第19回中高生1000字小説バトル全作品・結果一覧

#題名作者文字数
1今日は朝から西名玲1000
2生誕ヨシツグ753
3赤い剣紫苑ななみ1002
4アイツ ト ワタシ瓜生 遼子893
5ペピン白銀霧理1000
6疑似体験nina1000
7関口葉月511
8いつかは来るトキ。新井カズホ790
9再会…らしい佐藤 愁935
10‘if’神風夜月999
11収穫には立ち会えないかも知れないが出来るだけ多くの種を蒔こうKAZU三式1000
12きっと正しくない愛しかた佐賀 優子1021

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Entry1

今日は朝から

 今日は朝から、雨が降っている。
 ひんやりと冷たい床の上に、真っ黒な雑巾と一緒に眠ってしまっていた。腕を伸ばすと、食器の入った段ボール箱が、がしゃんと音をたてる。
 いまさらになって、日本へ戻ってきたのだな、と思う。銀の振り子時計は、まだ、ロンドンの時を、無造作に刻んでいた。
 壁にかかったカレンダーは、去年のものだ。ちょうど、去年の六月十日、今日の日付に、緑のペンで丸がしてある。緑は、君が好きだった色。
 しなければならないことはたくさんあるのに、それがすべて、今すぐ片付けねばならないわけでないとなると、立ち上がる気力さえ、雨と一緒に海まで流れていってしまいそうな気がする。とりあえず、まず何をしよう、と考えながら、台所へ向かった。
 コーヒーをいれて、ふっとため息をつく。埃っぽい部屋に香ばしい香りが漂うと、なんとなく人の住む場所になったように感じる。そしてため息も、つく暇もなかったころとくらべて、人である証のように思えて、心がしみるような気持ちになった。
 自分でいれたコーヒーは、苦かった。それとともに、君のコーヒーの味を思い出す。何もかもがなくなったいま、思い出すのは、君のことばかりだな、と気付く。

──電話、してみようかな。

 そう思って、マグカップをテーブルに置いた、そのとき、携帯電話が曲を奏でた。
「……もしもし」
『……出るの、早いよ』
 少しびっくりしたような、君の声だった。
「いま、電話しようと思ってたんだよ」
『うそ』
「ホントだよ」
『ホントに?』
 電話の向こうで、君が笑っている。こうして君と普通に話せる自分が、少し不思議だった。
『──帰ってきてたんだ、こっちに』
「……うん」
『何で連絡くれなかったの?』
「…………」
『向こうでの仕事、失敗したんだ?』
 しばらく、沈黙がつづいた。
『一年前は、すごく幸せだったよね』
「…………」
『この一年、待ってるあいだは、耐えられなくなったこともあったよ。でも、いまは……』
 泣き出しそうな君の声に、胸がしめつけられるほどのいとおしさを感じる。
『いまは、会いたい。いますぐに、会いたいよ』
「……ホントに?」
『ホントだよ』
 ポケットの中の小箱を確かめながら、ためらいながら、一年前の記憶をたどって、言葉を声にかえる。
「──話があるんだ。いつもの公園で、会おう」

