中の蝶が羽を動かし始める。 「嘘つき。……魔法使い?」 「いや」 手のひらから蝶が離れる。 「紙切屋、さ」 蝶は二人の頭上をひらひらと舞った。
作品受け付け12月10日〜3月8日
作品発表と投票受け付け3月9日〜3月31日
投票結果発表4月7日
第1回学生(中学生の部)1000字小説チャンピオンは
松山愛媛さん作
『my regret』に決定しました!!
松山愛媛さん、おめでとう。
心より感動の拍手を贈ります。
●my regret(松山愛媛)
●紙切屋(Ruima)
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