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第2回学生課題小説バトル
Entry2

そしてサンタも恋をする

作者 : Ruima [ルイマ]
学校 : フェリス女学院高校1学年
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 その晩、親父は上機嫌だった。俺が居間に入ると、親父はコート
も帽子もそのままに、テーブルに座りこんで酒を飲んでいるところ
だった。
「ただいま。親父の方が早かったんだ?」
「おう、夜太! おかえり。どうだったかあ?」
 すでに親父の顔は真っ赤で、べろべろに酔っているのは明白。そ
れでもまだ飲み続けているらしい。でも、母さんはクリスマスの夜、
年に一度の大仕事明けだけは、親父が何をしても言っても絶対に怒
らない。ただ楽しそうに笑っている。そのくらい心に余裕が無いと、
サンタの妻なんて勤まらないのかもしれない。
 そう、俺の前で飲んだくれているこの親父こそ、第26代目、日
本関東支部サンタクロースであり。
 そして、一昨日、昨日から今日に掛けて続いた2晩は、第27代
目日本関東支部サンタクロースとしての、俺のデビュー・クリスマ
スだった。

「それにしても、お疲れ様。ちゃんと全部配ってきたのね?」
 親父のコートを俺のと並べて壁に掛けつつ、向けられる母さんの
笑顔。赤一色に白の飾りのついたサンタクロース独特のそれは、親
父のの方が横幅があり俺のの方が縦長。少し安心しながら、俺は自
慢気に空の袋を掲げてみせた。
「もちろん。ほらな」
「一昨日はあんなに嫌そうだったのに。何かあったでしょ?」
「内緒」
「まあ! かわいくない」
 拗ねた仕草を見せる母さん。それからじっと俺の顔を見つめ、ふ
と、軽く首を傾げて聞いてきた。
「そう言えば、夜太、帽子はどうしたの?」

 言われて、周りの床を探って、それから記憶を辿って。青ざめた。
「どっかに落として来た」
「馬鹿かおまえ! サンタはどこにも形跡を残さないからいいんじ
ゃないか! 些細な事が幼い子供の夢を壊すんだぞ」
「うわ、そのセリフ、親父からだけは聞きたくなかった」
「何だと? それが親に向かって言う言葉か!」
「うるさいな。大体、移動手段に堂々と山手線とか使っておいて、
形跡を残さないも何もあったもんじゃ……」
 そのセリフを口に出して、はたと気づく。
「あ!」
「何だ? どうかしたか?」
「山手線だ。帽子、電車の中に忘れてきた」
 何だか妙にばつが悪くて、俺はあはは、と笑ってみせた。
「明日……あ、違う、今日だ……の昼にでも、忘れ物センターに電
話してみるよ」
 それから俺は逃げるようにして、「おやすみ」と告げ部屋を出た。
何故か母さんが、ずっと手で口を覆い必死に笑いを堪え続けている。
一体どうしたんだろう?