 一年前の今日は、君を泣かせてしまった。今日こそは、素直に気持ちを伝えようと思う。
「結婚しよう」


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Entry2

生誕

プカプカと浮いていた。
悲しかった?
嬉しかった?
わからない。
ただ、プカプカと浮いていた。

プカプカ
プカプカ

たまに

ユラユラ


目を覚ますと布団の中。
プカプカとユラユラはどこかに消えていた。
「……プカプカユラユラ」
言葉にすると妙に可愛い。

「ヨウスケ! 早く、起きなさい!」
一階からは母の声が聞こえてきて。
パジャマのままで降りていく。

トントン
トントン

最後のニ・三段から床にダイブ。

ドスン

「床が抜けるわ」
母の声がする。
クスクス笑ってる。

台所に顔出して、フライパンを朝から振り回す母を見る。
「おはよう」
「おはよう」
ニッコリ笑って。
その間もフライパンを動かす手は止まらない。

ジュッジュッ
ジュッジュッ

美味しそうな匂いと音が僕に届く。

グーグー
グーグー

お腹がなって母に舌を出して笑ったら。
お皿に朝ご飯が出来てきた。

パン

音をたてて手を合わせたら。
「いただきます」

モグモグ
モグモグ

食べ終わったらもう一度。
音をたてて手を合わしたら。
「ごちそうさまでした」
「おそまつさまでした」

二階に上がって学校に行く用意をする。

ドタバタ
ドタバタ

用意をしていたら時間がなくなって。
階段をもうスピードで駆け下りる。

ダダダダ
ダダダダ

「忘れ物はない?」
母の言葉に返事も出来ず。

バン

ドン

「いってきます」

ドアが閉まって後ろを降り返える事もせず。
大声で叫んだ。
「いってらっしゃい」
母が僕に負けない大声で送り出してくれた。

走りながら今日見た夢を思い出す。

プカプカ
ユラユラ

プカプカ
ユラユラ

プカプカ
ユラユラ

お母さん。
お母さん。

お母さんのお腹には僕の妹か弟がいる。

プカプカ
ユラユラ
揺られながら。

プカプカ
ユラユラ
水の中。

プカプカ
ユラユラ

早く出ておいで。



ウギャ―
ウギャー

声上げた新しい命。

「はじめまして」

ウギャー
ウギャー

「楽しく行こうね」

ウギャー
ウギャー

楽しくやれそうだよ。


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Entry3

赤い剣

ゴンドラは、一国の皇太子となった。
第二王子であったゴンドラは、第一王子であるアムルが何者かによって殺害され、
否応なしに皇太子の身分となったのである。
ゴンドラとアムルは、兄弟といえども厚く高い壁があった。
当然ながら、アムルの方が第一王子故に優遇されることは間違いなく、公の場で久しぶりに顔をあわせることも少なくなかった。
ゴンドラは戴冠式を迎えるため、皇太子の礼服を身に着け、大広間に向かっていた。気候のせいもあり、王宮は風通しの良い造りになっている。侍従や衛兵、腹心のキルドに囲まれ、皇太子を扱う厳重な警備に緊張した。
心の中で彼は、アムルの死んでいく様を思い出し、胸が痛み、また不安になった。10歳以上も離れていたが、どこか慕う気持ちがあった兄の姿に、ゴンドラはしばし憧れていたのだ。
あの日、戴冠式の当日、アムルは侍従の中に紛れていたスパイによって殺害された。突然、少し離れたところにいた侍従の一人が、隠し持っていた短刀を振りかざした。素早く衛兵達が駆け寄り、アムルの周囲を取り囲んだ。アムルはそれを見て驚きもせず、ただじっと鋭く睨んでいた。ゴンドラは、驚愕した。傍らにいたキルドが、耳元でそっと囁いた。
「王子、感情を表に出してはなりません。今はただ冷静に待つのです。」
大広間は騒然となり、帝が呼んだ他の兵士達も駆けつけてきた。しかし、衛兵達も次々と倒れていき、最後までくい止めていたラドクリフも刺され、その場に倒れた。スパイの持つ短刀は既に赤い滴が大理石の床に滴り落ちて、水たまりだできていた。周囲はただ騒然としたまま、見守っているだけだった。
ゴンドラはその時、兄がこちらの方に目を向けるのを見逃さなかった。彼には、兄がかすかに微笑んだように見えた。その次の瞬間、アムルは刺され、スパイもその場で自ら命を絶った。
そして、ゴンドラは思い出したのだった。アムルがゴンドラに言ったことを。
「私は、王家の駒の一つにすぎない。それも、計算通りに動かなくてはならない駒にな。」
その頃から、隣国が軍事大国となって勢力を伸ばし、帝も対策を講じていたのだ。
「次の時代への踏み台としての役割も、そう悪くはないかな。」
そして、彼は寂しげな笑みを浮かべた。
大広間の手前まで来た時、ゴンドラは、ふいにキルドに言った。
「私は、兄上の分まで、がんばらねばな。」
ゴンドラは、遠くから「頼んだぞ」と言う兄の優しい声が聞こえたように思えた。


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Entry4

アイツ ト ワタシ

春が来て、あぁ灰色の 受験生・・・(五・七・五)

