第15回中高生1000字小説バトル全作品・結果一覧

#題名作者文字数
1交差点の少女佐藤 愁1026
217歳ぴよ899
3中田君と私彩霞1000
4「煙草」小川 螢999
5相談室深谷 章1000

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Entry1

交差点の少女

 冬が少しずつ近付いて来た、とある寒い日の夕暮れ。
 この大通りの交差点には、コンピューターのシミュレーションのように車が無造作に走り過ぎて行き、人がロボットのように故意に歩調をずらしながら歩いていく。
 いつからこの街はこんなに色褪せたんだろうと思いながら、横断歩道を早足で渡る。

 もう冬が近いな。
 そんな当たり前のことを感じながら、とにかく早くこの作為的な喧騒から離れようと思った。

 その時、偶然か必然か、錆びた店舗の壁に寄りかかって、コンクリの地面に座っている女の子を見つけた。
周囲を歩く人間は彼女を視界の隅にも置かず、さっささっさと通り過ぎて行く。
 もうすぐ太陽が沈むこんな時限に、こんな場所で一体何をしてるんだ。
「何してるんだい?」
 近付いてそう尋ねると、少女は俯いていた顔を僅かに上げた。見ず知らずの人を警戒するその怪訝そうな瞳は、どこか寂しげに思える。
「…人待ち」
 か細い声で答えた彼女の唇は、少し紫がかっていた。
 長い黒々した長髪も、その一本一本が繊細に氷のように冷たい光を放っている。
「何時間待った?」
「関係ないよ。もうすぐ、来るから」
 確かに関係はないんだが、放っておくわけにもいかない。
「じゃ、俺も一緒に待ってやるかな」
 彼女の隣のコンクリに腰を据えると、さすがに、少女はひどく邪魔そうな顔をつくる。
「余計なお世話」
「当ててやろうか。彼氏待ちだろ」
「うるさいなー。私の勝手だよ」
 ふーん、彼氏ね。
 ともかくこの女の子に間違いないなさそうだな。本人に自覚がないのが厄介だけど、それは気付かせれば済む話だ。こういうことはあまり言いたくないけど、仕方ないか。
「彼氏は来ないぞ。いくら待っててもね」
「?」
「三日前、君と君の彼氏はここで会う約束をした。早く来ようと思った君は、前をよく見ずに走ってた」
 少女の表情が蒼白になってゆく。
「待って、何の話?」
「君は…三日前に死んだんだ。すぐそこで、車に撥ねられてね」
「…!」
 少女は驚いた顔をした。
 が、否定せずに、ゆっくり眼を伏せた後、またゆっくりと開いた。
「そっか…道理で街の人、私に気付かないわけだよね…。そうかも知れないって、感じてた…」
「…1人で逝けそうかい?」
「うん…ありがと…」


 自縛霊の駆除も楽じゃないな。
 まあ、いいか。

「次の人生は自殺なんかしないで、死ぬんだったら今の作り話みたく、誰かのために、な」

 天国(かどうかはわからない)に逝った少女に別れの言葉を告げると、帰路を急いだ。


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Entry2

17歳

 朝、空気が張り詰めていて冷たい。ヒトは忙しそうに流れていて誰もが無表情。私はそんな光景をただ眺めていた。時計を眺める。9時15分。今は数学か。
「あっ何してるん?暇?どっか行こかぁ」なれなれしく話しかけんじゃねぇ。でも、私だけが流れていないんだから仕方ない。不自然な制服は立ち止まって駅でコーヒーを飲む私を更に際立たせていた。しょうがない。私はその場所を諦め、汚い男をふりほどき歩き始めた。
 この時間ヒトはみんなどこかへ向かってただ言葉を交わす事も笑う事もなく箱詰めにされて流されていく。私も普段は何も考えずそこを流れていく。何の疑問も持たず。しかしたまに朝こうしてヒトビトを軽蔑しつつのんびり自分の時間を持つ事が楽しみとなっていた。
 pppp…「何してるん?早く来い(^-^)/」実香か。ほっとけって。私しか友だちおらんからなぁー…「昼には行くわ☆CD持っていくわなー!」あほくさ思ってもない事が文章となる。pppp…またか。うるさいなぁ、もう。
 電源を切りまっすぐ進む。一瞬青い空が見て地下に進む。「いらっしゃいませぇ」最近通うカフェ。セルフサービスで奥の方で食べれる所が魅力。あっおにいさん男前ね。「お持ち帰りですか」…しらけた。決めつけて聞いてんじゃねぇよ。学生でも朝から暇なヒトもいるわけ。「ここで食べます」
 ここでも制服は不自然で新聞読みながらチラチラこちらを伺うサラリーマン。でも気にならない。あのヒトもきっと可愛そうなヒトなんだ。そして本を読んでるOLさん。あんたも制服着たいんでしょ。OLで婚期逃したら、無理矢理の社内恋愛しかないんじゃない?未来ないねー。そんな事考えながらマスカラを三度重ねる。時計を見る。刻々と昼に近付く時間を見て嫌気がさす。今だけは時間に縛られたくない。
 外を見渡せばグレイな人々。個性個性と叫んでも私には一色にしか見えない。あれが将来か。街は当たり前の顔で流れている。私の制服は街になじまない。私は私の色を発しているのだろうか。
 「あっ実香?今から行くからー!今日の帰りバーゲン行こう。めちゃくちゃ欲しい物があってー…」
また私は街の方へ流れ出した。振り返らず周りと同じ歩調で。