 翌日の昼近く、起きるなり忘れ物センターに連絡した俺は、落胆
し肩を落とす羽目になった。
「駄目だったの?」
「うん」
「誰かが持って行っちゃったのかしらね」
 言いながら、母さんはまた、おかしくてたまらない、といった様
子で声を抑えて笑っている。
「どうかした?」
「何が?」
「夜からずっと笑い続けてる。いい加減気になるさ」
「ふふ、実はね。大樹さんも昔、サンタの仕事中に帽子を忘れたこ
とがあるのよ」
「え?」
「それも初仕事の時に、電車で。だからやっぱり、血は争えないな、
と思って」
「あの親父! そのくせに人のこと馬鹿にしやがって」
「ちなみに、それで私と出会ったのよ」
 ぶっ! 俺は危うく飲んでいた麦茶を盛大に吹き出すところだっ
た。慌てる俺の内心をよそに、母さんはうっとりとした目で話し始
めた。
「今でこそあんな偉そうだけど、当時は大樹さん、サンタの仕事が
嫌で東横線に座り続けていたんですって。私はおばあちゃんの家に
行く途中だったんだけど、サンタの格好であまりにも不機嫌そうな
お兄さんがいたから、つい声を掛けちゃった」
「それは……本物のサンタだと思ったわけ?」
「まさか。私、その時もう高校2年よ? それで、何て話しかけた
のかは忘れたけど、袋からプレゼントを一つ出して渡されて、うっ
とうしそうにメリー・クリスマスって言われたわ」
「それから?」
「馬鹿にされたみたいで悔しかったから、『サンタならサンタらし
くしろ! ちゃんと夢を与えろ!』って怒った。おかしいでしょ、
信じてないくせに。それでも腹が立ったままだったから、プレゼン
トを大樹さんに投げつけて、たまたま電車の止まってた駅に追い出
しちゃった」
 現在の、どちらかと言えば温厚で穏やかな気性からは想像のつか
ないその行動に、思わず俺は母さんに疑惑のまなざしを投げかけて
いた。
 追い出した? 自分が出て行った、ならまだわかる。けど、追い
出したって……。
「……それがどうやって結婚に至ったんだよ」
「大樹さん、その時、網棚の上に帽子を忘れて行っちゃったの」
「それは忘れたんじゃなくて、取る暇がなかったんじゃ……」
「つべこべ言わない! ……大樹さんが降りて怒りが冷めてきて、
ほら、私も一応反省したわけ。強く言いすぎたかな、とか追い出す
ことはなかったかな、とか。そんな時に大樹さんの忘れた帽子が視
界に入って、よし、これは私の手でちゃんと返してあげようって思
ったの」
「どうやって?」
「そう! そうなのよ! 意気揚揚と持って降りたのはいいけど、
サンタの正体も知らないし、ついでに言うとおばあちゃんの所に遊
びに来ただけだから、毎日東横線で張りこむほどの時間はないし」
「で? 結局どうしたの?」
「待ったわよ、玄関の前で」
 その言葉に、俺は一瞬自分の耳を疑った。時は12月24日、ク
リスマス・イブ。確かに北海道ほどではないかもしれないが、夜は
コートを着ていても十分寒い季節である。そんな中、現れるかどう
かもわからないサンタを、玄関の前でひたすら待ち続けるなんて、
正気の沙汰とは思えない。
 すると、俺のそんな考えが伝わったのだろう。母さんは子供のよ
うに、ぷうっと頬を膨らませた。
「だって仕方ないじゃないの。他に思い付かなかったのよ。本物の
サンタだとしたら、家の前を通るかもしれないな、と思ったの」
「馬鹿だ……」
「うるさいわね! でもいいじゃない。実際に会えたんだから。暗
闇の中赤いコートが見えた時、サンタクロースをもう一度信じてみ
てよかった。そう思ったわ」
 そりゃめでたい。会えなかったらただの馬鹿になるところだった。
 だけど。もしも母さんが、もっと常識に固められた人間だったら。
もしもサンタを信じてみようって思わなければ。親父と母さんは出
会わなかったんだ。そしたら、俺は今この世に存在しないわけで。
そう思ったら。
 まるで俺の心を見透かしたように、母さんがちょっと意地悪く笑
う。
「ね? よかったでしょ?」
「うるさいな! なんだよ、結局のろけかよ」
「いいじゃないの。だからあんたも、あきらめるんじゃないわよ」
 は?
 呆然とする俺に、母さんはウインクを一つ。

 あきらめるんじゃないって、それは、つまり。

 そのセリフの意味を理解した瞬間、一気に顔に血が上るのが自覚
できた。多分今、俺の顔は真っ赤だ。
「だって『内緒』なんでしょ? そしたらやっぱりねえ」
「違うってば!」
「いいのいいの。大樹さんには内緒にしておいてあげるから」
「そんなんじゃないってば!」
 俺の言うことには全く耳を貸さず、母さんは部屋を出て行ってし
まった。鼻歌なんか歌って、足取りも心なし軽い。
 やはりさすが、サンタの妻、なのだ。一生敵わないな、と思う。
俺もいつか、そんな相手に出会うのか。

 そして、それから数日後。大きな買い物袋の目立つ、年末の山の
手線上で。
 俺は、真っ赤なサンタ帽をかぶった、天使の姿を発見することに
なるのである。






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