 もう新鮮なドキドキすら感じなくなったクラス替え。先生に言われた言葉が、頭の中で渦を巻く。
「分かっているな。お前らは3年生じゃない、受験生だ」
あぁ灰色の受験生・・・。胃がキリキリしちゃう。なのにダメかな、ちょっとだけ気になるアイツ。1年のときの好きな人、もう終わったと思っていたのに、何故だろう、ついつい見ちゃう横顔。あぁ、灰色の受験生なのにダメね、今年はガンバルって心に誓ったはずなのに。
 ある日、聞いたの。親友からアイツのこと。親友はアイツのこと好きだから、がっかりした顔してた。私、何も言わないでそんな親友からかってた。
 そんなときにあった、修学旅行。アイツ、告白したのかな。少し気になった。今は修学旅行に集中しなよ、自分に言い聞かせる言葉が虚しくなった。新幹線のなか、近くに座った私とアイツ。ドーナッツとポッキー貰って、お返しはラムネとキャンディ、ねぇ、優しくしないでよ。冷めたはずの恋心、戻したりしないでよ。ギュッと握ったコブシに、真っ赤になる顔に、潤んじゃう目に、バカバカバカって叫んでた。
 でも、サ。気づいちゃったよ。アイツ、やっぱり彼女のこと好きなんだね。新幹線の中で、別のクラスいって一生懸命一緒にいようとしてたよね。帰りの電車で、一緒の号車になったアイツと彼女、彼氏と笑って話してる彼女をじっと見つめてたね。切ないね。あまり感情がでない顔が無防備になってたね。クールに見える、アイツの心の裏にある、ホントの心かいま見た気がするよ。
 それ見て少し、じわっとしちゃう自分に、ちょっとだけ腹が立つ。あぁ、ダメだなァ。もう終わった恋なのに、もう終わらせた恋なのに・・・。
 目が潤んでる私に『どこか痛い?』だってサ。訳の分からないヤツだよね。やめてよ、やっと普通に話せるようになったのに。
 修学旅行が終わっても、なんだか胸の奥が痛いよ。灰色の受験生、アイツを気にしてる暇なんてないのにサ。チクショー、何で今頃?前はあんなに冷たかったじゃない。あぁ、胸が痛いよ。胸が痛いよ。

『アイツ ト ワタシ ノ キョリッテ アト ナンポ?』


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Entry5

ペピン

おれは必死だった。今よりもずっと純粋に直向きに、馬鹿らしく思える程に必死だった。
自分が何をしているのか自覚など無かった。ただその行為とそれに臨む自らと云う存在が重要だった。一切は排除されていた。おれはただ必死だった。
生温い生温いと思いながら何度も繰り返した。
もっと致命的に傷付く事の出来る場所へ行きたかった。此処は独りでいるには寒く、凍え死ぬには暖かすぎた。中途半端だ。何もかも生温い。
おれはどうしようもない孤独ときつく無残な陶酔の中でひたすら自分の腕を刻んだ。
目を醒ますと病院だった。憎たらしい消毒液の匂いがおれ自身からも漂っていた。

何処からが傷で何処からが皮膚だかも見分けのつかないその左腕を奴は頻りに見たがった。おれの知る限りこいつはおれと同じかそれ以上に頭がイカれている。おれは純粋で正直な気違いだったが、こいつは気違いの癖に妙に小利口で口が上手く、事ある毎に他人の批判を口にせずにはいられない様な人間だった。つまりはおれなんかよりも余程も脆弱で救い難い男だったが、困った事におれはこいつを愛して止まなかった。認めたくもないが事実だ。おれはこの男を心から好きだった。
うるさく喋り続ける奴の相手をするのが面倒でおれは感慨なく腕を差し出す。奴は嬉しそうな間抜け面で歪な肉の膨らみを上から順番に舐め始めた。他人の事など云えた義理ではないがこいつも大概どうかしている。
濡れた舌の感触を感じながらおれは諦めた目をして冷たく奴を見た。陰惨な孤独の匂いが立ち篭め始めていた。こいつはおれよりイカれているから、おれはこいつの近くにいると厭でもその胃液の様に不快な泥濘の感触を思う事になる。そこはぬかるんで薄暗く、生温かった。独りでいるには寒く、おれの他にはこいつしかいなかった。寒々しい薄闇の中でおれたちは碌に目も開いていない犬の子供がそうする様にぎこちなく救えない遣り方で抱き合った。奴以外の熱を望む事は到底叶わなかったし、おれにはそうする事がどうしても出来なかった。
奴の舌がおれの肘の内側を舐める。紅く残った鬱血の痕を気に入ったらしい奴は長い事其処に舌を這わせて遊んでいた。こいつはおれより余程もイカれていて、その分おれよりも必死だった。誰よりも必死だった。
おれは堪らなくなって奴の頭を撫でた。救われないと知っている分だけその行為は虚しく、差し迫っていた。このまま凍えてしまいたいと心の底から願っていた。


