第20回中高生1000字小説バトル Entry3
プレハブの部室棟の二階、新聞部前の通路になぜか置かれているパイプ椅子に腰かける。たぶん、過去にも私と同じく〆切り前の空気に耐えられないヒステリックな先輩がいたんだろう。あのねっとりとした空気から抜け出しただけで、沈殿していた心の澱が循環を始める。浴びている腕がじりじりと痛くなるほどに強い西日。まだ梅雨入り前だというのに、真っ直ぐに突き刺さってくる。長い影を落とした小さな倉庫を挟んだ向こう側では、風に土煙を舞わせているグラウンドが広がっている。いつもはラグビー部が転げまわっているけれど、今日は誰もいない。
勝手に落胆してしまう心に苦笑して、ふととなりの地学部室を見やる。モスグリーンの少し汚れたスニーカーと、デニム地のコンバースのハイカット。少しはにかんだようにつま先を寄せ合っている。
循環しだしたばかりだった胸がぎゅううっと音を立てて、体中の空気を押し出していく。
そうだよね、今日はバスケ部もオフだって言ってたし。なかなかオフが重ならなくて、いつもは部活が終わった後にちょっぴり会う程度だから。二人っきりで過ごしたいよね。
紅い光が目を射して、いたい。一度大きく深呼吸をすると、締め付けられていたものは少し弛んだ。動悸はまだ少し残っているけれど、前に比べればだいぶ収まるのが早くなった。半年前、二人がつきあい始めたことを知った頃よりは。
ラグビー部なのにピアノが弾けて、シャイで、でも彼女の前では本当にうれしそうに笑う彼。バスケ部なのに折れそうなほど線が細くて、天真爛漫で、だけど人の気持ちを人並み以上に思いやる彼女。とてもとてもお似合いで、誰もが祝福してきた二人。そして、非の打ち所もないような彼女を妬んでしまう、私を冷たくあしらう彼を恋うてしまう、私。それでも、目をそらしながら笑顔でおめでとうを言った私。
赤い太陽は最期の一瞬までこの世を燃やし尽くそうと光を放つ。私は汚い私を燃やしてもらおうとその光に身をさらす。となりの部室から、ころころと高く笑う彼女と低くて優しい彼の声が漏れてくる。彼がその無骨な手で弾く、驚くほど繊細なキィボードのメロディが流れてくる。短く息を吐いて、ぎゅっと目を瞑って、眉間に力を入れる。瞼の裏に、灼け付くような紅い太陽。
ワープロを叩く音が響く部室のドアを開ける。
「あ、くまちゃん、これ校正してくれる?」
「うん、わかった」
だいじょうぶ。また笑顔を作れた。