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第16回中高生1000字小説バトル Entry1
何も見えない、真っ暗闇。
体さえもが、その中に溶けてしまったように、何も感じられない。
重さも、光も、触れるものさえない、本当の闇。
「ここはどこ?僕は……」
何もないと思っていた空間には、孤独と不安が満たされている。
その重苦しさに、大助は、息がつまりそうになる。
いっそこのまま消えてしまったほうが……。
安楽を求める心に、ささやきかけてくる声がある。
――― 一緒になっちまえよ。
どこか懐かしい声。
声が聞こえたとたん、忘れていた感覚が戻ってくる。
両の腕は、大助自身の体を抱きしめている。
足は、闇を蹴って、ジャンプする。
そして、光。
まるで救いを投げかけるように、頭上から一筋の光が射している。
「どうして、今まで気がつかなかったんだろう……」
いまや、大助は、迷うことなく、その光をめざしている。
光の源には、女神が待っている。
白い翼をもつ少女が、大助を待っている。
近づいてくる想い人を認め、優しく微笑む少女。
大助の胸に、温かいものが広がる。
「原田さ……」
さしのべられた手をとろうとして、大助は、ギョッと弓の手を引く。
黒い手袋に覆われた、大きな手。
すらりとのび、筋肉がほどよくついた、男の腕。
清らかな光の中に照らされた自分の姿に、大助はおののいた。
「違う!僕じゃない!」
ひとまわり大きな体を支えているのは、黒い大きな翼。
「これは、ダ−クだ!」
悲鳴に近い叫びにうたれ、黒い翼は、散り散りに消え失せる。
慌てて身をのりだした女神の手は、大助―――ダ−クの手には届かない。
それまでの浮遊感は、腹の底からわきあがる不快感にかわる。
風を切って落下する、意識。
――― そんなに嫌がるなよ。
またしても、心に響く声。
「なんだよ、こんなときに呑気な……!」
ああそうか、こいつは、どんなときでも余裕があって……。
茶目っ気たっぷりの声に抗うことさえ、無駄なことのような気がしてくる。
――― 俺は、もうひとりのお前なんだから。
大助は、闇に身をまかせる。
そう、どう頑張っても、ダ−クには、まるでかなわない。
このまま消えてしまう以外に、残された道はないのだろう。
十四歳になったその夜に、初めて出会った、もうひとりの自分。
十四年かけて積み上げてきた、大助のすべてを、彼は、一夜にして変えてしまった。
……僕なんかに、勝ち目はない。
「そうか、覚悟は決まったか」
「えっ……日渡くん!?」
いきなり、闇の中に出現した日渡は、大助―――ダ−クの腕を捻り上げ、押し倒す。
「捕まえたぞ、ダ−ク!」
「ちょ、ちょっと!
「もう、離しはしない……」」
身動きできない大助―――ダ−クに、のしかかる、日渡。
片手で器用に、黒い服のボタンを外し始める。
「日渡りくん!?」
予想外の出来事に、体が硬直してしまっている大助。
パシャッ!閃光とともに、乾いた音がする。
「やあったぁ、大スク−プだぜ!」
またしてもいきなり、カメラを手にした冴原が出現。カ−カカカカと高笑いしている。
さらに、大助の上で日渡もクククと笑い出し、次第にその声は大きくなる。
「お前はもう、俺のものだ!やっと宿願を果たすときがきた!」
大助―――ダ−ク見据えて、フハハハと哄笑する、日渡。
その目には、尋常ではない光が宿っている。
二人とも、どうかしてるよぉ!
何がそんなに面白いの!?
パニック状態の大助に、新たな衝撃がおそいくる!
「ひど−い!」
「ふたりして、あたしたちのこともて遊んだのね!」
どこからか、なじる声が聞こえる。梨紗と梨紅だ。
「はっ、原田さんたち!?なんで!?」
「大助ちゃん、目を覚まして!」
母の声まで、聞こえてくる。
「違うんだ、僕の好きなのは――――」
顔を真っ赤にして叫んだ大助は、ハタと重大なことに気づく。
「こんなのうそだよ!冴原はともかく、大笑いする日渡くんなんてみたことない!」
悪夢だ!そうだ、これは夢だ、夢なんだ−っ!