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Entry6

疑似体験

 全くもう嫌になっちゃうよ。
 ちょっとぐらいゲームやってたからって、二人ともそんなに言うことないのに。しかも、その内容がスプラッタものだからまたややこしい。
 夕飯の席で僕は、父さんに諭された。父さんの話は「説教」ではない。でも楽しい話でもない(当たり前か)。今日は結構好きなコロッケなのに、あまり味わってる余裕がない。
 僕はいつも、父さんの質問に答えられない。ごもっともなんだ。だから嫌なんだ。小学六年生の僕が歯向かうには難しい。
「ゾンビを倒す練習より先にお手伝いしてほしいなぁ」
「宿題もやらず、手伝いもせず。その代わりになる価値のあるゲームかな?」
 以下、略。僕はたいへん耳が痛い。
「…もういいよ。ごちそうさまっ。」
 僕は早々と食事を切り上げ、食器を片付ける。もういいのか、という父さんの声に小さく、うん、とだけ呟いてドアを閉め、ベッドに倒れこむ。
 まったくいつも嫌になっちゃうよ。僕は食卓での父さんの言葉を考えたまま深い眠りに落ちた。


 ここはどこだ?
 薄暗い灯りの中、微かに水の滴る音。足元は膝まで水に浸っている。ここはどこだ?
 だんだん鼻が利いてくる。独特の匂いが鼻をつく。下水の匂いだ。そうか。ここは下水道か。
 とりあえず灯りの方へ歩こう。するとやっと僕の体も灯りの照らす範囲に入って、はっきりと確認できるようになる。さて、今は何時だ?左腕の時計を見ようとし……えっ、腕が…腐っている!
 僕は急いで体を触った。どろどろした液体に覆われていて、腐乱臭がきつい。肌の色も元の健康的な肌からは程遠い。
 誰か!僕は助けを求める。誰でもいいから、僕を助けて!怖い。自分が気持ち悪い。誰か普通の人間に出会いたい!
 灯りの向こうにうっすらと人影。僕はそれをめがけて走った。だんだん見えてきたその影は、健康的な人間だ。彼は振り返りこちらを見る。その顔は、僕だ。僕が近づくと、彼は銃を構える。えっ?
 自分の身を守る隙もなく、銃弾は三発、僕の体を撃ちぬく。ゆっくりと後ろに倒れた僕の、意識が途切れ始める。なん、で?…


 はっ、と目を覚ますと、僕の部屋だ。急いで腕を見てみるけど、腐ってなんかない。夢か。よかった…。
 朝食後、洗面所で歯磨きをしていた僕の後ろで父さんが囁いた。
「昨日の夢、怖かったか?」
 僕は驚いて振り向く。でも父さんは一言も言わず出て行ってしまった。


 僕はそれから本当にスプラッタゲームを止めたんだ。


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Entry7


少女の長い髪が風に大きく舞い、少年はそれを少し捕まえる。
微かに引っ張られる感触に振り向き、少女は初めて少年に気付いた。
視線がぶつかったまま、また風が吹く。
木がざわざわと鳴いて、どこか遠いような感覚の中
名前も知らないお互いの存在だけが鮮明だった。

不意に少年が口を開いた。

死ぬの?

「………」

ざわり。
また木々が鳴いた。

「どうして死ぬの?」
「………」

少女は何も答えず、俯いた。

「……………」
「……………」

沈黙したまま、しばらくの時間が過ぎて。
俯きっぱなしの少女をじっと見つめていた少年がそれを破った。

「ねえ。どうせ死ぬなら、こっちに来ない?」
「……………?」

少年の言葉が何を意味しているのか、少女にはよく解らなかった。
でも。
木々のざわめき、白い太陽の光。
どこか遠くで誰かを呼ぶ声。
それらを全部押しのけて、存在を主張する…
…自分の髪を掴んで自分を見ている少年の姿。