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Entry3

中田君と私

 ある日、隣の中田君が鳥になっていた。
「中田君」
 隣の席の中田君は英単語帳を取り出して、灰色の羽毛をページに挟み予習をしている。
「何?」
「鳥になってる」
 えっ、と小さく呟いてから、彼も私を見て驚いて言った。
「…永瀬さんは猫に見える」
「猫?」
 私は自分の手を見た。いつもの手だ。それに私は『犬と猫どっち派?』と言われると迷わず犬と答える犬好きだ。猫になりたいなど考えたこともない。
 中田君が鳥、私が猫…。
 私はクラスを見回した。他の人達には何も変わった様子はない。皆同じ、人間の顔をしている。
「…なぜだろう?」
 問う中田君に返す前に英語教師が来て、小テストのプリントを配り出した。『信じられない』…beyond beliefという中田君の唯一の間違いを直しながら、その単語を自分の中で反芻した。


 中田君は器用に嘴から缶のお茶を飲んでいる。嘴の端からこぼれそうでこぼれない。素早くまばたく彼には、私がメールを打つ姿も猫に見えるのだろうか。
「…でも他の人には人間に見えるみたいね、私たち」
 落ち付いてるなあと、呆れたのか感心したのか分からない調子で中田君は言った。
「気にしないだけなんだけどねえ」
 個性的だね、と彼は言う。否定されないことは嬉しい。こんな性格のせいか私には友人は少ないのである。
 脚:オレンジ色で細い。首:あるのかどうかわからない。
 私は彼を観察した。日記でも書けそうだ。
「誰にでも同じ物が同じに見える保証はないでしょ?」
 そりゃそうだけど…、と中田君は肩を落とした。私は鳥がしょげる様子を初めて見た。面白い。
 私は笑顔も見たいと思った。
「中田君、今度映画見に行かない?」
「え?」
「好きだって言ってたじゃん、映画」
 突然の申し出に彼は驚いた顔をして、にっこり嘴を曲げて笑った。こういう風に笑うのか、と私も笑った。


 電車の横の席でこっくりをしている中田君を見ている。彼は眠る時目をつぶらない。はねた羽毛を直してやる。大きい手羽先が美味しそうだ…などと考えて、やはり私は中田君の言うとおり猫なのかもしれない、と思った。
 鳥の、いや中田君の色々な表情がもっと見たい。猫はどういう風に笑うのだろうか。鏡を見てもわからない。私には、自分の姿は人間に見えるのだ。
 今度中田君に訊いてみようと思いながら私は彼の肩に頭を預けた。途端に起きて緊張した彼の横顔を見て、また日記に書く事が増えたと私は寝たふりをして微笑んだ。