声を限りの絶叫が、深い闇を切り裂いた。
カ−テンが風に揺れ、パタパタと朝日を部屋の中に招き入れる。
ガバッ!体を起こそうとするが、起きれない。
ああ……夢じゃなかったんだ。
がっくりしつつ、大助は、自分の上に乗っている人物に、とりあえず挨拶した。
「……おはよう、母さん」
「よかったぁ、大助ちゃんてば、いくら呼んでも起きないんだからぁ」
「だからって、普通、ここまでする!?」
前ボタンを外され、半分脱がされたパジャマの前をかきあわせ、猛然と抗議する。
真っ赤になって怒っている息子を前に、母、笑子は、平然と答えた。
「着替えさせてふげようと思ったのに……はずかしがっちゃって、かわいい」
かわいいじゃないよ、まったく!
「母さんのせいで、僕は……」
夢のなかで、あ……あんなことを……!」
ボッと身体中が燃える思いの大助を、母は、じ−っと見ている。
「どしたの?」
心配というよりは、わくわくしていると言った方が正しいと思われる、その口調。
こういう人だとはわかってるけど……ぶつけどころのない怒りが頂点に達した。
「もう、早く出てって!着替えるんだから!」
「はいはい」
鍵をかけたって全然意味ないんだもんな、うちは……などとぶつぶつ言いながら、パジャマをぬぎはじめる、大助。
「あ、ねえ、今度のダ−クのお仕事なんだけどぉ」
ドアに手をかけて、母は、ふと思い出したように、振り返る。
パンツ一枚になっていた大助は、硬直。
「……母さん〜〜」
せいいっぱいの低い声を押し殺した声に本気の怒りを感じ取り、母は、ひきつり笑いを浮かべ、
「じゃあ、また、学校から帰ってからね」
と言い残して、そそくさと出ていった。
大助は、脱いだパジャマを乱暴にベッドの上に投げ捨てる。
「キュッ!」
丸められたパジャマの下から、長い耳がぴょこんと飛び出す。
ウサギのような外見の、大助のペットだ。
気持ちよく眠っていたところへ、いきなり攻撃を受けたにもかかわらず、何か悪いことをした?とでも言いたげに、丸い瞳が不安げに大助を見上げているのがいじらしい。
「ウィズ……ごめん」
大助は、ウィズのやわらかい身体を抱き上げた。
あたたかい、やさしい鼓動をうつ、小さな生き物は、人間より小さな頭で、必死に大助を思いやっている。
「ごめんね……」
やつあたりなのは、自分でもわかっている。
夢のせいにして、母にあたったけれど、この落ちつかない気持ちの原因は、ほかにある。
『外』ではなく、『内』に。
自分の中に眠っている、別の人間―――ダ−ク。
ちょっとしたきっかけで、この体を乗っ取って、自由に活動する、男。
ク−ルで大胆で、鮮やかな身のこなし。自信あふれた言葉。
大助にやれないことを、いつでも易々とやってのける。
それを、意識の奥底から、ただ見ているだけの、自分。
「でもさ、お前、助けてくれたっていいじゃないか」
ツンとウィズの鼻先を指でつつく。
「キュ……?」
なんのことやら分からない様子で、困っているウィズ。
ひとの夢の中の行動まで、責任を持てといわれても、たまったものではない。
「あのとき、僕を助けようとしてくれたのは……」
美しい光を背負っていた女神は、誰だったのか……。
あの時は、はっきりとわかっていたつもりだったが、逆光で顔はよく見えなかった。
よくよく思い出そうとして、しかし、別の感触を思い出して、顔を赤らめる、大助。
「夢、夢!あんなの関係ない!」
ぶるるん!と顔を振って、クラクラしつつ、部屋を飛び出していく。
――― さ−て、はたしてそうかな?
心の奥底で浮かんだ、もうひとりの疑問符は、今の大助には聞こえない。
夢は、無意識の現れ。現在と未来への不安の現れ。
もうひとつの真実を映す、鏡。
今朝の夢が、彼を待ち受けている悪夢の予告編に過ぎないことに、まだ気づくはずもない、丹羽大助十四歳だった。
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