少女は静かに頷いた。

にこり、と少年が笑う。
彼は彼女の髪を離し、白い手をとった。
繋がれた手を見て、彼には少女が小さく微笑んだように見えた。

この少年なら、自分の欲しかったものを見せてくれるかもしれない。
自分でも何が欲しいのかよく解らなかったが、強くそう感じた。

風が吹いた。


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Entry8

いつかは来るトキ。

 彼に会うたび私は怯える。

 彼とつきあいだして3ヶ月、私は彼に抱かれた。
 二人の愛の形を確かめるように。
 二人が作り上げてきた絆を形にするかのように。
 彼は私を優しく抱いた。
 私は彼にすべてをゆだねた。
 彼に抱かれて私は幸せだった。
 それから私は何度も彼に抱かれた。
 ことあるごとに彼は私を抱いた。
 私は彼を愛していた。
 彼のぬくもりに抱かれて眠ると、信じられないくらい心が安らいだ。
 彼の耳の形が大好きになった。
 次の日が休みの夜には、何時まででも彼と語り合った。
 ベッドの中で。
 本当に何度も何度も二人は抱き合った。

 いつしかそれが当たり前になっていた。
 二人が会うと、それ以外にすることがなくなっていた。
 それでも、私は幸せだと思っていたし、彼も私を優しく抱いてくれた。

 ある日、突然、私はそれに気づいた。
 違う、前から気づいていたのに気づかない振りをしていただけ。
 それでも、それに改めて気づいて私は急に怖くなった。
 彼がそれに気づくことが。
 彼がそれをいつ言い出すかと思うたびに、私は怖くなった。
 もし、二人が抱き合うことに疲れてしまったとき、飽きてしまったとき
 二人はどうして愛を感じるのだろう。
 二人はどうやって絆を形作るのだろう。
 私は絶望した。
 もう、抱かれる前のようなキスができない自分に。
 もう、抱かれる前のように話すことができない自分に。
 もう、抱かれる前とは変わってしまった二人に。。。

 そう、私はこれ以上の愛の形を知らない。
 抱き合う以上に愛を感じる方法を知らない。
 抱き合うほかに二人をつなぎとめるやりかたを知らない。

 もし、彼が今の愛では満足しなくなったら?
 もし、彼が今の二人以上の関係を望んだら?
 私はどうして愛をしめせばいいのだろう?
 私はどうして彼の気持ちにこたえればいいのだろう?

 彼に会うたび私は怯える。

 いつかは来る、そのトキに。。。


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Entry9

再会…らしい

 旧友がFAXで送ってくれた手書きの地図なんか、役に立たない。
 どうしてここは、こうなんだ。
 東京は都会だということは知っていたが、生来長野で生まれ育ったおれには、いささかこの喧騒はうるさく聞こえるし、通りすがる人々もおれと同じ日本人には見えない。これなら、旧友の招きなんか受けずに大学のサークル仲間とつるんでればよかったな。
 おっと。考え事してる場合じゃない。さて、渋谷駅は…。
「ねえ、ちょっと、堀内君じゃない?」
 不意に名前を呼ばれて、おれはどきっとして振りかえる。
 髪を茶色にした、おれと同年代くらいの女だ。
 振りかえったおれの顔を確認すると、女はにわかに笑みを零した。
「ほんとに堀内君だ。うっわー、何年ぶり?」
「?」
 はて? この女は誰だろう。口ぶりからするとおれのかつての知り合いらしいが、覚えていない。
 おれは首を傾げてみるが、女はてっきりおれが自分を覚えていると思っているらしく、おれのリアクションに関して触れるようとしない。
 誰だ?
 なんとなく、鈴木っぽいけど。
「折角会ったんだしさ、お茶してこう。そこの喫茶店で」
 女に促されるまま、喫茶店に入る。
 コーヒーを啜りながら、まだ考える。
 高校の友達ならまだ覚えてるはずだ。じゃあ小学校か中学校?
 うーむ。
 西澤か? 小林? 太田かも? 湯本って線も? それとも池田? なんか違うなあ。意表を突いて手塚か? それも違うな。
 我ながら人の名前と顔を思い出せないなんて、珍しい。
 淡々と言葉を重ねる女に適度にあいづちを打ちながら必死に、何か思い出せるような話題をしてくれないかと願うが、女は最近の世相を語るばかり。懐かしそうな顔をしてたのに、ひとっつも昔話をしようとしない。
 いっそ正直に覚えていない、と言うべきだろうか。
 いやいや待て待て。
 この目許、口調、髪、雰囲気…。ええっと、誰だっけ。
 あ、もしかして岡崎? でもあいつは海外へ留学してるはずだよな。
 ああわかった。津村だろ? ん? でも確かあいつ男じゃん。ヤバイヤバイ、なんか混乱してきたな。
 一体誰なんだ、この女。
 気になるなあ。

