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第15回中高生1000字小説バトル Entry5
ドアをノックする音がした。
「先生、質問があります。」
声と同時に静かにドアが開く。
「またお前か……」
狭い進路相談室に置いてあるのは一脚のパイプ椅子と教師用に用意された一対の机と椅子。それに座っていた加藤は、入ってきた女生徒の顔を見るなりうんざりとした表情をした。質問にきた生徒、杉山は慣れた感じで壁に立て掛けてあるパイプ椅子を開き、ため息をついている加藤の前に座った。
「一体、今日は何の質問だ?」
加藤がそう尋ねても杉山は答えず、少し腰を浮かせて座り直すと、ただじっと目の前にある加藤の顔を見た。
「毎日毎日、“どうして茶パツはいけないんですか。”“制服があるのはなぜですか。”“学校に必要のない物ってなんですか。”なんて質問ばかりされて先生も困ってるんだぞ。」
杉山はやはり何も言わずに加藤の顔を見ている。
ふぅ、と加藤はまた長いため息をついた。
「杉山は勉強もできるし、普段とても真面目じゃないか。今までにした質問だって、ちょっと自分で考えればわかるものだろう?一体、何が不満なんだ?」
その質問に、ようやく杉山は口を開いた。
「“お前等三年生になったのだから、いろいろ相談したい事や知りたい事もあるだろう。先生は毎日進路相談室にいるから気軽にきなさい。”と先生が言ったからです。」
「いや、それはそうなんだが……」
全く予想していなかった返答に、加藤は口ごもってしまった。
「ご迷惑ならもうここへは来ません。」
そう言うと、杉山は自分の座っていたパイプ椅子を手際よくたたみ、元に戻した。そして、ドアに向かった。加藤は黙ったまま杉山の後姿を見つめた。ドアノブに手をかけると、杉山は振り向いて言った。
「先生、私の最後の質問に答えてくれますか?」
加藤は少しドキッとした。また自分には不可解な事でも訊かれるのでは、そう思ったのだ。しかし、杉山の質問は加藤の予想とは違っていた。
「加藤先生は、私達にとって、ずっと、いつでも先生なんですか?」
「当たり前だろ?」
拍子抜けした顔をした加藤が即答した。杉山は加藤の顔を、目を、じっと見た。そして少し微笑むと部屋から出て行った。
「先生ありがとうございました。大好きでした。」
と、言葉を残して。
加藤は今日三度目のため息をつくと、静かに目を閉じた。瞼には懐かしい高校時代の担任の顔が浮かんだ。
「初恋だったなぁ。」
独り言と同時に、ドアをノックする音が聞こえた。
「先生、相談があるんですけど……」
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