第1回学生課題小説バトル
Entry3
「あのう、雄二君、居ますか? 」 加奈が浴衣姿で家の玄関に顔を出した。今日の彼女は妙に色っぽく 見えるのは服装のせいだろうか。俺と彼女は一応恋仲だった。とは 言うものの付き合い始めて一週間しか経っていないけど。 「ったく、このくそ暑い時に蛍見に行くだなんて」 「こら、文句いわないで。どうせ花火見に行く約束してたし、ちょ っと早く出たと思えばいいじゃない」 彼女のたしなめる声を心地よく聞きながら俺達は学校の側の蛍の名 所の川に向かった。結構すでに人が溜まっている。友達の顔もちら ほら見える。適当に言葉を交わして、適当に冷やかされながら俺は 加奈と歩いた。真っ暗になる時間より少しだけ早く蛍は光を放ち始 めた。俺は加奈とでっかい石の上に腰をおろしてぼーっとそれを眺 める。しばらくして加奈が突然立ち上がっり川を背にし、少し距離 を置いて俺と向かいあった。なんだろ・・・・・・? 「砂時計の砂が落ちきる前に言いたかったの。あのね本当は私、蛍 なの。ここからいつもあなたの事見てました。学校の教室からこの 川をみてるあなたに私は恋をしたの。でも、わたしは蛍だから思い を伝えることはおろか、話も出来なかった。だから、神様にお願い したの。どうか、雄二君と話が出来る様に人間にして下さい。ほん のちょっとでいいから・・・・・・ってね。だけど、もう時間切れ なの」 唖然とする俺と彼女の間に遠くから花火の音が割って入った。その 音に驚いた蛍が一斉に光を消してしまう。同時にかすかに見えてい た加奈の姿が目の前から掻き消えてみえた。 「加奈ぁ! 」 思わず俺は叫んでしまった。その時妙に恐怖を感じた。彼女がいな くなることに。 「なーんてね。何おっきな声だしてるのよ? まさか信じちゃった の」 「うっせーな」 くすくす笑う彼女に俺は赤面するしかなかった。確かにちょっとで も信じかけた俺って馬鹿かも。 「ごめーん。じゃ、そろそろ花火いこ」 「わりぃ、もうちょっとここにいさせてくれ」 「どうして?」 「・・・・・・」 「消えたりしないよ、私」 そういって加奈が俺の手を握って引っ張った。 また花火の音がする。さっきと同様に蛍は逃げるように闇に溶けた。 加奈の姿も良くは見えないけど俺の掌にはしっかりと彼女の小さな 手がおさまっていた。
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