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第5回中学生1000字小説バトル
Entry1

ミルク

作者 : 望月 翼
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文字数 : 994
 3時半。今日は“ちょっとした”用事があって急いで帰らなけれ
ばいけなかった。下履きを取り出し、地面に叩きつける。そしてそ
れとともに走り出す……はずだったのだが、走り出す瞬間誰かに呼
び止められたことに気づいた。
 心の中で愚痴を漏らしながら辺りを見回す。視界の中に見慣れた
顔が映る。
「蘭、どうしたんだよ?」
 俺が蘭に近づく。蘭は顔を紅潮させていた。別に幼馴染にそこま
で紅くする必要はないのだが……
 俺の胸に手紙が押し付けられた。
「こ、これ。読んでね」
「ああ」
 俺はそれだけを言い残しきびすを返した。
「待って」
 蘭が俺の腕を無理矢理掴んだ。いきなりの出来事に俺は驚いた。
「何だよ?」
 今ほど蘭を邪魔臭く思ったことはなかった。そのせいか言葉遣い
が荒くなっていた。
「それ……今すぐ読んでくれない?」
「今日は忙しいから返事は明日渡すな?」
 蘭は僕の腕を掴んだまま首を横に振った。
「お願い。今、読んで」
 なぜか蘭の瞳は潤んでいた。
 手紙には1行しか書かれていなかった。

『好きです  蘭』

 僕はしばらくして目線を蘭に移した。僕らは何も言うことができ
ないまま黙っていた。
 10分くらいしただろうか? それまで僕は何も言わなかった。
“用事”なんて忘れてしまっていた。何を言うべきかはわかってい
る。ただ、なぜか口からその言葉が出て行かなかった。
 いや、出てくるはずがなかった。あの人には言える言葉を蘭には
言えないのだ。
 僕は何も言わず蘭をきつく抱きしめた。蘭は抵抗するどころか僕
の背中に腕を回してきた。僕は更にきつく抱き締める。
 周りからの野次も僕たちの耳には入らなかった。
 優しく蘭の顔を引き寄せ、唇を合わせる。 
 ほのかなミルクの香りが僕を撫でた。

『Can you love me ?』
 彼女の質問に僕は当然のように『yes』と答えた。
 今日のメールはたった1行だけ書かれていた。
『You are a liar』と……
 そう僕は大ウソツキだ。僕は『彼女』に恋していたのではなく
『生徒と教師』という愛に恋していたのだから……
 僕は蘭の携帯にメールを送った。
『Can you love me?』
 心の中で誰かが囁いた。
「Can I love her?」
 僕の心が甘いミルクに包まれた。






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