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第3回中学生1000字小説バトル
Entry1

春の終わりに

作者 : 蒼倉宏明 [あおくらひろあき]
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 葉桜が目につき、夏の暖かい風を全身で感じた。空を見上げても
なかなか快晴が望めない。ただ、雨の繰り返しだった。
いつもと同じ、なんら変わることのない毎日。無表情な時の流れ。
そしてあっという間に過ぎ去って行く日々。
 刺激が欲しいわけではない。どうにかして、今の生活を変えたい
とも微塵も思わない。ごく、普通の時間を普通に過ごせればそれで
良かった。なにもするわけではなく、記憶の何処かに置き忘れたギ
ターを横目に、机に向かって無気力な時を、まったりとした時間に
費やす。
 読書も長続きせず、本棚に無造作に散らかっている。買ったばか
りの携帯も、充電器に入れたまま放ってある。
 聞き飽きた音楽をMDで繰り返し聞くだけで、流行歌を買うこと
もない。
 結局、何も無かった。ただ、生きているだけである。
 そうこうしているうちに、既に日は暮れ、住宅街には静寂が訪れ
る。
 また、近所の犬の遠吠えがする。救急車のサイレンに併せて犬の
声も高鳴る。
 …サイレン?
 それは確かにここに向かっていた。着々と、それでいて堂々とし
た唸りをあげて。

 気が付くと、全身が熱を帯びて、熱くなっていた。むせるような
臭いが鼻につき、肺の中にまで一気に広がる。
 苦しい。
 堰を切るようにして、その場に倒れ込んだ。焼けるような熱さは、
いつの間にか苦しさを共合わなくなった。体が消滅していくのだろ
うか?
 ああ、死ぬんだ。そう思っただけだった。それでも、心臓が突き
刺さるほど痛かった。
 後悔というものを思い知った。
 下の階から誰かの悲鳴が聞こえる。幼い弟だろうか?彼も無気力
に死んでいくのだろう。無性に悲しかった。涙が溢れ出る。自分が
死ぬことよりも、大切な誰かが死ぬことの方が怖かった。誰かが助
けてくれるなら、まだ小学生になったばかりの無邪気な弟を救って
欲しかった。
 泣き声はもう、しない。後は炎の悲鳴だけだった。


 その2年後、僕らは墓参りに行った。小鳥の囀りが耳につく。
 2年前に死んだ、父親と母親が眠っている墓。僕らはそっと、手
を合わせた。
 幼い弟は車椅子の上で、必死に拝んでいた。僕も、目をつぶって、
祈りを捧げる。

 これからの人生を、無駄なく生きて行こうと思う。今までの埋め
合わせとして。尊い命の失われた価値は取り戻せないだろうが。
 そして、なにより僕は、強く生きていこうと思った。弟のために
も、僕自身の為にも。
 空は青く、澄み渡っている。
 見渡す限りの快晴が、目に透き通っていった。






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