 …あっ、手の甲のホクロ。
 やっぱこいつ、鈴木じゃん。

 って、オチになってないぞ、これじゃあ。
 おれはコーヒーを飲んだ。


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Entry10

‘if’

「久しぶりだな、慶斗」
 あたしは今、あんたの事故現場に来ている。墓じゃなく、なんとなく気分で事故現場。
 ココに来るのは、あんたが交通事故に遭った時に一回来たきりだ。それ以降、私はココを訪れようとはしなかった。
 別にあんたの死に顔を思い出すから。とかじゃねえぞ、一様。
「にしても、寂しいとこだな」
 あたしは周りを見回す。
 ココは静かな住宅地にある古びた歩道橋の真下。
 黒いコンクリートに歩道橋の影が降り、さらに暗くなっていた。 
 手には長身の私でも不似合いにな、大きな花束をぶら下げている。
 自分自身でも、信じられない。
 今頃、あいつの事故現場に来ようと思うなんてさ。
 なんたって、事故は三年前。近いようで、遠い昔の出来事だった。
 当時、高校生だった私は、今となっては大学生だ。
 事故現場に向けて、花束をどっと置く。ユリ、カーネーション、カスミ草。なんだか、母の日のプレゼントみたいな花束だ。
 常識がないと言われようと別によかった。
 だって、あたしは常に常識なんて持って無いからな。
 
 パンパン

 神でも拝むようにして(拝むのはあんただけど)、手を叩く。
 ちゃんと成仏したかな。
 とか、
 元気でやってんのかな。
 とか。
 そんな他愛のないことばかり、考えていた。
 ふいに、あんたと恋人として過ごした日々を思い出す。
 怒ると黙り込むあんた。 
 大人数に喧嘩ふっかけられて、逆に一人でこてんぱんにしたあんた。
 頭は悪かったけど、それなりにカッコよくて好きだったな。
「あのな、実はあたしさ、告られたんだ。どうしような?」

 沈黙。

「って言っても、答えてなんかくれないよな」
 自嘲ぎみた声で、こんなこと言うなよあたし。思わず突っ込む。
「あんたもう、死んじまったんだもんな」
 あんたがまだ、忘れられないなんて。
 今、たった今、気付いた。
「もし、あんたが生きてたら、『俺だけ見てろ』なんて言ってくれるか?」
 理解していて、言った。
 ‘もしも’なんて有り得ない。
 期待するだけ無駄なのにな。
 神様なんてもんが現れて、あんたを生きかえらせてくれたら……!
 そんな想像に心踊らせたとしても、所詮は創造物。
 本物ではないのだ。
 でも、‘もしも’なら、どんなによかったことだろう。
「あんたは、『他の男と付き合うのやめろ』って、言ってくれるか?」

 答えのない問い。
 
 あたしはすっと立ち上がる。

 大学へと、着実に一歩、歩き出した。


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Entry11

収穫には立ち会えないかも知れないが出来るだけ多くの種を蒔こう

 "東の荒野"をよこぎることは誰にもできないという。
 だからそのシマリスが"豊かの森"にいくといったとき、彼をひきとめない者はいなかった。
 "荒野"の向こうにあるといわれる"豊かの森"。
 この貧しい森でしんでゆく、たくさんの同胞をやしなえるだけの食べ物がある"森"。
――ぜったいにぼくが"森"への道をひらいてみせる。
 いいきったシマリスもとうとう、ほおぶくろに三粒のドングリをつめこんで、朝日ののぼる大地へとたびだっていった。

 ひびわれた岩の影で、シマリスは脚をやすめる。
 緑の欠片すらみえない地平線。ふりかえればわきあがる不安。
 しかし、彼の目にうかんできたのは怒ったような泣き顔でお守りを首にかけてくれた母親の顔だった。
――大丈夫。このお守りみたいにぼくも……。
 立ち上がったシマリスは一路、"森"へとはしりはじめた。

