第1回学生課題小説バトル
Entry1
夏祭りの夜。屋台の並ぶ商店街から離れた川沿いの土手に、僕は 立っていた。約束は8時、花火の始まる時間。腕時計の長針はまだ 10の所だ。早かったかな。そう思っていると、浴衣姿の紺野が僕 を見つけ駆け寄って来た。 「ごめんね、澤田。呼び出したりなんかして」 「ううん。どうしたんだ? 突然」 「私ね、澤田のことが好き」 一瞬、時間が止まった。どうしよう。何か言わなくては。焦るほ ど言葉が見つからない。悩む僕に、紺野は真顔を崩して笑いかけた。 「いいよ、答えてくれなくて。澤田、スズカのこと好きなんでしょ?」 「……ごめん」 「謝らないでよ。わかってたけど、どうしても言っておきたかった だけだから」 ドーン! 夜空に1発目の花火が上がった。 「ねえ澤田。この花火が終わるまでだけ、恋人してよ」 「でも……」 「フリでいいから。お願い」 笑顔の紺野の瞳が妙に真剣に見えて、僕は頷いた。 「いいよ」 それから僕達は、手を繋いで花火を見た。 「綺麗だね」 「うん。でも悲しい。華やかだけど、すぐに消えちゃう」 紺野が妙に寂しそうだったから、僕は懸命に言葉を捜した。 「けど花火は消えてもさ、2人でこうして見た思い出は一生モノだ ろ?」 「スズカとじゃなくても?」 「今はおまえが恋人だろ、ナオ」 初めて呼んだ名前。紺野は答えの代わりに僕の肩に頬を寄せてき た。 「ありがとう」 「今日はつき合わせてごめんね。楽しかったよ」 「うん、僕も」 それから彼女は僕に背を向け、肩越しに笑って言った。 「じゃあね。バイバイ!」 駆けて行く紺野は、暗闇に溶ける様に見えなくなる。何故か、紺 野が本当にどこかに消えてしまうような気がした。休みが明ければ また学校で会えるはずなのに。 家に帰ると、母が慌てて居間から飛び出してきた。 「ケンタ、同じクラスの紺野さん! 夕方、交通事故に遭って亡く なったって!」 え? 嘘だ。そんなはずない。だって、それじゃあ僕とさっきま で一緒にいたのは、一体誰だったって言うんだ? 『澤田!』 紺野の笑顔が、声が、頭の中いっぱいに広がって。僕は思わず玄 関の真ん中にしゃがみこんだ。涙が溢れ出た。 ごめんな。答えてやれなくて。おまえ、好きになる男、間違えた よ。 でも嘘じゃないから。密かに浴衣姿にドキッとしたのも、忘れな いって言ったのも。全部本当だから……。 生涯忘れられない夏の夜。花火より鮮やかな笑顔を僕の胸に刻み 付け、君は夜空に消えてしまった。
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