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Entry4

「煙草」

家に帰るとバスルームは鮮やかな赤色の海で、体温を失った母親が力無く倒れていた。
湯船に満たされた色の洪水を、銀色に鈍く光る剃刀が行き場を無くしてゆっくりと浮遊する。
110をダイヤルする指が、驚くほどしっかりしているのが分かる。
確認などしなくても、「彼女」にもう再び温かさが宿ることは無く、彼女がこの世界の色彩に触れることが無いことは誰の目にも明らかだった。
彼女が再び呼吸をし、その声を発することは無い。
けれど、私が取り乱して嘆く理由など何処にも存在しはしない。
その身体、今はもう身体ですら無いそれを目の前に唯立ち尽くしていると、
警察がやってきて「彼女」の身体を持っていった。
きっと数時間前までは存在していただろう「彼女」のいない部屋だけが後に残る。
あっという間だ。
本当にあっという間だった。
それはきっと「彼女」が行為に至るまでにかかった時間の三分の一程にもならないんだろう。
バカみたいだ、と思う。
被害妄想に飲み込まれて自己嫌悪に溺れそうになって、それで勝手に死んだ。
あんなに認めて欲しがっていたのに、自分から消えることを選んだ。
大きなガラスの扉を開けて、裸足のままバルコニーに出る。
冷たいコンクリートの上に座り込んで煙草を吸った。
さて、これからどうしようか。
私を引き取りに来るのは父親か、それとも叔母か。
別に、どっちだって変わらないけれど。
煙なのか吐息なのか、溜め息と一緒に空気が白く染まった。
小さな頃に誰かから聞いた話を思い出す。
自殺をした人間の魂は地上をさまよい続けるらしい。
嫌になって自らの手で終わらせようとしたこの世界に、居続けなければいけないのだ。
冬の紅く染まった空にひとすじの白線が昇っていく。
シンとした痛みが、私の頬を刺す。
赤くそまった煙草の先が、時折オレンジ色に変わった。
「彼女」のことを思う。
「彼女」のあまりの脆さに、少しだけ切なくなる。
哀れもう。悲しもう。「彼女」のために胸を傷めよう。
今だけは。
次第に灯かりの燈りはじめた街が眼下で朱色に輝いている。
肩先で揺れる切ったばかりの髪の毛が少しくすぐったい。
夕陽が、ゆっくりと落ちていく。
私は生きていくのだ。これからもずっと。
いつのまにか小さな一粒の雫が、頬を伝って落ちた。
初めて、私は「彼女」を心から愛しいと思った。
忘れずにいよう、「彼女」のことを。この移り行く日々の中で。
「彼女」はもういないのだから。


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Entry5

相談室

ドアをノックする音がした。
「先生、質問があります。」
声と同時に静かにドアが開く。
「またお前か……」
狭い進路相談室に置いてあるのは一脚のパイプ椅子と教師用に用意された一対の机と椅子。それに座っていた加藤は、入ってきた女生徒の顔を見るなりうんざりとした表情をした。質問にきた生徒、杉山は慣れた感じで壁に立て掛けてあるパイプ椅子を開き、ため息をついている加藤の前に座った。
「一体、今日は何の質問だ?」
加藤がそう尋ねても杉山は答えず、少し腰を浮かせて座り直すと、ただじっと目の前にある加藤の顔を見た。
「毎日毎日、“どうして茶パツはいけないんですか。”“制服があるのはなぜですか。”“学校に必要のない物ってなんですか。”なんて質問ばかりされて先生も困ってるんだぞ。」
杉山はやはり何も言わずに加藤の顔を見ている。
ふぅ、と加藤はまた長いため息をついた。
「杉山は勉強もできるし、普段とても真面目じゃないか。今までにした質問だって、ちょっと自分で考えればわかるものだろう?一体、何が不満なんだ?」
その質問に、ようやく杉山は口を開いた。
「“お前等三年生になったのだから、いろいろ相談したい事や知りたい事もあるだろう。先生は毎日進路相談室にいるから気軽にきなさい。”と先生が言ったからです。」
「いや、それはそうなんだが……」
全く予想していなかった返答に、加藤は口ごもってしまった。
「ご迷惑ならもうここへは来ません。」
そう言うと、杉山は自分の座っていたパイプ椅子を手際よくたたみ、元に戻した。そして、ドアに向かった。加藤は黙ったまま杉山の後姿を見つめた。ドアノブに手をかけると、杉山は振り向いて言った。
「先生、私の最後の質問に答えてくれますか?」
加藤は少しドキッとした。また自分には不可解な事でも訊かれるのでは、そう思ったのだ。しかし、杉山の質問は加藤の予想とは違っていた。
「加藤先生は、私達にとって、ずっと、いつでも先生なんですか?」
「当たり前だろ?」
拍子抜けした顔をした加藤が即答した。杉山は加藤の顔を、目を、じっと見た。そして少し微笑むと部屋から出て行った。
「先生ありがとうございました。大好きでした。」
と、言葉を残して。


加藤は今日三度目のため息をつくと、静かに目を閉じた。瞼には懐かしい高校時代の担任の顔が浮かんだ。
「初恋だったなぁ。」
独り言と同時に、ドアをノックする音が聞こえた。

「先生、相談があるんですけど……」

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