 シマリスはうつぶせになって、砂嵐がすぎさるのをまつ。
 大気をみたす突風のうなり。ふきとばされそうな小さな勇気。
 しかし、彼の耳にきこえてきたのは姉夫婦と七人の子供たちが枝の上でうたってくれた祝福の歌だった。
――やらなきゃ。あの子たちにもたくさんの幸を……。
 嵐のあと、シマリスは身体をぶるんとふるわせて、ふたたびはしりはじめた。

 さえぎるもののない太陽の光が、シマリスの毛皮をこがす。
 陽炎のたちのぼる焼けた大地。あるくたび身体をつらぬく激痛。
 しかし、彼がおもいだしたのは森の外れまでついてきた幼馴染みのよこしたはじめてのキスだった。
――"森"についたら、まず、あの子とくらす樹をさがすんだ……。
 シマリスは一歩一歩、足跡をきざみつづけた。

 夜。
シマリスはたおれた。
 彼の脚は地上を長く走るためのものではなかった。
 彼はそれを初めてしった。
 自分もしぬことがあるのだということを。
 所詮、夢物語だったことを。
 一人の力では、どうするとこもできないことがあるということを。
――ごめん、みんな……。
――でも、だいじょうぶ。
 シマリスはほお袋から最後の木の実をとりだした。
 そして、つぶれた前足で、荒野に小さな穴をほりはじめた。


 東の荒野に小さな林があるという。
 荒野をよこぎり、"豊かの森"へとむかう動物たちは必ずそこで歩をやすめ、湖の水でのどをうるおし、果実で腹をみたすそうだ。
 まるで離れ小島のような林。
 その中心にある大木。
 その隣にある、いまは土となってしまった、
 ちいさなふくらみ。


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Entry12

きっと正しくない愛しかた

貴方のからだの上で、何を考えて動いていたか、思い出そうとするんだ。
それは多分、その瞬間二人がつながっていることと、全然関係がなくて、どうでもいいようなことのはずなのに、その記憶の空白が、私を少しずつ少しずつ灰色にしていく。
だから貴方のからだの上で、何を考えて動いていたか、思い出そうとするんだ。

携帯の震動。
「はいはーい」
「もしもし、サヤカ?ごめんね、さっき塾だったんだ」
「なんもなんも」
手鏡をとってベットにからだをやすめた。乾きたてのペティキュアに目がいく。
「…まだこないの?あれ…」
「…うーん」
「もう3日くらいたってこなかったら、調べてみぃ」
「わかったー…」
一緒に不安な思いをわかちたったり、不思議と出来ない。申し訳ない。
「まぁ、彼氏がいるんだからさ、しっかり心の支えになってもらいんしゃい」
枕の具合をととのえる。高めが好きなんだ。
「サヤカ…隆二が、生んでいいって言ってくれたんだ…」

「…いい彼氏じゃん…。大切にしんさいね」

その言葉ですごくしらけた。そのあと即席な優しい言葉を交わしてたしか電話を切らせた。
ねがえって肺の息を布団に押し付けた。
別に羨ましいんじゃない。そんなやすっぽい言葉なんて。私だって、アノヒトはなにもいわず抱きしめてくれたんだ。
胸元が苦しい。

このことを思い出すと、今の恋が安っぽくなりそうでいやだ。今の恋が一番でありたいんだ。
ただ、それだけで、いいのに。        顔が馬鹿みたいにゆがんで、枕を濡らす。

 アノヒトはやさしくて、私は自分の意志で殺した。
それだけ。それ以上なにもない。他には何も残らなかった。他には何も残せなかった。



『ねえ、私の奥に貴方との思い出がこびりついてるけどさ、寝る前に一番思い出すのは、貴方とからだかさねたことなの。いけないことしてるなって感じた瞬間とかさ。私を見てるくせに、うわのそらの貴方の視線とか。こんな事ばっかり覚えてるのって、おかしいよね。ただそういうことするのが好きなだけだったのかな。そしたら私は、地獄へおちると思うんだ、きっと』

天井がおちてこないのを、濡れた目で見張る。
あの部屋のシーツの匂いがおもいだせそうで、おもいだせない。
そして果てた後のあのけだるさとむなしさが、常に鮮明。

大好きな人のそばにいると、触れたくなって、キスしたくなって、そして本能が目覚めだす。その螺旋が時折憎くなる。

貴方のからだの上で、何を考えて動いていたか、思い出そうとするんだ。

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